川村雅則「現場・地域から考える 非正規公務員の実態と解決方向 : 動き出す会計年度職員制度の改善、さらに : 北海学園大学教授 川村雅則(かわむら・まさのり)さんに聞く」『経済』第365号(2026年2月号)pp.99-111
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雑誌『経済』第365号(2026年2月号)で「非正規の公務員はいま──制度、運動の焦点」と題した特集が組まれました。
執筆者、論文タイトルは以下のとおりです。
<特集>非正規の公務員はいま ──制度、運動の焦点
◎川村雅則さんに聞く(北海学園大学教授)
現場・地域から考える非正規公務員の実態と解決方向
──動き出す会計年度職員制度の改善、さらに
◎公務の非正規・女性労働者の声を伝える
「はむねっと2025年・実態調査」 …渡辺百合子(はむねっと・公務非正規女性全国ネットワーク)
◎大阪の非正規・会計年度任用職員の状況は
──大阪自治労連・運動の現場から …仁木 将(大阪自治労連)
◎非正規公務員の立法的保護のために
──日本労働弁護団「非正規公務員制度立法提言」について …城塚健之(弁護士)
◎東京都スクールカウンセラー「雇い止め」事件
──非正規・公務労働の理不尽さを法的に問う …笹山尚人(弁護士)
雑誌発行からまだ1か月しか経過していないのですが、このたび、拙稿の公開を編集部より許可いただきました(ありがとうございます)。
小文が、この問題の解決を目指して各地で奮闘されている皆さんの取り組みに少しでもお役に立てば嬉しく思います。

自治体の窓口業務や様々な業務では多くの非正規の職員が占め、とりわけ、この間、「会計年度任用職員」と言われる方たちの大量雇止め、待遇問題の解決が急務です。非正規職員なしには現場が回らない状況に加え、厳しい人手不足問題もあり、その改善は急務です。川村雅則さんは、非正規公務員問題の調査・研究に携わり、関連する著作も複数出され、最近では共著で『お隣の非正規公務員』(北海道新聞社刊)もあります。この問題に取り組む意義や全国の最新の動きを〈Q&A〉形式でうかがいました。(編集部)
Q1 非正規公務員問題はどこから生まれたか
公務部門における非正規労働者がつくられた出発点の問題からお話をお願いします。
構造改革・公務リストラの所産として
まず初めに、非正規公務員問題の当事者は誰なのか、問題はどこから生まれたかを考えてみたいと思います。
全国で100万人を超えるに至った非正規公務員が当事者であるのは言うまでもありません。しかし、非正規公務員が拡大してきた背景には何があるのか。もともと日本は「小さな政府」であったところに、グローバル国家体制を目指す財界、政府によって新自由主義政治・改革が進められ、結果として正規公務員が大きく削減され、さらにその結果として、公共サービスがやせ細らされ、地域住民の生活が貧しいものになっています。
この大元の問題を考えるとき、そのような状況を推進する国や自治体の首長の責任は大きいものの、首長を監視して政策を立案すべき地方議員・議会の責任も問われます。地方(地方政府)を変えること、地方から国を変えることが必要ではないでしょうか。
以上の点から、この取り組みは、切り口こそ非正規公務員問題ですが、公務リストラなどで失われた「公共をとりもどす」、「公共の再生」運動の具体的な実践でもあります。そのために立ち上がる人、共同すべき人たちは、非正規公務員の当事者や公務労働者だけに限定されません。議会や行政、公共サービスのあり方に最終決定権をもち、解決主体者であるのは地域住民だと言えます。
賃金の基準、ジェンダー問題の克服の視点
くわえて強調したいのは、非正規公務員問題は、労働問題に限定しても奥行きが広い取り組みであることです。
非正規公務員の賃金は、公共サービスを自治体が民間事業者に委託などする際に使われます。公務員準拠という意味合いにとどまらず、公務員の低賃金が、行政からの委託などの基準で具体的に使われているのです。公契約運動に取り組む人たちには、この関連に注目して欲しい。
また、非正規公務員の多くは女性です。民間部門同様に、どうせ扶養されているのだから雇用は不安定で賃金は安くてよい、という発想が公務の世界でも強固に残っています。ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現する上でジェンダー不平等の克服は不可欠です。公務・公共部門における規範性を取り戻すことや非正規問題と重なる女性差別の廃止に関心をもつ労組や女性団体の出番ではないでしょうか。
以上のような問題意識を持って、労働組合の方々には、公務/民間を問わず、非正規公務員の問題に取り組んでいくこと、読者にはこの問題を総論として学ぶだけではなく、自らの足元、わがまちの非正規公務員の実態を調べ、いっしょに解決していくことをよびかけたいと思います。
なお、私は、情報プラットフォーム「北海道労働情報NAVI(https://roudou-navi.org/以下、『NAVI』)」を運営し、拙稿をはじめ、全国から寄せられた有益な情報を配信しています。非正規公務員問題を学ぶのに有益な情報やメディア掲載記事も随時、紹介していますので、どうぞお役立てください。本稿は『NAVI』で配信してきた記事と内容上の重複があることをお断りしておきます。
(1)川村雅則編著『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』北海道新聞社、25年発行。自治体労働組合、自治体議員、弁護士、新聞記者、研究者など総勢14人で編んだ。
(2)「公共の再生」について、たとえば、久保木匡介氏(長野大学教授)の論考「地域から公共を再生させるために」『月刊全労連』25年3月号を参照。
(3)川村雅則「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』21年12月号
(4)最近の文献として、①上林陽治氏(立教大学コミュニティ福祉学部特任教授)の「非正規公務員問題─会計年度任用職員制度の現状と課題」(『日本労働年鑑第95集(25年版)』旬報社刊)が問題を包括的にまとめられています。②ジャーナリストである竹信三恵子氏の連載「ルポ無法労働」(雑誌『地平』25年7~12月号)もお薦めです。
Q2 非正規公務員、会計年度任用職員の問題点は
非正規公務員の実態、現状を教えてください。
「新たな制度」への移行で
図、表、を見てください。自治体の非正規公務員は、100万人を超え、短期間・短時間勤務者を除いても74万人です。その中心を占めているのが2020年度から新たに導入された「会計年度任用職員制度」であり、98万人、非正規のうち82%を占めています。
図 全国の地方自治体における正職員及び非正規職員の推移
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注:各年4月1日現在。
出所:総務省による調査(正職員は「地方公共団体定員管理調査」、非正規職員は不定期に行われる臨時・非常勤数の調査)より作成。
表 「任用根拠別」及び「団体区分別」にみた、臨時・非常勤職員の人数と職員区分(任用期間×勤務時間数)別の内訳/単位:人
| 区分 | 職員A | 職員B | 計 | ||
| 任用根拠別 | 会計年度任用職員 | 661,368 | 319,700 | 981,068 | |
| 臨時的任用職員 | 76,016 | 11,063 | 87,079 | ||
| 特別職非常勤職員 | 5,040 | 121,934 | 126,974 | ||
| 団体区分別 | 都道府県 | 176,687 | 122,402 | 299,089 | |
| 市区町村等 | 565,737 | 330,295 | 896,032 | ||
| 指定都市 | 76,713 | 71,079 | 147,792 | ||
| 市区 | 387,629 | 219,896 | 607,525 | ||
| 町村 | 85,197 | 36,298 | 121,495 | ||
| 一部事務組合等 | 16,198 | 3,022 | 19,220 | ||
| 総数 | 742,424 | 452,697 | 1,195,121 | ||
注:「職員A」は図の濃い網、「職員B」は薄網の区分と同じ。
出所:総務省による調査(2024年4月1日時点)より。
この新制度「以前」も問題は数多くありました。非正規公務員(旧臨時・非常勤職員)の任用根拠があいまいで、しかも、任命権者・自治体側の過度な裁量が容認されてもいました。たとえば、継続的な任用ではないということを外形的に整えるため、任用の「空白期間」が設定されていました。雇用継続にあたって、数日から1ヵ月程度の雇用「空白期間」を設け、期待権の発生や退職手当の発生を防いだりするのです。あるいは採用時点で、勤続年数に機械的に上限が設定されたりしていました。そんな雇い方は民間では一般的ではないですよね。
その上に、就業実態とかけ離れた理屈で、非常勤職員に支払われるのは給与ではなく仕事に対する「報酬及び費用弁償」なのだからと諸手当の支給はできないと強弁されるような状況にありました。それゆえ通勤手当も当初は支給されない状況が続きました。
それでも労働基本権がフルに適用される特別職非常勤職員に分類された職員(新制度移行前には21万6千人)・労働組合によって、労働条件はじわりじわりと改善を積み重ねてきました。
そうした事態を受けて政府は、「任用の適正化」を掲げて「会計年度任用職員制度」という新たな非正規公務員制度を導入するに至りました。確かに、任用根拠こそ明確にはなりました。制度導入時に喧伝されていた期末手当の支給が認められるなど、収入面の改善もありました。
民間ではあり得ない!─会計年度任用制度の設計
しかしながら、そこで言われている「任用の適正化」が、非正規公務員の就業や仕事の実態を反映したものであったかどうかは別問題です。雇用面を中心にみていきます。
そもそも公務員の場合には、労使対等の雇用関係ではなく、任命権者の意思が優先される公法上の「任用」関係という扱いを受けています。労働基本権も制約を受けています。とはいえ、正規公務員の場合には、地方公務員法や地方自治法でその身分はしっかり守られています。公務員に対する我々のイメージはまさにこれです。
それに対して会計年度任用職員の場合には、1会計年度ごとの任用という解釈が厳格になされています。それゆえ、条件付採用期間=試用期間が毎年(!)設定されています。ですから、例えば、民間であれば覆すことのできるような雇い止めに対しても無力です。任用継続・再度任用についての期待権も奪われ、労働基本権の代償措置とされている人事委員会・公平委員会も、とりわけ雇い止め問題については機能していないように思えます。
さらには会計年度任用職員には、一定期間ごと(総務省の「助言」を受けて3年ごとが中心)に「公募」を行う自治体が多くみられました。一度雇われたからといって安心して働くことができないのは民間非正規も一緒ですが、一定期間ごとにいったん雇い止めされて試験を受け直さなければならない仕組みは、非正規公務員ならではと言えるでしょう。
2024年に名古屋市で1200人もの非正規保育士が公募にかけられ、また、東京都ではスクールカウンセラー250人が一斉に雇い止めされたことが大きく報じられました。これらは、労働組合が問題を可視化したからこそ知られたのであって、現行の制度上は、こうしたことができてしまう。とくに、公募については、べつに名古屋市に限らず、公募を導入している自治体ではどこでも、該当する職員は全員がその時期がくるたびにいったん雇い止めされた上で、公募・選考という手続きに粛々とかけられているのです。これが能率的な自治体運営と言えるのでしょうか。非正規職員に欠員が生じ、なおかつ多忙な中で正規職員がブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)のような、公募・選考業務に従事させられているのは理不尽ではないでしょうか。
とまれ、通常使われるのとは異なる意味合いで「民間ではありえない!」状況にあると言えます。
民間非正規並み──具体的には、「無期労働契約への転換」を定めた労働契約法第18条、「雇い止め法理が法定化」された労働契約法第19条を非正規公務員の世界にも導入することが急務の課題です。日本労働弁護団が2024年11月に発表した「非正規公務員制度立法提言」がまさにそうした課題を整理し、関係者を勇気づけました。
労働組合に強く訴えたいのは、無期雇用を当たり前の社会にすることの必要性です。この点は、無期転換逃れ=5年雇い止めが定着しつつある民間非正規の課題とあわせて追求していくことが、労組の使命だと考えます。
賃金改善も、正規との大きな格差
なお先ほど、収入面の改善があったと言いましたが、注意を要するのは、期末手当が支給されるのだからと基本給が引き下げられる事態がひろくみられました。また、労働基本権制約の代償措置とされている人勧制度がストレートに機能していません。結果、プラスの人勧が出されても、非正規公務員は遡及適用がされなかったり、一時金の月数が正規公務員と差が付けられたりしている自治体もあります。期末手当と、後に支給されるようになった勤勉手当の支給分は、収入は増えているはずですが、労働組合等による調査では、年収200万円未満に置かれる非正規の比率はなお大きいまま。基本給では最賃割れも社会問題となりました。
(5)川村雅則「名古屋市非正規保育士雇い止め事件からみえてきた国と自治体の共犯関係」『NAVI』24年12月26日配信。
(6)原田仁希「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」『学習の友』24年9月号。
Q3 会計年度任用職員とジェンダー不平等
非正規職員の多くは女性が占めていますが、課題は?
女性差別が日常化した日本
会計年度任用職員の4分の3が女性です。これは全職種の平均割合で、人数の多い職種(大分類)で女性割合をみると、一般事務職員はおよそ8割、保育士等や看護師等では100%近く、放課後児童支援員や図書館職員でも9割超が、女性です。相談員も女性が多い職種です。女性向きと社会でみなされている仕事が、非正規公務員によって担われている。ここには女性が従事する仕事やケアの仕事に対する軽視が垣間見られます。
彼女らの仕事は価値が低く、補助的な労働とみなされてきました。資格職であっても、その価値は適切に評価されてきませんでした。もちろん、コロナ禍で「発見」されたとおり、実際には彼女らの仕事は我々の社会を維持し再生産する上で不可欠です。
周知のとおり、日本は男女間の格差が大きく、女性の地位が低い国です。世界経済フォーラムが発表する調査データによれば、日本の順位は148ヵ国中118位(25年)です。日本は、雇用の分野では、男女間の賃金格差が大きく、その背景には、同一価値労働同一賃金の原則の不徹底や労働市場における水平的・垂直的分離がある他、管理職に占める女性割合の低さ、間接差別規制の不十分さなどが指摘されています。非正規公務員の世界にも該当します。
家族的責任が強調されその負担が偏って配分される女性は、非正規雇用を自ら「選択」せざるを得なくなります。労働分野(労働時間)の規制を低い水準に止め、かつ、生活保障の公的支出を抑制する「日本型福祉社会」という政治選択がそうした動きを後押ししてきました。非正規雇用は扶養される存在なのだから雇用保険や社会保険の面で配慮は必要ない、とみなされ、非正規雇用の「型」は定着をしてきました。
もちろん、以上のような「常識」は実態に沿うものではなく、各地・各職場で是正の取り組みが始まっています。
自治体の男女共同参画、女性活躍政策を問う
自治体という、公務員の任命権者は、男女共同参画や女性活躍の政策を推進する役割を担っています。しかし皆さんの、わがまちでは、どうでしょうか。男女共同参画社会基本法・基本条例に基づく基本計画をご覧になったことはありますか。地域における最大の雇用主である自治体自らに対する分析や提案が避けられてはいないでしょうか。
女性の管理職が少ないなど「ガラスの天井」への言及はあっても、女性の非正規雇用・低賃金など、「ベタつく床」の問題解決に言及しているケースなど見たことがありません。会計年度任用職員の制度設計は、民間の非正規雇用制度に劣るのですから、行政が民間部門・市民社会への啓発などと気負う前に、まず隗より始めよという姿勢、「自己分析」の作業こそが必要ではないでしょうか。たとえば、ジェンダーを主軸にしたものではないものの、北海道第二の都市・旭川市で会計年度任用職員を対象に行われた調査では、扶養/被扶養の実態や、より安定した雇用やより高い賃金への希望、ハラスメント被害などが尋ねられており興味深いです。
職業生活に焦点を当てた女性活躍推進法についてはなおのことです。事業主行動計画策定指針(2015年11月20日)の指摘では、「行動計画の策定・推進に当たっては、常勤職員はもとより臨時・非常勤職員を含め、全ての職員を対象としていることを明確にし」と、釘を刺していますが、もとより、すべての労働者を対象にした計画作りが必要であることは、言うまでもありません。
(7)川村雅則「ディーセントワークをどう実現するか──非正規公務員をめぐる課題から」『ガバナンス』25年10月号。
(8)旭川市総務部人事課「令和6年度職員意識調査結果」最終更新日24年12月2日。
Q4 制度改善の兆しは見えてきたか
当事者、労働組合、国や地方の議員などの要求、運動を受け、会計年度任用職員制度の改善への動きは?
「総務省マニュアル」の改善点への注目
「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」、通称「総務省マニュアル」と呼ばれる文書があります。総務省が自治体向けに作成した、会計年度任用職員制度の円滑な運用を支援するための手引きです。第1版は2017年8月に発出され、その都度、内容の改訂を経て現在に至ります(25年8月以降は「運用に係る事務処理マニュアル」に名称変更)。
自治体の非正規公務員の制度設計は、国の非正規公務員にならっていますから、国で改善の動きがあったときには、そのことを見過ごすことなく、自治体でも改善につなげることが必要です。例えば、国の非正規職員について、休暇制度が25年4月から改善されています。その柱の一つが病気休暇(私傷病)の有給化です。週5日勤務の場合には1年度に10日間が取得可能です。
なお、国の非正規公務員制度の水準を超えて労働条件を改善することは可能であり、この点は留意が必要です。実際、上記の休暇制度についても、1疾病につき90日を有給で休むことができる制度を実現している自治体もあります。
公募に関する総務省「助言」規定の廃止
話は前後しますが、2024年6月に、総務省マニュアルの変更があり、「3年公募」に関する助言規定が廃止されました。雇用安定の実現に向けて、せめて公募は廃止せよ、と関係者は重視して取り組んできましたから、このマニュアルの公募削除変更はインパクト大でした。
もっとも、総務省のこうした動きに呼応して自治体が公募を廃止するかどうかは予断を許しませんでした。そもそも、公募の導入は「義務」ではなく、「助言」にしか過ぎなかったにもかかわらず、「右ならえ」で公募を導入する自治体が多かったわけですから。
この結果、3年公募はどうなったか。私自身は、個別自治体の情報を把握しつつ、25年度に入ってから、北海道と道内35市を対象にして公募の継続/廃止状況を調べてみました。すると、回答のあった34市のうち17の市においては、公募が廃止されているか、そもそも導入していないという状況でした。
同じく、首都圏でも、「なくそう!官製ワーキングプア東京集会実行委員会」で106自治体を対象にした調査が行われています。それによれば、公募を廃止した自治体は45件で、公募を導入していない自治体20件を加え、65自治体(61%)に達したそうです。25年末には、25年4月1日時点の各自治体の会計年度任用職員・制度状況が総務省から公表されると思います。その結果も参照しながら、県や政令市を中心に、公募の継続になお固執する自治体には、公募廃止を求めていくことが必要です。
その上で残った問題を補足すると、(1)公募は廃止されても、1会計年度ごとの任用という制度(解釈)は改められていませんから、その是正が課題です。(2)もう一つは、公募廃止の陰で、人事評価制度の悪用が懸念されます。つまり、あなたは人事評価の成績が悪いから任用継続がされないのだと一方的に通告される事態です。評価項目や評価の手続きの適正化のほか、本人への結果の開示・説明義務や異議申し立ての機会の設定などの制度設計が必要です。
軽視される会計年度任用職員の離職──
「大量離職通知書制度」の活用のすすめ
ところで、公募廃止の運動を後押ししたのが、労働施策総合推進法第27条に基づいて、「大量離職通知書」を自治体に適切に提出させる取り組みです。詳細は拙稿をご覧いただきたいのですが、一つの自治体(但し任命権者ごと)で1ヵ月に30人以上の離職者が発生する場合には、最後の離職が生じる日の1ヵ月前までに、大量離職通知書を作成し、ハローワークに届け出る義務が自治体に生じます。30人というこの人数には、常勤職員(正規職員)も含み、離職者とは離職が確定した者です。
離職者が大量に発生するような事態は地域の雇用安定行政にとってゆゆしき事態です。いち早く察知して対策が求められます。それゆえ通知書の提出が義務づけられています。しかし多くの自治体では、こうした通知書提出のことなど念頭になく、年度末のぎりぎりで公募・選考を行ったり、離職者を発生させたりしていました。離職者の次年度の雇用のことや再就職支援の必要性など考えてもいなかったといえるでしょう。そもそも離職者の集約・把握さえ行っていない自治体も少なくなかった。大量離職通知書制度は、こうした状況に「待った」をかけたのです。
年度末の忙しい時期に離職者を集約して届け出などできるか、という声が自治体関係者から聞かれましたが、そうだったら、離職の可能性を高める公募など、行わなければよいのです。離職者のことなど考えない、自治体の姿勢が問われているのです。
地方創生策が非正規公務員問題に言及
石破前政権の時代、2024年の末頃でしょうか、地方創生政策において非正規公務員・会計年度任用職員の待遇改善が取り上げられるようになってきました(例えば、24年12月24日の「新しい地方経済・生活環境創生本部」での会合を報じた記事など)。そうした報道を受けて、25年9月に、私たちは、総務省自治行政局公務員部公務員課の職員を講師に学習会を開催しました。そのときの総務省作成資料によれば、「骨太方針2025」、「地方創生2・0基本構想」、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」などの政府決定文書に、会計年度任用職員の「処遇改善」や「常勤化」といった記載があります。
その記載では、もちろん、「能力実証を経た常勤化」ということですから、会計年度任用職員制度が廃止され全員が常勤化されることを意味しているわけではないことには留意が必要です。しかし、深刻な労働力不足や、関係者のこの間の取り組みの力を背景に、こうした動きが政府内で生じていることはおさえておく必要があります。
賃金制度改善の兆し
賃金制度についても、総務省マニュアルの改訂通知が25年6月25日に出されています。
その改訂の内容や活用のポイントをまとめると、(1)報酬水準決定について、常勤職員と同様に、「知識、技術及び職務経験」が考慮要素となることが明確にされました。(2)ずばり、会計年度任用職員の給料等の水準に、必ずしも上限を設ける必要はない、と新規で書かれました。(3)常勤職員の初任給を、会計年度任用職員のうち定型的・補助的な業務等に従事する事務補助職員の給料等の上限の目安とする規定は削除。初任給を上限の目安に、という考え自体がそもそも誤っていたし、全体的に重石となるような規定が削除されたのは評価できます。(4)保育士・看護師等の専門職種の給与等は、1級の水準に限る必要はないと新規で記載。専門職種を突破口にして賃金を改善していくことが求められています。(5)会計年度任用職員の再度任用時の給与決定については、厚生労働省が2018年に取りまとめた「同一労働同一賃金ガイドライン」を踏まえ、常勤職員の初任給決定基準や昇給制度との「均衡」を求めていくことが課題になります。
ここで強調したいのは、総務省マニュアルで賃金が自動的に改善されるわけではないことです。皆さんが、わがまちの会計年度任用職員の賃金制度を把握し、マニュアルに示された考えを照らし合わせながら、制度の改善に向けた働きかけを進めていく必要があります。
そもそも、なぜ非正規というだけで賃金がこんなに低いのか、仕事に見合った賃金と言えるのか、なぜ経験やスキルの向上が評価されないのか、といった問題意識を持つことができれば、現行の賃金制度の問題はおのずと見えてくるのではないかと思います。そして、最低賃金の大幅引き上げや均等・均衡待遇の実現など、民間非正規の運動との「合流」が期待されます。
全国の「取組事例」をどう評価するか──
鳥取方式短時間勤務制度を題材に
最近のトピックスとして、総務省が「会計年度任用職員の経験を活かす採用試験等の取組事例集」(令和7年度)を発表しました。「会計年度任用職員の(中略)能力実証を経た常勤化など在り方の見直しを進める」という政府方針を踏まえてのことです。受験資格・試験方法における工夫事例や採用試験等の周知における工夫事例が紹介されています。
このうちの鳥取県の「短時間勤務制度」を現地で調べてきました。鳥取県では、働き方支援休暇(無給)を包括承認することで短時間勤務制度が2025年度からスタートしています。そのことを受けて、「〔短時間勤務の〕正職員制度は、任期1年の非正規公務員『会計年度任用職員』の勤務条件や処遇改善の狙いがある」といった報道がなされたことも、関係者の期待と注目を集めました。
結論としては、確かに、硬直的な公務員制度の下でこうした短時間勤務制度を創設した鳥取県の創意工夫は評価されます。国の動き(人事行政諮問会議等)を視野に入れつつ、我々が先鞭を付ける、全国の着火点となる、という鳥取県の姿勢や、若手職員が中心となってこうした発案がなされて、制度設計に至ったことには希望を感じました。
その上で、なのですが、範囲が非常に限定的であることや(25年度の短時間勤務制度の採用実績は4人)、その他の会計年度任用職員(県の会計年度任用職員数は2500人超)が置き去りにされているように見えること──県では5年公募が維持されます──には疑問を感じました。短時間勤務制度で採用される職員に適用される無期雇用(定年制)や均等待遇は、そもそも、全ての労働者に適用されるべきものではないのか、ということです。
今後も様々な「取組事例」が脚光を浴び、紹介をされるでしょうが、我々が押さえておくべき要点は、無期雇用や均等待遇は決して特権ではないということ、会計年度任用職員制度は廃止が必要だということです。民間部門を含め、短時間で働くことへの懲罰的な制度設計(有期雇用かつ低賃金雇用)に対して懐疑が広がり、短時間正社員制度の創設の動きや支持が広がる状況もあります。運動の側からも積極的な提起が必要だと考えています。
(9)この項は、川村雅則「会計年度任用職員制度をめぐる問題といま取り組むべき課題」『NAVI』25年8月21日配信を参照。
(10)川村雅則「会計年度任用職員の公募制と離職に関する調査報告(中間報告)」『NAVI』25年7月31日配信を参照ください。
(11)例えば、川村雅則「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』24年6月15日配信を参照。なお、この取り組みでは、官製ワーキングプア東京集会実行委員会有志による省庁交渉とその結果を適宜配信された安田真幸氏(連帯労働者組合・杉並)の貢献が大きい。
(12)川村雅則「鳥取方式短時間勤務制度に関する調査報告(第一次報告)」『NAVI』25年9月22日配信。
Q5 これまでの当事者、市民の運動は?
現在、労働組合や非正規の当事者団体をはじめ、地方議員の取り組みも広がっているようです。ご紹介ください。
幅広い団体、市民からの取り組みの広がり
これまで非正規公務員の運動は、ナショナルセンターを越えた幅広い労働組合の共同のほか、当事者団体である「公務非正規女性全国ネットワーク」(通称:はむねっと)、「非正規公務員VOICES」による力強い取り組みや調査・情報発信などが続けられてきました。NPO法人「官製ワーキングプア研究会」が媒介となって東京・大阪・北海道・九州と各地で「なくそう!官製ワーキングプア集会」が開催され、関連する情報が発信されているので参照してください。
自治体議員のネットワークづくり
私はこの分野で、地方議員・議会の役割が大きいと考えており、そこでの活動を紹介します。二元代表制の下で、議会には、首長に対する監視機能や政策立案機能が期待されています。ただ、強大な政治力をもつ首長に議員が対峙するのは容易ではありません。例えば、膨大な行政情報は本来は議員にも適切に共有されて然るべきですがそうはなっていません。私も情報収集では苦労していますが、市民・行政・議会の協働などをうたった「自治基本条例」の名が泣きます。
そうした中でも、公務非正規問題に真摯に取り組む議員たちと「公務非正規問題自治体議員ネット」を2024年8月に発足させて、議会質問に役立つ実践的な学習会を積み重ねています。
日本には1700を超える自治体があり、地方議員の総数は、24年12月で3万人を超えます(総務省調べ)。労働界では「我が方の議員」という言葉がよく聞かれますが、労働組合は議員と本当に連繋をしているでしょうか。さらに言えば、この問題の理解を促し全ての議員を「我が方の議員」とするような取り組みはなされているでしょうか。全国各地に議員のネットワークを広げる取り組みが期待されます。
ネットワークを広げていると、優れた実践との「出会い」があります。例えば、人事委員会の本来機能を発揮させた新潟市議会議員の経験を紹介します。
教科書的に言えば、人事委員会や公平委員会は、首長(任命権者)から独立した人事機関で、地方公務員の人事行政に対する専門的、中立的な機関です。任命権者の人事権の行使をチェックするなどして、人事行政の適正化はもちろんのこと、地方自治の本旨が実現するよう働く機関とされます。
とりわけ人事委員会には、職員の給与、勤務時間等の勤務条件について、議会と首長に勧告を行う権限があり、労働基準監督機能も与えられています。加えて、人事委員会も公平委員会も、措置要求・審査請求・苦情処理制度を介して、職員の労働条件の改善や苦情の処理対応に役立つ可能性は有しているのです。
しかしながら、実際に聞こえてくるのは、そのような可能性とは真逆の評価です。
ところが、新潟市人事委員会が25年10月9日に出した勧告に添付されていた「会計年度任用職員実態調査報告書」には驚きました。報告書では、厚生労働省の「職務分析実施マニュアル」を参考に、市の会計年度任用職員や当該職員の係長級職員からヒアリングが行われ、調査の結果と、専門性が高い職種を中心に仕事が適切に評価されていないのではないか、といった総括がまとめられていた。先に見た、25年6月の改訂総務省マニュアル(賃金制度)にも言及しながら、現状の是正の必要性が、市の人事委員会によって指摘されていたのです。背景には、議員の粘り強い取り組みがありました。
このことは、人事委員会や公平委員会をまっとうに機能させることの必要性や、人事委員会か公平委員会かを問わず、会計年度任用職員の仕事を第三者的に調査する必要性を示すものです。どの自治体でも、まともな調査が行われれば、前記報告書と同じ評価が得られるはずでしょうから。
(13)川村雅則「新潟市議会議員・中山均さんの実践報告を聞いて」『NAVI』25年11月23日配信。
(14)たとえば、21年、奈良県の任用拒否問題の実態を明らかにし、是正を求めた、川西玲子「奈良県庁会計年度任用職員の任用拒否問題」『NAVI』25年12月4日配信を参照。
Q6 地方「を」変え、地方「から」国を変えるために
最後にこれからの非正規公務員の運動への期待を、ひと言、お願いします。
最初にも触れましたが、公務職場でどうしてこんなにも非正規が拡大してきたのか、という大元の問題を再確認したいと思います。
日本の雇用は1990年代半ば以降に大きく変容していきますが、ことは雇用だけに限りません。グローバル国家の実現を目指す財界の意向を背景に、日本の構造は改革が進められます。財政の三位一体改革や平成の大合併、そして、「定員の適正化」などが進められてきました。地方や公務にまわすお金は重荷とされました。これをいかに転換するか。ここには、非正規公務員問題の根の深さ、言い換えれば、非正規公務員問題に取り組む多面的な意義があります。
新自由主義改革は終わったわけではありません。近年では、「公共サービスの産業化」の流れが強まり、公務リストラ、民間化に拍車がかかっています。自治体は、民間化を強力に推し進め、「新自由主義改革の尖兵」(これは渡辺治・一橋大学名誉教授の言葉)としての役割を担わされ、その役割や機能が変質させられているのです。
会計年度任用職員制度が始まっておよそ6年。ここまで状況が改善されてきたのは、関係者の運動の成果であるのは間違いありません。本稿では取り上げられませんでしたが、自治体労働組合は、地域住民・利用者・保護者と連繋して、学校給食や図書館、保育や介護など公共サービスをよりよくするための運動の蓄積があります。公共サービスの切り下げが進められる中で、そうした運動をバージョンアップさせていくことが求められています。
自治体を越えて運動が広がっています。地方「を」変え、地方「から」国を変える運動です。その際には、情報の発信や共有をもっと意識して欲しい。例えば、議会の質問・答弁などは「公共財」です。アーカイブス化して活用、共有されるべきです。また、情報「を」つなげていくだけでなく、情報「で」関係者をつなげていくことも意識される必要がある。労働組合や当事者団体はもちろんのこと、弁護士や自治体議員、報道機関そして研究者など関係主体を、より積極的につなげていきましょう。小文がそのお役に立てばうれしく思います。
(15)この問題は、本誌24年7月号に掲載された、岡田知弘さん(京都橘大学教授)に聞く「公共の民営化路線40年の到達と[公]の再建」を参照。川村編著本(注1)の第2章・拙稿「公務の非正規化はどのように進められてきたか」もこの点を扱っています。