川村雅則「旭川市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告」

本稿は、『北海学園大学経済論集』第71巻第3号への投稿を予定している、未定稿です(2023年12月31日発行予定)。

調査結果の内容の確認作業はすでに終えていますが、校正作業による内容の変更はあります。そのような段階にもかかわらず先行して公開するのは、同様の問題を抱える全国各地の関係者(労働組合、議員)の皆さんの取り組みや調査・研究に役立てていただけたら、と考えてのことです。それぞれの自治体の非正規公務員(会計年度任用職員)制度の情報を収集し、お互いに共有しながら、よりよい制度の実現のために問題提起を続けていきましょう。

なお、第一に、「Ⅲ.考察」は、現時点では未掲載です。第二に、「謝辞」にも記載のとおり、本稿に残りうる一切の誤りは筆者の責任です。

2023年9月12日記

完成版が発行されました。

川村雅則「旭川市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告──制度と労働条件の概要」『北海学園大学経済論集』第71巻第3号(2023年12月号)pp.37-54

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2024年2月9日記

 

 

 

旭川市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告

──制度と労働条件の概要──

 

川村雅則(北海学園大学)

 

 

Ⅰ.問題意識と調査の概要

新たな非正規公務員制度である会計年度任用職員制度(以下、新制度)が2020年度から始まった。各自治体でどのような制度が設計され、そして、どのような経験(問題経験を含む)が蓄積されているのか。総務省の助言に従って導入されている、3年を中心にした公募制(以下、3年公募制)の経験なども明らかにする必要がある[1]

雇用安定や均等待遇の面などで、総務省による新制度の基本設計や背景にある考え方には改善されるべき点が多く、せめて、不十分ではあるものの民間非正規の雇用・賃金制度の水準が、非正規公務員の制度でも達成される必要があると筆者は考えている。

以上のような問題意識で、政令市である札幌市に続き、旭川市の新制度について調査を行った。ご協力をいただいたのは、総務部人事課の職員の方々である。2023年7月31日の午後に旭川市を訪問し対面で聞き取りを行い、その後、2回にわたりメールで質問・資料照会を行った。

本稿は、上記の調査結果に基づき、旭川市の非正規公務員とりわけ会計年度任用職員の任用制度・労働条件などを取りまとめたものである。

調査の内容は、札幌市で行った調査の内容と基本的に同様で、新制度導入時のこと/臨時・非常勤職員の管理体制/旭川市における臨時・非常勤職員数/臨時・非常勤職員の任用/臨時・非常勤職員の勤務時間数や賃金/臨時・非常勤職員の人事評価制度/課題や今後の取り組み、などを尋ねた。

聞き取りの結果や提供された資料は、筆者の責任で要約・整理をし、順序も再構成している。

 

図Ⅰ-1 旭川市における正職員及び臨時・嘱託職員数の推移

注:各年4月1日時点の人数。正職員の人数は、総務省「地方公共団体定員管理調査」による。
資料:旭川市提供資料より作成。
出所:川村(2013)より転載。

 

ところで、筆者は、旭川市の非正規公務員制度(旧制度)については、およそ10年前にも調査を行い、結果を川村(2013)に取りまとめている[2](旭川市の非正規職員は、臨時職員と特別職非常勤職員から構成され、後者の呼称は嘱託職員であった)。

図Ⅰ-1は、そこから転載した、旭川市からの提供資料で作成したものである。1989年には20%程度だった非正規割合は、当時で40%にまで達し、逆に、3500人前後で推移してきた正職員は、2000年代に入って減り続け3000人を割り込んでいた。

 

表Ⅰ-1 旭川市の非正規職員数、正職員数、非正規職員割合/単位:人、%

非正規職員 正職員合計 非正規職員割合
合計 短期間・短時間勤務者を除く 合計 短期間・短時間勤務者を除く
旭川市 2,309 1,507 2,985 43.6 33.5

出所:2020総務省調査、総務省「地方公共団体定員管理調査」より筆者作成。

 

表Ⅰ-2 旭川市の会計年度任用職員/単位:人、%

合計 男性 女性 女性割合
旭川市 2,043 468 1,575 77.1

出所:表Ⅰ-1に同じ。

 

2020年4月1日を基準日とした総務省による調査[3](以下、2020総務省調査)によれば(表Ⅰ-1)、旭川市の非正規職員割合は43.6%で、短期間・短時間勤務者を除いて計算しても、3人に1人は非正規職員が占めている。その多くは会計年度任用職員であって(表Ⅰ-2)、人数は2043人である。女性はそのうちの77.1%を占める。

 

 

Ⅱ.調査の結果

1.旭川市における新制度の設計のプロセスと、旧制度から新制度への引き継ぎ

川村(2013)によれば、旭川市の旧制度下では、臨時職員は、1回の任用期間が5か月で、1回の更新(計10か月)というのが任用の基本であり、嘱託職員の場合には、1回の任用が1年で、2回までの更新、つまり通算3年までの勤続が基本であった。とはいえ、前者では、2か月の空白期間をおいて働くケースもあり、後者では3年を超えて働くケースもあった。

以上の状況は新制度の導入でどうなったか。市からの回答は概略以下のとおりである。

第一に、新制度の導入で、上記のような空白期間や勤続上限は廃止され、公募さえクリアできれば、同じ職場・仕事で働き続けることは可能となった。

第二に、新制度の導入にあたっては、当時の臨時・嘱託職員が従事している業務の整理と効率化を全庁的に検討した結果、職の廃止や民営化などはとくに行う必要はないという結論に至り、そのまま新制度に移行した。

第三に、新制度について労働組合との交渉は行われたが、時間があまりなかったことや、非正規公務員制度というテーマの大きさゆえに旭川市独自の考えで制度設計をするのが難しかったことから、基本的には、総務省からの助言等を参考にして、今後の課題も残しつつ、最後は、期限に間に合うよう決めることとした。

例えば、3年公募制を設けることや昇給の上限を5年に制限すること(後述)などについては、労働組合は納得していない部分もあったと思われるが、いったんは折れてもらって新制度への移行に協力をしてもらったという。

第四に、新制度への移行にあたっては、全員の公募が行われている。現時点でもそうであるが、公募の対象にならない職種は、ない。新制度をゼロからのスタートとし、旧制度下での任用・勤務経験などは新制度に引き継がなかった。

新制度移行時にあらためて全員の公募を行ったのでは現場の負担が大きかったのではないか、という筆者の問いに対する市の回答は、概略、以下のとおりである。

第一に、対象となる職員の人数が多かったため、混乱もあったと思う。但し、公募は行ったものの、旧制度下で働いていた職員の任用の継続を念頭において制度設計をして、制度移行をした。総務省からの助言も参考にして、公募を行う必要があると判断して公募を行った。面接は原課で行ったとのことである。

第二に、このときの公募でどの位の人数が不採用になったか詳細の数字は把握していないが、おおよその感覚では、8割ぐらいの職員が継続で任用され、2割ぐらいの職員が入れ替わった。公募をまたず、毎年の(期間満了にともなう)再度任用時においても、おおよそ2割ぐらいの職員が入れ替わっているとのことである。

なお、入れ替わった2割の職員には、年齢や転職を理由とする自発的な離職もあれば、他の応募者が採用されたため任用が継続されなかったケースもあるほか、所属部署が変更した職員も含まれる、とのことであった。

 

 

2.旭川市における臨時・非常勤職員の担当課の体制、管理方法

担当課の体制、管理方法などを尋ねた。市からの回答は概略、以下のとおりである。

まず、臨時・非常勤職員の任用関連は人事課で対応されている。

人事課では、課長(人事課課長、コンプライアンス担当課長)を入れて正職員は12名体制である。このほかに会計年度任用職員が5名である。そのうち2名はコンプライアンス担当の弁護士と接遇の講師で、残りの3名のうち2名が各部局の定型的業務の支援にあたり、残りの1名が雇用保険や厚生年金の保険手続きの業務に従事している。

人事課では、「係」は設けずにスタッフ制を採用している。係に業務が分担されるのではなく、それぞれの職員が業務を受け持つイメージであるという。

臨時・非常勤職員ないし会計年度任用職員に関する業務は、「任用」、「給与」、「制度」の3つに大きく分かれる。それぞれの業務を1名ずつで担当しているので、計3名体制ということになる。

それぞれの業務内容については表Ⅱ-1にまとめたとおりである。

 

表Ⅱ-1 非正規公務員に関する人事課の業務の種類と具体的な内容

任用 会計年度任用職員の公募、応募者の選考(書類,面接)、社会保険(厚生年金保険・共済組合)・雇用保険の加入・喪失手続き、任用情報のシステム登録
給与 給与支給等の業務に必要な情報の提供
制度 休暇等の各種制度の設計・運用、国による制度改正への対応(条例・規則の改正等)

出所:旭川市からの回答より作成。

 

なお、第一に、「任用」業務で登録されている情報の内容について市に照会したところ[4]、個人情報、勤務情報(任用期間、所属、勤務形態・時間、予算、賃金)、税扶養情報、通勤情報、口座情報、各種保険(厚生年金保険・共済組合・雇用保険)情報であるとのことだった。

関連して、旭川市の情報システムにおいては、個々の臨時・非常勤職員がどのような任用経験を積んでいるのか「追跡」が可能であること[5]。但し、働き方がパートタイムからフルタイム(あるいはその逆)に変更すると、そこで任用情報が途切れてしまう(登録されているシステム自体は同じで、追跡は可能ではある)ことを教わった。

第二に、職員の変更に伴う情報の新規登録作業などを考えると、業務量は「任用」が最も多いとのことである。

第三に、「制度」の具体的な内容としては、例えば、今回の地方自治法一部改正[6]による勤勉手当の支給がそれに該当する。

第四に、会計年度任用職員は事業につくことになるので、職員の増員を原課で要望する場合には、原課が財政課と予算の協議をして決める。人事課は関与しない。

 

 

3.旭川市における臨時・非常勤職員の人数について

旭川市の臨時・非常勤職員の人数を尋ねた。参考までに述べると、以下のように整理された情報がもしあればご提供いただきたいと市にはお願いをした。

  • 任用形態(特別職非常勤職員/会計年度任用職員/臨時的任用職員)別にみた臨時・非常勤職員数
  • 男女×任用形態別にみた臨時・非常勤職員数
  • 部局や職種×任用形態別にみた臨時・非常勤職員数
  • 勤務時間数×任用形態別にみた臨時・非常勤職員数

 

照会に対する市からの回答を、任用形態別に以下に整理する。

なお、第一に、人数は、延べ人数で計算されている(2023年4月1日時点)。複数の課でスポット的に業務を行っている職員もいるため、延べ人数での算出になる。

第二に、職員の年齢については、今回は整理されていないが、全体として、40歳代より上が多い印象で、若い年齢層が会計年度任用職員で働いている印象はあまりないというのが市からの回答である。

第三に、任用形態別にみた人数を表Ⅱ-2にまとめておく。

 

表Ⅱ-2 任用形態別にみた旭川市の非正規職員数

合計 会計年度任用職員 特別職非常勤職員 臨時的任用職員
フルタイム型 パートタイム型
人数 2189人 550人 1104人 535人 0人
男性/女性の男性 877人/1312人 173人/377人 220人/884人 484人/51人 0人
女性割合 59.9% 68.5% 80.1% 9.5% 0.0%

出所:旭川市からの回答より作成。

 

1)臨時的任用職員

第一に、臨時的任用職員は旭川市ではゼロ人である。

正職員の代替としてもこの任用形態は使われていない。休みに入った職員と同等の業務ができる者を臨時的任用職員として位置づけている。なので、正職員の代替には会計年度任用職員で対応している。この点は制度移行時もとくに問題にはならなかった、とのことである。

 

2)特別職非常勤職員

第二に、特別職非常勤職員は535人である。男女比は、男性が484人、女性が51人である。特別職非常勤職員の考え方は、総務省の分類に従い、労働者性の低い職員[7]である。

主な職種は、人数の多い順に、(1)医師が269人。学校保健課に多く配属されている。その他は、障害関係の部局や子ども関係の部局に配置されている。(2)鳥獣被害対策指導員が195人である。狩猟免許を持った方がヒグマやアライグマの退治をしている。全員が農業振興課に配属されている。(3)薬剤師が70人である。学校保健課に配属されている。なお、女性の特別職非常勤職員には薬剤師が多いと推測される。

特別職非常勤職員は、自分の仕事を他にもっていて、単発で市の仕事に入って専門的な知識等を活かしていただくというイメージである、とのことであった。

 

3)会計年度任用職員

第三に、会計年度任用職員については、まずフルタイムの会計年度任用職員が550人である。男女の内訳は、男性が173人、女性が377人である。

次にパートタイムの会計年度任用職員は1104人で、男女の内訳は、男性が220人、女性が884人である。

フルタイム型の会計年度任用職員の人数が多いと筆者には思われたこと、また、フルタイムの場合には退職金制度などの負担が発生するため、それを回避する(パートに置き換える)自治体も少なからずみられた事実[8]を踏まえて、その点を市に尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。

すなわち、制度移行前に現場からの聞き取りを行ったところ、フルタイム職員を希望するケースが多かったため、あえてそれをパートタイムに変換することは選択しなかった。フルタイムの職員には、要件を満たせば退職手当が支給される。その他は、パートタイムとフルタイムとで処遇面(諸手当の支給など)での差はとくにない、とのことである。

この点について補足すると、第一に、上記の要件とは、「旭川市一般職の職員に対する退職手当支給条例」の第2条(退職手当の支給)によれば、「職員について定められている勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が引き続いて12月を超えるに至つた者で、その超えるに至つた日以後引き続き当該勤務時間により勤務することとされている者」である。

第二に、550人のうち上記の要件を満たす者はどの位存在するのか。職員が離職さえしなければ(職の「作り」上は)、原則的には、退職手当支給要件を満たすことは可能であるのかを念のため市に尋ねた。

市からの回答は、要件を満たす者は約540人である、と全体のほとんどを占めていた。残りは当該年度の任期が12か月未満のため対象外となる、とのことであった。

 

4)会計年度任用職員の所属部局等

会計年度任用職員の所属する部局ごとの人数を教えていただいた。

但し、フルタイムとパートタイムとで分けることが難しかったため、内訳は不明とのことである。男女比も不明である。

第一に、聞き取り調査の当日に伺った部局毎の人数と主な職種(当該部局の特徴的な職種を記載。事務補助員はいずれの部局にも配属)は以下に整理したとおりである。

(1)学校教育部が616人。人数の多い主な職種は、用務員が171人(この他に、専門補助員という名称で雇われている学校用務員もいる)、給食調理員が136人、給食調理の指導員が78人である。なお、指導員は、給食調理員と異なり、献立を考えたり調理員の指導を行う。

(2)市立旭川病院が250人。人数の多い職種は、看護師である。その他は技師、事務補助職員など。医師もいるが、ここでの医師は、労働者性の低い特別職非常勤職員の医師と異なり、出張医や研修医などである。

(3)子育て支援部が161人。市直営の保育所の保育士が多い。その他は、子ども総合相談センターで働く職員、障害児に対応する作業療法士などが特徴的な職種としてあげられる。

(4)社会教育部が135人。多いのは、図書館で働く司書で、その他は、施設管理業務である。

(5)福祉保険部が114人。多いのは、保険料関係の徴収員のほか、介護認定の認定調査員である。

以上の(1)~(5)が100名を超える部局である。その他に、(6)市民生活部で80人である。市民生活部では窓口で働く職員が多い。

以上が市からの説明である。

なお、二点を補足する。一つには、部局をこえて数多く任用されている職種の種類と人数を市に尋ねたところ、専門補助員が359人、事務補助員が148人とのことであった。

市によれば、専門補助員と事務補助員の違いは、前者は後者に比べて、例えば保険の知識があったり特殊な対応を行ったりする職種である。但し、資格を必要とする職種ではない、とのことである。

関連して、専門補助員の具体的な職種について尋ねたところ、多岐にわたるためあくまでも一例であるが、とのことわり付で示されたのが、市民課の窓口職員(総合案内、戸籍、住民票、マイナンバー関連)、各学校の特別支援教育補助指導員、交通安全教育補助員、公民館事務員、科学館職員(プラネタリウム担当等)などである。

今一つには、全国的には学童保育で非正規公務員の人数が多い。この点について旭川市の状況を尋ねたところ、旭川市では、直営ではなく民間委託で学童保育を行っているとのことであった。

第二に、「部課係別職員数のデータ」を後日にご提供いただいた。職種別の人数ではなく、所属(部課係)別の人数が整理されたものである。表Ⅱ-3にまとめた。上記と重複する結果もあるが、確認されたい。

なお、表の「備考」には、職員数の多い課や係の情報・人数情報を記載した。今後、掘り下げて調査を実施したい。

 

表Ⅱ-3 部局別にみた会計年度任用職員の人数(2023年4月1日現在)

部局名 人数 備考(人数の多い課・係など)
一般会計 会計課 2
総合政策部 4
いじめ防止対策推進部 3
行財政改革推進部 0
女性活躍推進部 4
地域振興部 1
総務部 32
防災安全部 7
税務部 33
市民生活部 80 市民課40など
福祉保険部 114 介護認定係31など
子育て支援部 161 子育て助成課18、3保育所15~18、愛育センター(児童発達支援センター)44など
保健所 37
環境部 59 クリーンセンター事業係32など
経済部 34 旭山動物園27など
観光スポーツ交流部 7
農政部 17
建築部 11
土木部 8
614
特別会計 計 0
一般会計・特別会計 計 614
消防計 30
教育委員会 学校教育部 616 教育政策課59(うち学校51)、学校施設課213(うち学校213)、学務課100(うち学校94)、学校保健課191、東旭川給食センター36など
社会教育部 135 公民館事業課49、中央図書館奉仕係32、科学館13など
751
上下水道部 4
市立病院 250 医療部門計190(うち看護部116)、事務局計60
行政委員会 議会事務局 3
農業委員会事務局 2
選挙管理委員会事務局 0
監査事務局 0
5
総合計 1,654

注1:対象は任用期間が6か月以上の会計年度任用職員(2023年4月1日現在)。
注2:備考の情報は、人数が多い課・係を中心に記載。数値は人数。
出所:旭川市提供資料より作成。

 

 

4.会計年度任用職員の勤務時間数や賃金について

制度に反映させた市の基本的な考えを尋ねた上で、会計年度任用職員の勤務時間数や賃金について尋ねた。市からの回答は、概略以下のとおりである。

1)会計年度任用職員の勤務時間数(基本的な考え・設計を含む)

会計年度任用職員の勤務時間数は、まず、フルタイムの550人は、正職員同様に週38時間45分勤務である。

次に、パートタイムの職員は、週20時間から28時間45分までが305人、週29時間が685人、週30時間以上が114人である。週30時間以上に分類されたうちで勤務時間が最長のケースは、週37時間30分(1日7時間30分勤務)で、3人が該当する。

週29時間とは、フルタイム職員の4分の3を超えない時間数である。週29時間勤務の者と週30時間以上勤務の者とで処遇面で何か差があるわけではない[9]。雇用保険や社会保険は、週20時間以上勤務というのが加入の要件である。

旭川市によれば、そもそも会計年度任用職員の勤務時間数は、現場のニーズ(業務の積み上げの結果)に合わせて設定されている。基本的には旧制度からの勤務時間数が引き継がれている、とのことである。

なお、以上は定数として市でカウントしている会計年度任用職員の人数であるが、この他に、(a)週20時間未満かつ任用期間が6か月を超える職員が120名任用されているほか、(b)(勤務時間数は関係なく)任用期間6か月未満の職員が約150人任用されている、とのことであった。

 

2)会計年度任用職員の賃金(基本的な考え・設計を含む)

賃金についての回答は、以下のとおりである。

第一に、新制度への移行に際して設計された会計年度任用職員の給与の型は、昇給を伴う基本給に加え、期末手当の支給、そして、フルタイム型の場合には退職金も支給、という内容である。

その他の手当で支給されているのは、通勤手当である。ほかに、勤務条件を満たした場合には、時間外手当、休日手当、特殊勤務手当が支給されている。

第二に、賃金(基本給)は職種ごとに決められている。職務、職責を考慮して決められている。給与表は正職員と同じく「行政職給料表」、「医事職給料表」、「保健看護職給料表」が使われている。

基準となる職種・金額として、事務補助員の給与が高卒初任給程度に定められた。行政職給料表の1級5号俸に位置づけられている。専門補助員は、同じく行政職給料表の1級13号俸に位置づけられている。

表Ⅱ-4は、「旭川市会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例施行規則」と「旭川市職員の給与に関する条例」から作成したものである。

なお、給料表の金額はフルタイムの場合であって、パートタイムの場合には時間比例で計算がされる。また、表中の「(試算)時間給」は、給料月額と1か月の週数及びフルタイム勤務者の勤務時間数(週38時間45分)から単純に算出したものである。

第三に、上がり方は、同一の職種の経験を積むことで昇給する。例えば、フルタイムの職員が1年働いたら、正職員と同じく4号が昇給する。昇給も時間比例で、例えば29時間の職員の場合には3号が昇給する。

第四に、昇給の上限は、原則5年を上限にしている。高卒初任給から始まる事務補助員は、大卒初任給に該当する1級25号俸が上限になる。

なお、職種ごとに賃金が決まっているため、職種を変更すると、前の任用・経験などは帳消しになる。

第五に、期末手当は、勤務時間が週20時間以上の会計年度任用職員に対して支給がされている。段階的に引き上げて支給がされている。まだ経過措置の最中であり、来年度(2024年度)に正職員と同じ月数になる。この点は後述する。

第六に、給与水準の見直しにより一部職種の職員には、基本給を減額せざるを得なかった。年収ベースでは下がらないように配慮したものの、給与水準が旧制度下ではバラバラだったという事情もあって、減額を余儀なくされた職員もいる。但し、基本は年収が下がらないように措置したとのことである[10]

第七に、既に述べたとおり、フルタイム型の会計年度任用職員で要件を満たした者には退職手当が支給される。

市からの回答は以上のとおりであるが、第五に記載のとおり、期末手当の支給には経過措置が設けられている。この点について、市から後日に提供された情報、資料などに基づき、項を改めて説明をする。

 

表Ⅱ-4 初任給基準表及び給料月額、時間給

職種 給料表の種類 職務の級 号給 給料月額 (試算)時間給
事務補助員 行政職給料表 154,600 918
専門補助員 行政職給料表 13 164,100 975
徴収推進員 行政職給料表 18 171,200 1017
図書館司書 行政職給料表 26 186,900 1110
学校司書 行政職給料表 154,600 918
福祉教育相談員 行政職給料表 26 186,900 1110
福祉教育支援員 行政職給料表 37 204,200 1213
福祉教育専門員 行政職給料表 20 230,900 1371
子育て支援相談員 行政職給料表 26 186,900 1110
子育て支援主任相談員 行政職給料表 37 204,200 1213
子育て支援員 行政職給料表 27 188,500 1120
子育て支援相談心理士 行政職給料表 29 243,100 1444
ろうあ者相談員 行政職給料表 20 174,000 1033
専任手話通訳者 行政職給料表 10 214,200 1272
障害児相談支援員 行政職給料表 14 221,000 1313
介護認定調査員 行政職給料表 19 229,400 1362
不法処理指導員 行政職給料表 24 236,900 1407
生活環境指導員 行政職給料表 24 236,900 1407
金融相談員 行政職給料表 24 236,900 1407
旭川聖苑長 行政職給料表 32 246,100 1462
旭川聖苑副苑長 行政職給料表 24 236,900 1407
一般作業員 行政職給料表 156,800 931
専門作業員 行政職給料表 14 165,600 984
専門飼育員 行政職給料表 15 167,100 992
学校用務員 行政職給料表 154,600 918
給食配膳員 行政職給料表 154,600 918
給食調理員 行政職給料表 158,900 944
給食調理指導員 行政職給料表 14 165,600 984
自動車運転手(中型) 行政職給料表 156,800 931
自動車運転手(大型) 行政職給料表 22 177,800 1056
自動車運転手(バス) 行政職給料表 33 198,500 1179
施設管理人 行政職給料表 13 164,100 975
特定施設管理人 行政職給料表 17 169,800 1008
駐車場管理人 行政職給料表 29 191,700 1139
宿日直員 行政職給料表 30 193,400 1149
ボイラー運転員 行政職給料表 19 172,600 1025
動物飼養管理員 行政職給料表 19 172,600 1025
試験検査補助員 行政職給料表 16 168,700 1002
と畜検査補助員 行政職給料表 25 237,900 1413
農業技術指導員 行政職給料表 27 240,700 1430
保育補助員 行政職給料表 154,600 918
保育士 行政職給料表 15 167,100 992
学校教諭 行政職給料表 30 277,900 1650
栄養士 医事職給料表 13 173,700 1032
管理栄養士 医事職給料表 194,700 1156
言語聴覚士・作業療法士 医事職給料表 19 184,400 1095
獣医師 医事職給料表 15 213,600 1269
と畜検査員 医事職給料表 39 245,600 1459
准看護師 保健看護職給料表 169,900 1009
看護師 保健看護職給料表 209,100 1242
保健師 保健看護職給料表 13 218,600 1298
助産師 保健看護職給料表 13 218,600 1298

出所:「旭川市会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例施行規則」及び「旭川市職員の給与に関する条例」より筆者作成。時間給は、給料月額と1か月の週数及びフルタイム勤務者の勤務時間数(週38時間45分)から単純に算出した。

 

 

3)期末手当の支給に関する経過措置について

期末手当は、一度に満額が支給されるような制度設計にはならなかった。経過措置が設けられている。この点を市からの回答に基づき整理すると、概略、以下のとおりである。

第一に、この経過措置とは、新制度の導入で期末手当(2.55か月。2021年4月当時)を支給するにあたり、期末手当の金額を給与に単純に上乗せするのでは、市の財政が悪化して人員整理の必要性が発生してしまうことを回避するために設けられた措置であるという。

その具体的な内容とは、期末手当を支給しても財政が悪化しないよう給料水準(月例給)の「見直し」(後述のとおり、およそ半数の者にとっては引き下げ)を行いつつも、期末手当の一部を支給することで、年収ベースでの水準は改善されることになる、というものである。

 

図Ⅱ-1 会計年度任用職員に対する期末手当の支給月数

出所:旭川市からの回答より作成。

 

第二に、図Ⅱ-1のとおり、支給される期末手当は、初年度にあたる2020年度は0.5か月分である。そこから2023年度にかけて0.5か月分ずつ上乗せをしていき、最終年度である24年度に2.55か月分が支給されることになる。都合5年かけて期末手当の全額支給に到達することになる。

第三に、会計年度任用職員の全員で給料水準が引き下げられるわけではない。相対的に給料水準の低いものは、逆に、給料が引き上げられた上で、期末手当の一部支給が開始される。

その「給料水準の低いもの」とは、総務省が示す給料水準の基準の一つである、行政職高卒初任給に該当する「行政職給料表1級5号給」に金額が満たないものである。金額は、時給に換算するとおよそ980円程度になる(2019年度当時)。

第四に、よって、時給980円未満の職(例えば、給食調理員・配膳員、フルタイム学校用務員など)については、2020年度において、時給水準で給料が980円まで引き上げられた上で、期末手当の一部支給が開始された。彼らは、経過措置の対象外である。

一方、時給980円以上の職については、月当たりの給料の水準は下がることになった。但し、繰り返しになるが、期末手当の一部支給によって、年収水準は下げられないという措置がとられた。

なお、期末手当の一部支給の率(月数)は両者とも同様である。

以上が、期末手当の支給に関する経過措置についての旭川市からの回答である。

計算式とあわせて、2021年度の1か月当たりの支給額について具体例が示されたので表Ⅱ-5に整理しておく。

 

表Ⅱ-5 経過措置における1か月当たりの支給額の計算式と具体例

注:本来の支給⽉数は2.55⽉となったが、期末手当抑制分の算出においては、制度導⼊時から変更せずに2.6か⽉で固定。
出所:旭川市からの回答・資料より作成。

 

4)追加の質問と回答

以上の回答を踏まえた上でなおよく分からなかった二点を尋ねた。

第一は、会計年度任用職員の期末手当の支給に必要な金額は、国から交付されたのではないか、という点である。

もし期末手当支給分が国から交付されていれば、支払いは問題なくできた、と考えるのが一般的な見方ではないかと思ったからである。もちろん、お金には色がついていないので、そう簡単ではないという意見もあるかもしれない。この点を尋ねた。

市からの回答は、概略次のとおりである。すなわち、会計年度任用職員の期末手当の導入にあたり、地方交付税の算定要素とはなっているものの、期末手当支給分がいくらかは不明であるため、本市の財政事情を考慮し人員整理の必要が生じないよう経過措置を設けた、とのことである。

第二は、時給980円「未満」の職と980円「以上」の職が、人数ベースでは、それぞれどの位であったのか。とくに後者、すなわち、経過措置の対象となった者がどの位いたのかを尋ねた。

市からの回答は、令和2(2020)年11月12日時点のデータによれば、任用者数1888人のうち、経過措置対象者は908人とのことであった。つまり、全体のうちおよそ半数を占めることになる。

 

 

5.2022年度末の会計年度任用職員の離職状況と対応等

札幌市の会計年度任用職員の離職状況を川村(2023b)にまとめたが、会計年度任用職員の公募や離職に関する情報を把握することは、任用制度のあり方を検討する上でも重要であると筆者は考えている。では、旭川市の状況はどうか。市からの回答は概略以下のとおりである。

 

1)会計年度任用職員の離職者数

第一に、2022年度末の旭川市の会計年度任用職員の離職者数は、当初、離職通知を出した時点(2023年3月16日時点)では、202人であった。しかし、同年4月1日時点では、202名のうち29名が他の部局で継続任用されていたので、最終的な離職者は173人である。

3年公募の対象は約1200人だったので(但しこの人数には、市立旭川病院の分は含まれていない)、約85%は、同じ部署か異なる部署かはともかく、会計年度任用職員として旭川市で継続任用されている計算になる、とのことであった。

なお、二点を補足する。一つには、上記の離職者の202人(当初)ないし173人(最終)のうち、公募に落ちた人数や、離職の理由(期間満了を機に「自己都合」で離職、公募に落ちて離職など)については、把握はされていない。

今一つには、市立病院における2022年度末の公募対象者は224人で、そのうち216人が継続での任用となっていることが追加で回答された。

 

2)大量離職通知書の作成状況

第二に、労働施策総合推進法第27条に基づく「大量離職通知書」は、札幌市と同様に、旭川市においても、2022年度(末)に初めて作成されハローワークに届け出られていた。

あわせて旭川市では、離職者に対する支援が行われていた。具体的には、大量離職通知書の「⑦再就職の援助のための措置」には「非常勤職員(会計年度任用職員)のうち、希望者に対して、必要に応じて別部署での募集を案内。」と記載され、当事者が希望をすれば、別の部署での仕事が紹介されている。例えば、随時生じる臨時的な職や、離職者が発生した職などを紹介している、とのことだった。

なお、大量離職通知書は後日に市からご提供いただいた。資料として掲載する。先述のとおり、202人の離職が予定されていたが、最終的には離職者数が173人となっていることに留意されたい。

 

3)公募対応への負担など

第三に、会計年度任用職員の人数が多いため、公募への対応の負担が非常に大きいのではないかとあらためて市に尋ねた。市からの回答は、概略次のような内容であった。

制度導入後、今回初めて公募を行ったところなので、検証が必要ではないかと考えられている。そもそも、どれぐらいの応募があったのか、資格を必要とする職では応募が少なかったのではないか、などなどの事実を踏まえて、公募のあり方を検討していくことになるのではないかと考えられている。今回は、初めての公募であったため、国の助言を踏まえて設定したけれども、この点については、これからの課題である、とのことだった。

関連して、組合との交渉において、組合側からは、公募(最初の公募を除く3年公募)は撤廃すべきではないか、と主張されているとのことである。

この点について市の見解では、確かに、雇用の安定という観点からみれば、公募を行わないことが理想ではあるものの、機会均等のことを意識せざるを得ない。すなわち、市民からは、同じ人ばかりが雇われているというような声が聞かれる。また公募の際に、幸い、採用枠を超える人数が応募してきている、という現状もある。以上のような状況から、公募を撤回するという判断には今回は至らなかった、とのことであった。

なお、総体としてみれば採用枠を超える募集があったものの、職種ごとに細かくみていったときには、応募件数が採用枠に満たなかった職種もあると思われること、とくに、保育士や看護師など資格を要する職種は、欠員が出たときにもなかなか応募が来ないこと、勤務条件が好ましくないと思われている節があるのかもしれないこと、などを追加で教えていただいた。

 

 

6.会計年度任用職員の人事評価制度について

旭川市における会計年度任用職員の人事評価制度の内容は、「旭川市会計年度任用職員人事評価実施要綱」に取りまとめられていることを後日に市に教わった(「要綱」自体も後日にご提供いただいた)。ここでは、調査当日に市から聞いた話と、「要綱」に記載された内容とをあわせて紹介する。

第一に、「要綱」によれば、人事評価とは「業績評価及び能力評価を把握した上で行う勤務成績の評価」を指し、「業績評価」とは「要綱の定めるところにより、会計年度任用職員が与えられた業務上の指示や目標へ取り組んだ態度を評価すること」を、「能力評価」とは、「要綱の定めるところにより、会計年度任用職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力を評価すること」を、それぞれ指すとある。

第二に、会計年度任用職員に対する人事評価は、所属長というよりは、直接その業務指導・指示をする職員(係長職以上)が行えるような制度設計にしている。所属長との距離が「遠い」職場もあるためである、という。

「要綱」上の整理では、評価者は、「被評価者に対して日常の業務上の指導又は監督を行っている係長職以上の職位の職員」である。

第三に、成績評価は、「要綱」上はABCの3段階である。但し、人事評価制度は、そもそも人材育成が主たる目的であるため、いたずらに厳しい評価をするような運用はしないよう周知しているとのことである。

なお、具体的な評価内容は、Aが「能力発揮の程度及び頻度が十分」、Bが「能力発揮の程度及び頻度が普通」、Cが「能力発揮の程度及び頻度が不十分」を指す。

第四に、人事評価に対する疑義や苦情があった場合には、申し立てが可能な制度設計になっている(申し立ては、所管部局の庶務担当課長に対して行われる)。但し、これまでに使用実績はないとのことである。

なお、人事評価に対する申し立てとは別に、公平委員会において、勤務条件や勤務環境に対して申し立てが可能になっているという。

第五に、会計年度任用職員には登録制度が設けられている。この登録制度は旧制度時代から存在したもので、当事者から履歴書を預かり、離職者が発生した職があれば市から声かけをさせていただくという内容である(履歴書の保管のみで、システムへの情報登録などは行っていない)。

登録は年度単位。1年度が過ぎれば再度登録してもらう。特別な書類を採用するのではなく、申し込みをしていただく際に、任用を希望するか、という欄が書類にあって、希望者にはそこにチェックをしてもらうだけで済む。そのことで、職種の希望や働き方・勤務時間数の希望情報などが登録されることになる、とのことであった。

 

 

7.その他

その他として、新制度の現状に対する評価や苦労・課題、今後の予定などを尋ねた。

第一に、新制度のことは議会で取り上げられていないのか、また、取り上げられているとすればどのような点が取り上げられているかを尋ねた。

市からの回答によれば、新制度の取り上げられ方については、議会全体ないし多くの会派で取り上げられているというより、特定の会派・議員が取り上げている状況にある。また、取り上げられている内容は、主として、公募のことと給与のことが中心である、とのことであった。

第二に、本文でもすでに言及しているが、とくに公募に関して、現状のような方法で問題はないのか、何か見直しなど考えていないかを尋ねた。

回答を整理すると、市としては、今回の公募をまずは検証してみることになると思うとのこと。加えて、過去の検証については詳細を行うのは難しいと思っていること。どの位の応募があってどの位の職員が継続任用されたのかを職種毎に検証するのがせいぜいできることではないかと考えていることなどが示された。

市の回答によれば、そもそも、条例、規則以外ではあまり明確化されたものはないという。公募省略の回数(2回)についても、とくに条例には明文化されていない。新制度がまだ流動的な面もあったということと、制度設計にあたっては、総務省の例示を参考にしていくしかなかったというのが正直なところであり、4回の公募を経験した現在、地域の実情などにあわせていくことになると考えているとのことであった。

なお、現場では、同じ職員を継続で任用できたほうが負担も少ないし、その希望も現場にあることは市も認識している。

第三に、後者(給与)に関しては、市としても、できることをしていきたいと考えていることが示された。

関連して、人事院勧告への対応、4月遡及が昨年度も行われていること。生活給は維持ないし改善ができれば、と市として考えていること。組合との交渉の場でも、会計年度任用職員の方が参加されて、任用の実態について直接報告を受けていることなどが回答として示された。

第四に、その他の課題として市が意識しているのは、勤勉手当が支給されることになった際に、人事評価との整合性を考える必要があること。休暇は、財政的な問題と関係なしに改善していける部分もあるので、柔軟に考えていきたいことである。

一方で、会計年度任用職員の処遇をあげていくと財政上の負担がかかってきて、事業の縮小をせざるを得ないとか、数こそ少ないが正規職員の置き換えを進めざるを得ないなどの事態にならないかという問題意識もあることが示された。

最後に、民営化、行政のスリム化という課題は、旭川市も他の自治体と同じ程度に存在する。但し、具体的にどこを民営化するかなどの話を現時点でとくに進めているわけではないとのことであった。

 

 

Ⅲ.まとめに代えて

札幌市に続き、会計年度任用職員を中心に旭川市の非正規公務員の制度と労働条件に関する調査の結果をまとめた。

市からの聞き取り等に基づき、制度等の概要を把握したにとどまり、労働者側(労働組合、会計年度任用職員当事者)や議員・議会からの調査が課題として残されているため、ここでは、会計年度任用職員の制度等を中心に、調査結果から二点を言及するにとどめる。

第一に、旭川市に限ったことではないが、会計年度任用職員が様々な部局に多数任用されていること、また、彼らが配置されている業務は基幹的な業務であることなどがあらためて示された。

旭川市では、旧制度下で設けられていた空白期間や勤続上限は廃止され、同じ職場・仕事で働き続けられることは可能になったとされる。しかし、3年公募制は導入されている。いずれの職種においても例外はない。働き続けるためには公募をクリアする必要がある。

新制度導入時にも全員の公募が行われた。公募の周期で離職が一定数発生していると筆者は予想していたが、3年の公募を待たずに、毎年の再度任用時においても、2割ぐらいの職員が入れ替わっているという。

旭川市で今回初めて作成された「大量離職通知書」では、離職通知を届け出た段階では202人の離職が予定されていた(最終的な離職者は173人にまで減少)。

以上のような公募制や離職の発生は、行政サービスの提供に影響を与えていないだろうか。また、そもそも、離職者の離職の理由は何であるのか。明らかにしたい。公募の検証作業への着手が市に言及されたので、注視したい。

なお、勤務時間数でみると、正職員同様に38時間45分働くフルタイム型の会計年度任用職員が550人、パートタイム型が1104人であった。

第二に、旭川市会計年度任用職員の賃金水準は低いことが示された。

基準となる職種・金額として、事務補助員の給与が高卒初任給程度(1級5号俸、154600円)に定められていた。時間給を試算したところ北海道の最低賃金水準にとどまる。部局をこえて人数の多い専門補助員の給料月額は、164100円である。最低生計費調査の結果に基づき研究者や労働組合によって提起されている時給1500円を超えている職種は、学校教諭のみである。

昇給はあるが、原則5年が上限で、事務補助職員では大卒初任給に該当する1級25号俸(185200円)が上限である。

新制度の導入で期待された期末手当は旭川市でも支給されていた。但し、一度に満額の支給とはならず、経過措置が設けられていた。また、一定の給与水準(行政職高卒初任給程度、当時の時給で980円)を超える職については、月当たりの給料水準が引き下げられていた。人数ベースでは、全体のうち半数である。こうした給与の見直し措置は、市の財政悪化による人員整理の発生を回避するためと市からは説明された。

但し、年収ベースではいずれの職員も給与は改善がされていることが確認された。

その他に、フルタイム型の会計年度任用職員には退職金が支給されている。

(続く)

 

 

謝辞

旭川市総務部人事課のみなさんに大変にお世話になりました。ここに記して深く感謝申し上げます。ただし、本稿に残りうる一切の誤りは筆者の責任です。

 

 

<主な参考文献>

川村雅則(2013)「官製ワーキングプア問題(Ⅰ)地方自治体で働く非正規公務員の雇用、労働」『北海学園大学開発論集』第92号(2013年9月号)pp.161-212

────(2021a)「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)pp.2-19

────(2021b)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状──2021年調査に基づき」『北海道自治研究』第634号(2021年11月号)pp.2-21

────(2023a)「北海道及び道内市町村で働く624人の会計年度任用職員の声(2022年度 北海道・非正規公務員調査 中間報告)」『北海道労働情報NAVI』2023年1月5日配信

────(2023b)「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告──公募制と離職に関する情報の整理」『北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)pp.17-37

上林陽治(2021)「会計年度任用職員白書 2020」『自治総研』通巻514号(2021年8月号)pp.26-56

 

 

 

資料1 2020総務省調査に基づく旭川市の非正規公務員

表1 任用形態別×勤務期間・時間別にみた非正規職員数/単位:人

非正規職員合計 会計年度任用職員 特別職非常勤職員 臨時的任用職員
短期間・短時間勤務者を除く フルタイム6か月以上(a)+パートタイム6か月以上かつ19時間25分以上(b) フルタイム6か月未満(x)+パートタイム6月未満又は19時間25分未満(y) 6か月以上かつ19時間25分以上(a) 6か月未満又は19時間25分未満(x) 6か月以上(b) 6か月未満(y)
旭川市 2,309 1,507 2,043 1,507 536 266 0 266 0 0 0

出所:2020総務省調査により作成。

 

表2 職種別にみた会計年度任用職員数、うち「パートタイム」型会計年度任用職員数/単位:人

合計 一般事務職員 技術職員 医師 医療技術員 看護師等 保育士等
うち事務補助職員 うち看護師 うち保健師 うち保育所保育士
旭川市 2,043 612 196 0 24 36 108 66 18 66 62
うちパートタイム型 1,485 517 108 0 14 23 74 51 6 38 35
給食調理員 技能労務職員 教員・講師 図書館職員 その他
うち清掃作業員 うち義務教育 うち義務教育以外 うち生活相談員 うち放課後児童支援員
386 432 47 21 21 0 79 279 0 0
303 151 2 11 11 0 77 277 0 0

出所:表1に同じ。

 

 

資料2 旭川市の大量離職通知書(2022年度)

 

 

 

[1] 筆者は、新制度については、(a)総務省の調査データを活用した集計・分析作業の結果を川村(2021a)にまとめ、(b)政令市である札幌市の新制度を調べて川村(2021b)や川村(2023b)に整理し、(c)当事者(会計年度任用職員)を対象としたウェブアンケート調査の結果を川村(2023a)にまとめている。

[2] 当時は、労働組合のご協力で当事者(臨時・非常勤職員)を対象としたアンケート調査も実施したが、今回は、市からの聞き取り結果のみである。今後、労働組合側からも話を聞かせていただく機会を作りたい。

[3] 総務省では、2020年4月1日を基準日にして、2つの調査──「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査」及び「会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」(以下、2020総務省調査)が行われている。

[4] この点を尋ねたのは自治体が保有している情報に基づき、非正規公務員の就業・生活の状況や任用経験、離職の状況などを統計的に明らかにし、任用の方針や任用条件の整備などに反映させられないか、という問題意識に基づく。

[5] 札幌市では個々の職員を追うことができないシステムになっている。自治体によって情報システムは異なるようである。川村(2023b)を参照。

[6] 総務省「地方自治法の一部を改正する法律(令和5年法律第19号)」。成立日は令和5年4月26日。施行日は、一部の規定を除き令和6年4月1日。詳細は総務省ウェブサイト「新規制定・改正法令・告示 法律」より。

https://www.soumu.go.jp/menu_hourei/s_houritsu.html

[7] 総務省の説明によれば、「専門的な知識経験等を有する者が就く職であって、その職の性質上、公務に従事する時間や期間も短く、随時、地方公共団体の業務に参画する労働者性の低い職」である。

[8] 上林(2021)を参照。

[9] 週29時間が多い点について、勤務時間数がフルタイム勤務者の4分の3以上であると手当支給の根拠となっていた時代の「名残」ではないかを後日に市に照会したところ、そのような理解で問題ないとの回答を得た。

新制度の下では、フルタイム勤務者より勤務時間数が週1分でも短ければパートタイムに分類され、諸手当の支給対象にもならないことが政府の答弁で明確になっている。その事実を踏まえると、週29時間勤務にこだわる必要は必ずしもないのではないかと筆者は思った。

もちろん、その際には、均等待遇が前提であり、勤務時間数による処遇格差が容認された新制度の設計そのものの是正が必要である。

[10] この点、すなわち、期末手当の支給によって、基本的には、会計年度任用職員の年収は増額されていること、年収ベースで収入が下がった職員がいないことは、後日にもあらためて市に確認をした。

 

 

 

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