野田恵「法で守られない公務員 会計年度任用職員とは」『新婦人しんぶん』連載記事
この記事は、新日本婦人の会が発行する『新婦人しんぶん』に6回にわたって連載された、非正規公務員当事者として労働組合で活躍する野田恵さんによる執筆です。どうぞお読みください。なお、連載⑥で紹介されている署名(「STOP雇い止め!3年公募廃止キャンペーン」)にもぜひご協力をお願いします。
※記事の掲載日は、2025年4月19日、5月24日、6月21日、7月19日、8月23日、9月16日
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは①/女性が生きづらい国
野田 恵
私は関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。「会計年度任用職員」とはどんな雇用形態か、想像できますか?
市区町村の役所で“期限付きで”雇用される非正規の労働者のことで、2020年度から創設された地方自治法・第22条の2の規定に則(のっと)り、地方公務員としたものです。
職種は一般事務職から、保育士、保健師、図書館司書、発達相談員、システムエンジニア(SE)、技術職などさまざま。24年度4月時点で、66・1万人が会計年度任用職員として働いており、そのほとんどが1年以下の有期雇用です。私は技術職で15年以上働き続けることができていますが、年度末が近づいてくると「来年度は更新されるか」と不安になります。
公務員というと雇用が安定していると思われがちですが、私のような非正規公務員は、民間よりも法律に守られていないのが現状です。
非正規公務員は、非正規の労働者のための法律、労働契約法やパートタイム労働法、労働者派遣法などが適用除外とされています。労働者でありながら、特定の職務に任命されているという解釈で、労働契約を締結していないのです。民間では、有期雇用でも5年務めると無期雇用契約への転換を申し出ることができます。また合理的な理由、社会通念上相当と認められないと雇い止めはできないという規制、さらに、正規職員との賃金や休暇などの不合理な待遇差や差別的取り扱いは、禁止とされています。
このような法律が、非正規公務員には適用されません。
私は以前、民間の職場で正社員として働いており、結婚後も仕事を続けていました。ですが、どうしても出産前には退職する選択しかなく、出産後にまた働きだしたいと思っても、子育てや家事をしながらでは、非正規しかありませんでした。市役所であれば働きやすい環境だろうと思いましたが、実際は正規職員との大きな格差。非正規というだけで下に見られることもあります。本当にこの国は女性が生きづらいです。
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは②/出産で一度退職したら
野田 恵
私は、関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。
私は父母と姉と4人家族でした。私が中学校一年生の時、父は41歳でがんのために亡くなりました。父が亡くなった後、母は一人で私と姉を育ててくれました。なので、私は女性でも働き続けることは、当たり前だと思っています。
市役所に勤務する前は、正社員で10年近く働いていました。働く中で少しでも知識を身に付けて自信をつけたいと思い、国家試験にも挑戦し、なんとか合格することができました。他にも挑戦したい気持ちがわいてきて、宅地建物取引士の資格も取得しました。
この経験から私は、“何事においてもできないことはない”と思うようになりました。自分で得た資格や技能を生かすことができる仕事はやりがいがあり、結婚後も仕事を続けました。
しかし、妊娠がわかり、深夜までの残業が当たり前の当時の職場では子育て中の女性は誰もおらず、産休・育休など取れる雰囲気はありませんでした。出産前ギリギリまで働きましたが、仕事と育児を両立しながら働き続ける自信はなく、退職する道しかありませんでした。
大企業や公務員であれば、産休や育休が取得でき、その後安心して働き続けることができたのでしょうか?
出産後、会話ができない長男と二人きりの毎日に、社会から取り残されたような気持ちになり、「やはり働きたい、社会に出たい」と感じるようになりました。そこで、ハローワークに赤ちゃんを連れて仕事を探しに行きました。
ところが、求人先に「保育園の慣らし保育があるから、初めは昼までなど勤務時間を考慮してもらいたい」と伝えると、面接すらしてもらえませんでした。
女性は、人生の中で数回しかないであろう出産を経験すると、それまで得た仕事の知識や技術はないことになってしまうのでしょうか。
一度退職してしまったら、出産後に育児をしながら正社員で働くことは大変難しいと思い知らされました。
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは③/思い知った正規職員との違い
野田 恵
私は関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。
私は30歳までに出産をしたいと考えていました。うれしいことに、29歳で1人目を妊娠、2006年のことです。妊娠8カ月で民間の職場を退職し、出産後に育児をしながら正社員で働きたいと、仕事を探しました。しかし一般の企業では面接すらしてもらえず、なんとか市役所の嘱託職員の求人を見つけて、運よく07年に働き始めました。前の仕事で市役所や法務局などへよく訪問していたので、今までの経験や知識を生かすことができました。
働き始めると職場は、良い方ばかりで、なんて良い職場なんだと思いました。子どもがよく熱を出して保育園から呼び出しがかかると、帰らせてもらえました。その頃、非正規には看護休暇がなく、有給休暇を使い果たすと欠勤するしかありませんでした。今では非正規は、小学校3年生までの子どもの看護休暇があります。ちなみに正規職員は、看護だけでなく、授業参観など学校行事にも使うことができる有給休暇が、中学校卒業まであります。
私が正規職員との違いを思い知ったのは、2人目の子を妊娠した時です。同じ年の子がいる正規職員の方と仲良くなり、妊娠のタイミングも同じでした。正規職員には妊娠中は時短勤務が有給扱いでありましたが、非正規の私にはなかったのです。同じ女性で、同じ妊婦なのに、しんどいのは同じなのに、この差は何? と疑問を感じました。出勤時と退勤時の30分ずつの有給休暇は大きい。妊娠中の時短勤務は、2025年の今も非正規にはありません。給料は、正規職員は1年目から昇給があり、扶養手当も住宅手当もつきます。非正規の私たちは、2020年の会計年度任用職員制度から、3年を超えたら3千円、1年ごとに千円アップの経験加算が2万5000円を上限につくようになりました。それでも計算すると、同じ年数働いても、10万~15万円ほど差があります。
育児をしながら働くことでこれだけ差がつくなら、日本で子育てしたいと思うでしょうか?
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは④/非正規で働く人の組合をつくる
野田 恵
私は関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。
私は子どもの頃から人見知りで、それは、大人になっても変わらず、40歳くらいまでは他の人の意見に合わせていました。自分の考えを言えるようになったのは、子どもの学校の役員をした時に、私が発言したことに「ありがとう」と感謝されたことがきっかけです。その時、私も意見を言って良いのだと実感したのを覚えています。
市役所で非正規として働き始めて3年目ぐらいの頃、「なんでこんなに差があるの」「私も先輩に指導されたい」「もっとちゃんと扱ってよ」と心がざわざわするたびに、「でも私たち非正規は責任ないし、気楽だから」と自分に言い聞かせてきました。
そんな思いも何年か経ち、もう諦めていた頃です。市役所で働く非正規の組合をつくるという話が持ち上がりました。当初は、自分がやらなくても誰かがやってくれると思っていたのですが、やっぱり自分も意見を言いたいと思うようになり、組合を立ち上げるメン
バー5人のうちの1人になりました。それから、組合名を考え、規約を作り、2018年12月、非正規であれば誰でも参加できる組合を立ち上げました。導入がせまっていた「会計年度任用職員制度」を学ぶなかで、非正規公務員は人件費ではなくモノ扱いされていることも知り、改善を求めて交渉するなど、活動してきました。組合員も少しずつ増えて今は約40人です。
2024年度末、すごくショックなことがありました。10年以上勤めていた仲間が雇い止めにあいました。10年以上働いてきたのに、「来年からは(採用更新は)ありません」と言われるのです。私も一度、言われたことがありました。今、18年目ですが、年度末になるといつも不安になります。安心して働けるような環境にしたいです。自分のためでもありますが、同じように働いている人が少しでも労働環境が良くなるように。そんな気持ちが今、労働組合の執行委員長として活動する原動力になっています。
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは⑤/非正規には年5日間のみの傷病休暇
野田 恵
私は関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。
2022年に勤務中、市役所の健康相談室の保健師さんからすぐに相談室に来てほしいと電話がありました。「何事やろう」。7月29日に健康診断を受けて1週間後の8月5日でした。そこで保健師さんから「高度異形成」と書かれた検査結果を受け取り、すぐに産婦人科を受診するように言われました。
初めて聞く言葉「高度異形成」って何なん? 看護師の姉に聞き、近くの婦人科に姉についてきてもらい、検査した結果「子宮頸がん」であると、信じたくない現実を突きつけられました。
そこからは大きな病院に通院することになり、手術前の検査を何日か経て、9月13日から1週間入院し、子宮全摘出手術をしました。
病気になるなんて、しかもがんになるなんて、考えてもいなかった。子宮がん検診は2年に一回は受けていたのに、見つかった時には、がんになっていた。2年に一回ではなく、毎年受診する必要があるのではないかと思いました。死を身近に感じたし、子どもの将来も見届けたいのに、まだまだ何も、全然やれてないと感じました。
退院後、自宅で療養していましたが、すぐに「そんなに休めない、いつから出勤しようか」と考えるようになりました。傷病休暇が年5日しかないからです。その後は残っている有給休暇を足して休むしかありません。給料やボーナスに影響する欠勤だけはどうしても避けたい。正規職員は、診断書があれば必要な期間は有給で休みを取得できるようになっています。
まだ、傷口がひきつるおなかを気にしながら、一カ月もたたないうちに出勤しました。ここでも正規職員との大きな格差を実感しました。
現在も定期的に通院し、検査を受けています。後悔しないようにやれることをやりたい。その気持ちは、病気が発覚する前より強くなった気がします。
法で守られない公務員 会計年度任用職員とは⑥/仲間たちと変化を起こすために
野田 恵
私は関西のある市役所で働く会計年度任用職員です。
非正規だけの組合の執行委員長をして、5年目になります。2020年から始まった会計年度任用職員とは、法律上はどういう制度なのか? 他の自治体ではどうなっているのか? など調べてきました。全国に非正規公務員は74万人(そのうち会計年度任用職員は66・1万人)、その代わりに正規公務員が担ってきた仕事が減らされ、非正規公務員におきかわってきました。そのほとんどは女性で、手取りは安く、将来に不安を抱えながら働いていることを知りました。
毎年、労働組合として要求書を提出していますが、もっと全国的に声を上げる必要があると感じ、非正規公務員の当事者の団体「非正規公務員voices(ヴォイセズ)」の一員になり、オフ会として直接会って不安や問題を共有してきました。国も地方自治体も関係なく、全ての非正規公務員の全国的なつながりはとても大事だと感じます。
今年の夏、全労連主催の「ゆにきゃん」(仲間とともに職場や社会に変化を起こすための手法を体系的に学び実践へ足を踏み出すためのワークショップ)に参加し、会計年度任用職員として働いている仲間とチームを作り「困っていることは何か」「どんな想いをもっているか」など意見を出し合いました。そこで、仲間たちと一緒にキャンペーンをすることになりました。現在、「会計年度任用職員が安心して働ける平等な社会を成し遂げる」ため、「STOP雇い止め!3年公募廃止キャンペーン」として、今年の12月を目途に3万人を目標に署名にとりくんでいます。
このオンライン署名をきっかけに、私たち非正規公務員のことを多くの方に知っていただきたいです。今までの経験や知識をないものにさせず、民間での無期転換を公務にも適用してほしい。ぜひ、力を貸してください。署名(上)をご家族、友人に広げてください。どうぞよろしくお願いします。