川村雅則「高齢者の就労現場から公共の再生を考える──事業団・企業組合に関する調査・研究の覚え書き」

川村雅則「高齢者の就労現場から公共の再生を考える──事業団・企業組合に関する調査・研究の覚え書き」『建設政策』第225号(2026年1月号)pp.40-43

 

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『建設政策』今号の特集は、「私たちの住宅のゆくえ~大工の担い手不足を止めるには~」です。

 

 

 

1.はじめに

2025年11月に、道内の地方都市で、企業組合が受注した道路清掃・落ち葉処理の仕事の現場視察に参加しました(写真)。建交労北海道本部建設部会の主催です。また現場視察の後には、事業団による今日の事業展開・事業団運動などを、建交労(全国事業団・高齢者部会)の役員から聴講する機会を得ました。それらで得た知見や問題意識に基づき、別の地方都市の事業団関係者から簡単なヒアリングも行いました。

本稿は、これらを踏まえて、今後の調査・研究に発展させるためにまとめたものです。メモ的な性格の小文であることをはじめにお断りしておきます[1]。また、事業団と企業組合を一括して扱います。

 

2.自治体による就労機会の確保

今回の現場視察に参加したのは、公務労働や地方政府に関する筆者の研究との関連で、次のような点に関心があったからです。

 

図1 男女別にみた60歳以上の労働力人口比率の推移(1973年~2023年)

出所:総務省「労働力調査(基本集計、長期時系列表3(2))」より作成。

 

一つ目は、自治体が就労機会を確保することです。高齢者の労働市場への参加が著しく増大していることは周知のとおりです(図1)。この10年ほどで労働力人口比率は、男性60歳代前半・後半では、10ポイント前後の増加がみられ、女性では、60歳代前半で17.9ポイント、60歳代後半では14.1ポイントもの増加がみられます。人手不足で労働力需要が高まっていることはもちろんありますが、労働者の側には、経済的な困窮という背景があります。年金・社会保障を整備することとあわせて、働ける機会を確保することは重要な課題です。もちろんそれは、高齢者に限ってということでは必ずしもありませんが、労働市場における(相対的な)弱者への政策・メニューの考案は必要なことでしょう。

 

図2 18ヶ国のGDP に占める労働市場政策への公的支出

注1:統計数値は各国の制度・慣行や調査報告基準の影響を受けているため、国際比較を行うに当たっては、労働市場プログラムに関するデータの範囲と比較可能性に留意する必要がある。
注2:2019 年度の値(イギリスは2011年度)。注釈2を参照。
出所:JILPT『国際労働比較2023』第9-6 表より作成。

 

 

日本はそもそも、失業者の生活を支えたり再就職を支援したりする労働市場政策への投資が少ない国です(図2[2])。雇用保険の受給期間が切れたりそもそも雇用保険をかけられなかったりして失業者の生活がカバーされていないことや、企業によるOJTに依存してきたことから職業訓練への公的投資が少ない状況が指摘されてきました。また、積極的措置に分類される直接的雇用創出策には否定的な評価が与えられ続けてきました。このような状況にある中で、就労機会を自治体が作ることに関心をもちました[3]

 

3.市民に求められる公共サービス

二つ目は、提供される公共サービスの内容や質に関わることです。

就労機会の確保は、見方を変えると、市民に提供される公共サービスを作ることでもあります。市民にとって必要な公共サービスが提供され、そのことで就労機会が確保される、という関係は、例えば北欧では、福祉事業でとくにみられるものだと思います。日本でも、そうした取り組みを進めていくことは、市民生活を向上させるのはもちろんですし、(少々大きな話になりますが)公務リストラ・公共サービスの産業化[4]に抵抗していく上でも大事なことだと思いました。

今回視察したのは道路清掃・落ち葉処理ですが、全国的には、様々な仕事が行われているようであること[5]、また、そういった就労現場では、例えば、生活困窮者の自立支援という側面を併せ持った事業もあること(一般就労は困難である者を受け入れて、就労・生活支援が行われていることなど)を教わりました。市民に役立つどんな事業・仕事が各事業団で行われているのかつぶさに調べてみたいと思いました。

 

4.適正な労働条件、公契約

三つ目は、事業団の仕事における労働条件と事業契約の内容に関わることです。これは、言うまでもなく、公契約条例の制定運動に研究者として長らく関わってきた問題意識に基づくものです。端的に言えば、事業団で働く労働者の労働条件はどうなっているのか、また、そこに自治体の発注条件はどのように良い影響を与えているのか(いないのか)、ということです。よい条件で発注され、よい労働条件が確保されていることが期待されます[6]

もっとも、シルバー人材センターにおける就労が生きがい就労とみなされ、最低賃金法など労働関係法令が適用されないことに象徴されるように、この界隈での労働条件は、どの程度の条件確保が目指されているのか筆者はまだリサーチ不足です。

現場視察後に、ある事業団で聞いた話では、刈払い機を使って行う草刈り事業に従事する労働者(70歳代が主力)に現在支給している時給は1,100円で、一日の賃金は8,800円とのことでした。もちろん、最低賃金(北海道の2025年度の最低賃金は1,075円)はクリアされているものの、筆者の念頭にあった公共工事設計労務単価は、自治体が事業を発注する際に行う人件費の積算において使われてなどいないのではないか、といいます。

 

表1 北海道における主要12職種の設計労務単価の推移(2012年~2025年)

単位:円

特殊作業員 普通作業員 軽作業員 とび工 鉄筋工 運転手(特殊) 運転手(一般) 型わく工 大工 左官 交通誘導警備員A 交通誘導警備員B
2012年度 13,400 11,000 9,200 13,400 13,600 13,300 11,100 13,100 14,000 14,000 7,900 7,100
2013年度 15,400 12,700 10,600 15,700 16,000 15,300 12,800 15,400 16,500 16,500 9,100 8,300
2014年2月 16,400 13,500 11,300 17,100 17,400 16,300 13,700 16,800 18,000 18,000 9,900 8,900
2015年2月 16,700 13,800 11,500 18,200 18,600 16,600 14,000 17,900 19,200 19,200 10,600 9,100
2016年2月 18,000 14,900 12,400 19,600 20,000 17,900 15,200 19,300 20,700 20,700 11,500 9,800
2017年3月 18,700 15,400 12,800 20,800 21,300 18,500 15,700 20,500 22,000 22,000 12,300 10,400
2018年3月 19,800 16,300 13,500 21,700 22,200 19,500 16,600 21,400 23,000 23,000 12,700 10,800
2019年3月 20,500 16,900 14,000 22,600 23,100 20,200 17,200 22,300 23,900 23,900 13,700 11,600
2020年3月 21,100 17,300 14,400 23,700 24,200 20,700 17,600 23,300 25,100 25,100 13,900 11,800
2021年3月 21,100 17,300 14,500 23,700 24,200 20,900 17,600 23,300 25,100 25,100 14,600 12,000
2022年3月 22,100 18,000 15,500 25,100 25,800 22,400 18,600 24,700 25,700 25,100 15,200 12,600
2023年3月 22,800 19,100 16,300 26,100 26,300 23,400 19,200 25,200 27,300 26,700 16,200 13,400
2024年3月 23,600 20,000 17,500 27,700 27,300 24,900 20,700 26,400 28,100 28,300 16,900 14,000
2025年3月 25,300 20,900 18,900 28,600 29,600 25,900 21,500 27,200 30,200 17,500 14,600
1時間当たり(2025年3月) 3,163 2,613 2,363 3,575 3,700 3,238 2,688 3,400 3,513* 3,775 2,188 1,825

注:大工のみ2024年3 月の値。
出所:国土交通省「公共工事設計労務単価」より作成。

 

周知のとおり、公共工事設計労務単価は、2012年度を底にして、その後は大きく引き上げられ続けています。表1は北海道の主要な職種の同単価をまとめたものです。今回視察したような道路清掃で働く労働者に仮に「軽作業員」[7]の単価が適用されるとすれば、計算上は、今年(2025年)は、時給2,363円が支給されることになります。仮にその8掛けであったとしても、1,890円です。先に聞いた1,100円は、同単価の半額以下です。

もちろん、つなぎ的就労の要求から始まったなど、それぞれの事業団の歴史的な経緯もあるでしょうし、随意契約など、現在採用されている契約方式に規定される面もあるでしょう。あるいは、現役労働者のような働き方は困難であるとか、リハビリ的な就労に止めているなどといった、事業団での仕事内容や働き方が一般的なものと異なるものであれば、賃金・労働条件が低位に設定されるのも合理的であると思います。それでも、程度の問題はあるでしょう。そのようなことを考慮に入れながら、適正な公契約の下で適正な労働条件が確保されるべきではないかと思いました。

そのことを考える上でも、まずは、事業団の仕事でどのような仕事が行われ、かつ、どのような労働条件が確保されているのか、そして、公契約における人件費の積算・賃金の決定基準はどうなっているかを調べる必要があると思いました。

 

5.まとめに代えて

冒頭に書いたとおり、本稿は、今後の調査・研究を見すえたメモ的な小文です。公契約運動に資するものとなるか、筆者には見当もつきませんが、建交労役員のお話は、仕事づくり・地域づくり・公共の再生などの点で展望を感じさせるものでした。まずは、地元・北海道の事業団の実態調査から始めていきたいと思います。

 

(かわむら まさのり 北海学園大学教授)

 

 

 

[1] 事業団に関しては、建交労が作成した『学習テキスト【事業団ではたらく】』などを参照。

[2] 最新は、2021年度の値が示されていますが、積極的措置に分類される「雇用インセンティブ」がコロナ禍で大きく増額されています(雇用調整助成金)。その影響を除くため2019年度の値を使っています。

[3] 失業問題が深刻であった2000年前後、前・北海道センター理事長である故・椎名恒先生が中心となって、失業対策としての公的就労事業に関する調査・研究が行われ、筆者も参加しました。そのときの調査報告書に、釧路公立大学助教授(当時)・白井邦彦氏による執筆で「OECD と「公的部門における直接的雇用創出策」」に関する研究が取りまとめられています。建設政策研究所北海道センター基金事業研究委員会『地域に役立ち失業者を支える就労対策を目指して──北海道における交付金事業と可能性』2002年2月発行。なお、「直接的雇用創出策において「失業者の生活保障」と「職業訓練」「仕事の質の確保」「社会的ニーズへの対応」のそれぞれとを両立させる」(同報告書pp.98-99)には十分な検討を要する点には留意が必要です。

[4] この点は、編著(2025)『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』北海道新聞社の「第2章 公務の非正規化はどのように進められてきたか」を参照。

[5] 民間からの受注を含みますが、前記の『学習テキスト』によれば、「発足当初の事業内容は、自治体の公園清掃・市道除草などが主でしたが、若者や有資格の技術者も加わり民間事業の開拓も進め、ビルメンテナンス・民医連提携業務・生活総合支援、そして介護福祉事業なども展開しています」とあります。

[6] さらに言えば、それが地域の労働市場に好影響を与えていることも期待したいところですが、事業団の事業規模を考えると現実的ではないでしょう。

[7] 国土交通省「公共工事設計労務単価表」の「調査対象職種の定義・作業内容」によれば軽作業員の定義・作業内容は次のとおりです。①主として人力による軽易な次の作業を行うもの:a.軽易な清掃または後片付け、b.公園等における草むしり、c.軽易な散水、d.現場内の軽易な小運搬、e.準備測量、出来高管理等の手伝い、f.仮設物、安全施設等の小物の設置または撤去、g.品質管理のための試験等の手伝い。②その他、各種作業において主として人力による軽易な補助作業を行うもの。

 

 

 

建設政策研究所北海道センターの研究成果(『建設政策』掲載原稿、建設関連の基礎データ)は こちら より

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