川村雅則、福地保馬(2000)「ダンプ運転手の労働条件、睡眠と食事の状況、および健康状態──事例調査から」『交通科学』第30巻第2号(2000年)pp.61-66
川村雅則・福地保馬「トラック運転手の労働条件と、睡眠および食事の状況─事例調査から(2000年)」とあわせて、『交通科学』第30巻第2号pp.61-66(2000年)に「資料」として掲載された短文です。こちらも、車両に同乗するという手法で行った調査の結果で、指導教員であった福地保馬氏(北海道大学名誉教授)との共著です。どうぞお読みください。
要旨
ダンプ運転手の労働条件、睡眠と食事の状況、および健康状態に加え、三者の関連を明らかにするため、計15台の車両に同乗して、全作業行程の観察をしながら聞き取りを行った。彼らの労働条件にみられた特徴は、拘束時間と、運転作業時間をそのほとんどとする実作業時間が、長時間にわたること、深夜・早朝時間帯に作業が開始されていることである。また以上の特徴は、彼らの睡眠時間を短くしたり、拘束時間内の食事(休憩)時間を短くしたりするなど、睡眠や食事にとって不利な条件となっていた。
キーワード:ダンプ運転手、労働条件、睡眠、食習慣
1.はじめに
骨材輸送の大部分を担っているダンプ運転手は、建設業界において不可欠な存在である[1]といえるが、彼らの状態はいまなお明らかではない。その理由の一つには、彼らの多くが被雇用者としてではなく事業主として就業していることがあげられるだろう。幾つかの報告[2][3][4][5]によると、彼らダンプ事業主は、被雇用者に比べて経済的に不安定な条件下で就業しており、そのために長時間労働を余儀なくされているという。
ところで、自動車運転労働者が運転作業中に脳・心血管系の発作性機能不全によって死亡する事例は、少なくない。今回筆者らは、ダンプ運転手を組織する労働組合の協力を受け、ダンプ運転労働が運転手の循環器系にどのような影響を与えているのかを測定する機会を得た。その契機は、同労組組合員が運転作業中に脳出血を発症したことによる。同調査で測定した運転時の血圧・心拍の動態は別の機会に報告する予定であるが、以下では、同調査で明らかにした彼らの労働、生活、健康状態などを報告する。
2.調査の目的と方法および対象
調査の目的は、一つは運転時の血圧・心拍の動態を明らかにすること、いま一つはダンプ運転手の労働条件(拘束時間、実作業時間、労働態様、収入状況)、生活習慣(食事、睡眠、喫煙、飲酒、運動習慣)の状況、健康状態(疲労の回復状況、罹病状況、慢性疲労症状)の三つを明らかにすることであった。
調査方法は、車両に同乗して出庫から帰庫までの作業行程全てを観察するという方法で、観察とあわせて同乗中に聞き取りを行った。
調査は北海道と大阪府の二ヶ所で行い、北海道では、札幌市近郊の骨材事業所で使用されているa、b夫婦の二人を対象とした(1997年12月)。大阪府では、全日自労建設農林一般労働組合関西ダンプ支部に所属し、大阪府または京都府にある骨材事業所で就業している13人(c-o)を調査対象とした(1998年3月)。
3.調査の結果
1)回答者の属性
表1 回答者の属性
名前 | 年齢 | 就業先 | ダンプ運転経験年数 | ダンプ以外の運転労働経験年数 |
a | 42 | A | 20 | 0 |
b | 41 | A | 2 | 0 |
c | 50 | B | 23 | 4 |
d | 49 | B | 18 | 0 |
e | 48 | C | 11 | 7 |
f | 55 | C | 27 | 7 |
g | 45 | D | 14 | 6 |
h | 46 | B | 14 | 12 |
i | 46 | B | 23 | 1 |
j | 51 | B | 27 | 3 |
k | 51 | C | 26 | 0 |
l | 45 | C | 22 | 6 |
m | 51 | B | 18.5 | 3 |
n | 57 | B | 17 | 0 |
o | 52 | B | 32 | 0 |
回答者はいずれも事業主として就業している。表1のとおり、年齢は41-57歳で、bを除く全員が男性である。ダンプ運転経験年数は、2-32年間である。
彼らと彼らの就業先である骨材事業所とのあいだには雇用関係はないが、いずれの運転手も常用的に使用されている。但し常用的に使用されているとはいえ、業務量は一年を通じ安定して与えられるわけではない。とりわけ北海道で就業するa、bの場合、冬期のあいだには、aは本州へ出稼ぎに行き、bは休業しなければならない。
2)労働条件
(1)ダンプ労働内容
彼らの労働内容は、①採取場で骨材を積むまたは積まれる、②プラントや工事現場など荷受場へ骨材を運搬する、③荷受場で骨材を下ろし採取場へ戻る、という作業の繰り返しである。その他には、骨材を積む前に荷台でシートを畳む作業と骨材を積んだ後にその上にシートをかける作業(a、bは同作業を行わない)がみられる程度である。また荷扱い場での作業は、基本的には短時間で済み、とりわけ荷下ろし作業は、数分程度しか必要としない(但し、荷扱い場の混雑具合にもよる)。よって、ダンプ労働の大部分を占めるのは運転作業といえるだろう。
図1 拘束時間内の状況
図1は、調査日の拘束時間内の状況をまとめたものである。図では拘束時間を次の4つに分類した。①運転作業時間:一般道路上または数例でみられた高速道路上での運転作業時間で、荷扱い場での運転作業は含まない。②荷扱い作業時間:荷扱い場での、運転作業、骨材の積み下ろし作業、給油作業、伝票の受け渡し、荷台上でのシート畳み・かけ作業に要した時間である(一部の作業はガソリンスタンドでも行われていた)。③待機時間:荷扱い場や一般道路上での待機時間のほか、車内で食事をとっていた際の停車時間。④食堂・その他:食堂利用の際の降車してから再乗車までの時間、食事・飲料水購入のための一時停車時間である。横軸上の「運」、「荷」、「待」、「そ」は上記四つの作業をそれぞれ示しているが、いずれも短時間(数分)で終了したものである。なお図中の△は食事(休憩)開始時刻を示している。但しお菓子や飲料水のみの摂取の場合には印をつけていない。
(2)拘束時間の位置と長さ、休日および収入状況
表2 調査日の出庫時刻、帰庫時刻、拘束時間、骨材運搬回数
名前 | 出庫時刻 | 帰庫時刻 | 拘束時間 | 骨材運搬回数 |
a | 3:20 | 16:44 | 13時間24分 | 4 |
b | 4:40 | 18:20 | 13時間40分 | 11 |
c | 5:55 | 17:50 | 11時間55分 | 6 |
d | 5:52 | 17:43 | 11時間51分 | 5 |
e | 8:00 | 13:40 | 5時間40分 | 2 |
f | 7:58 | 13:40 | 5時間42分 | 2 |
g | 4:50 | 13:15 | 8時間25分 | 3 |
h | 6:18 | 20:43 | 14時間25分 | 6 |
i | 6:15 | 17:31 | 11時間16分 | 4 |
j | 6:16 | 18:36 | 12時間20分 | 5 |
k | 6:50 | 14:40 | 7時間50分 | 4 |
l | 6:00 | 16:26 | 10時間26分 | 5 |
m | 6:23 | 17:38 | 11時間15分 | 5 |
n | 6:23 | 17:44 | 11時間21分 | 4 |
o | 6:00 | 18:55 | 12時間55分 | 6 |
注1:拘束時間は、出庫時刻から帰庫時刻まで
注2:運搬回数は、採取場と荷受け場との往復運搬回数のみ
注3:bの運搬回数には復路での運搬回数は含まれていない
表2は、調査日の出庫時刻、帰庫時刻、拘束時間(出庫時刻から帰庫時刻まで)、骨材運搬回数をまとめたものである。
まず出庫時刻は、3:20-8:00で、7時前に出庫している者が15人中13人と多数であり、そのうち6時前に既に出庫している者も5人みられる。帰庫時刻は13:15から20:43という幅広いあいだに分布しており、16時台から18時台のあいだに多い。
次に拘束時間は、10時間以上が11人、うち12時間以上は5人であった。しかしその一方で5時間台が2人、7時間台と8時間台が1人ずつみられる。聞き取りによると、例年は年度末が一年のなかで最も忙しい時期であるのだが、本調査を実施した98年度(末)は不況に伴い業務量が減少[6]しているとのことであった。
表3 一年を通じたhの、出勤日数、拘束時間、走行距離の状況/単位:日、時間、km
就業日数 | 拘束時間 | 走行距離 | ||||
総計 | 一日平均 | 前月との差 | 月間総計 | 一日平均 | ||
1月 | 16 | 191.5 | 11.97 | - | 5018.8 | 313.7 |
2月 | 25 | 296.1 | 11.84 | -0.12 | 7530.4 | 301.2 |
3月 | 22 | 299.7 | 13.62 | 1.78 | 8227.4 | 374.0 |
4月 | 26 | 375.8 | 14.45 | 0.83 | 10353.4 | 398.2 |
5月 | 18 | 216.0 | 12.00 | -2.45 | 5490.4 | 305.0 |
6月 | 26 | 299.3 | 11.51 | -0.49 | 6914.2 | 265.9 |
7月 | 24 | 262.9 | 10.95 | -0.56 | 6233.1 | 259.7 |
8月 | 22 | 247.2 | 11.24 | 0.28 | 6157.3 | 279.9 |
9月 | 25 | 286.5 | 11.46 | 0.22 | 6755.4 | 270.2 |
10月 | 22 | 250.6 | 11.39 | -0.07 | 5412.5 | 246.0 |
11月 | 26 | 312.2 | 12.01 | 0.62 | 7679.9 | 295.4 |
12月 | 24 | 296.5 | 12.36 | 0.35 | 7447.4 | 310.3 |
合計 | 276 | 3334.29 | 12.08 | - | 83220.2 | 301.5 |
注:hの日報(1995年12月21日~1996年12月20日)から作成
表3は、年間を通じた拘束時間の状況をみるために、hの運転日報(1996年度)から作成したものである。年間拘束時間の長さは3304時間にも及び、月ごとにみると最も長い月(4月)で375.8時間(一日平均14.5時間)[7]となっている。このようなhの働き方は、同じ事業所で働く運転手のなかで一般的なものであるという。
表4 年間休日日数
名前 | 年間休日日数 | 備考 |
a | 40 | 出稼ぎ時には、4週5休制または4週6休制 |
b | 112 | 112日のうち90日は、冬期3ヶ月の休業期間 |
c | 100 | |
d | 85 | 日報から算出 |
e | 102 | 日報から算出 |
f | 100 | |
g | 100 | |
h | 89 | 日報から算出(聞き取りでは「100」と回答) |
i | N.A | |
j | 83 | 日報から算出 |
k | 70 | |
l | N.A | |
m | 70~75 | |
n | 70~80 | |
o | 70 |
拘束時間に関連して年間の休日日数にも触れておく。表4は、年間休日日数をまとめたものである。a、bの休日取得状況は、お盆休みがある8月を除くと月に1,2日程度であるという。cらの年間休日日数は、70-102日で、そのうち運転日報によるもの(より正確と思われるもの)は83-102日となっていた。
ところで、彼らのなかには他事業所で「アルバイト」も行っている者もいたが、聞き取りによると、車両の償却に追われているダンプ事業主は、常用的な使用先で安定的に仕事が無いまたは仕事があっても輸送単価が低くて一定度の収入が得られないがために「アルバイト」を行う者が珍しくはないという。とはいえそうして長時間働いても、回答があった彼らの手取り(前年度)は、330-550万円(償却済みが4人、償却中が1人)と多くはなかった。
(3)拘束時間内にみられる作業状況など
運転作業の連続という労働内容に規定され、彼らが降車する機会は少ない。換言すればそれは、運転席上で坐位で過ごす時間が非常に長いことになる。
表5 拘束時間における乗車時間と降車時間の構成/単位:分(%)
名前 | 拘束時間 | ||||||
乗車時間総計 | 降車時間 | ||||||
(運転席上での座位時間) | うち一般道路上での運転時間 | 総計 | 採取場・荷受場 | 食堂 | その他 | ||
a | 804 | 756(94.0) | 684(85.1) | 48 | 26 | 0 | 22 |
b | 820 | 782(95.9) | 640(78.0) | 38 | 38 | 0 | 0 |
c | 715 | 631(88.3) | 511(71.5) | 84 | 67 | 16 | 1 |
d | 711 | 633(89.0) | 548(77.1) | 78 | 52 | 26 | 0 |
e | 340 | 314(92.4) | 282(82.9) | 26 | 9 | 17 | 0 |
f | 342 | 323(94.4) | 177(51.8) | 19 | 19 | 0 | 0 |
g | 505 | 431(85.3) | 388(76.8) | 84 | 26 | 48 | 10 |
h | 865 | 797(92.1) | 637(73.6) | 68 | 63 | 0 | 5 |
i | 676 | 608(89.9) | 557(82.4) | 68 | 39 | 23 | 6 |
j | 740 | 669(90.4) | 626(84.6) | 71 | 50 | 13 | 8 |
k | 470 | 421(89.6) | 329(70.0) | 49 | 36 | 0 | 13 |
l | 626 | 584(93.3) | 469(74.9) | 42 | 42 | 0 | 0 |
m | 675 | 604(89.5) | 502(74.4) | 71 | 55 | 16 | 0 |
n | 681 | 590(86.6) | 545(80.0) | 91 | 58 | 33 | 0 |
o | 775 | 722(93.2) | 601(77.5) | 53 | 49 | 0 | 4 |
注:括弧内は拘束時間を分母として算出した比率
表5は拘束時間を乗車時間(座位時間)と降車時間に分けてまとめたものである。乗車時間については、そのうち一般道路上での運転時間を別に示し、また降車時間は、降車の場所によって、採取場と荷受場、食堂、その他という三つに分類した。
乗車時間をみると、長さは540分(9時間)以上の者が11人で、比率でみてもいずれも拘束時間の80%台または90%台にも及んでいる。そして乗車時間のほとんどは、一般道路上での運転作業に費やされており、その長さは、480分(8時間)以上が10人、そのうち、労働省告示[8]に定められた一日の最大運転時間である9時間(「2日を平均し1日あたり9時間」)を超える者は8人で、比率でみても一例を除き拘束時間の70%台または80%台を占めている。(なお降車時間の長さは19-91分で、その多くが荷扱い場での時間である。)
3)睡眠の状況
表6 普段(就業日)の睡眠状況
名前 | 起床時刻 | 就寝時刻 | 睡眠時間(単位:時間) |
a | 3:00 | 21:30 | 5.5 |
b | 3:00 | 21:30 | 5.5 |
c | 5:00 | 22:30 | 6.5 |
d | 5:30 | 23:00 | 6.5 |
e | 4:00 | 21:30 | 6.5 |
f | 4:20 | 21:30 | 6.8 |
g | 4:00 | 20:30 | 7.5 |
h | 5:50 | 22:00 | 7.8 |
i | 5:10 | 22:40 | 6.5 |
j | 5:00 | 23:30 | 5.5 |
k | 4:30 | 21:00 | 7.5 |
l | 4:30 | 22:00 | 6.5 |
m | 4:40 | 22:00 | 7.0 |
n | 5:00 | 23:30 | 5.5 |
o | 5:30 | 23:30 | 6.0 |
表6は、普段の就業日(繁忙期や閑散期を除く)において、最もよくある睡眠状況についてまとめたものである。
起床時刻は、最も遅くても5時台となっており、就業開始時刻の早さを反映していると考えられる。就寝時刻は、20:30から23:30という相対的に早い時刻に分布している。とはいえ例えばa、bの場合、就寝時刻が21:30と早いにもかかわらず、睡眠時間はわずか5.5時間である。cらの睡眠時間は、6時間台が7人であり、7時間以上の睡眠を確保できている者は4人に過ぎない。(なおcらの場合、起床時刻は、作業開始時刻が原則として年間を通じ同じであるためほぼ一定しているという。)
4)食事の状況
表7 拘束時間内の食事状況
注:食事休憩については開始と終了の時刻を、休憩に該当しないものは食事開始時刻のみを記した
表中(「摂取場所」)の表記の説明
車 =運転室 運 =運転しながら(運転室) 家 =自宅 店 =食堂 |
表7は、調査日の食事状況をまとめたものである。業務量が相対的に少なかったことや調査者に対する配慮から、当日は食堂を利用する者が多かった。
まず朝食についての特徴または問題点は次のとおりである。「欠食」が5人いる。場所は「車内」で朝食を摂っているのが4人で、うち3人が「運転しながら」である。「自宅」で食事を摂っている者はその時刻が4時台(2人)または5時台(3人)と非常に早い。
昼食は、全員が摂取。場所は、「車内」が7人で、うち2人が「運転しながら」である。残りの8人は「食堂」である。食事(休憩)時間は非常に短く、場所別にみると、「食堂」の8人では、輸送業務の終了を確認してから食事を摂ったgを除き、13-33分(食堂利用のために降車してから食事を終えて再乗車するまでの時間)で、「車内」の7人では、「運転しながら」または不明(待機のまま業務終了)の3人を除くと、5-27分(食事のために停車してから、作業を再開するまでの時間)であった。
5)健康状態
表8 最近の疲労の回復状況/単位:人
いつも疲労がたまっている | 0 |
前日の疲労がとれないことがよくある | 7 |
前日の疲労がとれないことがたまにある | 4 |
全く疲労はない | 2 |
N.A | 2 |
表9 罹病状況/単位:人
腰痛 | 7 |
胃・腸の病気 | 5 |
痔 | 4 |
高血圧 | 3 |
肩こり | 3 |
肝臓病 | 2 |
目の病気 | 2 |
ぜんそく・気管支炎 | 1 |
難聴 | 1 |
神経痛 | 1 |
心臓病 | 0 |
糖尿病 | 0 |
腎臓病 | 0 |
精神病 | 0 |
表10 慢性疲労症状/単位:人
いつも眠い | 1 |
寝つきが悪い | 2 |
横になりたい | 5 |
全身がだるい | 0 |
身体のふしぶしが痛い | 0 |
目が疲れる | 8 |
足がだるい | 1 |
ゆううつである | 1 |
頭痛がする | 2 |
頭がさえない | 2 |
ちょっとしたことでもすぐ怒ってしまう | 3 |
いらいらする | 4 |
食欲がない | 1 |
胃腸の調子が悪い | 5 |
下痢や便秘がある | 6 |
排便時に出血がある | 0 |
めまいやたちくらみがある | 5 |
耳鳴りがある | 1 |
息切れがする | 6 |
せきやたんがでる | 5 |
くつろぐ時間がない | 1 |
心配ごとがある | 4 |
気が散って困る | 0 |
ささいなことが気になる | 1 |
働く意欲がない | 2 |
体の衰えをしばしば感じる | 8 |
生理不順 | 1 |
注:生理不順の対象は、bのみ
まず最近の疲労回復状況(表8)は、「前日の疲労の程度がとれないことがよくある」が7人と多い。次に罹病状況(表9)と慢性疲労症状(表10)の特徴は、第一に「高血圧」という循環器系疾患が3人いること。第二に目や運動器系の疾病および症状が多いこと。すなわち「腰痛」(7人)、「痔」(4人)、「肩こり」(3人)、そして「目が疲れる」(8人)がそれである。第三に消化器系の異常がみられること。すなわち「胃・腸の病気」(5人)に加えて「下痢や便秘がある」(6人)や「胃腸の調子が悪い」(5人)がそれにあたる。
但し罹病状況に関しては、個人事業主である彼らは、健康診断を毎年受診している者が15人中10人で、残りは、「全く受診していない」(3人)か「定期的には受診していない」(2人)という状況だったので、検診等でより詳細に調べる必要があるだろう。
4.考察
ダンプ労働にみられた特徴の第一は、拘束時間が長いことである。調査日には拘束時間が10時間を越える者が多数であった。が、その一方で、調査日に拘束時間が短い者もいた。これは、ダンプ労働の特徴である就業の不安定さを示唆するものであったが、この点については今後の調査が必要である。
特徴の第二は、実作業時間が長いことである。なかでも運転作業時間が長いことが問題だろう。このような特徴は、一つには食事摂取・休憩時間食を短くし、二つには、運転作業に従事する時間が長く拘束時間内には高度のエネルギーを伴う身体作業がないが故に、容易に運動不足の状態を生じさせることになると推測される。斉藤[9]の推察によると、現代労働生活における過度の精神緊張は血圧上昇等を惹起し、運動不足や睡眠不足がこれに加わると、循環器系障害の発症する可能性が高くなるという。この状況は、一般車両も走行する道路上で焦燥感を伴いながら長時間にわたり運転作業に従事しかつ運動と睡眠が不足しがちなダンプ運転手にあてはまるものといえよう。
特徴の第三は、就業開始時刻が早いことで、この条件は、起床時刻を早めることになるだろうが、それは、長時間拘束とあわさり睡眠時間を短くすると考えられる。
参考文献及び注
[1] 運輸省運輸政策局情報管理部「陸運統計要覧(平成10年版)」から算出すると、自動車輸送機関による骨材輸送量(トン数)は、全輸送機関による骨材輸送量の95.5%にあたる。
[2] 寺村武「ダンプ輸送と運転手の労働条件(Ⅰ)」北海道労働研究第108号、pp1-43、1970年および同「ダンプ輸送と運転手の労働条件(Ⅱ)」北海道労働研究第109号、pp1-19、1971年
[3] 加藤祐治、椎名恒「ダンプカー『一人一車』の労働者の状態と闘争(上)」労働運動no154、pp124-pp133、1978年および同「ダンプカー『一人一車』の労働者の状態と闘争(下)」労働運動no155、pp161-173、1978年
[4] 佐久間充「山砂を運ぶダンプカー運転者の労働実態」労働科学56巻6号、pp347-362、1980年
[5] 内閣総理大臣官房交通安全対策室「ダンプカーによる土砂等の運搬に関する実態調査報告書-事業所による代車の利用実態とその稼動実態-」、昭和53年
[6] 運輸省運輸政策局情報管理部「陸運統計要覧(平成11年版)」によると、家用自動車による平成10年度骨材輸送量(トン数)は888616千トンで、前年度比72227千トンの減。またダンプ事業の不況について朝日新聞朝刊(1999年7月2日付)も参照。
[7] 労働省「自動車運転労働者の労働時間等の改善のための基準」(改正平成9年労働省告示第4号)によると、月の拘束時間は、原則としては293時間である(特例あり)。ダンプ事業主は同告示の適用対象外ではあるが、hの月間拘束時間は、6ヶ月がこの原則(293時間)を超えており、うち1ヶ月は特例の320時間をも超過。
[8] 労働省、前掲書
[9] 斉藤一「産業近代化の下における精神的ストレスと血液および循環器の生理的反応について-血清コレステロール、血清電解質、血液凝固および血圧、心拍数の変化-」労働科学第56巻第11号、pp631-651、1980年