平澤卓人「就労継続支援A型事業所の解雇事件のご報告」

就労継続支援A型事業の利用者とそこで働くスタッフの解雇を無効とした画期的な判決について、日本労働弁護団団員の平澤卓人弁護士からご報告いただきました。お読みください。

 

 

 

就労継続支援A型事業所の解雇事件のご報告

文責 平澤卓人

 

2021年4月28日、札幌高等裁判所は、就労継続支援A型事業所の閉鎖に伴う利用者・スタッフの解雇事件について、解雇を無効とする判決を言い渡しました。

就労継続支援A型事業は、障害者総合支援法を根拠として、通常の事業所に雇用されることが困難ですが、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供等により就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う事業のことを指します。

今回問題となった事業所は、2017年3月30日 職員及び利用者らを集めて、突如解雇予告通知を配布しました。さらに、同年4月18日には、スタッフと利用者への説明会が開催され「お詫びとお知らせ」と題する書類が配布されましたが、閉鎖や解雇の理由について、具体的な説明はありませんでした。不安から泣き出す利用者や、説明会終了後に体調を崩して倒れる者も出ました。そして、同年4月30日に事業所が閉鎖されました。

このため、障害のある利用者8名とスタッフ2名が、札幌地方裁判所に損害賠償や雇用契約上の地位の確認を求めて提訴しました。札幌地方裁判所は、損害賠償の一部を認めましたが、解雇は有効であるとして、雇用契約上の地位の確認は認めませんでした(2019年10月3日)。そこで、利用者4名とスタッフ2名が控訴をしていました。

札幌高等裁判所は一審判決を変更し、就労継続支援A型事業所の閉鎖に伴う整理解雇を無効とし、同整理解雇が不法行為に該当するとしてスタッフ及び利用者に対する損害賠償請求を認容する判決を下しました。

判決では、「被控訴人会社は、就労継続支援A型事業を行う指定障害福祉サービス事業者であり、その事業を行うために公的資金から多額の訓練等給付費・・・の支給を受けてきたものである上、障害者総合支援法43条4項によって、就労継続支援A型事業の廃止以降においても引き続き当該支援の提供を希望する者に対し、必要な障害福祉サービスが継続的に提供されるよう便宜の提供を行うことを求められていたものである。」としたうえで、「控訴人利用者らと被控訴人会社との間の雇用契約がこのような前提の下に締結されたものであることを踏まえると、被控訴人会社においては、控訴人利用者らに対し、その障害の特性等も踏まえた上で、(事業所名)の閉鎖等に係る事情について丁寧に説明したり、十分な再就職の支援等を行ったりして、(事業所名)の閉鎖及び被控訴人会社を退職することについて、控訴人利用者らの理解を得る・・・ように努めるべきであったといえる」とし、これらの義務に違反したことから解雇手続が相当であったと言えず解雇回避のための努力が尽くされていないとして解雇を無効としました。

このように、同判決は、障害者総合支援法43条4項を援用しながら整理解雇の要件を厳格に判断した日本で初めての判断であると考えられます。これは、就労継続支援事業所の安易な閉鎖に警鐘を鳴らすものといえます。事業所側は最高裁判所に上告受理申立て等を行いましたが、上告は受理されなかったため高等裁判所の判決が確定しています。

現在、様々な会社が就労継続支援事業に参入し、多くの事業所が閉鎖に至っています。そのような中、この事業所の10人は、全国の働く障害者の権利を守る新たな武器を生み出しました。

弁護団は、西村武彦、船山暁子、小野寺信勝、平澤卓人、北澤慎之介、栗原望、平井達哉、桝井妙子、横山浩之です(全員が労働弁護団に所属しているわけではありません)。

 

 

 

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