林亜紀子「『子育ちの場を守りたい』という願いを力に」『日本の学童ほいく』

林亜紀子(2025)「『子育ちの場を守りたい』という願いを力に」『日本の学童ほいく』第602号(2025年10月号)pp.21-25

 

全国学童保育連絡協議会が発行する『日本の学童ほいく』第602号(2025年10月号)に掲載された原稿の転載です。札幌市への要望書も添付しました。どうぞお読みください。

 

「子育ちの場を守りたい」という願いを力に

札幌市学童保育連絡協議会・事務局次長 林亜紀子

 

 

◆札幌市の放課後児童健全育成事業について

二〇二五年現在、札幌市には公設で市が委託した公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会(以下、財団)が運営する「児童クラブ」一九九か所、民設民営の「民間児童育成会」四二か所、民設民営の「届出放課後児童健全育成事業所」六か所があります。民設民営の「民間児童育成会」の多くは共同学童保育をルーツとしており、四二か所中三三か所が札幌市学童保育連絡協議会(以下、市連協)に加盟しています。

一九八七年、札幌市は高まる学童保育ニーズに応えるために、「一般来館児童と分け隔てなく」として、「全児童対策事業」との併用になる「児童クラブ」構想を発表しました。市連協では、これに「学童保育が必要な子どもには代替の施策ではなく専任指導員がいて専用室のある学童保育を保障すべき」と二二万筆の署名を集めて議会に提出するなどしました。しかし一九八九年、市は「全小学校区に公設民営・無料の児童クラブ方式を設置」「一校区一事業」という方針を打ち出し、児童クラブ方式と同一の校区にあった「民間児童育成会」二か所が、経過措置二年を経た後、助成金を打ち切られる事態になりました(助成金は、一九九九年に札幌市社会福祉審議会の答申によって「多様なニーズに応える」として復活)。

その間、多くの「民間児童育成会」は、専用施設で専任指導員が複数人で保育にあたる学童保育を実践しつづけ、札幌市民の間には、「民間児童育成会は〝学童保育〟で、有料。児童クラブは〝学童保育のような公設の居場所〟で無料」という認識が浸透していったように思います。

しかし、二〇一五年から国の「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、市の「設備運営基準条例」にもとづいて放課後児童健全育成事業が行われることになった折に「児童クラブ方式」もここに位置づけられました。「民間児童育成会」は、「同じ小学校区内にある、『無料で、公設の放課後児童クラブ』との競合」を余儀なくされることになり、いまに至っています。

現在、市内の放課後児童健全育成事業を利用する子どもの九四%が「児童クラブ」に登録しており、「民間児童育成会」に通う子どもは約五・三%です。

 

◆市連協の活動の概要〈集い・学び・交流を重ねて〉

市連協に加盟している「民間児童育成会」(以下、クラブ)は市内六つのブロックに分かれての活動も行っています。市連協の役員会は、各ブロックから選出された役員と、指導員の会から選出された役員で構成されています。最近では、各ブロックに所属するクラブ数が減っていることもあって、役員選出が困難になっていますが、「ブロックから二名選出」を必須とすると、私たちがこれまで大切にしてきた「できる人が、できるときに、できることを」のよさがなくなってしまう……として、選出に関しては各ブロックに判断を任せています。市連協に集う人々は皆、学童保育が好きだったり、感謝の思いがあって「できることがあれば、なにか協力したい」と思っていることを信頼し、市連協全体の合意のもとで取り組みを進めていくことを基本に置いています。

学童保育を市民にアピールする「さっぽろの学童保育パネル展」「あそびのひろば」を毎年開催するとともに、年に一回、保護者と指導員が共に学びあう場である研究集会も行っています(第五回目から北海道学童保育連絡協議会と共催、二〇一六年からは北海道との共催で「北海道・札幌学童保育研究集会」として実施)。

そして年一〇回ほど行われている代表者会議に各クラブからの代表と指導員が集い、これらの取り組みの準備の進捗状況の確認、全国学童保育連絡協議会から届く情報の共有、要望書の作成や各ブロック活動の交流などを行っています。

コロナ禍以降はオンラインでの会議が増え、保護者が参加しやすくなった側面はありますが、直接集って話しあうことの意義を感じる機会が減っていることには危機感をおぼえており、年に数回でも直接集う場を設けようと模索しています。

 

〈施策改善に向けた働きかけ〉

市連協では毎年、市に要望書を提出し、加盟クラブが一堂に会する場で市からの回答を聴く「全体懇談」に取り組んでいます。すべての加盟クラブの声としてまとめる要望書づくりにはじっくりと時間をかけます。市の担当課も、「関係者の生の声を伝える場」として「全体懇談」を大切に思ってくださっています。

議会への働きかけも積極的に行ってきました。二〇〇〇年代を中心に市連協では毎年のように「陳情・署名」の活動を行うとともに、議会でこれらをしっかり取りあげてもらうために「議員懇談」にていねいに取り組んできました。

各ブロックで地域の市議会議員の方々に懇談を申し入れ、要望を伝えます。入所したばかりの保護者は、「議員懇談」と言うととまどいを感じがちですが、クラブやブロックの仲間と取り組むことで力を得るようで、皆で届けた声が市政へとつながっていることに気づくきっかけともなっています。

また、「議員懇談」の場で保護者から語られる「学童保育の大切さ」は、とりもなおさず指導員への感謝の言葉ですし、指導員は、「保護者の理解に支えられて働いている」と話します。私たちにとっては、学童保育を大切に思う存在をたしかめあう貴重な時間にもなっていると感じています(長年の働きかけもあって、市議会内に「全会派で学童保育を応援する」という空気がつくられ、二〇二五年現在、署名活動は休止しています)。

こうした働きかけもあって、国が対象児童を「小学校に就学しているおおむね一〇歳未満の児童」から「小学校に就学している児童」に拡大する以前の二〇〇九年に、札幌市では四年生以上の登録を求める陳情が市議会で採択され、二〇一一年度に四年生、二〇一二年度に五年生、二〇一三年度に六年生と、対象児童が拡大されました。

また、以前は国の補助基準額を一年遅れで当てはめる形で市の補助金が出されていましたが、二〇一五年に「設備運営基準条例」が設けられて以降、国の補助基準の当年度実施に踏みきり、国が新たに設けた補助金もほぼ実施されるようになっています。

 

〈保護者OBの協力〉

一方、補助金の交付申請実務はたいへん複雑です。新たな補助金の実施にともなって、申請書の作成はもちろん、その前提となる各クラブの運営規程や賃金規程などの見直しも新たに必要となり、そのたびに各クラブでは保護者会を開いて検討を重ねてきました。ときに、「子どもを学童保育に通わせたいだけなのに、なんでこんな苦労を……」との思いを抱きつつも、「指導員の処遇改善のためになるなら」と保護者は必死で取り組みます。

そうした保護者の苦労を支えるために二〇一一年六月、学童保育で子育てをしてきた保護者や指導員、研究者など、学童保育を応援しようという人が集まり、「NPO法人学童保育・地域子育てサポートセンター北海道」(以下、学サポ)が設立されました。学童保育の開設や運営に関わる実務の支援や、研修・相談業務などを行っており、保護者・指導員にとって、心強い存在となっています。

 

◆「子育ての環境」をよりよいものに

現在、札幌市の「民間児童育成会」は、無料かつ公設の「児童クラブ」の全校区展開によって運営が圧迫されて疲弊し、一つ、また一つと閉所を余儀なくされています。その一方で、「民間児童育成会」が必要だという保護者たちが学サポの支援を受けつつ、新たに設立し、市連協に加盟して共に改善に向けた運動を進めているクラブもあります。

また、「やはり市連協につながって情報交換や交流できることが望ましい」と新たに加盟してくれた既存のクラブもありました。

学童保育のいまをよりよくしていくためには、いま現在、学童保育で子育てをしている保護者と指導員の思いが要となります。多忙な保護者の方々が「札幌の学童保育をよくしていこう」と市連協に集ってくれていることは心強いかぎりです。

*     *     *

 「自分の子どもはもちろん、この地域で将来、学童保育を必要とする子ども・保護者のためにも大切な学童保育を残したい」「学童保育を存続させ、子育ちの場、保育に携わる指導員を守りたい」「市民の願いとして、市政を担う人々に学童保育の大切さを伝えつづけよう」と協力しあう大人が集まっているのが「学童保育連絡協議会」だと思います。

「児童クラブ」を運営している財団の方々とも交流・連携しつつ、共に札幌市内の「子育て環境」全体をよりよくしていくために考えあっていけたら……と思っていますし、学童保育を、そしてこの国の「子育ての環境」をもっとよいものにして後世に引き継いでいくために、いま私たちができることに精一杯、取り組んでいきたいと思います。

 

出典:月刊『日本の学童ほいく』2025年10月号、21頁~35頁、全国学童保育連絡協議会

 

 

参考資料:札幌市への要望書(持続可能な育成支援を目指す学童保育制度を求めて

2025年10月吉日

持続可能な育成支援を目指す学童保育制度を求めて

札幌市学童保育連絡協議会

会長 神馬 伸昭

本市における民間学童保育は、50年以上にわたり札幌市学童保育連絡協議会のもと、署名活動、要望書提出、議員懇談等を通じて制度的・処遇的な充実及び諸改善を当事者の声として届け続けてきました。しかしながら、依然として十分に満足できる運営体制及び施設環境の整備には至っておりません。

今後を展望すると、国際情勢や気候変動の影響による食料・物資供給の不安定化や物価上昇が見込まれ、指導員の生活維持の観点からも、一層の処遇改善が不可欠と考えられます。また、進行する人口減少および少子化の趨勢により、指導員の確保難や利用児童数の急激な減少が予測され、人材不足および運営の困難さが増大し、事業継続性自体が危惧されます。

一方、保護者の「安心して就労を継続したい」「子どもに安全で充実した放課後や学校休業日を提供したい」という願いは、質的多様化を伴いながら依然強く存在し、民間学童保育はこれら多様なニーズに応えるべく最大限受入努力を重ねておりますが、現状では充足しきれていない実態があります。

加えて、民間事業者に求められる責任範囲は、安全・安心の確保のみならず、リスクマネジメントや業務継続計画(BCP)等にまで拡大・高度化しています。一方、施設の機能向上や安全性確保のための移転・改修等には多大な財政的・運営的負担が伴うため、実施は容易ではありません。

以上の課題を踏まえ、民間学童保育の持続可能性確保及び恒久的な制度的安定を目指し、以下の事項について要望いたします。ご検討の上、ご回答賜りますようお願い申し上げます。また、札幌市単独での解決が困難な案件につきましては、北海道及び他の政令指定都市等との連携を含め、国への働きかけを積極的に行ってください。

 

Ⅰ 札幌市へ以下を要望します

1,持続可能な育成支援を目指す学童保育を支える制度を求めます

(1)保護者の負担軽減、多子世帯・ひとり親世帯・生活保護世帯の支援

保護者および運営主体に対する経済的・運営的負担の軽減は喫緊の課題です。利用したい児童クラブを保護者や子どもが選択できるように公民間格差を是正してください。

経済的に困難な家庭の児童も、放課後児童健全育成事業の支援対象に当然含まれます。本市では保護者会費の減免分について助成制度を設けておりますが、経済的要因により児童の進路選択が事実上制限されることがないよう、多子世帯やひとり親世帯・単身赴任世帯などに対する会費減免措置のさらなる拡充を求めます。

また、生活保護世帯も希望者が民間学童保育所を利用できるよう、保健福祉局と連携して就業扶助として当該施設利用料を保護費から支給するよう要望いたします。

(2)指導員の処遇改善と労働環境

現行の補助制度は、児童数に連動して運営費が変動する一方で、家賃や光熱費など経費の多くはほぼ固定化しているため、学童保育事業の財政は極めて不安定かつ脆弱です。特に小規模クラブについては、その経営維持が困難な水準にあります。加えて、現行基準下では必要職員配置を満たすための人件費を十分に確保できず、また助成制度の条件変更や物価上昇等の外部要因による収入減少の懸念が常に払拭できず、指導員の基本給引き上げの判断も困難を極めます。職員数の制約によって代休や休憩時間を十分に確保できません。

このように指導員の専門性に応じた待遇改善が進んでいない現状があります。労働法令を遵守した適切な職員配置および運営を実現するには、相応の処遇改善が不可欠です。かような課題を解決するため、常勤職員配置に係る運営費補助基準等、補助制度の抜本的な見直しを要望します。

(3)小規模クラブへの支援

19人以下の小規模児童クラブにおいては、保育料収入や助成金額が限定的となるため、活動内容にも制約が生じています。特に、登録児童数が20人と19人の場合では、年間助成額において120万円もの大きな差が生じています。このため、19人以下のクラブに対しても急激な助成額の減少を回避し、民間児童育成会の継続的運営を可能とするための支援策の導入を求めます。

また、年度初めに登録児童数が10人以下となった場合であっても、年度内運営支援費について特例措置を適用し、小規模クラブの存続に配慮してください。さらに、届出事業所として再登録を目指しながら運営を継続するクラブへの支援も求めます。

 

(4)施設移転や安全確保に関する助成拡充

施設移転時には、保育専有面積の拡張、安全対策の強化、防災機能の向上等に関わる費用についても、移転関連経費として助成対象とすることを要望します。併せて、防災および安全基準の遵守・向上のために必要となる改築工事や機能拡充に係る経費への支援を求めます。

2, 助成基準や運用の改善を求めます

(1)育休世帯児童登録要件の拡大

保育園と同様に、育児休業期間中の子どもも登録児童できるようにしてください。

(2)障がい児加算対象の拡大

結果として障がい児の利用がなくても、所定の研修を修了している指導員を加配し、支援や配慮が必要な子どもを受け入れる条件が整っている場合は、障害児加算の対象にしてください。

(3)保護者会費減免の拡充

①第三子以降の減免枠を設け、減免額を就学援助ランク1(5,700円)水準まで引き上げてください。

②第二子以降の減免額分助成について、「同一児童育成会に登録している場合」に限定する条件を撤廃してください。

(4)育成支援体制強化事業の拡充

指導員募集のために民間求人サービスを利用する場合の費用を対象としてください。

(5)送迎支援の拡充

複数校区からの児童送迎に対応し活用できるよう、支援対象、要件を緩和し、助成額をさらに拡充・してください。また、公共交通機関を利用する子どもの通所費用も支援してください。

(6)家賃補助の拡充等

一定条件の下、家賃実費の半額を補助するなど、助成額を実態に見合う金額にしてください。

併せて好適な物件を見つけ借りられるよう、斡旋や紹介、情報提供などの支援をしてください。

(7)その他助成の継続・拡充

①物価高騰支援費については、臨時的な対策にとどめず、物価指数等の物価変動率を指標として、継続的な支援策としてください。

②猛暑期の熱中症対策に必要な消耗品や備品等の購入にかかる費用を補助してください。

③ICT化機器やエアコンなどの買い替えなど経年劣化や故障にも対応できるように補助制度を設けてください。ICT機器使用にかかるランニングコストも補助対象にしてください。

3, その他支援や改善等を求める事項

(1)待機児童認識の是正と制度活用の拡大

札幌市公式の待機児童数の「ゼロ」状態を是正し、国の施設整備費加算等の制度を活用できるようにしてください。

(2)指導員の確保、育成および研修の充実

①学童保育事業者や指導員が札幌市保育支援センター「さぽ笑み」の就労支援相談や求人・求職情報提供事業等を利用できるようにしてください。

②コロナ禍の中で実施された資質向上研修の人数制限を無くしてください。

③認定資格研修は、指導員の豊富な経験、学童保育に関する適切な知識と認識を兼ね備えた事業者及び講師で実施してください。

(3)広報・地域連携活動の支援拡大

①民間児童育成会の認知や理解促進のため、チラシ配付のミニ児童会館への拡大や広報さっぽろなど市公式媒体での広報活動を通じて支援してください。

②地域の小学校との連携がスムーズに行えるように支援してください。教育委員会、校長会、園長会等に協力を呼びかけてください。

(4)事務手続の改善など

①登録事務説明時は、対面とオンライン併用の説明会を実施してください。

②提出書類や手続きの簡素化を引き続き進めてください。

③深刻な少子化に直面する今、放課後児童健全育成事業のあり方や民間児童育成会の継続的な安定運営について、当事者や有識者と行政がともに検討できる場及び機会を設けてください。

④市長との懇談の場を設けてください。

(5)日本版DBS制度運用の公正

日本版DBS制度の施行及び運用にあたっては、保護者会運営、小規模団体など運営体制の違いを理由に不利益を被らないようにしてください。

 

 

Ⅱ 札幌市として以下について国へ求めてください

1 深刻な少子化を見すえての補助金制度の抜本的な見直し

2 19人以下の小規模学童保育を含めすべての学童保育で常時複数の職員を配置できるような十分な補助制度への拡充

3 放課後児童健全育成事業への保育料減免制度の創設

4 放課後児童健全育成事業への家賃補助制度の拡充

5 学童保育指導員の公的責任による国家資格化針の立案と養成課程整備の具体化

6 送迎支援事業や育成支援体制強化事業などメニュー方式の補助金運用についての自治体裁量の拡大

7 「放課後児童クラブ運営支援事業」「施設整備費加算」などの要件になっている「待機児童の存在している地域において」という条件の撤廃

8 学童保育を就学前の保育に欠ける児童のための施設である保育所と同様に、就学後の保育に欠ける児童のための施設として、児童福祉法上の施設として位置づけること

 

 

以上

 

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