小坂直人「<書評> 加藤やすこ著『スマートシティの脅威』緑風出版・2021年」

日本科学者会議北海道支部発行の『ニュース』vol.57 No.2(2022年2月1日発行)に掲載された書評です。どうぞお読みください。

 

 

<書評> 加藤やすこ著『スマートシティの脅威』緑風出版・2021年、188頁

「スマートシティの脅威」というタイトルから、スマートシティを批判的に考察するという著者の意図が明確である。ところが、世の中ではデジタル技術による便利な社会の象徴としてスマートシティが語られることが一般的である。たとえば、「再エネやコージェネを利用した発電設備と需要家をITによって結合した次世代型のエコ・シティのこと」をスマートシティと呼び、「スマートグリッドはその必須技術とされ、従来の送配電網から自律可能な分散型ネットワークのことをさしている。スマートメーターなどを基軸にして電力ネットワークに通信・制御技術が組み込まれることで、系統側からの集権的な一方向管理ではなく、一定の需要地域において発電と需要側の双方向管理が実現される」といった具合である。この説明には、どこにもスマートシティの脅威が存在しない。

著者は、こうしたITのもつ社会的有用性を否定しているのではない。しかし、この技術のもつ環境的・社会的リスクを軽視して、無批判にこれを受容すべきではなく、人間と社会そして環境に及ぼすマイナス影響についても正しく認識し対応すべきであると警告している。警告は大きく分けて2点である。一つは、今後通信手段に用いられる5G電磁波が「発がん性」を含むリスクを有することから、とりわけ子供や若い世代に対する生殖影響について慎重に検討すべきであり、被曝を極力低減する必要があることを訴えている。5G電磁波に曝され続ける生命体のリスクに目をつぶってはならない。遠隔授業等を推奨するコロナ禍の現状は、ともすると著者の訴えを打ち消しそうになるが、学校教育の場における無線LAN使用に対する具体的かつ詳細な著者のアドバイスはすぐにも実践できる内容であり、傾聴に値する。

今一つの警告は、個人情報のビッグデータ化と個人情報保護の問題である。われわれの個人情報はこれまでは相対する個々の自治体、銀行、病院、企業等との間で基本的には完結することになっていた。しかし、今後は都市OS(注)に個人情報が集約され、さらに、プラットフォーム事業者との連携が進むことによって、ビッグデータ処理事業者に把握されることになるという問題である。我々は既に、利便性の誘惑に負け、アマゾンやグーグルによって個人情報が集約されることを体験済みであるが、事態は公的機関をも巻き込んで進んでいきそうな気配である。また、ドローンによる物流も、薬等、輸送される品物とそれに付随する情報が事故によって漏洩する危険と隣り合わせとなる。そこまでして輸送する意味があるのかどうかを考える必要があると著者はいう。

以上の二つの警告を真摯に受け止めたうえで、スマートシティ実現の是非を検討すべきであり、その際、著者が最も留意すべき点として挙げているのが、5G電磁波過敏症に対する政策の確立である。ミリ波を禁止したオランダの例などを紹介しつつ、EU諸国やいくつかの都市では電磁波規制条例を制定し、電磁波の影響から市民の健康を守る行動を起こしているという。電磁波は目に見えないが故に、その被害を引き起こす原因が特定されにくい。だからこそ過敏症に苦しむ人々の声に耳を傾け、人々への影響を想像する力、すなわち「予防原則」が重要と著者は強調する。電磁波過敏症は特定の個人の問題ではなく、同じ社会に暮らす全ての人々にとって、いわば鏡に映った自分の姿である。「過去に繰り返された公害から学び、同じ過ちを繰り返さないよう」にと訴える著者の言葉は重い。難しい技術問題を一般の人にも分かりやすく解説してくれる書であり、一読をお薦めしたい。

 

 

注:「都市OS」は都市オペレーティングシステムのことです。個人情報を含む当該都市のあらゆるデータ(エネルギー、交通、医療、金融、通信、教育等)を集積・分析し、それらを活用することを目指して自治体・企業・研究機関などが連携するプラットフォームのことをさしており、ソフト・ハード環境のいずれに対してもつかわれているようです。

 

 

 

 

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