日本労働弁護団北海道ブロックでは、2021年12月3日付で、以下の声明を執行しました。ご一読いただき、今後の活動の参考としていただければ幸いです。
なお、本声明は、我々と同様に北海道の弁護士等が主体となっている団体である青年法律家協会北海道支部及び自由法曹団北海道支部と共同で発表したものになります。
「根本的な欠陥を何ら治癒しない改憲手続法の改正に抗議し、
同法の下での憲法改正に強く反対する声明」
2021年12月3日
青年法律家協会北海道支部 支部長 田 中 貴 文
日本労働弁護団北海道ブロック 代 表 伊 藤 誠 一
自由法曹団北海道支部 支部長 佐 藤 博 文
2021年6月11日、「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「改憲手続法」という。)の改正法が可決成立し、同年10月31日実施の総選挙の結果、衆議院及び参議院において、改憲を唱える勢力が、それぞれ、3分の2以上を占める状況となり、この状況が来年の参議院選挙まで継続することになった。
そのため、早ければ、来年7月の参議院選挙に併せて、改憲のための国民投票が行われる可能性まで示唆されている。
しかし、改正された改憲手続法に基づいて、憲法改正のための国民投票を行うことは許されない。
そもそも、改憲手続法は、第1次安倍政権下の2007年に、自民党・公明党による強行採決により成立したものである。成立に際しては、法的整備が出来ない限り国民投票を実施できない事項を含む3項目の附則(①18歳投票権・選挙権の法的整備、②公務員の国民投票運動の自由の法的整備、③国政重要事項国民投票の検討)が付され、さらには、一括投票に付する「関連性」の要件の検討、国民投票広報協議会の客観性・正確性・中立性・公平性の確保の方法、在外投票の制度の改正、罰則についての構成要件の明確化、有料広告の規制の有無や最低投票率の有無など、多数の審議未了の論点について、合計18項目にも及ぶ附帯決議がつけられた。改憲手続法は、成立当初から明らかな欠陥法であった。
このような欠陥のうち、特に、公務員の国民投票運動の自由の法的整備、罰則についての構成要件の明確化、国民投票広報協議会の客観性・正確性・中立性・公平性の確保の方法、有料広告規制の有無や最低投票率の有無の検討は、改憲手続における公正公平や主権者たる国民の熟議と慎重な判断を確保する上で必須の検討事項であった。また、改憲手続法について、発議後国民投票までの期間が最短で60日と極めて短期間であること、「過半数」の分母に無効票が含まれないこと、国民投票無効訴訟の提訴期間が30日以内とごく短期間であること、国民投票無効訴訟の管轄が東京高等裁判所1か所に限定されていること、国民投票ができない国民が多数いることなどの点も、同様の観点から、早期に改正すべき事柄であった。
その後、3項目の附則のうち、①及び②については、不十分ながらも法整備がなされたものの、③については、いまだに制度化されていない。さらに、有料広告の規制や最低投票率の創設、発議後国民投票までの期間が短いこと、国民投票が出来ない国民(長期洋上にいる邦人、要介護5以外の重度要介護者等)が多数いることなどに関する法改正はなされず、日弁連など法律家団体からたびたびその問題点について、指摘を受けていた。
このように、改憲手続法に多数の欠陥があるにもかかわらず、成立から14年にもわたり、それらが放置され続けてきたのは、ひとえに国民が改憲を必要とせず、それゆえ改憲手続法の整備も必要としていないことの現れと評価できる。国民にとっては、改憲は急務ではなく、欠陥法である改憲手続法の整備も同様に急務ではなかったのである。
今回の改憲手続法の改正もまた、これまでなされてきた多数の指摘を全く踏まえず、改憲手続法の欠陥を何ら治癒するものではない。
つまり、今回の改正は、2016年になされた公職選挙法改正に合わせる7項目の改正で、共通投票所制度の創設、投票時間の弾力的設定、投票所に入場可能な子どもの範囲の拡大など、投票環境をめぐる技術的な規定の改正にすぎず、上記欠陥とは何ら関係のない枝葉末節の改正である。
むしろ、今回の改正によって、投票時間の弾力的設定などの名目により、投票時間の短縮が可能となり、却って国民の投票環境を悪化させる危険もあるため、より慎重な審議が必要であったが、公職選挙法に合わせるだけだから問題は無いかのような議論がなされ、国民の投票環境に関する調査や検討は終ぞなされなかった。また、仮に、公職選挙法の改正に合わせることが目的なのであれば、2016年以降になされた公職選挙法の改正点(2016年12月に在外選挙人名簿の登録申請方法の見直し、選挙人名簿の内容確認手段の閲覧への一本化が改正済み)も合わせて検討・改正すべきであったが、それらは今後の議題とされ、7項目だけ先行して改正するという、選挙前の成果作りともいうべき姿勢が見て取れた。
欠陥法である改憲手続法の枝葉末節の改正により、改憲の手続法が整備されたということは出来ない。
かような状況での憲法改正は、決して許されるものではない。
私たちは、法律家の団体として、国民主権、基本的人権の尊重の観点から、欠陥が治癒されず、公正公平な憲法改正を実現できない改憲手続法の改正に改めて抗議すると共に、同法に基づいて、憲法改正の手続が行われることに、強く反対する。
以上
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