NPO法人官製ワーキングプア研究会「自治体職員で深刻化するこころの病に対して総務省が対策強化。しかし、有期雇用の非正規公務員への対策は不明」

NPO法人官製ワーキングプア研究会(理事長:白石孝氏)にご了解いただき、同研究会が発行している『官製ワーキングプア研究会レポート』第35号(2021年8月号)に掲載された「自治体職員で深刻化するこころの病に対して総務省が対策強化。しかし、有期雇用の非正規公務員への対策は不明」を転載します。/雇用(任用)形態でいのち・健康の取り扱いに格差があってはなりません。お読みください。そして、北海道在住の皆さんには、貴重な研究・実践をされているNPO法人官製ワーキングプア研究会へのご入会を呼びかけます。

 

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総務省が全自治体対象に調査

 

「メンタルヘルス対策に係るアンケート調査の実施」、総務省は令和3年7月8日付でこの通知を全国の自治体に向けて発した。調査は、「効果的かつ総合的なメンタルヘルス対策を実施する」ために「組織的マネジメントのあり方を検討する」とする。

そして、一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会(註1)(註2)と連携して「総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会」を設置するとのことだ。

回答期限は都道府県と指定都市が8月6日、市区町村分は都道府県が取りまとめたうえで一括提出するので8月13日、一か月という短期間の期限を設定している。調査項目を見ると、日常的に労働安全衛生体制を整え、対策を実施していない自治体では短期間では回答出来ない内容になっている。おそらく自治体間の温度差は相当に大きいだろうし、総務省も取り組みが遅れている自治体があるという危機感から今回の取り組みを始めたと思われる。

今回の調査対象は「首長部局」となっている。つまり、教育委員会や行政委員会の職員は対象になっていない。

調査項目は、大きく5項目。

(1)「基礎情報」 「メンタル不調で1種間以上、病気休暇取得または休職した」休務者数、公務災害認定件数、休務の理由、復職・退職などの数、再度休務の数、人事担当以外でのメンタルヘルス担当の有無
(2)「予防・早期発見」 研修の実施や内容、精神科医等メンタルケア専門スタッフ、相談窓口、組織外の相談窓口や事業の活用、ストレスチェックの活用など
(3)「休務した職員の職場復帰」 面談、主治医との連携、職場復帰での配慮、職場復帰での課題
(4)「職場復帰後の再発防止」 再発防止策、「お試し出勤」等の制度、職場復帰にあたってのルール
(5)「現在のメンタルヘルス対策」 重点的対象職員、その職員対策での課題、休務者増加傾向の内容、対策の課題

 

調査の内容を見ると、自治体でメンタル不調者が増加し、人事管理上の大きな課題になっていることが分かる。若手職員に多く出ていることや業務量の増加や内容の複雑化、困難化も要因になっている。ハラスメントが原因とも認識している。それに対しての組織的な人事マネジメントの充実・強化、安全衛生体制の強化を総務省はめざしていることは評価できる。

 

非正規公務員は蚊帳の外か

 

しかし、調査対象になっているのは、調査内容からはどう考えても無期雇用の正規職員だけとしか思えない。総務省が実施した「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員」調査(2020年4月時点)では、任用期間6ヶ月以上、週勤務時間19時間25分以上の会計年度任用職員が約62万人、6ヶ月及び19時間25分未満が約28万人となっている。おそらくこの約90万人は翌年度も反復して雇用(再度の任用)されている方が多いと思われる。他に「臨時的任用職員」が約7万人となっているが、多くが「教員、講師」であり、反復雇用のケースも多い。

正規職地方公務員は、2020年度で約276万人と総務省は公表しているが、警察及び消防を除くと約230万人、会計年度任用職員の勤務職場は、一般行政29.4%、技能労務10.0%、保育士9.3%、教員・講師6.2%、給食調理5.5%、放課後児童支援3.0%、図書館2.9%などの構成比になっている。

総務省のメンタルヘルス対策の視野に入っているのは、前記で集計した320万人のうちの約72%である正規職員(今回は首長部局が調査対象)で、約28%の非正規職員は実質的に除外されている。この28%の「公務員」がこころの病になった時、調査項目である「休務中の職場復帰の取り組み」や「メンタル不調者が復帰後、再発しないための取り組み」などの安全衛生対策を施されるだろうか。

 

有期雇用、期間雇用であっても公共サービスに不可欠の非正規公務員

 

東京都などでは、公募によらない再度任用時の不適格基準として「換算後の欠勤日数が任用期間中の所定日数の2分の1を超えた場合は、原則として公募によらない再度任用をすることはできない」ただし、「傷病欠勤及び病気休職の場合は、任用期間満了時において概ね3月以内に回復する見込みがあり、かつ、それ以降正常に勤務することが可能であると認める場合はこの限りではない」としている。(懲戒処分を受けた者については、公募によらない再度任用をすることはできない)

年度をまたいでの再度の任用を想定しているのなら、今回調査で総務省が視野に入れている「休務者の休務中における職場復帰」や「復帰後の再発させない取り組み」などを非正規職員にも積極的に行うべきだ。

それ以前に「メンタル不調者を出さないための予防及び早期発見の取り組み」が重要だ。この調査項目には「若手職員に特化して講じている対策」は特記されているが、非正規職でメンタル不調になった職員の原因や対応も調査すべきだ。

「近年のメンタルヘルス不調による休務者の増加傾向」の具体例ではこのように書かれている。

「若手職員の休務者が増えた」「1人あたり業務量が増えた」「業務が複雑化」「災害対応業務の増加」「新型コロナ感染症業務の増加」「ハラスメントの増加」「適切な対策ができていない」「職場内で気楽に相談できない」「新型コロナの影響でコミュニケーション機会が減った」などだ。

当研究会が20年5月に実施した「新型コロナウイルスによる公共サービスを担う労働者への影響調査~エッセンシャル・ワーカー235人からの証言」でも、「公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」が今年5月に実施した「公務非正規労働従事者緊急アンケート」でも、処遇格差、孤立化、研修やサポート体制の不備、住民サービス困難事例対応の集中、更新(再度の任用)期不安などのストレス事例が多く寄せられている。

 

非正規職員に関する法の規定は

 

地方公務員には正規・非正規に関わらず、原則として労働安全衛生法が適用されている。

労安法66条1項及び同規則44条では、事業者は常時使用する労働者に対し、1年に1回健康診断を行うこと、同条の10及び規則52条では、ストレスチェックを行わなければならないと規定されている。国の非常勤職員に関してだが、人事院規則で「常勤職員の二分の一以上の勤務時間、6ヶ月以上勤務者への実施」を努力義務としている。

公務災害休暇も私傷病休暇も会計年度任用職員に適用される。ただ、公務災害等によって休職中の職員の雇止めを規制する規定がなく、任命権者の「裁量」にかかっている。とはいっても「公務災害、労働災害」によって休職している期間中に雇止めすることは、「使用者責任を放棄することに繋がり、継続しての任用を前提とさせる」取り扱いを求めるべきだ。(この項は、上林陽治氏からの情報提供に基づく)

 

総務省及び自治体に求めること

自治体職員にメンタルヘルス不調者が増加したことで、人事管理面でも公共サービス面でも改善すべき課題になった。総務省は調査などを通じて動き始めている。

しかし、地方公務員の一定数を非正規公務員が占め、公共サービスに不可欠な存在になっているうえ、労働基準法や労働安全衛生法の趣旨や規定からすれば、正規・非正規に格差をつけることは認められない。当会では2018年7月、臨時・非常勤職員等の安全衛生制度に関する調査を実施、法改正と自治体への改善提言を行ってきた(註3)。今回調査及び結果をふまえた「効果的かつ総合的なメンタルヘルス対策を実施するための組織マネジメントのあり方検討」では、下記を十分留意して臨んでもらいたい。

(1)調査結果の検討にあたり、会計年度任用職員など非正規公務員の状況を前提とし、なおかつ実態把握が不十分だった時には、追加調査を行うこと。
(2)更新(再度の任用)にあたり、公務災害あるいは私傷病休暇制度を悪用・潜脱した雇い止めなどを行わないよう通知すること。
(3)検討過程で、当会、公務非正規女性全国ネット、さらには非正規公務員が加入している労働諸団体へのヒアリングを行い、可能な限り当事者の声を把握すること。
(4)本調査は、これまで実施された総務省及び(一財)地方公務員安全衛生推進協会の同種調査と同様に、非正規公務員を調査対象から除外しているものとみられる。地方公務員法改定によって臨時・非常勤職員の多くが一般職の会計年度任用職員に移行していること、2022年10月からは「週20時間以上勤務、月額賃金8.8万円以上などの会計年度任用職員」は地方公務員等共済組合法が適用されること等を踏まえ、事業場ごとに適用法令が違う現状を改善する地方公務員災害補償法改正による制度の一元化を検討すること。

 

 

 

[1] <一般財団法人地方公務員安全衛生協会>

2013年設立で「地方公務員の安全と健康の確保、快適な執務環境の形成、その他の安全衛生に関する施策についてのノウハウの開発提供、人材育成、広報啓発等に関する事業を行い、もって公務災害を未然に防止し、地方公務員の福祉の向上を図るとともに、地方行政の能率的な運営の確保と地域住民の福祉の向上並びに地域社会の健全な発展に資すること」が目的。理事長は総務省自治行政局長、理事5人のほか評議員には自治体関係者に加え、自治労、日教組、全水道の労組役員も入っている。19年には「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究」も実施、災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策についてのマニュアルを作成している。

[2] <2019年にも総務省及び一般財団法人地方公務員安全衛生協会が調査>

総務省は「令和元年度地方公共団体の勤務条件等調査」結果を20年12月に公表した。内容は「働き方改革に向けた勤務環境の整備・改善」「人材確保」の2点、前者は「勤務時間・休暇」「安全衛生」「人事委などにおける労働基準監督機関としての職権行使」だ。時間外勤務、有給休暇使用、病気休暇、介護休暇、介護時間、育児休業(男性の取得率も)、ストレスチェック実施、メンタルヘルス対策の状況という極めて興味深い調査になっている。

(一財)安衛協も19年度調査を公表し、「健康診断」「健診結果」「長期病休者」「在職死亡」で、350団体79万人(首長部局)が対象、「精神、行動障害」長期病休者は全職員中1.6%で10年前の1.4倍。長期病休者に占める割合が60%になり、初めて50%を超えた12年度から10%増になっている。

[3] <2018年7月の官製ワーキングプア研究会からの提言>

(1)臨時非常勤職員等を安全衛生規則等の適用対象から除外せず、労働安全衛生委員会の審議対象とすること。また、臨時非常勤職員等を委員に選出、職場実態に合わせた安全衛生委員会構成にすること。
(2)常勤職員並みの公務傷病休暇制度を臨時非常勤職員等にも適用すること。
(3)公務災害補償にあたって、被災日から休業補償を8割にする規則等を整備すること。
(4)臨時非常勤職員等を死亡、障害見舞金(賞慰金)制度から排除しないこと。

 

 

 

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