川村雅則「[資料紹介]札幌市総合評価落札方式に係る入札参加者アンケート(工事)」

川村雅則「[資料紹介]札幌市総合評価落札方式に係る入札参加者アンケート(工事)」『建設政策』第221号(2025年5月号)pp.38-41

 

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『建設政策』今号の特集は、「建設業における外国人労働者をめぐる中長期的な課題と展望」です。

 

 

1.本稿の課題

本誌第215号~第218号で4回にわたり「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告」を連載した。「連載(4)」で、札幌市では、総合評価落札方式による入札件数を大きく増やすことは予定されていないことを示した。理由にあげられたのが、市の入札に参加実績のある事業者を対象に2022年に札幌市が行ったアンケート調査(以下、「市調査」)の結果である。同調査において、総合評価落札方式の拡大に消極的ないし否定的な回答が多かったことがあげられた。

総合評価落札方式は、価格と、品質など価格以外の要素を総合的に評価して落札者を決定する方式である。入札価格が最低制限価格に集中してくじ引きが多発している状況[1]にあっては、同方式が事業者に求められているのではないか、と筆者は漠然と考えていたこともあって、「市調査」の結果は意外であった。

もっとも、事業者は(1)総合評価落札方式そのものに対して批判的なのか、(2)同方式には賛成だが、現行の型式に示されている札幌市の「実施目的」や「評価内容」に批判的なのか、(3)「評価項目」や「評価区分」、「評価点」などに批判的なのか、あるいは、(4)同方式に関する市の考えが事業者にうまく伝わっていないのか、など検討を要することは少なくない。

そこで、「市調査」データから何か読み解くことができないかと考え、札幌市から調査データを提供いただき[2]分析作業をしてみた。結論から言うと、上記の疑問がすっきりと解消するような情報は得られなかった。調査票を筆者自らが組み立てたわけではないことによる限界もある。ただ、市の総合評価落札方式そのものへの様々な意見や要望を事業者側が持っていることは、事業者からの自由記述で確認された。これらはもっと活かされるべきではないか。

本稿では、「市調査」の結果を紹介しながら、今後の研究課題などに言及する。なお、紙幅の都合で掲載するデータは一部のみとなる(残りはウェブサイト『北海道労働情報NAVI』に掲載)。連載でも書いたとおり、本調査・研究は課題を多く残しており、本稿も試論にとどまる。

 

2.「市調査」の概要

「市調査」の概要をみると、第一に、(1)調査は「総合評価落札方式における課題の洗い出しや今後の方向性の検討のため、適用割合の拡大に関する意向や、その他改善要望等の基礎資料を得ることを目的」に実施された。(2)調査期間は、2022年5月31日から同年6月30日まで。(3)調査対象は、2021年度の市長部局発注の入札に参加した実績のある事業者で、工事・測量・設計に分けて調査は実施された。本稿では、「工事」事業者のみ取り上げる。(4)設問の数は全部で23(1つの設問で複数が尋ねられている設問も1つとしてカウント)で、大きくは、(a)企業情報について(設問1~5)、(b)総合評価落札方式の基本的事項について(同6~10)、(c)型式・評価項目について(同11~22)、(d)その他総合評価落札方式の制度全般について(同23)、の四つに分類されている。本稿では、(b)を中心に取り上げる。

第二に、「工事」の調査対象者数は555者で、回答者数は240者、回収率は43.2%である。「工事」の回答事業者(以下、回答者)の主たる入札参加工種内訳は表1のとおりで、「土木」のA等級群とB等級群が多く(56者、32者)、全体の3分の1強を占める。(「その他」を除くと)「土木」以外の工種では、「電気」が1割強を占めて相対的に多い。

 

表1 「工事」の回答者の主たる入札参加工種

工種 A等級(A1・A2含む) B等級 C等級 合計
土木 56 32 3 91
下水道 3 7 0 10
舗装 10 4 14
造園 11 1 1 13
建築 15 8 0 23
電気 20 11 0 31
16 4 20
その他 38
合計 131 67 4 240

出所:「速報値」より。その他の38者の内訳は、鉄骨・橋梁8者、機械設備11者、塗装12者、建具5者、通信2者(「生データ」より算出)。

 

3.「市調査」の結果と分析

1)回答者の属性

回答者の資本金の区分は、「1000万円以上3000万円未満」が110者で最も多く、「1000万円未満」9者と「3000万円以上5000万円未満」47者を足し合わせると(5000万円未満までの累計で)166者と全体の3分2を上回る。「官民受注比率」は、平均で、「官公署」が62.5%、「民間」が37.5%。「官公署」のうちでは、「札幌市」が60.8%と最多となっている。

 

2)総合評価落札方式への入札参加状況

「市調査」では、札幌市の総合評価落札方式への参加状況について、2016年度以降と、2020年12月1日から2021年11月30日の間との二つに分けて尋ねられていた(設問の内容は異なる)。

(1)2016年度以降の参加実績など

まず前者について、参加実績を尋ねた設問と今後の参加の意向を尋ねた設問それぞれの回答を掛け合わせると、「参加実績あり」が133者、「(参加実績はないが)今後参加予定あり」が29者[3]で、そして、「参加実績も参加予定もなし」が59者である(その他に無回答が19者)。

参加予定なしを選択した者には、その理由が尋ねられている。用意された選択肢は、「①書類作成などの事務負担があるため」と「②その他(下欄にご記入ください)」の2点である。①を選択した者は8者、②を選択した者は49者である。後者の自由記述に何かヒントがあるのではないか。「生データ」をみると、社内条件の不備・未整備によるものを含め、工事実績がないことや評価点が得られない(低い)ことなどがあげられている。対象となる工事がないという記述もある[4]。つまり、現行制度では受注が難しいということが示されている。

なお、工種別に参加実績等をみると、母数は少ないが、「鉄骨・橋梁」、「機械設備」、「建具」での「参加実績も参加予定もなし」が半数を超えていた。対象工事が少ないことによるのではないかと思われる[5]

(2)2020,21年の参加・受注実績

次に後者について、参加実績と受注実績とを掛け合わせると、「参加実績なし」が112者、「参加実績はあるが受注実績はなし」が55者、「受注実績あり(参加実績も受注実績もあり)」が73者であった。この参加・受注実績は総合評価落札方式への評価にどうつながっているだろうか、後で確認する。

3)総合評価落札方式の発注割合〔への希望〕

さて、我々の関心事である設問10「総合評価落札方式の発注割合〔への希望〕」の結果は(表2)、「現在と同程度実施すればよい」が114者、「縮小した方がよい」が51者であった。札幌市ではこれらを「拡大に否定的な意見」として合算し、先ほどみた市の方針の根拠としている。残りの回答は「拡大した方がよい」が50者、「その他」が25者である。表中では、札幌市にならい、「拡大」、「現状」、「縮小」と表記する。

 

表2 2つの時期×総合評価落札方式への参加実績等別にみた発注割合への希望

単位:者、%

全体 (a)2016年度以降の総合評価落札方式 (b)2020、21年の総合評価落札方式
参加実績あり 今後参加予定 参加実績も参加予定もなし 参加実績なし 参加実績あり
受注実績なし 受注実績あり
240 100.0 133 100.0 29 100.0 59 100.0 112 100.0 55 100.0 73 100.0
拡大 50 20.8 41 30.8 2 6.9 2 3.4 6 5.4 12 21.8 32 43.8
現状 114 47.5 62 46.6 16 55.2 26 44.1 54 48.2 29 52.7 31 42.5
縮小 51 21.3 20 15.0 9 31.0 19 32.2 36 32.1 9 16.4 6 8.2
その他 25 10.4 10 7.5 2 6.9 12 20.3 16 14.3 5 9.1 4 5.5

注:全体のほか、(a)2016年度以降の総合評価落札方式及び(b)2020,21年の総合評価落札方式の入札への参加実績を整理した。(a)では、入札参加実績等が無回答の19者は除いている。

 

総合評価落札方式の入札への参加実績別に発注割合への希望をみると、(1)参加実績のない群では、「拡大」希望はわずかで、「現状」と「縮小」が多い。「その他」が相対的に多いのも特徴である。(2)逆に、参加実績がある群、とくに受注実績もある群(表中(b)の設問)では、「拡大」希望が強い。ただ一方で、受注実績のある群でも、「拡大」と「現状」が拮抗しており、「現状」に「縮小」をあわせると「拡大」を上回る。

 

4)自由記述への回答件数

以上の調査結果、特に、総合評価落札方式の入札へ参加実績なしや参加予定なしという回答が少なくないことをみると、「拡大」や「縮小」の希望の以前に、現行の総合評価落札方式がそもそも事業者にどう評価されているかを把握することが重要であると思われる。先の設問10では、「拡大」、「現状」、「縮小」のそれぞれを選択した者に、その理由を尋ねる設問は準備されていない。

但し、「市調査」では、次のような自由記述欄が各設問で設けられて事業者からの意見などを促す形式になっていた。これらの設問を大別すると、(A)ある事柄について自由に意見を求める設問と、(B)ある事柄への回答選択肢「その他」の内容の記述を求める設問である。

 

表3 自由記述欄に回答された回答件数

(A)自由記述 (B)選択肢「その他」への自由記述
設問番号 設問14 設問21 設問22 設問23 設問8 設問10 設問11 設問12 設問13 設問20
設問・記述内容 実績評価Ⅰ・Ⅱ型に関する意見 人材育成型に関する意見 型式・評価項目全般に関する意見 総合評価落札方式の改善点について 総合評価落札方式に参加する予定がない理由 札幌市の総合評価落札方式の発注割合 工事成績点の配転方法の見直し 配置予定技術者の評価(加点) 市内企業活用の施工計画の評価 配置予定技術者である若手技術者の評価について
回答数(件) 61 62 63 92 49 27 25 9 23 10

注1:「生データ」からカウント。但し、精査は行っておらず、「とくになし」などの記述も含む。
注2:選択肢「その他」の記述とは、選択肢として設けられた「その他」を選択した者が記述するもの。但し、「その他」を選択した者以外が記述している場合を含む。
注3:「設問・記述内容」の記載は、筆者による要約を含む。

 

回答内容の精査は行っていない(ゆえに「とくになし」という記述も含まれる)が、各設問への回答数(自由記述の件数)は少なくない(表3)。例えば、設問22(型式・評価項目全般に関する意見)には63件の回答が、設問23(総合評価落札方式に「改善点、要望等がある」と回答した者の自由記述)には92件の回答が、それぞれ寄せられている。

これらを整理することは容易ではないが、内容の理解に努めながら、特徴的な内容を抽出して調査票を作成し、あらためて、総合評価落札方式に対する事業者側の意向を把握するための調査(聞き取り、アンケート)を行うことも検討されてよいのではないか。

 

 

4.まとめに代えて

「市調査」では、札幌市の総合評価落札方式に対する拡大のニーズは事業者側に必ずしも多くなかった。しかしそれはなぜなのか。冒頭に書いたとおり、市の総合評価落札方式のどこにどんな意見や要望があるのかを広く把握することが必要ではないか。その作業の一環として、今回の「市調査」で収集された回答者の自由記述のしっかりとした分析が必要ではないか。札幌市から提供されたデータをみてそう感じた。機会があれば、筆者もこれらの作業に着手してみたい。

もちろん、全ての事業者のニーズを総合評価落札方式に反映させるのはもとより難しいことである。入札制度を通じて市が実現を目指す政策的価値を、業界が直面する課題や労使双方からの意見あるいは国の政策動向などを踏まえつつ、制度に練り込んでいくことが求められるのではないか[6]

川村(2025)で紹介した世田谷区では、入札制度と公契約条例を一体的に組み合わせた対応がなされている。総合評価方式についても、従来の型(施工能力審査型)を改定し、公契約条例の主旨を反映した型(世田谷区建設工事総合評価方式)が策定され、2022年度から試行実施されている(型は一つのみである)。新しい型の評価点では、価格点(50点満点)に、施工能力評価点(20点満点)、地域貢献評価点(15点満点)、公契約評価点(15点満点)という構成になっている。札幌市と世田谷区とでは事業の規模も公契約条例(制定の意思)の有無も異なるが、制度改定のプロセスなどは参考になるのではないか。

連載(4)に書いたとおり、札幌市の総合評価落札方式では何が目指され、それが制度上果たされているかどうか検証を続けたい。

 

(かわむらまさのり 北海学園大学教授)

 

参考文献

川村雅則(2025)「世田谷区公契約条例に関する調査・研究(1)」『北海学園大学経済論集』第72巻第3号(2025年3月号)

永山利和(2023)「世田谷区の公契約条例から考える『公共』再形成の可能性」『KOKKO』第53号(2023年11月号)

 

 

[1] 札幌市の入札・契約等審議委員会での配布資料によれば、「全工種」における2020年度以降のくじ引き入札の発生割合は、45.0%~51.1%という水準である。2024年度(10月末時点)については45.1%(967件中436件)で、424件は最低制限価格等でのくじである。以上は、2025年1月17日会議資料より。

[2] 札幌市からは、(1)「市調査」の実施結果(速報値)、2022年9月(以下、「速報値」)のほか、(2)総合評価落札方式の「総括」、(3)「生データ」そのもの(と「集計結果」)という3点を提供いただいた。当初、「速報値」以外は「内部資料」で公表をしていないことから提供は困難と回答されたが、行政情報は公共財であり、調査データは活かしきることが大事だと考え、開示請求の手続きをとったところ、まずは「総括」が、そして、最終的に「生データ」が「情報提供」のかたちで提供された。こうした調査データこそ(必要な処理をほどこした上で)オープンデータとしていただけるとありがたいと思った。また、議会でも活用されるとよいと思った。

[3] 「速報値」では「今後参加予定あり」27者とされていたが、「生データ」から29者と判断した。

[4] 札幌市の「集計結果」でも、回答された自由記述が数点紹介されている(以下の設問でも同様)。

[5] 連載(3)【完全版】で取り上げた札幌市の資料(表7-10)をみると、2023年度の総合評価落札方式162件では、(1)工種では「土木」が46件と最も多く、「舗装」、「下水道」、「造園」が続いていたが、「鉄骨・橋梁」、「機械設備」、「建具」の記載はなかった。(2)等級では、「A(A1、A2)等級」が81件、「B等級」が67件で、「C等級」は0件だった(残りは、格付等級のない「塗装」が14件)。

[6] 札幌市でもそうした作業は行われている。総括文書における札幌市の総括(まとめ)は次のとおりである。品確法に基づき現行制度の再構築を図る。/総合評価の発注割合の拡大は、再構築後の効果を見極めたうえで慎重に判断する。/ダンピング対策として低価格入札者の総合評価点を減点する仕組みを採用する。/品質確保の観点から全型式において成績点を評価する項目を設定するとともに、過去5年間の成績平均点に関する評価項目を必須項目とする。/技術力向上のインセンティブを高めるため、技術点1点当たりの価値を引き上げる(型式別最高点の引き上げ)/技術力向上のインセンティブを高めるため、成績点の評価方法として無段階評価インセンティブ方式を採用する。/人材育成型について、配置予定技術者の現場代理人としての経験に関する評価項目を削除する。

 

 

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