川村雅則「会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制を」

川村雅則「会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制を」『NAVI』2024年10月11日配信

 

本稿は、10月6日(日)に東京で開催された、第16回なくそう!官製ワーキングプア東京集会・反貧困集会(以下、東京集会)[1]に提出した小文を大幅に書き換えたものです。タイトルのとおり、会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制が必要であることを、制度が始まって5年目となる今、なおかつ、再度任用時における公募(以下、公募)廃止の動きが強まってきた今、あらためて整理してみました。加筆修正などするかもしれませんが、ご笑覧ください。(最終更新■月■日)

なお、集会当日はまったく別のテーマ(会計年度任用職員制度の改善に向けた北海道の取り組み)を報告しています。

 

出所:第16回なくそう!官製ワーキングプア東京集会・反貧困集会(2024年10月6日開催)の動画より。

 

[1] なくそう!官製ワーキングプア!東京集会 実行委員会のウェブサイトを参照。当日の動画はこちらを参照。

 

 

○はじめに

10月6日、東京集会に参加した。前々日(10月4日)には、衆議院第二議員会館で開催された、全労連・愛労連・建交労が主催する、名古屋市会計年度任用職員の前倒しの大量公募・雇い止め問題に関する記者会見にオンラインで参加した。以下は、記者会見の様子を報じた記事である。

 

「非正規保育士ら「雇い止めやめて」 名古屋の1千人超に雇用期限迫る」伊藤舞虹『朝日新聞デジタル』2024年10月4日 16時47分

「保育士ら1200人「雇い止め」か…問題は非正規公務員の再任用上限 名古屋市「撤廃する状況にない」と見放す」『東京新聞デジタル』2024年10月5日 12時00分

 

記者会見や集会に参加してあらためて感じたのは、会計年度任用職員の雇用(任用)をめぐる問題である。民間の非正規雇用者並み(以下、民間並み)の権利保障、実効性ある雇い止め規制が必要である。

会計年度任用職員が公務員(公共サービスの担い手)としての雇用安定を求めれば、あなたは「非正規」だからと退けられ、では、非正規雇用者としての雇い止め規制を求めれば、こんどは、あなたは「公務員」だからと退けられる──旧制度時代に指摘されていた「法の狭間」と変わらぬ状況が、今もなお続いていると言えるのではないか。その上に、労働基本権は制約され、問題解決の手を縛られた状態に会計年度任用職員はある。通常使われるのとは異なる意味合いで「民間ではありえない!」状況にある。

「無期労働契約への転換」を定めた労働契約法第18条はもちろんであるが、「雇い止め法理が法定化」された労働契約法第19条を非正規公務員の世界にも導入することの必要性──法改正の必要性はもちろんであるが、それまでのあいだは労働組合規制で「応急処置」を図る必要性──を、新制度導入から5年目となる今、あらためて本稿で考えたい。

 

 

○会計年度任用職員にみられる強い雇い止め不安──有期雇用の濫用を制度化した新制度

雇い止め不安を四段階で会計年度任用職員に尋ねたところ「非常に不安がある」だけで31.3%。「不安がある」39.6%もあわせると7割。無期の雇用への転換希望は「希望する」65.1%という結果であった[2]。会計年度任用職員制度に関する様々な問題のなかでも、とりわけ雇用不安、有期雇用の濫用の問題を筆者は強く訴えてきた[3]。不十分ながらも民間で進む、有期雇用の濫用防止・雇用安定化策に対して、会計年度ごとの任用が厳格化されるなど、2020年度からの新たな非正規公務員制度は雇用安定にむしろ逆行している。

公募制度は、ディーセントワークの中核である雇用の安定を損ない、ひいては、働く者の生活基盤を不安定なものとする。当事者の尊厳を傷つけるのはもちろんのこと、雇う/雇われるという支配・服従構造を強化しハラスメントの土壌となるという点でも問題である。

加えて、少々横道にそれるが、公募・選考業務がいかにブルシット・ジョブであるか、という点も確認しておきたい[4]

例えば、(a)自治体広報誌への掲載のほかハローワークにもかけられるなど広く行われる公募は、新たに創出された求人ではなく、いわば水増し求人と言えるだろう。処理する側の徒労や新規で求職する側の徒労[5]を思う。(b)能力実証のためにと、面接のほか、筆記試験・作文・小論文などが現職にもあらためて課される。選考する側にとって、課題内容を考えるのも基準に照らして評価を行っていくのも、真面目に行えばずいぶんな苦労ではないか。さりとて、負担軽減のためにと選考の方法や内容を簡易なものにしようとすれば、それなら、そもそもなぜわざわざ選考をするのかを問われることになりかねない。(c)こうした、公募や選考の準備作業にはじまり、実際の選考・評価作業、合否の判断や求職者(現職を含む)への通知作業までが、職域によっては欠員が出るほど人手不足で困っているはずの自治体のなかで行われている。

念のため言えば、能力実証は不要であると筆者は主張しているわけではない。毎年の人事評価の上にこうした公募・選考が行われていること、屋上屋を架すようなことに違和感をもっている。これが民主的かつ能率的な自治体運営(地方公務員法第1条)と果たして言えるのだろうか。

 

[2] 道内624人(女性が509人、81.6%)の会計年度任用職員の就業実態などをまとめた2022年度のアンケート調査結果より。なお、無期転換への希望の残りの回答は、「とくに希望しない」17.0%、「わからない」17.1%。筆者のこの間の調査や労働相談の経験上、無期雇用になれば自らの意思で辞められなくなるとの勘違いが一定数含まれると思われる。

[3] 例えば、拙稿「ディーセントワーク概念からみた会計年度任用職員制度」『ガバナンス』第274号(2024年2月号)拙稿「非正規公務員が安心して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」『KOKKO』第55号(2024年5月号)を参照。

[4] 注釈3の拙稿でもふれているが、この間の自治体調査のなかでその思いは強まるばかりである。担当者も本音ではそう思っているのではないだろうか。

[5] 一般的に考えて、現職のほうが能力水準が高く再度任用される可能性は高いだろう。しかし新規求職者はそのことを(そもそもそういった求人であることを)知らないだろう。

 

 

○2024年6月の人事院・総務省通知、総務省マニュアルの改正をうけて

公募をそもそも導入していないかやめるかする自治体の数は、2023年の総務省の調査によれば、(2021年の12.6%からは増加したとはいえ)14.6%にとどまっていた。

北海道(179市町村)では、北海道(庁)と35市(政令市である札幌市を含む)についてみると、6市にとどまっていた。言うまでもないが(という表現はおかしいが)、北海道(庁)も札幌市も公募を実施している。

蛇足だが、北海道(庁)は、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書制度による「大量離職通知書」を提出していない[6]。大量離職通知書調査は、会計年度任用職員の雇用があまりにも軽んじられている現状に対して、離職の適正な手続きを自治体に課すという極めて「穏健」な考えに他ならない。それでも提出をしない自治体は少なくない(それゆえに、忙しい年度末に、職員を大量に公募にかけてみたりギリギリの時期に離職をさせてみたりのことが可能となっているのだろう)。

閑話休題。そのような状況に変化が生じている。労働組合・当事者団体を中心とした粘り強い取り組みや各種の報道などを背景に、公募に関する通知が人事院・総務省から出され、いわゆる総務省マニュアルが2024年6月に改正されたのは周知のとおりである[7]。国側のこうした変化をうけて、公募廃止の動きが自治体に広がっているのである。先にも述べたとおり、欠員さえ生じるような人手不足下でこのようなことをやっている場合ではないと「覚醒」された自治体もあるのかもしれない。まっとうな判断だと思う。

北海道では、知己の議員からの情報によれば、まだ公表はできない分も含め、今年度内で公募を辞める自治体は、上記35市のうち、既存の6市を含めて、少なくとも10市程度にはなるようである。筆者が住む札幌市[8]に関しては、市に照会したところ、「3年公募に関する総務省マニュアルの変更を受け、本市の任用限度については、他都市の状況や制度運用の実態を考慮しながら、現在職員部内で見直しを検討しているところです。」という回答であった(2024年9月25日付)。「見直しを検討」にとどまるとはいえ、「公募は継続する」と回答されるよりははるかによい。検討作業に対しては議員にも関心をもっていただきたい。

東京ではどうか。東京集会実行委員会によって首都圏の状況が調べられているが[9]、ここでは東京23区の状況をみておく。それによれば、「もともと制限なし」が3区、「制限の廃止を決定」が6区(ここまでで39.1%)、そして、「検討中」が9区である[10]

全国で現在行われている/これから行われる、労働組合による秋の「賃金確定交渉」によって公募廃止が広がることが期待される。

とはいえ、冒頭でみた名古屋市のように、公募を継続し前倒しで行おうとしているケースもある。北海道においても、例えば、(a)北見市では、財政再建の一環として、会計年度任用職員の大幅な削減が予定されている状況にある[11]。(b)約1000人の会計年度任用職員が働いていると2023総務省調査に回答した江別市では、3年公募について「撤廃しない考え」を早々に示している。報道[12]によれば、「雇用安定の観点から長期間雇用するケースがあるが、後藤市長は「平等の取り扱いの原則など法律の趣旨にのっとり、現在の運用を継続する」と述べた。」という(下線は引用者)。どういうことだろうか。求人が少ない職種に関しては長期間雇用する(公募をしない)ということだろうか。

そもそも──公募廃止の意義は繰り返し強調したいところであるが──公募を廃止しても、会計年度ごとの任用という制度の骨格は維持されたままである。不当な雇い止めに対する実効性ある規制も、会計年度任用職員にはないに等しい。民間並のルールの整備を急ぐ必要がある。

 

[6]川村雅則「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)──北海道及び道内市町村から2024年に提出された大量離職通知書の調査結果に基づき」『NAVI』2024年7月29日配信を参照。なお、こうした自治体の姿勢に加えて、職業安定行政の姿勢(通知書が提出されていないことをもって直ちに当該自治体に是正が求められるわけでもないという運用)もまた、法の実効性を高めるためには改善される必要があるのではないか。今のままでは、職業安定行政が自らの存在意義を否定しているようにもみえるが、どうだろうか。拙稿「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信を参照。

[7] 拙稿「総務省マニュアルの改正など、9月議会に向けて、注視すべきことがらや調査の結果など」『NAVI』2024年8月13日配信を参照。

[8] 3年公募+同一部3年ルール(例外あり)という複雑な札幌市の制度については、拙稿「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO官製ワーキングプア研究会レポート』第37号(2022年2月号)を参照。

[9] 最新の配信記事は、渡辺百合子「首都圏106自治体情報公開請求の報告~大量離職通知を使って会計年度任用職員の離職状況を調べてみました」『NAVI』2024年9月15日配信

[10] 東京公務公共一般労働組合『公共一般』第722号(2024年9月24日号)より。

[11] 次の記事を参照。(1)「満期の非正規666人雇い止め 北見市24年度末 事務補助職の採用大幅減へ」『北海道新聞デジタル』2024年9月13日 18:46。(2)「北見市、非正規公務員90人削減方針 25年度 経費抑制策の一環」『北海道新聞デジタル』2024年8月8日 0:00(8月8日 8:00更新)

[12] 「会計年度職員の再任 市「2回まで」変えず 江別・後藤市長、市議会で表明」『北海道新聞デジタル』2024年9月13日 21:47

 

 

○民間の非正規雇用者であればどのようなルール(雇い止め規制)が適用されるのか

民間非正規雇用の世界を礼賛しているわけではない。遡れば、そもそも、有期雇用の反復更新も雇い止めも野放しとなっていた世界である。

そのようななかで、雇い止めは好き勝手にできるものではない、という雇い止め法理が形成され、そして、2012年の改定労働契約法第19条で法定化された。このときに、有期雇用の濫用を防止する、無期転換制度も第18条に設けられた。一般的には無期転換制度に関心が集まったと思われるが、第19条、すなわち、雇い止め法理の法定化(や契約更新の際の判断基準の明示など)は、無期転換を進める上でも、不可欠のものとして認識されていた。当時の、国会審議をみてみよう。

 

第180回国会 厚生労働委員会第15号(2012年7月25日㈬)での厚生労働大臣の答弁

やはり、今回の無期転換ルールの趣旨からしましても、五年のところで雇いどめが起きてしまうと、この狙いとは全く違うことになってしまいますので、先ほども答弁させていただきましたように、何とか円滑に無期労働契約に転換させていく、これが一番大きな課題だというふうに思っています。

このため、制度面の対応といたしましては、今回の法律案の中で、判例法理である雇いどめ法理、この法制化を盛り込んでいます。これによって、五年の時点でも雇いどめが無条件に認められるわけではないということが法文上も明確にされていると思います

また、有期労働契約の更新の判断基準について、労働基準法に基づいて、書面の交付により明示を行うように、これは省令の改正によって義務づけることを予定しています。これによりまして、不意打ち的な雇いどめの防止にもつながると考えています

それからまた、先ほども申し上げましたが、五年到達時に雇いどめされずに無期労働契約への転換が円滑に進みますように、有期契約労働者ですとか無期転換後の労働者のステップアップ、これが企業にとってメリットになりますので、それに取り組む事業主への支援ですとか、業種ごとの無期転換のモデル事例を集めて周知をする、そうしたこともあわせて行いたいと思っています。

出所:衆議院ウェブサイト(会議録)より(下線は引用者)。

 

話を戻して、では2012年の労働契約法改定によって設けられた第19条とはどのような内容か。単に期間満了というだけで雇い止めをしてはならないことが書かれている。以下に示す(下線は引用者)。

 

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

「次の各号」の一にあげられているのは、「実質無期契約タイプ」と呼ばれるもので、二は、「期待保護タイプ」と呼ばれる。そして、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」とあるように、雇い止めに値する事実があったかどうか、また、事実があったとしてそれが果たして雇い止めに値するようなものであるのかどうかが様々な観点から検証、判断されることになる。

労働契約法第19条に加えて、労働基準法第14条第2項[13]の規定に基づき、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)が定められている。同告示の第3条では、「雇止めの理由の明示」が定められている(同告示ではその他に、「雇止めの予告」や「契約期間についての配慮」などが定められている)。

 

第三条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

2 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

もっとも、すでに述べているとおり、これら労働契約法も労働基準法第14条も、公務員には適用されない。公務員の任用とは、民間で使用者との間で締結される「労働契約」とは異なり、任命権者が特定の人を特定の職に就けるという、行政処分によるものと解されているからである。

総務省マニュアルでも、会計年度任用職員には労働契約法は適用されないことが明記され、「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」についても、一定の配慮を自治体側に促すなどしているものの(下線部分)、適用除外であることが明記されている。

 

問9-1 再度の任用が繰り返され、その任用期間が5年以上となった場合であっても、労働契約法に基づく期間の定めのない常勤職員への転換を図る必要はないとしてよいか。

○ 地方公共団体の常勤職員については、「競争試験による採用」が原則とされており、厳格な成績主義が求められている。これは、「長期継続任用を前提とした人材の育成・確保の観点」と、「人事の公正を確保し情実人事を排する観点」から必要とされているものである。

○ このため、地方公共団体の臨時・非常勤職員が常勤職員として任用される場合には、競争試験などにより常勤職員としての「能力実証」を改めて行う必要がある。

○ したがって、地方公務員については、任用期間を通算した期間が5年を超える臨時・非常勤職員が任期の定めのない任用の申出をしたときに常勤職員へ転換されるというような仕組みは設けられていない。なお、地方公務員は労働契約法が適用除外となっている。

 

問6-3 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」では、有期労働契約が3回以上の更新をされた者等に対して、雇止めの予告を30日前までに行い、請求があったら雇止めの理由を明示することとされているが、当該事項は、あくまで留意すべきものという取扱いでよいか。また、実質無期や期待保護(反復更新)については、地方公務員について適用されるのか。

○ 労働基準法第14条第2項は地方公務員については適用除外とされている。これは職員の任用は行政処分としてなされるものであり、辞令に示された期間の満了によって当然に職員としての身分は消滅するため、紛争の未然防止策や行政指導の法律の規定を適用する余地はないためである。

しかしながら、結果として複数回にわたって同一の者を同一の職務内容の職に再度任用している場合に、何の予告もなく再度の任用を行わないことは、当該者に多大な影響を及ぼすことが想定されるため、マニュアルⅡ3(1)⑤ウにおいて、事前に十分な説明を行う、他に応募可能な求人を紹介する等の配慮が望ましいとしている

○ なお、前述のとおり労働基準法第14条第2項は適用除外となっているため、「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」の雇止めの予告や理由の明示についてはあくまで参考とすべきものであって、その他にも様々な配慮が考えられるものである。

実質無期や期待保護(反復更新)については、前述のとおり、期間の満了によって当然に職員としての身分は消滅するが、一部判例においては、長期にわたる職務の継続を期待させる言動があったことや再度の任用が当然のようになされていたことなどから、非常勤職員の再度の任用の期待権を侵害したことによる損害賠償が認容された例があるのでご留意いただきたい。

出所:総務省マニュアル(会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアルの改訂について(平成30年10月18日総行公第135号・総行給第49号・総行女第17号・総行福第211号・総行安第48号))より。下線は引用者による。

 

問題は、それでよいのか、ということである。

いわゆる正規の公務員でもなく、民間の非正規雇用者でもない会計年度任用職員の権利保障、実効性ある雇い止め規制は、それでは一体どのようにして実現されるのか。会計年度任用職員が始まって5年目となるが、こうした制度設計になっているから次のようなことが起こる。

 

[13](契約期間等)第14条 〔略〕

②厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

 

 

○会計年度任用職員の任用をめぐって何が起きているか

当事者団体による調査や現場から聞こえてくるのは、先の筆者調査でみたような雇用不安のほか、実際に雇い止めにあったものの、自分がなぜ雇い止めにあったのか分からない、雇い止めの理由が示されない、雇い止めに納得ができない、人事評価の上でも問題はなかった(どころか高い評価が得られていた)、などなどの声である。

直近では、2023年度末の東京都のスクールカウンセラー大量雇い止め事件が大きく報道された[14]が、まさにこれに該当した。労働組合の調査によれば、「勤続年数が長ければ長いほど不合格の割合が高くなっていること、また、年齢が高いほど不合格者の割合が高いこと」が明らかにされている[15]。この事件では、「元職と現職の都SC10人が都に対し、任用の更新拒絶は不当だとして地位確認や損害賠償などを求めて10月9日に東京地裁に提訴すること」となったが、選考基準の開示などを原告は求めている[16]。逆に言えば、そういう基準や理由を開示せずとも自由に雇い止めできるのが会計年度任用職員の制度設計であることが、事件によってあらためて浮き彫りになった。

同様に、埼玉県狭山市における、2022年末の図書館司書の雇い止め事件も注目を集めた[17]。図書館に勤務する会計年度任用職員32名中11人と、3分の1以上が一次の書類選考で落とされたのであるが、当事者には納得のいく説明はされていない。しかも、一次選考業務は、外部の民間企業に委託されていたことが、当事者を支援する労働組合と市との団体交渉で明らかになっている。当該企業はどう判断したのだろう。

いずれのケースでも、勤務実績や人事評価などは考慮されずに、雇い止めが行われている。

こうしたケースは、民間であれば、「出るところに出たら」覆すことができる確率がかなり高いケースと言えるのではないだろうか。

しかし、会計年度任用職員の場合にはそれがかぎりなく困難である。任用制度の下で雇い止めの合理性や正当性を争うのに有効な法的根拠がなく、しかも、会計年度任用職員制度になってからは1年ごとの雇用が制度化され、制度上は期待権も念入りにはく奪されているためである。

100万人に迫る会計年度任用職員が制度的にこうした状況に置かれていることがいかに理不尽であるか。民間の世界で、非正規雇用者からの雇い止め相談に応じて、雇い止めをなんとか撤回させようと努力を積み重ね、そして、実績もあげてこられた労働組合や弁護士の方々であれば、この理不尽さを理解いただけるのではないだろうか。

なお、念のため言えば、だからこそ、上記のスクールカウンセラーの提訴は、会計年度任用職員制度の問題構造を「告発」するという点でも重要な意義があると考える[18]

制度を設計した国の責任が問われるのはもちろんであるが、任命権者としての自覚を欠いた自治体側の責任も問われる。「民間ではあり得ない」こうした状況の是正が急務である。

 

[14] 「東京都教委が250人大量「雇い止め」 スクールカウンセラーを3月末 契約更新の選考基準も不透明」『東京新聞デジタル』2024年3月5日 15時54分など参照。

[15] 原田仁希(2024)「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」『学習の友』第853号(2024年9月号)pp.42-45を参照。心理職ユニオンによる「東京都スクールカウンセラー採用状況調査結果報告」(2024年3月9日)を参照。

[16] 「「都合悪くなると使い捨て」大量雇い止め問題で東京都に賠償求め提訴へ 「非正規」スクールカウンセラー」『東京新聞デジタル』2024年9月24日 06時00分

[17] 「社会 狭山市、図書館職員を大量解雇…22年勤務のベテラン司書を雇止め、雇用保険も不支給の恐れ」『Business Journal』2023.07.31 19:43(2023.08.02 10:06更新)や、当事者家族によるX(旧Twitter)「図書館クビになりました漫画(署名お願いします)」などを参照。

[18] 別件であるが、東京集会でも報告されていた、労働基本権のはく奪・制約をめぐる、全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組)による提訴も同様に重要な意義をもつ。提訴の内容などは、「CALL4」の「「会計年度任用職員にも労働基本権を!」訴訟」や「レイバーネット」の「雇い止め「会計年度任用職員」が立ち上がる!〜働く権利を剥奪する「制度」は違憲」で読むことができる。

 

 

○さしあたりの「応急処置」として

法制度の改正によって、会計年度ごとの任用という仕組みや実効性なき雇い止め規制の現状を是正する必要がある。ただ、もしかしたらそれには、公務労働全体のデザインの再考が必要とされるかもしれない。それまで待っていられない。

そこでさしあたりは、労働契約法第19条の考えに則って、労働組合による雇い止め規制を職場単位で強化していくという手法が考えられるのではないか。公募が廃止された後には、能力実証の手段として、人事評価制度が使われることになると思われるので、同制度も使いながら、不当な雇い止めが行われないようにしていくのである。法制度の改正には、各職場でのこうした取り組みが不可欠であるとも思う。

人事評価は悪用される危険性がある。雇い止めをちらつかされるなど、新たな「支配」のツールとして使われることへの警戒も必要である。そのことに留意した上で、目的を逸脱するような運用に対する規制強化はもちろんのこと、そもそもの人事評価制度の設計にあたっても、何を評価の対象とするのか、評価によってどこまでの不利益処分を認めるのか、評価とその根拠情報に対するアクセスや抗議の権利などに労働組合規制を張り巡らせるのである。民間を含め、人事評価制度に対する労働組合の先進的な取り組みに学びたい[19]

会計年度任用職員の場合、昇進・昇格や配置・異動、さらには昇給に評価結果を使われることは(現時点では残念ながら)想定されないのだから、人事評価の目的は「人材育成」に置かれるべきだろう。仕事ができない、勤務成績が不良である場合でもいきなり雇い止めするのではなく、教育訓練の機会などが必要である。この点も民間の場合と同様である。ちなみに、労使の決定・合意に基づき、人事評価をそのように活用して、本人の意思によらない限り雇い止めは原則として行っていない自治体もある。

 

[19] 考え方は、熊沢(1997)pp.184-236「四章 能力主義管理とのつきあいかた」を参照。

 

 

 

以上、公募廃止の先も視野に入れて、雇用面に関して「民間ではあり得ない」状況を是正していくこと、会計年度任用職員の世界にディーセントワークを実現することが急がれる。

なお、今後、会計年度任用職員の雇い止め(や解雇)に関しては、ジョブ型雇用の考え方を使っていくことを試論として考えているが、この点は機会をあらためる。

 

 

参考文献

川村雅則(2024)『「非正規4割」時代の不安定就業──格差・貧困問題の根底にあるもの』学習の友社

上林陽治(2021)『非正規公務員のリアル──欺瞞の会計年度任用職員制度』日本評論社

熊沢誠(1997)『能力主義と企業社会』岩波書店

黒田兼一・小越洋之助編著(2020)『働き方改革と自治体職員』自治体研究社

地方公務員法研究会編(2019)『2020年施行地方公務員法改正マニュアル第2版対応──会計年度任用職員制度の導入等に向けた実務』第一法規

西谷敏(2011)『人権としてのディーセント・ワーク──働きがいのある人間らしい仕事』旬報社

日本労働弁護団編著(2021)『新 労働相談実践マニュアル』日本労働弁護団

橋本勇(2023)『新版 逐条地方公務員法 第6次改訂版』学用書房

濱口桂一郎(2021)『ジョブ型雇用社会とは何か』岩波書店

晴山一穂、早津裕貴編著(2023)『公務員制度の持続可能性と「働き方改革」──あなたに公共サービスを届け続けるために』旬報社

 

 

 

 

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