川村雅則「椅子取りゲームと椅子づくり」

北海学園大学学報』第93号(2013年3月15日発行)に掲載された原稿です。図は新たに作成したもので、北海道における大卒者の進路を示しています。ピーク時には5千人超もの大学生が無業者等のまま社会に出て行かざるを得ない状況にありました。コロナ禍で就職氷河期の再来が言われているなか、椅子取りゲームに終わらせない取り組みが求められています。

 

 

図 北海道における大卒者の進路の推移

 

わが国の雇用や労働について研究している。そう言うと、「内定をもらう秘訣は?」「給与の高い仕事は?」と学生に聞かれるがそういう研究ではない。

学生(や学費負担者)にとって自分の就職がどうなるかは、学業以上の関心事に年々なっているように感じる。大学を出たとしても正規雇用で働けるとは必ずしも限らず、無業あるいは非正規雇用で働かざるを得ない現状を、マスコミ報道やアルバイト経験を通じて、いやというほど見せられれば、ある意味、当然の反応だと思う。

いきおい、このゼミ・授業をとれば/在学中にこんな経験をしておけば、就職に有利だという発言は、学生だけではなく、教職員の間でも聞かれる。

就活も随分と早くから始まるようになった。むろん、そのことは一概に否定されるものではない。就活は社会人にとって必要な能力を身につける機会になってもいるからだ。

しかしながら、とここで思う。3 年次の後期にもなれば徐々に就活に時間を多く割かれるようになり、4 年次にはゼミも成立しない大学の現状でよいのか。どんな若者をこの社会は育てようとしているのかと悶々と考えている。

数多くの問題点が指摘されながらも、新卒一括採用方式はなかなかあらためられず、学校から仕事への「移行」に失敗すれば、やり直しは難しい。そのプレッシャーはいかばかりか。むろんその一方で、正規雇用を「勝ち取った」からといってもその道が必ずしも安泰ではないのは、卒業生の経験からもいえることだ。

なぜこうなのか、他に道はないのか。これも学生からよく聞かれることだ。

それを考える上では、日本の雇用なり生活保障のありかたなりが歴史的にどう形成されてきたのかとか、日本型のそれらは世界標準では決してないことを、(ちょっとかたい言葉でいえば)労働史や比較福祉国家論の研究蓄積に学んでもらいたい。

やっかいな時代である。でも、「何かおかしい」と根本的な問題に目を向け、取り組みを始める人たちが増えているのも事実だ。椅子取りゲームでいえば、少なくなった椅子を奪い合うのではなく、椅子を増やしたり、アブナイ椅子を座り心地良く直したり、あるいは一つの椅子に二人で掛けてみたり(ワークシェア)。

政治に期待なんてできないよと冷めた目で見ているかもしれないけれども、こうした作業は何も政治の世界に限られたことではない。働く人たちと雇う人たち(労使)の課題、いわば、将来、社会人となるみなさん自身の課題でもあるのだ。ちなみに私自身は、最近は札幌市の「公契約条例」の制定運動に関わっている(同条例についてはインターネットなどで調べておいてもらいたい)。

世の仕事は、条件に恵まれたものばかりでもなければ、脚光を浴びるものばかりでもない。ただ、そういった多くの仕事で私たちの社会は成り立っている。そこに目をむけ、自分の就職のこととあわせて、椅子づくりという作業に参加してもらえれば嬉しく思う。

 

 

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