城塚健之「非正規公務員の立法的保護のために──日本労働弁護団「非正規公務員制度立法提言」について」『経済』第365号(2026年2月号)pp.120-126
雑誌『経済』第365号(2026年2月号)で「非正規の公務員はいま──制度、運動の焦点」と題した特集が組まれました。
本稿はそのうちの、弁護士 城塚健之(じょうつか・けんし)さんの論考です。どうぞお読みください。
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1 はじめに─「無権利状態」を解決
日本労働弁護団(以下、労弁)は、2024年11月8日、本邦初となる「非正規公務員立法提言」(以下、提言)を採択・発表した。これは、国や地方自治体(以下、自治体)で働く非正規公務員が、雇用の不安定さや処遇の劣悪さといった深刻な問題に直面しながら、労働契約法からもパート有期法からも適用除外とされ、法的な保護がまったくない「無権利状態」に置かれてきたことについて、立法的な解決を求めるものである。
なお、「非正規公務員制度」という標題については若干の釈明が必要である。というのも、提言はもっぱら自治体における会計年度任用職員に絞って論を進めているからである。これは、非正規公務員に対する適用法令がさまざまに分かれているところ、もっとも人数の多い、会計年度任用職員を例にとるのが便宜だったからである。
なお、私見は、国・自治体が労働契約を締結できるようにすれば、少なくとも民間の有期契約労働者と同程度の保護は実現できるというものである。しかし、提言では、より実現可能性が高い案という観点から、行政や裁判所のとる任用論(公務員は、国・自治体の任用という行政行為によりその地位が与えられる)を前提にした条文案を示した。これは、公務員労働組合の意識にも合致していると考える。
2 提言の必要性
非正規公務員は、例外なく任期を限って任用され、これを繰り返し更新して働いていることが多いが、ときおり、さまざまな理由で(しばしば、恣意的に)雇止めがなされる。
これが民間の有期契約労働者であれば、労契法19条(雇止め法理)が適用され、有期契約が反復更新されて期間の定めのない契約と同じ状態になっている場合、または、労働者が契約更新の合理的期待を有する場合には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないとき」は、次期の労働者の契約申込みを使用者が承諾したものとみなすことで、期間の定めのない労働者(正社員など)に準じた救済がなされる。
(1)雇止めの救済を否定する裁判所
ところが、期限付き任用による公務員の場合、法的な救済はほとんどない。
まず、地位確認請求については、裁判所は、公務員の任用は行政行為であるから任期が終了すれば公務員としての地位は当然に失われ、また、行政行為ゆえに公務員側の意思解釈は問題とならず次の任用に対する合理的期待も認められないなどとして、救済を拒み続けてきた(任用継続への期待を抱いたとしても、それは「誤った期待」に過ぎないとされる)。唯一、東京地裁が地位確認を認めたケースがあるが、すぐに控訴審で取消され、その後、地位確認を認めた裁判例は登場していない。
2012年改正労契法で前述の19条がもうけられると、公務員の地位は法令によって規律される特殊な形式の契約(公勤務契約)によるものなので同条が類推適用されるべきとして争うケースも登場した。しかし、裁判所は、地方公務員の採用は行政処分であること、労契法が地方公務員を明示的に適用除外としていることなどを理由に、同法を類推適用する余地はないとした。
次に、行訴法37条の2などに基づく任用義務付け訴訟も試みられたが、裁判所は同条の「重大な損害」や「補充性」といった要件を極めて厳格に解釈し、他で働いて収入を得ていれば「重大な損害」はないとか、経済的損害は事後に金銭賠償で補填可能であるから「補充性」の要件を満たさないなどとして、不適法却下した。しかし、人は生活のために何らかの形で働かざるを得ないのであるから、この論法は、非正規公務員の雇止めにおいてはおよそ義務付け訴訟を認めないと言っているに等しい。
さらに、損害賠償請求についても、裁判所は「任用が継続されることへの期待は、法的保護に値する利益とは認められない」として、ほとんど認めない。
このように、非正規公務員に対していかに不条理な雇止めがなされようと、裁判所はその救済を拒み続けてきた。
しかし、雇用の安定は労働者にとってすべての権利の基礎である。雇止めに対する法的救済がないということは、怖くてあらゆる権利主張を抑制せざるをえないということである。賃金引き上げを要求しようとしても、意趣返しで雇止めされることを恐れて、要求を抑えざるをえないこともありうる。
この不条理について、中野区事件・東京高裁判決(平19・11・28『労働判例』951号47㌻)は「実質面に即応した法の整備が必要」と指摘した。しかし、それから十数年が経過した今も、状況は何一つ変わっていない。
このような状況に、著名な労働法学者である西谷敏・大阪市立大名誉教授は、その教科書において、「労契法の類推適用」を求める立場から「立法による抜本的な改革が必要」との立場に変わられた。
この状況を打開するためには、立法による根本的な解決が不可欠なのである。
(2)「官製ワーキングプア」を生む現行制度
非正規公務員の置かれている不条理は雇止め問題だけではない。その低処遇は「官製ワーキングプア」と呼ばれるほど深刻である。そこには法制度上の構造的な問題が存在する。
第一に、地方自治法の規定が格差の温床となっている。同法は、「常勤の職員」(いわゆる正規職員)には各種手当を支給できるとする一方(地方自治法第204条)、「非常勤の職員」には「報酬」(および費用弁償)のみを支払うとしてきた(同法第203条の2)。これは、非常勤職員が他に生計の手段を持つ者(嘱託医など)を想定していた時代の名残である。しかし現実には、多くの非正規公務員が職業的に公務に従事しながら、この規定のために、低額の「報酬」のみとされる結果、年収200万円程度に留め置かれている。
この問題に関連して、かつての非常勤職員に一時金・退職金を支給するとした自治体の条例・規則の適法性が争われた事件がある(枚方市事件)。その大阪高裁判決は、正規職員の4分の3以上の時間勤務する非常勤職員は「常勤の職員」にあたり、これらの支給は適法であるとした。ところが、その後、2017年改正地方自治法は、会計年度任用職員制度を設けるにあたり、フルタイムには手当支給を認める一方、それより少しでも勤務時間が短いパートタイムには期末手当しか認めないとした(その後、2023年改正により、勤勉手当も追加された)。これは枚方市事件の成果を事実上葬り去るもので、多くの自治体が手当支給を回避するために、従前のフルタイム(に近い)非常勤職員をパートタイムの会計年度任用職員へ任用替えしたと言われている。
第二に、パート有期法が適用除外とされている。民間の有期・パート労働者は、同法8条、9条に基づき、正規労働者との間の不合理な待遇格差の是正や均等待遇を求めることができるが、公務員は適用除外とされているため、非正規公務員には不合理な格差を是正するための実定法が存在しない。
このような構造的欠陥を解決するためには、立法的解決が不可欠である。
3 提言の概要
(1)雇止めからの保護
ア 「入口規制」
労弁の提言は、まず、恒常的業務について安易な期限付き任用を防ぐために、「入口規制」を提唱している。すなわち、会計年度任用職員を任用できるのは、「会計年度内に終了することが職務の性質から客観的に見込まれるとき」に限るという提案である。民間の有期雇用契約に対する「入口規制」は、2012年労契法改正をめぐる議論の中で見送られたが、公務員制度においては、期限付き任用があくまで例外であることからすれば、よりなじみやすいといえる。
重要なのは違反があった場合の効果である。提言は、「入口規制」の実効性を担保するため、これに違反して採用された職員が申請すれば、任命権者はその職員を「期間の定めのない非常勤職員」として任用することが義務付けられるものとした。
このような「入口規制」が行われれば、現在のような恒常的な業務に会計年度任用職員を安直に就けるという運用は不可能となり、雇止め自体がなくなるという抜本的な解決が期待できる。また、現在、民間の雇止め事件でしばしば問題となっている「更新上限」をめぐる紛争もなくなる。
もっとも、「期間の定めのない非常勤職員」については、その呼称もさることながら、公務員制度全体における位置づけについて議論を呼ぶこととなった(後述の「ジョブ型公務員」)。
なお、公務員任用の根本基準である「成績主義」(地公法15条)については、最初の採用時点ですでに能力の実証はなされているため、「期間の定めのない非常勤職員」に切り替わる際に改めて試験などを課す必要はない。
イ 民間並みの保護
提言は、「入口規制」(採用時の規制)が導入されない場合の次善の策(「出口規制」、雇用終了時の規制)として、民間労働者と同様に、無期転換権の導入と雇止め法理の法定化を求めている(なお、労働契約ではなく任用なので、労契法とは書きぶりが変ってくる)。
①無期転換権 労契法18条と同様に、通算任用期間が5年を超えた会計年度任用職員に「期間の定めのない非常勤職員」への転換申請権を付与し、任命権者はこの申請に基づき、無期での任用を義務付けられる。
②雇止め法理 労契法19条と同様に、任用が反復更新され実質的に無期と変わらない状態となっている場合または任用継続への合理的な期待が認められる場合に、会計年度任用職員に次期の任用申請権を付与し、分限・懲戒免職相当事由がない限り、任命権者はこの申請に基づき、次期の任用を義務付けられる。
(2)格差是正
ア 手当支給
会計年度任用職員の勤務時間にかかわらず、正規職員と同様に各種手当の支給を可能とする(フルタイムとパートタイムの区別をなくし、いずれも地方自治法204条適用とする)。もっとも、手当支給には条例上の根拠を要するため、自治体には手当支給の可否をめぐる裁量が残されるという問題は残る。
イ 不合理な格差の禁止
地方公務員法に、パート有期法9条、8条と同趣旨の規定(均等均衡待遇)を新設する。これにより、職務内容が同一であれば差別的な取り扱いを禁止し、そうでなくとも職務内容や責任の程度等に応じた不合理な待遇差を禁止する。
ウ 説明義務
民間の使用者は、非正規労働者から求めがあったときは、正規労働者との待遇の相違の内容と理由等について説明する義務がある(パート有期法14条2項)。これにならい、公務員の勤務条件を定める議会がその説明責任を果たすよう、条例制定にあたり義務付けることを提案している。
(3)救済制度の提案
権利が絵に描いた餅とならないよう、実効性のある救済制度は必須である。そこで提言は、申請を拒否された場合に任命権者に任用を命じることを求める申請型義務付け訴訟という司法救済を提案している。
また、提言は、これと併せて、人事委員会・公平委員会(以下、人事委等という)への審査請求も選択できるようにすることを提案している。
(4)定員・定数との関係
公務員には定員(国)・定数(自治体)が定められているが、非正規公務員はこれに含まれない。新たな類型である「期間の定めのない非常勤職員」をどう位置づけるかは難問であるが、提言は、財政民主主義を重視する見地から、定数に含めるべきとした。しかし、そのことがさらなる議論を呼ぶことになった(後述の「ジョブ型公務員」)。
4 専門家との対話
提言は、「公務員法研究会」(行政法、労働法等各分野の研究者からなる研究会)で取り上げられ、さまざまなご指摘を受けた。その内容は多岐にわたるが、ここでは大きな2大論点を紹介する。
(1)「ジョブ型公務員」
提言のいう「期間の定めのない非常勤職員」に対しては、①新たな階層を生み出し処遇格差を固定化しないか、②保育士や看護師など恒常的業務に従事する専門職を正規職員より一段低い存在と位置づけることにならないか、③入口規制に違反して採用される場合とは、もともと恒常的な職種ではないか、それは民間でいう「ジョブ型正社員」と変わらないではないかとの指摘がなされた。そして、これらを踏まえて提起されたのが、「ジョブ型公務員」という新たな類型を創設する構想である。もっとも、一般に、労働組合には、職種限定と引換えに整理解雇を容易ならしめるためのものとして「ジョブ型正社員」への抵抗感が強く、引き続き検討を要する。
(2)救済制度
提言が救済制度の選択肢の一つとして掲げた、人事委等への義務づけ請求を認める案に対しては、強い疑問が出された。その論拠は、①現行制度は人事委等が任命権者に対して任用を命じる「義務付け裁決」を予定していない、②人事委は任命権者の上級庁ではない、などというものである。
これについては、①立法論なのだから現行法を前提とする必要はない、②上級庁でないところにも特別な定めがあれば不服申立は可能、③地公法は人事委等に是正の「指示」を出す権限を認めているので、採用せよとの指示も可能ではないかとも考えられ、引き続き検討を要する。
研究会では、さらに「そもそも人事委等による救済制度を維持すべきなのか」という根本的な問いも出された。たしかに、人事委等の制度については、労働基本権制限の代償措置の一つという位置づけはされているものの、審理の遅さ、救済レベルの低さ、委員の専門性欠如や人材確保の困難さなどから、公務員の権利救済機関たり得ていないのではないかとの実感はある。これも引き続き検討を要する。
5 まとめ
提言は、長年にわたり無権利状態に放置されてきた非正規公務員について、いくら裁判を重ねても動かない現状を打開するべく、立法による解決を求めたものである。そして、具体的な条文案を示すことにより、単なる理念の表明に留まらず、立法実務的に扱いうることを示そうとしたものである。
提言は、立法作業に習熟しているとは言えない弁護士によるものであり、もとより不十分であることは否めない。そもそも、いかなる制度を構想するかについてはさまざまな議論がありうるところであるし、法文の書き方についてもさまざまな形がありうる。その意味で、提言は一つの叩き台にすぎない。提言を契機に、より多くの労働団体や専門家はもちろん、さまざまな立場にある多くの人に知恵を出していただければ幸いである。
(注)
(1)提言は、日本労働弁護団のホームページのほか、『労働法律旬報』2080号(25年5月下旬)45㌻にも掲載されている。また、その解説として、城塚健之「日本労働弁護団『非正規公務員制度立法提言』(24年11月8日)について」『労働法律旬報』同号6㌻、城塚健之・岡田俊宏・市橋耕太・平井康太・青柳拓真「日本労働弁護団 非正規公務員制度立法提言について-公務員法研究会を受けて」『季刊労働法』290号(25年秋季)12㌻がある。
(2)城塚健之「自治体の臨時・非常勤職員をめぐる法改正とその問題点」労働法律旬報1891号(17年)11㌻。
(3)大阪大学事件・最1小判平6・7・14『労働判例』655号14㌻など。
(4)情報システム研究機構(国情研)事件・東京地判平18・3・24『労働判例』915号76㌻。
(5)吹田市事件・大阪地判平28・10・12『労働判例』1186号75㌻、大阪高判平29・8・22『労働判例』同号66㌻、大阪府(岸和田支援学校)事件・大阪地判令3・3・29『労働判例』1247号5㌻など。
(6)前掲注(5)吹田市事件・大阪地判、大阪高判など。
(7)西谷敏『労働法』(第2版)(日本評論社、13年)、同(第3版)(同、20年)。
(8)枚方市事件・大阪高判平22・9・17『労働法律旬報』1738号50㌻。
(9)PT内では、法違反の効果として、「任用したものとみなす」とする案も検討されたが、行政行為を「みなす」という立法形式になじみが薄いことから、「任用しなければならない」という義務づけ規定とした。
(10)もっとも、労契法20条(現パート有期法8条)について、基本給や賞与・退職金の格差について不合理性を認めようとしない現在の裁判所のレベル(大阪医科薬科大学事件・最三小判令2・10・13『労働判例』1229号77㌻、メトロコマース事件・最三小判令2・10・13『労働判例』同号90㌻など)からすれば、その実効性には問題は残る。
(11)全農林警職法事件・最大判昭48・4・25刑集27巻4号547㌻、岩手県教組事件・最大判昭51・5・21刑集30巻5号1178㌻。
(12)『労働法律旬報』2080号(25年5月下旬号)では、早津裕貴・金沢大准教授(労働法)、晴山一穂・専修大名誉教授(行政法)が、『季刊労働法』290号(25年秋季)では、早津氏のほかに、下井康史・千葉大教授(行政法)、上林陽治・立教大特任教授(地方自治・公務員制度)、嶋田博子・京都大教授(官僚制度)がそれぞれ論評されている。
(13)鳥取県がいわゆる「鳥取式短時間勤務職員」を創設する条例を制定し、注目を集めている(「特定の職の人材確保のための鳥取方式短時間勤務を導入する緊急措置に関する条例」令和7年3月25日鳥取県条例第1号、25年4月施行)。これは、保育士、看護師など特定の職の人材不足に緊急に対応するために、正規職員に無給の「働き方支援休暇」を付与することで短時間勤務を可能とする仕組みである。それは、ワークライフバランスを保障しようとしたもので、提言とは問題意識を異にする。これについては、河村学「鳥取方式短時間勤務職員制度の内容と課題について~2025年9月4日現地調査からみえてきたこと~」『デジタル自治と分権』4号・通巻98号(26年1月)参照。
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