安田真幸(2022)「労組4団体によるILO第122号条約(雇用政策条約)に関する専門家委員会への情報提供」『NAVI』2022年9月1日配信
連帯労働者組合・杉並、ユニオンらくだ、連帯労働者組合・板橋区パート、あぱけん神戸(以下、4団体)では、ILO事務局長宛てに、ILO第122号条約(雇用政策条約)に関する情報提供を、2022年9月1日付で行いました。連帯労働者組合・杉並の安田真幸さんからの情報提供です。どうぞお読みください。
前文
2017年、日本政府により地方公務員法が改定されました。私たちは、この法改定が非正規地方公務員の労働組合の有する労働基本権を一方的に奪うものであり、日本政府の批准する87号、98号条約に明らかに違反するものであると考え、2017年の5月24日に結社の自由委員会に申立しました。しかし2018年11月、私たちの申し立ては結社の自由委員会で不受理とされてしまいました。そこで私たちは2019年に専門家委員会に「情報提供」を行いました。その後も、2020年、2021年と継続して情報提供をしてきました。
2017年の地方公務員法の改定は労働基本権の問題にとどまらず、雇用政策の面においても重大な問題を引き起こしています。政府(厚生労働省)は非正規労働者の雇用安定と均等待遇実現に向け、労働契約法や有期・パート労働法を改正してきました。しかし、非正規地方公務員に対しては、これらの雇用政策とは真逆の雇用不安定化と差別的待遇政策をとっています。その原因は、非正規地方公務員の労務政策を総務省が担当しており、厚労省が口出ししにくい構造となっていることにあります。
そこで私たちは今回新たに、非正規地方公務員の雇用不安定化政策に絞って、122号雇用政策条約の観点から情報提供を行うこととしました。その具体的内容は、下記の「122号雇用政策条約に関する情報提供」をご覧ください。
日本政府(総務省)が進める非正規地方公務員の雇用不安定化政策を改めさせるため、専門家委員会がディーセント・ワーク確立に向けた「見解」を示されることを強く要望します。
以上
122号雇用政策条約に関する専門家委員会への情報提供
<求める見解の具体的内容>
1 政府(総務省)は、従来通りの「更新」を認め、非正規公務員当事者に過大な負担を与える「毎年の公募選考が必須」との助言を撤回すること
2 多くの自治体が今年度末に予定している「3年ごとの公募選考」を中止すること
3 公務員法の「無期原則」にのっとり、非正規公務員の無期雇用を実現すること。最低限、労働契約法にある「無期転換権」を非正規公務員にも適用すること
<日本政府の非正規労働者に関する雇用政策の基本>
122号雇用政策条約に関する2013年日本政府報告書では、非正規労働者について、「雇用が不安定であり、賃金が低い等の問題が指摘されており、正規・非正規の二極化の解消に向け、正規雇用を希望する非正規雇用労働者の正規雇用化を進めるとともに、正規・非正規にかかわらず、労働者が安心して生活できる環境を社会全体で整備することが重要であると考えている。」との基本認識が示されている。
この基本認識に基づき、「①有期労働契約が繰り返し更新された場合に、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み、②判例で確立された雇止め法理(一定の場合には、使用者による雇止めが認められないルール)の法定化、③有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール」を定めるための労働契約法改正を行い、2013年4月から施行する、とも述べている。
<非正規公務員の置かれた状況>
しかし、これらの労働契約法改正の成果は非正規公務員には適用されない。非正規労働者の雇用安定をはかる「労働契約法」、労働条件の差別的取り扱いを禁ずる「パート・有期労働法」を公務員には適用しない、との条文があるためだ。このため、非正規公務員はその使用者である政府・自治体の一方的裁量による雇用政策の下に置かれている。
非正規公務員は、国で約15万人、自治体で1,125,746人に上る。自治体正規公務員が2,762,020人であるから、自治体の非正規率は30.0%にのぼっている。自治体非正規公務員の76.6%が女性であり、正規・非正規がほぼ同数である自治体も少なくない。これら非正規公務員は公務員法制の基本である「無期雇用」、「身分保障」、「適切な賃金・労働条件」原則から外され、一般の労働法制からも排除されている。この現状を私たちは「法の狭間に置かれた」非正規公務員と呼びならわしてきた。
私たち労働組合は、これら「法の狭間に置かれた」非正規公務員の雇用安定と差別的賃金・労働条件の改善に向けて力を注いできた。私たちに共通するスローガンは「任期の定めのない短時間公務員制度の創設を!」、「労働契約法やパート・有期労働法の適用を!」である。
<2017年地方公務員法改定の問題点>
1 自治体非正規公務員のほとんどを、新たに創出した「会計年度任用職員」に切り替え、「1年任期」を法定化したこと
① 日本の公務員法制は「無期を原則」としている。唯一の例外として「1年以内に終了する臨時的業務」にのみ「任期1年以内」を定めていた。この意味において、公務員法制は有期雇用の「入口規制」を採用してきたのである。
② しかし総務省は公務員法の原則を踏みにじり、会計年度任用職員制度新設により、臨時的ではない恒常的業務に「任期1年」を導入する法改定を行った。入口規制の公務員法制を変質させたのである。会計年度任用職員は、学校、図書館、保育園、学童保育、児童館、市民窓口や各種相談員など、恒常的・継続的業務に従事しているにもかかわらず、である。
③ なぜか? 自治体の都合に合わせて容易に雇止めできるからである。雇止めの理由は業務量の変動に止まらない。民間委託推進や正規職員退職後の働き口確保度を理由としても行われている。最大の問題は恣意的な人事評価により、産休・育休や病休により出勤できない者、組合活動に熱心に取り組む者、上司に臆せず意見を述べる者、などへの雇止め=排除が現実に行われていることにある。
2 従来の「更新」を「毎年改めて採用」と解釈変更し、「3年ごとの公募制」を助言していること
① これまで自治体非正規公務員は、1年雇用であっても「更新」によって雇用を継続されてきた。しかし総務省は法改定を契機に「更新」を認めず、「毎年、改めて公募して採用する」との解釈変更を自治体に徹底した。この強引な解釈変更は、長年働いてきたベテラン職員でも新規採用として扱い、毎年「試用期間」がついて回る、という労働者の尊厳を傷つける運用に結果している。
② この解釈変更により、「毎年雇止めを行う ⇒ 毎年改めて公募を行い、新たに応募してきたものと競わせて改めて採用し直す」という手順を踏むこととなる。このため、再び採用されるか否かは自治体当局の自由裁量となる。会計年度任用職員は毎年度末ごとに「雇用継続されるだろうか?」という脅威にさらされている。
③ しかし毎年の公募選考は、膨大な事務量となる。公募⇒書類選考⇒面接・試験⇒採用決定、の手続きを踏まなければならないからだ。このため総務省が打ち出したものが「3年ごとの公募制」である。「1年任期を2回は勤務実績により更新し、3年経過後に公募選考にかける」というやり方である。2020年総務省調査によれば、この総務省の助言を受け入れ「3年や5年などの公募制」の自治体が42.3%、毎年公募にかける自治体が42.2%、となっている。
④ このため、現場からは雇用継続への不安の声や心理的に追い込まれている声が多数寄せられている。実質的に採用権限を持つ上司に従順でなければ採用されにくくなるところから、「パワハラ公募制」とも呼ばれている。今年度末以降は、数十万人の会計年度任用職員が雇止めと公募選考にさらされようとしている。
⑤ この「3年ごとの公募制」は、先行する国の期間業務職員制度にならったものである。国の期間業務職員の組合員を有する国公労連は、「非正規公務員に無期転換を!オンライン署名」に取り組み、5月27日に政府に署名を提出し、現場からの要求を訴えてている。
3 裁判所からの指摘に逆行し、社会的対話もない法改定
① 2007年の東京都中野区保育士雇止め事件において、東京高裁は「本件においては、一審原告らの主張するように私法上の雇用契約の場合と、公法上の任用関係である場合とで、その実質面で差異がないにもかかわらず、労働者の側にとってその法的な扱いに差が生じ、公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利になることは確かに不合理であるといえる」、「反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即応した法の整備が必要とされるところである」と判示している。しかし、総務省は指摘された法整備を怠り、実質に逆行する法改定で答えた。あわせて、裁判に負けないように「更新ではなく、毎年の公募採用」との解釈変更も行ったのである。
② そもそも戦後公務員法制は公法・私法の区分によらず、一律に労働法適用として出発した。労働基準法や労働組合法が全面的に適用されていたのである。しかし、労働基本権剥奪と同時並行的に労働法の適用除外が進められていった歴史的経過があり、近年ますます加速している。
③ 今日に至っては、公務員への労働法の適用と適用除外は複雑を極め、法律の専門家においてさえ全体を理解することは極めて困難である。ましてや非正規公務員には謎だらけだ。みずからの法的地位を理解できないような入り組んだ公務員法体系は改められなければならない。
④ さらに言えば、法改正に当たっての社会的対話=三者協議原則がないがしろにされていることがある。一般労働法の改正に当たっては、厚労省が事務局となり「公・労・使」の「労働政策審議会」によって審議される。しかし公務員法の改正に当たってはそのような審議会はない。日本政府の批准する本条約3条および144号「三者の間の協議条約」の趣旨に反する現実もまた改められなければならない。
<結語>
以上述べたように、「3年ごとの公募制」廃止と無期転換制度導入は国と自治体の非正規公務員に共通する切実な願いである。大多数が女性である非正規公務員の雇用を安定させ、安心して働き続けられる雇用政策を日本政府が確立するよう、専門家委員会からの見解が表明されることを切に願うものである。
非正規公務員の実情については、別紙の私たち4労組と協力団体からのレポートを参照いただき、その窮状をぜひ理解していただきたい。
【別紙:報告】
連帯労働者組合・杉並/木下 忠親
122号条約に関して、改定地方公務員法施行後の杉並区での状況を報告します。
1 仕事はなくならないのに「1年任用」を理由に毎年雇用を打ち切り、毎年「試用期間」
まず杉並区役所がどのような労働者によって支えられているかを見てください。決して安定した労働者だけが公的サービスを支えているのではないことがわかるはずです。
常勤職員とそのOB/OG | 会計年度任用職員
(全員パートタイム) |
特別職★4
非常勤 |
委託先
労働者 |
||
常勤 | 再任用★1 | 恒常的業務★2 | 臨時的業務★3 | ||
3,309 | 445 | 2,337 | 209 | 976 | 3,986 |
3,754 | 2,546 | ||||
総 計 | 11,262 |
数値は2022年4月1日現在。委託先労働者の数値のみ2021年4月1日現在
業務が1年以内に完結する臨時的任用とされる1年以内の限定雇用の非正規職員(★3)は209名です。
一方、仕事はなくならないのに「1年任用」とされている非正規の一般職(★1~2)が2,782名(うちOB/OGではない★2が2,337名)、特別職(★4)も976名もいます。
単純にいうと、仕事はなくならないのに毎年3,000名以上をクビにしているのです。
これが問題でなくて何が問題になるでしょうか?
特別職のほうは、非専務職とされ、代表的な職種では学校医(医師)や法律相談(弁護士)で、他に安定した収入がある人たちです。
深刻なのは★2の人たちです(★1はもと正規で退職金ももらった人たちである)。この★2の人たちには、★1の人たちとは違って、毎年「1ヶ月の試用期間」があります。これは当該★2の職員を不安の極みに陥れるほか、評定する職員に業務負担と心理的な苦痛を与えています。
例えば、評定者は通常に管理職とされるはずですが、職場によっては一人で100人以上を対象にしなければならず、結局は管理職ではない係長級職員が補助者として評定を強いられています。4月に着任したばかりで当事者の状況などを全く知らない職員が実際の評定をすることもあるわけです。評価する側もされる側も心理的な重荷にならないわけがありません。
2 6年たったら「公募」により、ふるいにかける
冒頭の情報提供で3年での「公募」問題を取り上げました。
杉並の場合は6年です。この再応募の強制については、年によって違いますが毎年300~400名が対象になっています。★2の職員が対象です。
この制度は、毎年、雇い直しをしているという仕組みがあるのに、定期的なふるい落としのために、行っているものです。杉並では私たち組合の闘いを抑え込むものとして機能してきました。まさに団結破壊、団結未然防止の機能として。
杉並では1980年代後半から導入されていますが、当事者に動揺、精神的苦痛と圧迫、非人間的なふるまい(不採用を恐れて正当な要求をすることをためらわせること、採用権限のある上司からのパワーハラスメント、上司へのご機嫌取りなど)を強いる最悪の制度でもあります。
職務に精通し、職場からも信頼される職員に応募をさせ、新たな応募者と一緒に競争させているわけですから。
再応募し再採用されればまだしも、実際に働きぶりや年齢などを表向きの理由として、上司の意向次第で弾かれる労働者がいます。
労働者の抗議に当局者は言うでしょう。「クビにしたのではない。雇わなかっただけ」と。
3 困難な立場にいる人にこそ労働基本権が必要なのに
2021年3月31日日本政府は、地公法改定により杉並区ふくめ全国22万非常勤から労働基本権をはく奪しています。杉並区では★2の職員からはく奪しました(当組合ほか3団体の2017年申立てを参照してください)。
はく奪後は常勤の一般職と同様に労働基本権が制約された状態ですが、常勤と同様の代償措置が完全に保障されていない問題があります(身分保障、人事委員会勧告の対象外など)。
4 専門家委員会の皆さまへ
2020年、2021年に続き、労働基本権の確保を直ちに行うことを日本政府に対して強く働きかけていただけるよう希望します。
そして同時に
- 毎年大量の労働者を雇い止めにしていること
- 3年などのふるい落としで労働者を脅迫し実際にクビにしていること
- 民間で行われている無期転換の仕組みが適用されないこと
について、122号条約の趣旨に基づいて厳正な勧告をお願いします。
以上
ユニオンらくだ(京都自治体関連労働者自立組合)/卜部 昌則
1.はじめに!
2020年4月1日から、日本政府は、会計年度任用職員を制度化し、地方自治体で働く非正規職員から、公務員としての身分保障を不充分にしたまま、労働基本権をはく奪しました。これに対する私たちの情報提供に、ILO専門家委員会の方々は、日本政府に対して強い懸念を示していただきました。
さらには、日本政府は、会計年度任用職員には、継続雇用を適用していません。このことで、会計年度任用職員は、雇用が、とてつもなく不安定なものになりました。もちろん、民間労働者は、当然のことながら、継続雇用については法的に保障されています。
このことについても、専門家委員会の方々が、日本政府に対して見解を示していただきたいというのが、今回の情報提供の主旨です。
2.京都市における会計年度任用職員制度化以前の労働組合活動について!
2020年3月31日までの30数年間、私たちは、労働組合法が適用される特別職非常勤嘱託職員でした。ユニオンらくだ・非常勤嘱託職員部会という労働組合を結成し、労働組合活動を行ってきました。
団体交渉が進展せず暗礁に乗り上げた場合にはストライキを行い、不誠実な団体交渉に対しては労働委員会への申立てを行ってきました。私たちは、このような労働組合活動の中で、労働条件の改善を長い年月をかけて漸進的に勝ち取って来ました。
団体交渉は、次年度の労働条件を巡って行いました。同時に、団体交渉の中で次年度も雇用が継続することを確認してきました。何故か?次年度の雇用継続が保障されていない中で、次年度の労働条件について交渉することなど、まったく意味がないからです。そして、団体交渉で次年度の雇用継続について確認できることは、私たちにとって大きな安心となっていました。
3.京都市における2020年4月1日からの私たち!
しかし、会計年度任用職員の制度化は、「一年ごとの任用」「再度の任用」「4度目の再度の任用の後に公募」「65歳以上は毎年の公募」を導入し、労働基本権をはく奪したことで、団体交渉での次年度の雇用継続の確認もできなくなっています。
「人事評価制度」を導入し、もっとも低い評価であったり、懲戒処分(免職でなくても)を受けたりすると、「再度の任用」に影響し失職することになります。このようなことは、正規職員ではありえないことです。この「人事評価制度」は、会計年度任用職員の「能力の向上や職場の活性化」を目的として導入されましたが、それはあくまでも当該年度の評価であり、いくら良い評価をされたとしても「再度の任用」を判断する際には活かされないことが明らかになっています。
具体的な事例を示せば、昨年度(2021年度)の人事評価で良い評価を受けていた65歳に達した一人の会計年度任用職員は、公募に懸けられた結果「再度の任用」が叶わず、本人の意志に反して失職しています。その時、代わりに任用されたのは、退職した幹部職員です。この退職者を「新たに任用」するために、長年働いていた一人の会計年度任用職員を不採用にしたということになります。全ての会計年度任用職員は、「4度目の再度の任用」を終えた2023年度の末に、来年度の採用が危ぶまれます。恐ろしいことです。
このように、会計年度任用職員制度は、任命権者の恣意的な判断で、会計年度任用職員の生殺与奪の権を握ることができるという恐るべき制度なのです。この恐怖があるために、会計年度任用職員は、任命権者・所属長に従順さを強いられ、これまで以上に職務に奮闘することを強いられます。体調不良や罹患時でも、休暇制度を使うことを躊躇してしまいます。過重労働が常態化し、病気退職に追い込まれてしまいます。ひいては、会計年度任用職員が声を上げることを躊躇し、労働組合への加入をためらい、労働組合活動に大きな影響を及ぼすことにもなりかねません。
また、「雇用継続要求」や「再度の任用拒否」について、人事当局は、管理運営事項であり団体交渉事項になじまない、として労使間での解決から逃亡しています。不誠実団交として労働委員会への申立てもできません。職員の救済機関でもある人事委員会は、「再度の任用拒否」は処分ではない、身分を失っている以上人事委員会の救済対象とはならない、としています。会計年度任用職員には、救済申立て、不服申立ての場すらないのです。
このようなことでは、労働組合活動が阻害されるばかりか、労働者としての就労不安、生活不安も増すばかりです。いったい、どうすればいいのかと途方に暮れてしまいますが、日本政府が、労働基本権を付与し継続雇用を保障する、という労働者としての当たり前の権利を会計年度任用職員に付与することが、解決方法の一つではないか、と考えます。
4.最後に!
はじめにでも申しましたが、ILO専門家委員会の方々が、継続雇用が保障されず生活不安にさらされ、労働組合活動も阻害されてしまうような、会計年度任用職員の苦境をお察しいただき、民間労働者同様の継続雇用にするよう、日本政府に強い懸念をお示しいただければ幸いです。
連帯労働者組合板橋区パート/高井 由季子
連帯労働者組合板橋区パートは、板橋区で働く「会計年度任用職員」の組合です。
2022年4月現在、板橋区では、3,529人の常勤職員が働いています。そして1,155人(女性971人 男性184人)が会計年度任用職員として働いています。
1994年、児童館で働く「嘱託職員」1名が、勤務日数を減らすと通告され、地域の合同労組「連帯労働者組合」に加入しました。
板橋区との交渉の結果、労働組合法及び労働基準法上の労働者であることが確認され「特別非常勤職員」として配置されることが決まりました。
その後、2020年3月まで労働基本権を行使し、安定した雇用と労働条件の改善を実現しました。
その中で特に重要だったのは次の2点です。
(1)2005年に学童クラブで働いていた「臨時職員」を「特別職非常勤」に切り変えたことです。臨時職員の契約は、仕事は続いていても1年働いたら辞めなくてはならないというものでした。
(2)2016年に全学童クラブが民間委託された時に、学童クラブで働く特別職非常勤を児童館で働けるようにして、雇用を確保したことです。
どんな労働者にとっても、働き続けられるかどうかは最重要課題です。
2017年の地方公務員法改定決定後、区は「会計年度任用職員」の労働条件について話し合いを続けましたが、「労働組合と協議しなくてよい。情報提供だけすればよい」という総務省のマニュアルに固執し続けました。組合はその不当性を追及し、「団体交渉」と認めさせ、労働条件を詰めていきました。
その時の最大の問題は、総務省のマニュアルの影響を受けて、公募なしでの再任用を5回に制限する制度の導入が提案出されたことでした。
区は「多くの人が応募できるための公平平等取り扱いの原則に沿う」「その場合でもそれまで働いていた人が再応募することは可能である」と説明してきました。
私たちは、「新規採用者がいる場合の公募には反対していない。5年働いた人を、解雇する理由は全くない」「区の行政を担い続ける労働者の生活を破壊し、労働意欲さえ奪うものである」と主張しました。
区からどのような妥協案が出されても、新制度の導入に反対し続けました。
「特別非常勤職員」は、1年契約でも原則更新が可能であり、当時児童館で働いていた「特別職非常勤職員」の平均継続雇用期間は13年でした。ですからこの提案は、経験や自己研鑽を生かしながら働き続けてきた現役組合員には到底受け入れられる提案ではありませんでした。組合は、団体交渉の場だけでなく、さまざまな場面で撤回を訴えました。その結果、区議会では「経験者の存在は事業運営上重要である」として、回数制限制の導入に反対する意見が多数を占めました。区は提案を撤回し、同制度の導入は見送られました。
このように、現在板橋区には「年数による公募選考」は行われておらず、その意味では問題はありません。しかし、「会計年度任用職員制度」は、実際に仕事が継続されても「1会計年度の任用」とみなされ、「条件付き採用」「評価」「戒告処分」などによって、「再度任用されない」危険性があります。次年度の雇用を失うリスクが以前よりずっと強く、矛盾の多い制度です。
更に、私たちは公務職場で働く「一般職」なので、労働委員会に訴えることはできません。
最大の問題は、住民サービスを担う公務労働者の間に、労働日数や時間、雇用期間の区別だけでなく、「正規」「非正規」の区別を導入していることです。
使用者側は、会計年度任用職員が支払われる賃金で生計を立てているとは全く思っていません。業務を縮小しても、「正規職員」は他部署への異動で雇用が保障されますが、会計年度任用職員等の「非正規職員」には違います。使用者は「非正規職員」には退職金も支払われず、「会計年度任用職員だから」「業務が縮小されたから」と切り捨てるのは当然だと考えています。
私たちは、これからも、このような姿勢や制度の改善を、国や区に求めていきます。
まず、今年度末に多くの労働者が失職する危険性のある「3年公募制」を中止するよう、ILO専門家委員会が日本政府に対して、勧告的な「意見書」を提出してくださることを強く求めます。
あぱけん神戸/内藤 進夫
私たちの組合が、2005年から2007年にかけて経験した自治体非正規公務員の事例を紹介します。2017年の地方公務員法改正前の事例ですが、使い捨てにされる非正規公務員の実態に変わりはありません。
【20年以上長期勤続してきた図書館臨時職員を一斉に大量解雇した加古川市での問題】
2005年当時、兵庫県加古川市では図書館の運営を市の外郭団体である「加古川市総合文化振興公社」に委託していました。20年を超えて委託してきた図書館を、突然市の直営に戻すとの動きが生じたため、長期に継続勤務してきた図書館司書の人達が、雇用の継続と安定を求めて私たちの組合に加入しました。私たちは直ちに団体交渉で雇用の継続と安定を求めました。しかし市は、1年限りの「臨時職員」として雇用し、2007年に29人全員を雇い止め解雇したのです。そのあとには退職した正規職員を「再雇用嘱託職員(特別職)」として配置しました。つまり、退職金と共済年金の保障された市の退職者と、29人の長期臨時職員の「首をすげかえ」たのです。
始めの交渉は、当事者がまだ公社の職員であったことにより労働組合の団交として行えました。しかし市の一般職臨時職員とされてからは、市当局が「登録する職員団体でなければ交渉に応じる義務はない」と主張してきました。このため「登録職員団体」を結成し交渉を行いましたが、不誠実な対応に終始しました。職員団体は不誠実な交渉を労働委員会に訴えることができません。職員個人として、地公法上の公平委員会に「勤務条件の(改善)措置要求」ができるだけです。
そこで当事者組合員は個人として「図書館業務は長期継続するのに、任期1年限りの臨時職員として雇用することはおかしい」と公平委員会に申し立てました。しかし公平委員会は、雇い止め解雇後の2007年4月25日に棄却する決定を通知しました。市当局の主張をそのまま追認する「臨時的任用職員としての勤務条件を提示され、それを了解して雇用されたものと認められるから、要求者らの要求は認められない」との判定でした。
本件では、加古川市で20年以上の長期勤務の臨時職員が、「外部」の地域労組である当該組合加入後に、市当局の人事政策により最長で1年限りの短期雇用の「臨時職員」(地方公務員法22条適用)として雇用され、「職員団体として登録しなければ団体交渉に応じない」として団体交渉を拒否されたうえ、雇用主が任命した公平委員会(弁護士と大学教授が委員)に対して「措置要求」するしか選択支が無く、形式的な審査で棄却されるという結末となった。このため職員団体は解散を余儀なくされました。
この事例は、定年退職後の正規公務員の職場を確保するために、図書館で20年以上働いてきた非正規公務員を解雇した事例です。「自治体の都合に合わせて、非正規公務員は簡単に解雇できる」という意識が抜きがたく存在しています。「1年雇用」で「雇用継続するか否かは自治体の裁量=自由」との仕組み=雇用政策があるからです。労働基本権保障とともに、この使い捨ての仕組みを改めさせるための雇用政策が不可欠です。
公務非正規女性全国ネットワーク
2022 年8 月
先の見えない公務非正規労働従事者たちの声から
―公務非正規女性全国ネットワーク調査報告より
公務非正規女性全国ネットワーク
HP:http://nrwwu.com/
hiseiki.koumu@gmail.com
公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)は、2021 年3 月に発足した団体。公務非正規として働いている/働いてきた女性が中心となって運営している。ネットワークは、これまでに、調査の実施、国への提言、当事者同士の語り場の開催、メディアを通じた情報発信などを行ってきた。
日本では、働く女性の半数以上が、非正規雇用の立場で働いている。非正規雇用は、雇止めに合う可能性のある不安定な雇用形態で、組織の意思決定に関わることができない、低賃金の労働者である場合が殆どだ。こうした状況を改善するため、労働契約法が改正され、5年働くと無期雇用に転換する権利が生じるようになった。この制度は、無期転換逃れの雇止めが行われるなど、問題も指摘されているが、こうした制度によって非正規労働者の無期転換も進んできた。しかし、非正規公務員には、この法律が適用されない。
総務省の調査による、全国には、約270 万人の地方公務員がいる。加えて、非正規で地方自治体に直接任用されている人の数は、約112 万人となる。地方自治体で働く人の約4 人に一人が、非正規公務員だということになる。また、地方自治体で働く非正規公務員の約8 割は女性だ。
2020 年からはじまった新たな制度は、地方自治体で働く非正規公務員を、「会計年度任用職員」と位置付けた。「更新」はできないわけではない。しかし、会計年度任用職員は、単年度毎に入れ替わることが前提とされる職として位置付けられている。また、3 年、または5 年毎に、「公募」に応じさせられる仕組みとなっている。そのため、公募に応じなければ、その人は辞めさせられることになり、また、公募に応じたとしても、継続できるかはわからない。
2022 年度は、制度がはじまってはじめての「3 年目」を迎える。そのため、この年度末には、全国で、40 万人ほどの人が雇止めになる可能性がある。これらの人たちは、もし職を続けたい場合は、「公募」に応じなければならないとされる。
公務非正規女性全国ネットワークは、今年の5 月2 日から、6 月4 日まで、公務非正規従事者が直面している困難を可視化したいと、調査を実施した。
■調査方法
方法:インターネット(グルーグルフォーム)によるアンケート
対象:現在、非正規で公務労働に従事している方(既に退職された場合でも、2020年4月から2022年3月の間に在職されていた方を含む)
有効回答 705件(回答数 715件)
- 「雇用が不安定」、「給与が低い」、「正規職員との待遇格差が大きい」の3 点が重要課題
- 回答者の9 割が女性。回答者は、50 代、40 代が多かった
- 9 割は現役で働いている人からの回答。47 すべての都道府県から回答があった
- 不安定な職であるため、いつ雇止めに合うかわからない。それによって、ハラスメントにあいやすく、職場で問題があっても、声に出せないと感じている
◆2021年度就労収入
・年間就労収入は、半数以上が、200万円以下。26%が200~250万円未満。あわせると、8割が250万円未満
・フルタイムで働いている人でも、6割が250万円未満。さらに主たる生計維持者と答えた人の約4 割が、年収200万円未満という深刻な状況。(日本の平均賃金は440万円。200万円は、平均賃金の半分以下。200 万円は、US ドルにすると、約15000 ドル)
◆将来への不安を感じるか 9割がなんらかの不安を抱えている ◆メンタル面 約4割(37%)がメンタル不調
◆調査に寄せられた声(一部抜粋)
・正職員より高いスキルや資格を求められる不安定労働者(自分)が不安定の求職者を支えており、心が折れそうになる時があります。(女性50 代 関東)
・給料が安すぎます。技術を磨き、より良いサービスを提供するから、給料をあげてください。/そして、安心して長く勤めさせてください。(女性 40 代 中部)
・会計年度任用職員ですが、2021 年度いっぱいで雇い止めになりました。10 年間も働いていたのに。非正規の公務員は3割はいるはずですが、私たちは雇い止めされるのが怖くて、職場で自由に意見を言うこともできません。私たちは労働者で、人間です。(男性 40 代 関東)
・持続的な公共サービスを提供するために、一年ごとの雇用更新はありえない。 (女性 60代 関東)
・昨年度コロナに感染し時給で働く不安定さを実感。低賃金で蓄えはなく安心して休めない。スキルアップの研修に自費参加、そして研修のために休めば無給。自分が苦しいのに公共”サービス”なんて無理。(女性 50 代 関西)
◆職種
※その他:教員、博物館など施設職員、医療専門職、各種相談員など
参考文献)
Yoji Kanbayashi 2015 The Situation of Non-regular Public Employees in Local
Government in Japan: focus on Gender: Working papers are preliminary documents circulated to stimulate discussion and obtain comments: International Labour Office,Geneva 2015
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—ed_dialogue/—sector/documents/publication/wcms_442070.pdf