金井郁「会社と労働組合への意思決定への関与とジェンダー」

金融・労働研究ネットワーク主催で、「働き甲斐ある職場をどう実現するか──ジェンダーの視点を基軸に」をテーマとする研究会が都内で2024年6月30日に開催されました。研究会では、今年出版された駒川智子・金井郁編著(2024)『キャリアに活かす雇用関係論』世界思想社がテキストに使われました。編者の一人である金井郁さんは、第8章「管理職」と第12章「労働組合」、そして、序章・終章の執筆を担当しています(序章・終章は駒川智子さんと共著)。どうぞお読みください。

 

 

 

 

会社と労働組合への意思決定への関与とジェンダー

金井郁(埼玉大学経済学部)

 

1.女性管理職をめぐる課題──女性管理職比率の低い日本

私の方からは、8章の「管理職」と12章の「労働組合」を執筆しましたので「会社と労働組合への意思決定への関与とジェンダー」ということでお話したいと思います。

序章と終章は駒川さんと一緒に書いています。管理職と労働組合で対極にある章を選択したのですが、今、女性活躍と言われている中で、会社の意思決定に女性が必要だと言われていて、労働組合の意思決定にも女性が必要だと言われております。その両方をどう考えていったらいいのか、どのような課題があるのかを中心にお話ししていきたいと思います。

本書では管理職というのは何かが分かるよう書いてるのですけど、今日は今言った点に絞ってお話ししていきたいと思います。

まず女性管理職をめぐる課題として、管理職の割合と女性比率をテキストの表8の1(126P)に掲載しています。そもそも国勢調査の管理的職業従事者いう職業分類では、日本で男女合わせて管理的職業従事者にあたる人は1.9%しかいないということです。

国勢調査から見る管理的職業従事者の割合で国際比較するとすごく小さい。つまり管理的職業従事者がとても少ないことを示しています。

ただ何をもって管理職とするのかという定義上、国際比較上も違いがあります。この国勢調査での管理的職業従事者にはプレーイングマネージャーが入っていない可能性があります。

後の話と関連するんですけれども、本当の管理職、本当にマネージしかしてない人だけがこの管理的職業従事者に入っていて、それがそもそも日本では少ない。その中でさらに女性の比率が国際的にみても少ないということが分かっています。

日本と韓国で女性の活躍がすごく遅れてるので有名ですけれども、その韓国と比べても日本の女性管理職の比率が低い状況になっています。でも日本の中で見ると、徐々に女性の管理職比率が上がって来たのですが、産業別にみると、結構差が大きいですね。

私も金融業の研究をしていますので、金融のところを見ていただくと、折れ線グラフが、一般労働者に占める女性比率で、金融・保険業は女性従業員比率が高く半分以上あるということに特徴があります。さらに最近係長級が増えていて、50%ぐらいに女性の係長が増えてきたということです。係長は結構増えているんですけれども、そこから課長と部長の差がすごく激しいのが特徴かなと思います。

例えば医療福祉とかだと違うんですね。労働者に占める女性比率が高いのは似てるんですが、部長級とか課長級の割合も結構高くなっていて、産業によって違います。

女性管理職をめぐる課題としては、現代の管理職の配偶関係とか子供の有無を見てみると、男性管理職の多くが結婚していますが、女性は未婚が多い。子どもの有無で見ても、男性管理職は子供がいる人が大半だけれども、女性の管理職だと子供がいる人は半分以下ということで、男女で、管理職で配偶関係とか子どもの有無が大きく異なっているという特徴があります。

これは女性が結婚して子育てしながら管理職になることが難しい状況になっているのが示唆されますし、一方では男性にとっては管理職という地位の信頼性に、結婚しているとか子供がいることが関係していることが示唆されるというふうに思います。

それと関連して管理職の総労働時間がどうなっているのかを、次の表で見て下さい。これ小倉一哉さんというJILTPの研究者の調査です。管理職は時間管理が外れているので、労働時間調査が難しいと言われている中で労働時間調査をしています。係長、課長級、部長級と職位が高くなるほど、労働時間が長くなるというのが分かります。

 

日本の管理職の特徴──管理職のプレイヤードが高い

管理職の長時間労働問題が、先程の女性管理職で子供がいて結婚している人が少ないということともつながっていることが分かるかと思います。次のページに行きますが、管理職がこれだけ長時間労働している一つの大きな理由としては、先ほど申し上げましたが、マネジメントだけするんじゃなくて自分も一緒に仕事をしている。プレイヤー度が高いっていうのが日本の管理職の特徴になっていまして、リクルートワークスが調査しているんですが、日本とアメリカと中国の部長と課長の管理職がどんな仕事にどれぐらいの割合しているのかを見たものです。日本のプレイヤー度が結構突出して高いことがわかります。

部下との意思疎通や部下の教育、そういうところに時間を割くことが管理職にとって重要だと言われていて、アメリカの部下マネジメントにかける時間が大きくなっています。日本でもそこが増えていることが分かってきています。

Oneononeミーティングなどが企業の中でも実施が義務付けられていて、それは部下側の意識を高めているという調査結果が多いんですが、一方で管理職の仕事を増やしている側面も見られると思います。

管理職はどういう存在なのかを私のジェンダー研究から考えてみると、人事制度とか組織慣行の翻訳者として位置づけられるところもあって、人事制度を運用して評価したり、誰をどういうふうに育成して行くのかがまかされているところもあります。その管理職自身のジェンダーバイアスが組織とか部下に影響を与えやすいというところがあります。

特に日本で遅い昇進と言われて内部昇進した管理職がその企業で男性を中心とした世界で女性排除的な慣行、社会的制度的な配置とか組織的振る舞いを内面化しやすい。

男性従業員の方が、例えば上司から期待されて高い目標を与えられて成長をうながされていることを部下側が認識するという調査もあります。このように、管理職側の扱いが違っているというアンケート結果もあって、部下の性別による能力開発の違いが現れてるというようなことも指摘されています。

近年は管理職研修をして、女性をちゃんと後押ししましょうというような意識変革も促されてはいます。働き方改革の中で、一般社員の労働時間を減らすのが管理職の責任になっているんですが、その結果、管理職の労働時間が増えていくということも見られているのです。

そうなってしまったら、本末転倒になってしまうので、どうしたら働きやすい職場になるのかを管理職自身が変えていく力を持ってるんじゃないかというところを、このテキストでは考えてみました。何が必要な業務なのかを精査して、職場全体で労働時間を減らす取り組みが、管理職ができることとして考えられるんじゃないかということです。

これも金融産業の女性管理職の方に調査したものなんですが、女性短時間管理職の方です。管理職で、短時間で働いてる方がいて、その方は部下に権限委譲して育成も兼ねて、部下が自発的に働く土壌作って、自身がプレイヤー業務をなくして管理業務に集中できるようにして、時間を減らすことをやっていました。

そのためにoneononeミーティングをする。管理職として部下に仕事を押し付けるんじゃなくて、部下がやりたいことを引き出しつつ、権限委譲することで信頼関係を築いている。

これは本人の個人的な工夫でできていたことなんですけど、組織的に取り組んで組織的制度的に変えていくっていうことも重要かなと思います。管理職の業務の見直しを含めて誰もが働きやすい職場にして行くための工夫を実行して行くことができる。その前提としては、全ての管理職の仕事とか労働時間を、ケアを担う事が出来るような仕事量、労働時間にしていくことが前提になることを指摘したいと思います。

 

2.組合におけるジェンダー主流化の取組み──戦略的ジェンダーニーズ視点の重要性

二点目は、組合の方からちょっと考えてみたいんですけれども、労使自治の原則から組合でジェンダー平等を考えるときに、労働組合組織において、女性の参画を促すことが目標にされるんですね。その目標は別に悪くはないけれども、その目標の前提としてジェンダー平等政策主体として、女性が参画すればジェンダー平等は達成すると考えられていると思います。

その考え方は、女性組合員が女性固有の利害を表明して、男女組合員及び労使が対等に交渉することが前提にされている。だから、女性の組合員が増えて意思決定過程に参加すればジェンダー平等になると考えられていると思うのです。

だけれど、管理職のところでも言ったのですけど、ジェンダー化されているような職場環境の中で、女性固有の利害とは何かということを考えてみると、結構難しい問題があるというふうに思います。ジェンダー研究の中では、有名な考え方なんですけれども二つの考え方があると考えています。一つは戦略的ジェンダーニーズと言われるもので、もう一つが実際的ジェンダーニーズというものです。

戦略的ジェンダーニーズの方は、女性が男性と平等の地位を得るということで、現在の男女の役割を改めて女性が置かれている従属的な地位を覆していく。いわゆるジェンダー平等だと思うんです。実際的ジェンダーニーズの方は女性が社会的に受け入れられている役割を通して気づくというニーズで、女性の従属的な立場を変えようと挑戦するものではないということです。

例えば今子育て中の女性がいる時に、ワンオペで女性がやっていて、夫は長時間労働していますっていう状況の中で、この女性がどういうニーズを要求しているか。短時間で働きたいとか、転勤したくないとかそういうようなニーズです。この実際的ジェンダーニーズに答えることももちろん重要です。何故ならば今とても困っているのだから。今は一人でワンオペやっているので、その女性に長時間労働しろと言われてもできないので、短時間で労働するとか転勤しないということはすごく重要なんです。

けれども女性はみんなそう思ってるんですと、女性用に短時間で転勤しなくていいような制度を作りましょうって言って作っていくと、結局女性が家庭責任を負うことを強化することが生じてしまうことがある。実際的なニーズに答えていくことを通じて、それがジェンダーの役割をさらに固定化して行く側面がある。組合の活動ってそういう側面があったということが言えるのではないかと思います。

組合員の意見を聞く、聞いてニーズを集めて要求して行くところで、女性の意見っていうのが実際的なニーズに偏っていて、無自覚的か自覚的かは分からないですけど、取り入れて要求してきたところがあるのじゃないかと考えています。

実際に雇用管理区分は、法律で決まっていないんですけど、雇用期間の定めの有無とか、職種限定の有無とか転勤はどうなってるかとか、労働時間が長いのか短いのか残業が織り込まれた働き方なのかのあるなしによって、総合職とか地域限定総合職とか一般職とかパートとか契約社員っていうふうに決まってきて、その中で処遇も決定される賃金とか人事制度がある。

それによってキャリア上限とか賃金水準とかが決まってくるっていう風な事が行われてきました。だからどうぞ、どうぞ労働時間短いで一般職でどうぞとか、パートでどうぞというふうに「選択肢」を用意することを労使で作り上げてきた側面があるのかなと思います。

自由に選べるからいいように見えるんですけど、企業拘束度が高い方が処遇が高くなってるし、企業拘束度の低い働き方では処遇が低くなっているのです。ケアを担おうとすると、必然的に処遇が低くなるとか、会社の地位が低くなることと、トレードオフの関係になってきたと言えます。

実際、山縣さんの労働時間の章(第5章)で、ペイドワーク=有償労働とアンペイドワーク=無償労働の国際比較してみると、日本って本当に男性のアンペイドワーク時間がめちゃくちゃ短い特徴があります。女性はペイドワークとアンペイドワークを足し合わせると、男性よりもワーク時間として長いということがあります。

これだけアンペイドワークの男女間格差が大きいということが、先ほどのこの雇用管理区分での短い労働時間しか選べません、転勤はできませんという選択につながっているところが見えてくると思います。

じゃあ組合で要求していく時にどんなことを考えていけばいいのか。実際的ジェンダーニーズと戦略的ジェンダーニーズを整理して、組合政策に反映させていくことが必要になってくるんではないかと思います。

これを自覚的に顕在化させる仕組みとして、ジェンダー主流化という手法があると思います。ジェンダー主流化は国の政策とか地方自治体の政策に一番よく使われますが私は組合の政策にも使っていいと思っているのです。一見、ジェンダー中立的に見える一般政策が、どのように男女に異なる影響を与えているのかを分析して、政策形成過程に反映させていくのがジェンダー影響分析なのですけれど、それをしながら新たな人事制度とか、賃金制度を作っていくことを組合の中でしていくことが重要なんじゃないかなと思います。

日本は春闘が慣例化していますので、春闘要求についてジェンダー影響調査を単組レベルで行って、産別とかナショナルセンターレベルで集約して評価していく。ただ、このジェンダー主流化を行うためには、ツールの開発が不可欠で、ジェンダー統計を整備したり同一労働同一賃金政策を雇用形態とか性別とか職員とか勤続年数部分の属性だけじゃなく、その労働者が実際、残業してるのかとかどんな仕事を行っているのかまでわからないと、影響調査がわからないので、そういうような統計を整理して行くことが必要だと思います。

管理職と、組合の両方の章、あとは序章と終章を書いているんですけど、今、少子化と言われていて持続可能な社会をつくっていくためには、すべての人にケアの時間を確保することは企業でも考えていかなきゃいけないし、質の高いケアの提供は公がしていかなきゃいけない。世帯と地域の中で公平なケア供給をして行くことが重要になると思います。企業で働くことも組合活動もすべての人がケアすることを前提にして行きましょうねということがジェンダー主流化でみていきましょう。

それは意思決定過程の女性の参画が促されるし、参画することでそういったものが作られていく。両方、両面あるんだろうなと思います。以上になります。(報告資料はこちらからアクセス金井教授報告資料

 

 

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