瀬山紀子「公立女性関連施設における公務非正規問題を考える」

『労働法律旬報』労働法律旬報 (1783・1784) 、旬報社、138-145頁からの転載です。どうぞお読みください。

 

 

はじめに

私は、現在、首都圏にある県立の女性関連施設(一般に、女性センター、または男女共同参画センター等の名称が付いているセンター)で、週4日勤務の非常勤職員(=非正規職員)として働いている。このセンターで働くようになる以前にも同様の公立女性関連施設で働いていたため、私はこの「業界」で10年以上を過ごしてきたことになる。私は、大学院で女性学や社会学を学び、大学や専門学校で非常勤講師の仕事をスタートさせるのとほぼ同時期に、都内の女性関連施設で事業コーディネーターという職名で、非常勤職員として働き始め、その後も、ほぼ一年ごとに、非常勤先の追加・変更を繰り返しながら、大学等での非常勤講師や研究員と、女性関連施設での事業コーディネーターの仕事を掛け持ちで続けてきた。

女性関連施設での仕事の内容は、事業の立案や企画運営、研修会の開催や出前講座の実施、広報紙の作成、施設に関わっている市民グループとの協働企画の実施等、様々な内容にわたる。私自身は、大学生のころから、女性関連施設に足しげく通い、様々な情報を得たり、人と出会ったり、講座に参加したり、ライブラリーを利用したり、活動拠点として活用してきたという立場にいたこともあり、こうした施設で、それまでの学びを元に、市民の方々と様々な企画を実施できるこの仕事に一定の魅力を感じてきた。ただ、同時に、センターのあり方や「男女共同参画」という枠組みの捉えにくさに加え、一年ごとの契約を繰り返しながら働く現在の不安定な仕事のあり様に疑問を感じ、将来的な展望も持てずにきた。

私が働いているような公立の女性関連施設は、一般に認知度が低いことが課題とされているため、あまり知られていないが、全国の自治体に存在する。そして、そうした全国の公立の女性関連施設で、非正規の専門員や相談員といった人たちが、不安定な雇用条件で働いている。そしてその多くが女性であることも、この現場の特徴だと言える。

本稿では、こうした公立の女性関連施設で専門職員として働く立場から、施設が必要とされる背景である日本における男女の深刻な経済的社会的格差の問題や女性の経済的困難という課題を提起すると同時に、そうした課題を解消するための施設である男女共同参画センターが、その内部に正規職員と非正規職員の間の給与格差、なかでも非正規職員の給与水準の低さといった労働問題を抱えていることを明らかにしたい。その上で、男女共同参画の推進を使命とする施設で働く専門職員として、今後、どのような展望を描いて、課題にアプローチしていくことができるのかを、最後に探ってみたいと思う。

 

男女共同参画センターの概要

男女共同参画センターといった名称をもつ公立の女性関連施設は、現在、全国に380か所以上存在している。これらの施設は、設立の経緯から、内閣府系の施設(男女共同参画センター/女性センター)、主婦連合や地域婦人団体連合会といった民間グループの要請がもとになり、行政が協力するかたちで設立されてきた婦人会館といった系列の施設、「働く婦人の家」という労働省婦人少年局が管轄し1950年代に設立してきた施設、「農村婦人の家」という農水省が1970年代に設立してきた施設、「婦人教育会館」という1977年の国際女性年(1970年)を契機にできた国内行動計画に基盤をもって、主に文部省によって設立されてきた施設の大きく5つの系統にわけられる。これらの施設は、それぞれの時代の要請や、女性たちの運動等によって設立されてきたと言えるが、1999年に男女共同参画社会基本法が成立したことによって、「男女共同参画社会の実現のための地域の拠点」という一定の共通の位置づけができた。

とはいえ、男女共同参画社会基本法には、拠点施設についての法的な規定は示されていない。そのため、センターは、その存立についての根拠法をもっているとはいえず、多くの場合、自治体がつくる条例や、国の基本法によって策定が促された地域の男女共同参画基本計画にその存立の根拠をもっているというのが現状だ[1]。それが、こうしたセンターに統一的な設置基準がないとされる所以であり、センターの継続性という点からみても、確実性がないとされる理由でもある。

ただ、女性関連施設については、これまでも実践的な研究等が重ねられ、こうした施設に共通する機能として、おおむね、「情報提供」・「相談」・「学習・研修」・「交流」・「調査研究」の5つの機能があるという形式化がなされてきた。また、最近では、これに合わせて、再就職支援をはじめとした就業支援に取り組んでいるセンターも多い。

私が現在働くセンターを例にその内容をさらに詳述していくと、まず、センターには、「男女共同参画」に関する専門図書室(蔵書数37000冊)があり、一般の貸し出しや関連する専門情報に関するレファレンスに応じている。また、年間3回、男女共同参画に関わるテーマの特集を組んだ広報紙を発行(9000部)し、公共施設等を通じて県内に配布している。同時に、年間約5000件の相談を受ける相談機関としての役割も担っており、なかでも、DV(ドメスティック・バイオレンス=配偶者等からの身体的、精神的、または強制的な性行為)被害者支援の専門機関としての機能を有している。また、年間を通して、一般市民向けの講演会や講座を開催したり、市町村職員や民生児童委員等を対象にした研修会を開催したりする学習の場の提供という側面も大きな役割になっている。学習の内容は、「男女共同参画」に関わる幅広いテーマを扱うと同時に、できるだけ多様な層に学習の機会を提供しようと、平日の日中、夜間、土日と多様な講座開催時間を設定すると同時に、保育付きでの開催を標準としている他、地域での出前講座なども開催している。

さらに、地域活動を行っている団体の支援や、フェスティバルなどの交流事業を実施すること、女性のキャリアデザインのためのプログラム作成などの実践的研究を行うこと、働きづらさに悩む女性やシングルマザーのための交流会等を実施することが主な事業に位置づけられている。また、私が働いているセンターでは、県の別組織に所属する女性キャリアセンターが同居し、連携をとりながら就業支援事業を進めているという現状がある。

こうしたセンターの利用者像をより明確にするためにも、私が働くセンターの相談事業の内容についてみていきたい。

私が働くセンターでは、日曜日を除く月曜日から土曜日までの午前10時から夜の8時半まで、電話での相談を中心に、一般の人たちからの相談を受け付けている。相談の件数は、2010年度の統計で、年間約5000件(9割が女性からの相談)で、相談の内容は、「夫婦」「家族・親族」など身近な人に関係する相談が最も多く、全体の約1/3を占めている。また、精神疾患を抱える相談者からの“不安や辛さについての相談”の割合も多く、自殺への思いを訴える相談の受け皿にもなっている。さらに、夫や恋人などパートナーからの暴力であるDV (ドメスティック・バイオレンス)の相談も増加傾向にあり、危険度が高い深刻なDV の相談の割合が増える傾向にある。相談者は、30代から40代がもっとも多く、この層が全体の6割を占めている。

ここまでで、男女共同参画センターの日常的な業務や利用者について概観してきた。具体例としてあげたのは、県立のセンターの事例になるため、市町村のセンターとは事業規模や役割が異なる部分もあるが、基本的には、先に挙げた5つの機能を担う同様のセンターが全国にあるというのが現状だ[2]

男女共同参画センターという場所が、どのような機能をもち、日常的にどのような事業を実施しているのかが、これである程度見えてきたと思う。

 

「男女共同参画」の推進が必要な理由

では、ここで、あらためて男女共同参画センターのミッションである「男女共同参画」の推進が必要とされる理由について簡単に記しておきたい。

ただ、その前に「男女共同参画」という言葉について触れておこう。

「男女共同参画」という用語は、1999年に制定された男女共同参画社会基本法によって定義づけられている言葉で、今も、あまり定着しているとは言えない言葉だ。この法律は、1996年につくられた「男女共同参画2000年プラン」のなかに、「男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律について検討を進める」と書かれたことにもとづき、その後、審議会での審議を経て答申がだされ、それを受けて法案がつくられ、国会での審議を経て制定された。法律名は、男女平等といった、一般的に多くの人が理解できる言葉をあえて避け、男女共同参画社会基本法という、あまり一般的な用語ではない言葉があてられ、成立した[3]。それでも、その後、国会をはじめとする場で、この法律への反発が表面化し、2005年前後には、都議会で都内の学校で行われていた性教育に対するバッシングがあり、さらに、ジェンダー、及びジェンダー・フリーという用語をめぐる議会での反発もあり、男女共同参画社会基本法にもとづく第2次基本計画にはその混乱が持ち込まれるという事態がおきた[4]。現在は、民主党による政権交代があった年に改定の作業が進み、その翌年に策定された第3次基本計画が動いているという状況だ。

こうした流れをみても、「男女共同参画」という課題は、多くの人のコンセンサスを得て、問題意識や課題が共有化されてきたとは言えず、政治的な動向によっても大きく左右される難しい課題だということが見えてくる。

そうしたことを認識したうえで、以下では、私自身の問題意識にもとづいて、その課題を描き出してみたい。

私たちの社会は、例えば、2012年に行われた世界経済フォーラム(World Economic Forum)で、世界の135か国を対象にジェンダー格差を指標に国を順位づけした際に、101位という非常に低い位置づけになったという事実をふまえても、男女の経済的・社会的格差という点からみて大きな課題を含んでいることは間違いない。

こうした格差は、日本が、とくに高度経済成長期以降、政策的につくりあげてきた仕組みにもとづいて拡大され、助長されてきた。その仕組みとは、つまり、男女のペアで構成される世帯を一つの単位とし、男性を稼ぎ手と位置づけ、女性を家事・育児・介護の担い手と位置づける性別役割分業を、それが男女に固定的な役割であるかのように割り振り、そうした関係のあり方を選択しやすくする税制や社会保障制度をつくってきたというその仕組みのことだ。

こうした正社員の夫と、専業主婦、または、パート主婦の妻という「標準的な家族」のあり方は、一時期の日本の経済を支えてきたかたちだったともいえるのだろう。ただ、こうした仕組みのなかで、男性は長時間働き続け、暮しや地域での活動時間を奪われ、女性は家族に囲われ、経済的自立の機会を奪われてきた、と振り返ることもできるだろう。そして、重要なことは、こうした仕組みのなかで、「標準的な家族」とは異なるかたちで生きる人たち、典型的にはシングルマザーといった立場を生きる人たちの困窮がもたらされてきたということだ。

女性は、稼ぎ手であっても、男性に対して、補助的な稼ぎ手と位置づけられ、パートやアルバイトといった非正規雇用労働の担い手となることが多く、それは現在でも、なお続いている。女性が多いパートやアルバイトといった非正規雇用は、それが家計の主たる稼ぎではないことが想定され、不安定で低賃金であっても仕方がないもの、または、扶養の範囲で働くことを女性自身が選択しているものとして、賃金が低くても据え置かれてきた。そして、そうした不安定で低賃金の非正規雇用が、現在では、働く女性の半数以上の雇用形態になるまでに至っている。また、正規雇用労働者として働く女性たちは、男性と同じく長時間就業を強いられながら、昇進や昇格、賃金の面では、男女でいまも格差があるというのが現状だ。

一方で、女性が「仕事」をしてこなかったというわけではない。女性は、家事や育児、介護といった家のなかでの支払われない仕事に従事してきた。ただ、そこには、賃金はついてこなかった。

こうした現状の社会の仕組みは、結果として、男女間の経済格差をもたらしてきた。そして、経済格差は様々な意味での「ちからの格差」につながり、個々人の意識や行動様式といった日々の暮しに、深く、影響を及ぼしてきた。

そうした経済格差を含めた男女の「ちからの格差」を背景にした課題が、DVであり、DV被害者の経済的困難という現実であり、職場でのセクシュアル・ハラスメントであり、母子世帯の貧困という問題であり、単身女性の3人に一人が貧困であるという女性の現実だ。そして、その一方で、男性の長時間就業という課題があり、男性に顕著な自殺率の高さという深刻な課題が存在する。

ただ、こうした社会のあり方は、いま、経済のグローバル化等に伴い、急速に変化してきている。それは、特に、男性正社員というこれまでは安定的とされてきた層の仕事が不安定化するというかたちで現れ、さらに特に若年層の雇用の不安定化をもたらしている。

非正規雇用という仕事のあり方は、これまでは、正社員の夫をもつ妻という立場の人たちを主たる担い手と想定した働き方として設計されてきたため、低賃金で不安定であっても、問題が見過ごされてきたといえるが、現在、そうした制度設計の前提が崩れつつある。いま、起きている現象は、これまで女性が主な担い手であったために問題が見過ごされ、条件整備がなされてこなかった非正規雇用に、男性も含めた労働者の多数派が、なだれ込んでいくという状況のように思える。

こうして概観してきただけでも、「男女共同参画」社会の実現という課題、つまり、「男女が、社会の対等な構成員として、社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、共に責任を担うべき社会(男女共同参画社会基本法 第2条)」を実現させるという課題は、いまも解決が急がれる大きな社会的な課題だということが見えてくるといえるのではないだろうか。

そして、こうした大きな社会的な課題を共有し、解決していくために、情報を集め、発信し、そうした社会的課題のなかで生じる人々の困難や悩みについての相談を受け、人々がこうした課題について考える場を提供し、課題解決に向けた調査や研究を進め、さらには政策の提言を行っていくというのが、男女共同参画を推進するための地域の拠点である、男女共同参画センターだと位置づけることができる。

 

労働現場としての男女共同参画センター

では、そうした「男女共同参画社会の実現」という喫緊の課題に対応するための拠点は、労働現場としてみたときに、どのような現状にあるのかをつぎにみていきたい。

まず、私が働くセンターの場合をもとに、職場での職員構成をみてみたい。

私が働くセンターは、県の直営センターで、現在、職員が28人おり、そのうち、常勤職員(=県職員)が12人、1年ごとの契約で働く非常勤職員(=地方公務員法第3条3項3号で定められている「特別職」の位置づけにある職員)が16人で構成されている。16人の非常勤職員の内訳をみると、事業コーディネーター(週4日 29時間勤務)が1人と、主任相談員(週4日 29時間勤務)が1人、相談員が7人(週5日 29時間勤務)、事業企画などを担う男女共同参画専門員(週5日 29時間勤務)が、図書館司書資格を有する職員1人をあわせて7人いる。また、実際には、このほかにも、受付業務を担っている委託の職員や、非常勤職員とは異なる、より短期の契約で働くアルバイト職員(臨時職員)、女性キャリアセンターの業務委託をされた会社との契約で働く多数のキャリアカウンセラーなどがいるため、さらに多くの非常勤職員が日常的にセンターで働いている。

このうち、常勤職員である県職員は、2~3年周期で異動となる。非常勤職員については、1年ごとの契約で、現在のところ雇用期間の上限は決められておらず、基本的には、1年ごとの更新で複数年にわたって雇用されることになっている。ただ、アルバイトというかたちで働く職員については、2011年から、原則2年の雇用期間の上限を設けるという県の規定ができた。

では、つぎにこうした女性関連施設で働く非常勤の専門職員の就業条件の全般的傾向について、内閣府の男女共同参画局が2008年行った「男女共同参画センター等の職員に関するアンケート調査」にもとづいてみていくことにしたい。

この調査は、2008年に、内閣府の男女共同参画局におかれていた「基本問題専門調査会」において「男女共同参画センター等の職員の給与水準等の実態について、根拠となるデータが必要(基本問題専門調査会(第40回)2008年7月14日 議事要旨)」とする意見を受けて実施されたアンケート調査で、対象となったのは全国の284か所のセンターで、うち201か所のセンターから回答を得たものだ。

調査から見えてくるのは、男女共同参画センターのなかにある職員間の格差と、特に非正規職員の給与水準の低さだ。

ここで、アンケート調査結果の報告からいくつかのグラフを引用してみよう。

はじめは、正規、非正規を合わせたフルタイム職員全体の職員の年収比較を表しているグラフをみてみよう。これをみると、まず、自治体直営のセンターでは、グラフが、200万円未満から300万円未満と、800万円未満から900万円未満をピークとする大きな二つの山にわかれることがみてとれる。また、指定管理者による運営のセンターでは、200万円未満から300万円未満にかけての山をピークに、年収が高い層はぐっと少なくなることがわかる。

つぎの、フルタイム職員のうち、管理職のみを取り出したグラフをみると、特に自治体直営のセンターで、900万円未満から1000万円未満がピークの大きな山ができることがわかる。また、指定管理という運営形態は、直営に比べて、職員の年収が低く抑えられていることもわかる。

ただ、つぎのフルタイムの非正規職員の年収比較のグラフでは、自治体直営のセンターでは、200万円未満の層が最も多く、逆に指定管理者が運営するセンターと比較しても、低い年収の層が多くなっていることがわかる。

また、パートタイム職員についてみると、グラフは、運営形態の違いによる大きな相違はなく、調査対象施設全体でみると、年収100万円未満~200万円未満で働く層が大半を占めているということがわかる。

最後に、センターの男女別の年収比較のグラフをみておくと、男女では明らかに年収のグラフに違いがみられ、女性は、100万円未満~200万円未満の層に大きな山ができ、男性は、800万円未満の層に山ができていることがグラフから読み取れる。

調査は、2008年に単発的に行われたもので、定期的な調査は行われていないため、その後の推移は不明だが、この調査によって、公立の女性関連施設における職員の給与水準、及びその内部にある格差の実態が、一定明らかになったといえるだろう。さらに待遇という面では、社会保険の有無や交通費支給、休暇制度、賞与の有無といった細かい規定をみていく必要があるが、ここでは、まず、ようやく行われた調査によって明らかになったという意味で、この非常勤職員の給与水準の低さと収入格差という点を抑えてつぎの節に進みたい。

 

男女共同参画センターの専門職の働き方

前節で見たとおり、男女共同参画センターで働く専門職員は、その多くが、非正規職員であり、かつ、収入面では、正規職員と非正規職員の間に格差があり、非正規職員のなかでもパートタイムの人は、年収100万円未満、フルタイムでも200万円前後という年収層で働いているということがわかった。また、そこで働く男女の職員でも格差があった。

こうした事実を踏まえれば、こうしたセンターで働く非正規職員の待遇を低くしている背景には、やはり、性別役割分業型社会のなかでの男女の賃金格差、なかでも女性の収入を低いものとして固定してきたこれまでの社会の構造が、当然ながら、ここにも反映されているということが見えてくる。

男女共同参画センターは、そのミッションとして、男女共同参画社会の実現をあげながら、その内部にも、男女共同参画社会の実現を妨げる大きな課題を抱え込んでいる。この矛盾は、こうしたセンターが男女共同参画の実現というミッションを掲げているセンターだからこそ、より深刻に受け止められなければならない課題だ。なぜなら、こうした矛盾は、男女共同参画の推進というセンターが掲げる、ただでさえ不明確で難しいミッションを、より見えにくく捉えにくいものとしてしまい、その意味を無効化する機能さえもってしまうからだ。そうした状況を少しでも改善していくためには、まずはこうしたセンターで働く人自身が、センターが抱えている矛盾を問題として捉え、自分たちのセンターにおける専門職員の職務のあり方やセンター自体のあり方について考えることが必要だ。そして、それと同時に、公務領域における非正規雇用の拡大といった現象を、男女共同参画に関わる大きな課題として捉え、その現状の把握を含めた調査や、国際的な比較といった視点から、事業に積極的に取り上げ、人々に検討の素材を提供していくといったことが求められているのではないだろうか。

公立の女性関連施設の成り立ちについてはいくつかの系譜があり、それぞれに設立の背景があることは先に触れた。そのため、一概には言えないが、私が関わってきたセンターに限ってその設立の経緯を考えてみると、そこには、住民の側からの請願の提出などにはじまる女性関連施設の設立を切望する声があり、それを受けて設立の準備が進められ、こうしたセンターが作られてきたという背景が存在する。その過程で、センターの設立を求める住民から、数年ごとの異動がある職員だけではこうしたセンターの運営はできないという意見や、女性問題についての一定の専門的知識を有する専門職の配置を願う声があり、それによって、行政直営のセンターであっても、専門職を非常勤として配置するというやり方が取られてきた[5]

その意味で、男女共同参画センターの専門職という仕事自体が、住民の声によってつくられてきた仕事だということを思い返す必要がある。

男女共同参画センターという「業界」は、センターによっては一定の歴史を持つところもあるが、一般の公民館などに比べれば歴史が浅く、発展の途上にある職域だ。同時に、すでにみたような政治的な状況で、そのつど立ち位置が変更してしまうような「男女共同参画」という部門の状況を考えると、今後、こうした場所が「発展」していくかどうかも定かではない。

ただ、私自身は、日本が抱えている深刻な男女間格差や女性の貧困といった課題を解消していくためにも、また、そうした社会状況のなかで表面化する問題に対する相談を受け、解決に向けた取り組みを進めていくためにも、こうしたセンターの存立には、今も一定の意義があると思っている。

そのために、住民と一緒に、こうしたセンターで働く専門職が、自分たちの働き方についての課題を認識し、改変に向けて動くことが必要だ。そして、そのためには、2008年に行われたような男女共同参画センターにおける職員の給与水準の実態が経年変化で捉えられる調査データが今後も出されていく必要がある。そして、同時に、公務領域における他の専門職についても、同様に、その給与水準や待遇、またそのジェンダー差などの実態が出され、今後の公務専門職の職域のあり方が検討されていく必要がある。そのうえで、公務領域で働く、図書館司書や保育士、相談員、介護等の福祉職など、いずれもこれまでは女性が多くを占めてきた専門職とも連携をとり、公務領域における非正規職員の課題を共有し、住民ニーズとあった持続的な公共サービスの実施のためにも、自分たち自身のあたらしい働き方を、位置づけ、現状を変えていく取り組みをしていく必要がある。

この課題は、まさに、男女共同参画センターが、そのミッションとして取り組むべき大きな課題だ。そのための問題意識の共有化を、今後、どのように広げていけるかを、男女共同参画センターという、その問題の渦中にいる立場から、今後も考え発信していきたい。

 

 

 

¶引用・参考文献

青木玲子2009「「女性センター」のこれまでとこれから」『女たちの21世紀』No.60(2009年12月)、アジア女性資料センター、4-8

伊藤真理子2009「女性センターにおける非常勤職員賃金差別」『女たちの21世紀』No.60(2009年12月)、アジア女性資料センター、28-29

埼玉県県民生活部 男女共同参画課2012『みんなですすめよう男女共同参画 -平成23年度版男女共同参画に関する年次報告-』同課発行

埼玉県男女共同参画推進センター2012『平成23年度 事業概要』同センター発行

下村美恵子・辻智子・内藤和美・矢口悦子 2005『女性センターを問う――「協働」と「学習」の検証』新水社

内閣府男女共同参画局2008『男女共同参画センター等の職員に関するアンケート結果について』(http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/kihon/kekka.pdf

内閣府基本問題専門調査会2008「第40回議事要旨」(2008年7月14日)(http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/kihon/yousi/ki40-y.html

内藤和美2009「職能の可視化を職員をめぐる制度整備に生かしたい」『女たちの21世紀』No.60(2009年12月)、アジア女性資料センター、25-27

内藤和美 2010 「女性関連施設事業系職員の実践の分析―発揮されている能力とその相互関係」『女性学』17号、日本女性学会、92-113

成定洋子2003「女性センターで働くということ」『大阪大学21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」ニューズレター Interface Humanities』1号(2003年3月)、大阪大学、26-27

成定洋子2007「フェミニズムへの致命的な忠誠心? 女性センターの場合」『インパクション』N0.158(2007年7月)、インパクト出版会、44-53

 

 

[1] ただし、現在では、私が働いているセンターも含め、DV防止法(配偶者等からの暴力の止と被害者の保護に関する法律)が規定する「配偶者暴力相談支援センター」という機能を合わせもつセンターも少なくない。

[2] 市町村のセンターでは規模が小さく、実際には、専門の担当職員はおいておらず、生涯習センターと同居したり、その一部に、情報コーナーなどを設け、男女共同参画センターといった位置づけをしているところもあるため、実際にはかなりのばらつきがある。

[3] 現在でもこの法律の英語名称は、「The Basic Law for a Gender-equal Society」となっている。

[4] 国の第2次男女共同参画基本計画のなかには、次のようなことが書かれた。「「ジェンダー・フリー」という用語を使用して、性差を否定したり、男らしさ、女らしさや男女の区別をなくして人間の中性化を目指すこと、また、家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画社会とは異なる。例えば、児童生徒の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育、男女同室着替え、男女同室宿泊、男女混合騎馬戦等の事例は極めて非常識である。」

[5] ただ、相談員や図書館司書という女性関連施設に固有の職種ではない仕事は別として、男女共同参画センターで働くということについての「専門的な知識」とは、どのようなものを指すのかについては現在でも明確な定めはなく、資格も存在しない。そのため、この職域について、他と比較をすることも難しい状況。これについては、内藤和美([2009],[2010])の研究がある。

 

 

 

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