藤原安佐「知っていますか?日本語教育・教師のこと」『NAVI』2026年1月15日配信
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反貧困ネット北海道では、男女雇用機会均等法が制定されてから40年にあたる2025年度に、ジェンダーを軸にした連続学習会を開催しています。本稿は、2025年10月16日に開催された第3回学習会の記録です。
講師は藤原安佐さん(札幌の地域日本語教育を考える会代表、北大・学園大・北星大・札大 非常勤講師)で、学習会のタイトルは、「知っていますか? 日本語教育・教師のこと」です。
外国人労働者[1]を日本に受け入れていく上で必要不可欠なのが言葉の壁の克服=日本語教育です。受け入れにあたっての様々な条件整備の中でも、日本語教育は、インフラの基礎部分に該当すると言えるでしょう。その日本語教育はどうなっているのかを知ることが学習会の目標の一つ目です。
目標の二つ目は、その日本語教育の担い手がどのような状況に置かれているかを知ることです。この点も、第一点目同様に、ほとんど知られていないと思われますが、日本語教育は、非正規雇用者やボランティアによって担われています[2]。
三点目は、連続学習会のテーマでもあるジェンダーという問題です。日本語教師の多くは女性です。
学習会では、以上の3点を意識しながら藤原さんのお話を聴講しました。
なお、本稿の文責は、反貧困ネット北海道事務局にあります。
反貧困ネット北海道 第3回ジェンダー連続学習会(2025年10月16日)チラシ.png)
自己紹介
皆さん、こんばんは。札幌の地域日本語教育を考える会の藤原安佐と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。本日はこのような流れでお話をさせていただきます。
0 今日の目標、自己紹介
1 身近な外国人
2 札幌の現状
3 日本語教育とは
4 日本語はどこで学ぶ?
5 日本語教師とは
6 非正規日本語教師の働き方
7 大学と日本語学校で働く日本語教師の比較
8 まとめ
盛りだくさんですが、お話したいこと、そして、本日の私の目標は、大きく二つに分かれます。前半は、今、私たちの身の回りにいる身近な外国人の存在を知っていただくことです。後半は、そこで日本語教育を支えている日本語教師とは、どんな風に仕事をしているのか、その実態を知っていただくことです。
まず簡単に私の自己紹介をさせていただきます。私の日本語教師歴は30数年になります。一番最初の日本語教師歴としては、ALTの方々──現在、小中学校で英語助手を担当しているネイティブスピーカーの方々にプライベートで日本語を教えるところからスタートしました。
その後、ご縁があって、札幌の姉妹都市であるノボシビルスクという街で、1年間日本語教師をしていました。私はこのとき、とくにちゃんと学んだこともないまま、若さの勢いだけでロシアに渡ったのですが、1年やっても全然うまく教えられませんでした。
これでは日本語教師が仕事だとはとても言えないと思いまして、ちゃんと勉強をしてからまた戻ってきます、と言って、一度帰国しました。その後、ロシアに戻ることはありませんでしたが、ずっと札幌で日本語教師として、技術研修生や大学の留学生を教えたり、日本語教師の養成課程で授業を担当したりして、現在に至っています。
最近非常に力を入れていることが三つあります。
一つ目は、子どもの日本語支援です。今、札幌市内だけでも、日本語指導が必要な子どもたちが200人を超えています。100近くの学校に日本語の支援者が入っています。
関連して「さっぽろ子ども多文化S-net」というのを、仲間と立ち上げました。そこでは、日本語支援だけではなく、子どもたちの居場所づくりや保護者同士のネットワークづくり、それから、日本語ではなくて教科学習の学習支援ができないかなと考えています。まだ始まったばかりの団体です。
二つ目は、地域の日本語教育です。今回は「札幌の地域日本語教育を考える会」(以下、「考える会」とも略す)の立場で話をしています。札幌市内でも10を超えるボランティアの日本語教室があるのですが、そこの横のつながりを緩やかに作って、行政に働きかけていこうという目的で立ち上げました。
三つ目は、今、非正規の日本語教師の働き方です。実態調査を仲間と行っています。本日の後半ではこのことについてお話しをします。
身近な外国人
まず、身近な外国人についてお話をします。ご近所や職場など皆さんの身近な場所には、外国の方々はいますか。
外国人と言えば、以前は、留学生というイメージをお持ちの方が多かったかもしれませんが、今は、技能実習生という形で働く外国人をご存じの方が多いかもしれません。工事現場や介護施設で働いているといった、目に見えやすい外国人の他にも、農家で野菜を作っているとか、食品加工場でお弁当を作っているとか、表には見えてこないですけれども、私たちの暮らしは多くの外国人に支えられています。今、北海道は、働き手が不足していて本当に大変な状態ですけれども、そういった人手不足を支えているのが外国から来た働く人たちであることをまず知っていただきたいです。
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出所:講師の当日配布資料より(以下、同様)。
次に札幌の現状をみます。まず、外国人住民登録者数人口をみると、登録人数が毎年1月1日に更新されるのですが、今年(2025年)の1月現在で2万665人です。10年前に比べると2倍に増えています。
去年(2024年)の11月に、外国人が人口比で2%を超えたと言われて、その後、常に更新、更新、更新という形で、札幌市も、北海道も、外国人住民登録者数が増え続けています。
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では、札幌で暮らす外国人はどんな人たちなのかについて、まず国籍を取り上げます。これは、札幌国際プラザさんのホームページに掲載されたデータですが、国籍はすごく変化してきています。線で囲んだあたりが今すごく増えているところです。従来は、中国や韓国が常にトップ2でした。それが、ベトナムが韓国に追いつきそうなぐらいの勢いで増えていたり、政情の問題もありますけれども、ミャンマーの人たちがすごく増えてきたり、インドネシア、ネパールの人たちもすごく増えてきています。
外国の人たちが増えているだけではなくて、国籍もどんどん変化してきています。中国や韓国の方々の場合、見た目は日本人と大きく変わりませんから気にしていなかったのが、国籍の変化に伴い見た目も私たちと異なる方々が増えてきたことから、外国の人がすごく増えてきていると感じている市民が多いのではないかと思っています。
もう一つ、札幌の現状で変わってきているのは、外国人の在留資格です。札幌は、留学生が非常に多いというのがこれまでの特徴でした。大学がたくさんありますし、日本語学校もありますから、留学生がとても多かった。それが近年は、技能実習生、特定技能、技人国(技術・人文知識・国際業務)の在留資格の人たちが増えてきています。つまり、就労目的で来日する人が増加している、ということになります。
この点は、後ほどお話しする地域の日本語教室の問題にも関わってきます。例えば、札幌市内におけるボランティアの日本語教室は、これまでは留学生を対象とした教室が多く、時間帯は、どうしても平日の昼間開設が多かったのですが、働く外国人が今このようにして増えてきていると、例えば、平日の昼間は行けないけれども、夜であれば勉強したい、週末・日曜日であれば勉強したい、という希望が増えているのですが、受け入れるところはまだまだ少ないのが現状ではないかと思います。
以上のように、就労目的で来日する人たちが非常に増えているのが札幌の現状です。そして、これは札幌に限ったことではなく、北海道全体も同様の傾向にあって、働きに来ている外国の人たちがとても増えてきています。
札幌市の対応
では次に、こうした状況に札幌市はどう対応しているかをお話しします。
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「札幌市多文化共生・国際交流基本方針」(以下、基本方針)[3]というものが2024年にできました。これは、「日本語教育の推進に関する法律」[4]を国が2019年に制定して、それを受けた形で2024年に札幌市でも策定された、という経緯があります。
この「基本方針」の中には、日本語教育に関しては、日本語教育の推進が直近の課題であるということが明記されています。具体的には、日本語学習支援の拠点づくり、それから、日本語学習環境の充実といったことがあげられています。
「基本方針」はこのように明記されているのですから、もうこれは、公共サービスの一環ではないでしょうか。社会的なインフラなのですから、ちゃんとやってくださいと私自身は考えています。先ほどご紹介した「札幌の地域日本語教育を考える会」は、この「基本方針」が出されるタイミングで設立した団体で、実際に支援活動をしている人たちの声をまとめて上げていこう、横の連携を作っていこう、という問題意識で設立しました。
「考える会」では、何度か大きな会合なども開催しています。そこには、もちろん市の方も参加してくださっています。
ただ現状では、進捗はみられません。今年のうちに何か進むのかな、日本語教育に関する拠点ができるのかな、と私たちはすごく期待していたのですが、とりあえずは、まず調査から始めてその結果を見てから具体的な話は来年度以降ですね、といったニュアンスに市の取り組みはとどまっているのが現状です。もちろん、諦めずに声を上げ続けていきたいと思っていますが。
ボランティア任せの現状
結局のところ、基本方針はちゃんと策定されているのですが、実態はどうかというと、やはりボランティアに依存している面が非常に大きいです。地域の日本語教室が札幌市内に、12~13ぐらいあるのですが、いずれにも、公的な支援はありません。
例えば、先日、日本語教育に関する大きなイベントがありまして、それぞれの団体が、どんな活動をしているのかを発表したり、意見交換をしたりしました。そこでも話題になっていましたが、場所の確保や費用は、支援者であるボランティアさんたちが全額自分たちで負担しているのが実態です。
例えば、ここ(エルプラザ)を会場として使っている団体の方でも、場所を借りるのにも何か月前に予約をしなければならない。しかも、同じ時間に同じ場所を借りられるとは必ずしも限らない。そうすると、月に一回定期的に行っている日本語教室でありながら、今月はこっちで今月はあっちでと、館内をあっち行ったりこっち行ったり移動しなければならないこともある。定期的に同じ場所を使うということぐらい認めてもらえないものか、同じ場所をなんとか提供してください、といった声が、多くの団体から上がってきています。
それから費用負担の面です。もちろん、こういう公的な施設は、民間施設に比べると安く借りられますが、でも、週に一回とか週に二回とか活動をしていて、一回二千円とか三千円を支払っていて、それが一年とか二年とか続くとやはりそれなりの費用負担になります。それを支援者であるボランティアの人たちが負担するのは、なかなか大変です。そのため、実際に、支援者が増えないとか、活動を縮小していくとか、ここ数年の間でも、活動をやめてしまったという団体もあります。
子どもの日本語支援の現状
子どもの日本語支援に関してお話をします。
先ほどお話ししたように、札幌市内では、今200名以上のお子さんが日本語の支援を受けています。「札幌子ども日本語クラブ」さんという、30年近く活動をしている団体が、札幌市教育委員会と連携をして活動をしています。それぞれの学校に行って、通常は「取り出し授業」といって、例えば、国語の時間は支援の先生が来ているから別室で勉強をしようね、というような形で、日本語教育の支援をしています。
ボランティアさんのことを、「日本語指導協力者」という名前で札幌市は呼びます。日本語教育に関しては、日本語を教える専門家なのですが、その一方で、ボランティア扱いなのです。ですから、個人情報の提供はできませんといったように、学校との協力体制をとるのがなかなか難しいという声も聞かれています。
そして、この協力者の方たちへの謝金は、交通費込みで1コマ1千円です。私は、地方へ行ったときなど、「札幌では謝金が千円なんです」と言うと、嘘でしょう? 信じられない、と言われます。道内の自治体でも、学校派遣への扱いや謝金は色々なのですが、いずれにせよ、札幌市のようなこうした低い謝金では支援者は集まらないといった声がよく聞かれます。
関連して言うと、今紹介した「札幌子ども日本語クラブ」さんだけでは、支援が必要な子どもをカバーしきれないということで、札幌市では、去年(2024年)から、教育委員会でも、独自で、協力者の公募を始めました。それで、「日本語クラブ」さんからのボランティアと教育委員会で採用された方とが、それぞれ半分半分ぐらいで、学校を訪問することになったのですが、一つの学校に両方の組織から別々に支援者が訪問をしたりなど、情報共有がきちんとできていなかったり、研修制度が十分に整っていなかったりなど、状況の改善は遅々として進んでいません。
子どもがどんどん増えてきている札幌の現状ですと、日本に来てすぐに公立の学校にお子さんを入れられて、はい、じゃあ、今日からここでやってください、という大変な苦労をなさる状況です。
家族帯同・長期滞在にどう対応するか
こうした状況に対して今後は、「初期指導教室」というものが考えられています。これは、最初に来日したら2週間は集中的に日本語の基礎を学んで、日本の学校のルールとかも教えられて、その上で各学校に配置されるというものです。これによって、今よりは、お子さんの不安や負担が改善され、学校側も受け入れの準備ができるのではないか、ということが考えられてはいるのですが、ただ、これも現時点では未定の状況です。
働く外国の方たちが増えてくる中で、「家族帯同」、つまり、ご家族を国から呼び寄せる方が増えてきています。そのため、お子さんの数もすごく増えてきています。以前では、例えば北大の研究員として1,2年滞在して帰ります、というように、短期滞在者が多かったのですが、現在は長期で滞在する方たちが増えてきています。となると、子どもの高校進学はどうするのか、大学進学はどうするのか、といった問題が生じてきます。
それから、日本語だけではなくて、教科学習──例えば、社会科の勉強をどうしよう、理科の勉強をどうしよう、といった教科教育の問題も今は増えてきています。日本語は教えられても、教科教育に関しては、日本語の指導協力者には限界があります、例えば私自身も、中学3年生の数学を教えてくださいなどと言われることが時々ありますが、そこは難しいです。できませんと言わざるを得ません。
そのあたりもやはり、学校の先生たちとの協力体制というのが早くできたらいいなと思っています。とくにお子さんの場合は、発達や成長のことを考えると、猶予はありません。一刻も早く支援を始めて、学校生活に馴染んでいけるようにする必要があります。大人だけではなくて、子どもの日本語支援について早急に対応が必要だと思います。
日本語教育とは
次に日本語教育とは何かということをお話しします。皆さんもなんとなくのイメージはお持ちかとは思うのですが、今、日本語学習者、つまり、日本語を学ぶ人たちもすごく多様化してきています。
例えば、留学生がまずあげられます。
次に、仕事のために日本に来る人たちがあげられますが、そこでも日本語教育は多様化しています。より専門的な日本語を学ぶ人たちがあげられます。例えば、看護・介護とか、今は、飲食業界などでも、専門的な日本語をどんどん学んでもらいましょう、という流れが出てきています。
そして、「生活者のための日本語」という言葉を文化庁などは使っていますが、その地域で生活していくために必要な日本語を学ぶ人たちを対象とした日本語教育があります。
それから、「子どものための日本語」教育もあります。
以上のように、学習者が非常に多様化してきています。目的も様々で、文化的背景や国籍もどんどん多様化というか複雑化してきています。年齢も、子どもから成人まで、ものすごく幅広くなってきています。このように、日本語教育といってもすごく幅が広いんだということを、強調したいと思います。
日本語教育が開始される際の一場面を例としてあげてみます。
今、恵庭や苫小牧など、札幌近郊で暮らす方たちが増えてきているのですが、では、学校で受け入れますから明日から来てくださいとなって、支援者の方が入っても、学校は、そのご家族の言語が何の言語であるのか、家庭内ではどの言語を使っているのかという基本的な情報さえも誰も知らず、関係者間で共有されていないという現状があります。とくにお子さんの場合には、日本語はどこで使うのか、将来はどうしたいのか、ご家族はそのことをどう考えているのか、あるいは、学校との連絡事項についてはどの言語で行うのか、といった、必要最低限の情報が共有されていません。こうしたことをリアルに考えていく必要があります。
日本語をどう学んでいるのか
続いて、こういう方たちにどうやって日本語を学んでもらうのかということについて、話を進めます。
例えば、技能実習生の場合は、来日前研修と来日後の研修があります。そこでどのような日本語教育が行われているか、というのは様々ですが、共通して言えるのは、十分だとは言えないということです。研修以降は、地域の日本語教室に通ったり、ほかに結構よく聞くのは、オンラインで母語ができる先生と勉強をしています、という方も多いです。
ただ、地域の日本語教室に関しては、北海道は空白地域が8割と言われていて、今、「一般社団法人 北海道日本語センター」さんは、各地を飛び回って、日本語支援者をどんどん養成したり、地域の日本語教室の設立に走り回ったりしていますが、なにぶん北海道は広いので、やってもやっても、この広さにペースが追いつかない。このあたりが北海道で日本語教育を進めていく上での難しさかと思います。
子どもの例は、先ほどお話ししたように、学校では、文科省で言われているのは週2回までで、期限についても、おおよそ1年とか2年とかで、しかも、ご両親の希望がなければ途中でやめられてしまうケースもあります。
いずれにしても、現状では、大人であっても、子どもであっても、十分な日本語教育が受けられないような状況にある、というのが私の認識です。
他国での言語教育──ドイツを例に
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このシートは、他の国ではこういう言語教育はどうなっているんですか? と大学で日本人の学生に聞かれた際に話すことをまとめたものです。
私がよく例にあげるのはドイツで、ドイツは、移民政策が進んでいます。予算も非常に大きいですし、受講可能な時間も非常に長いです。しかも、ドイツ語だけではなくて、法制度や歴史なども学ぶことができて、受講料は、一単位を計算したら400円くらいで、全時間である700時間を受けても12.5万円です。その上に、一定の条件を満たしたら──例えば、成績が良くてちゃんと修了をすれば、そのお金が後で返還される、という制度設計になっているようです。
もちろんドイツも、こうした言語教育を最初から移民政策として採用していたわけではないようです。ただ、移民が拡大する中で、国内での対立──移民の人たちと元々ドイツにいる人たちとの対立が激しくなってきたことを受けて、このままでは分断が生まれてしまうということで、このような制度を確立したというように聞いています。
ドイツとあわせて、お隣の韓国も紹介します。韓国は、ドイツに比べると予算は少ないです。しかし、受講料は2万円程度で授業が受けられるらしく、しかも、その負担は、学習者ではなくて、その外国の人を雇用する事業主が負担するという設計になっているようです。
今は、外国人の労働者は世界中で取り合いになっているので、日本も、このままではだんだん選ばれなくなってくるのではないかと言われているのは皆さんもご存じのとおりです。
以上の紹介は、OECD諸国での成人移民に対する言語教育の報告書を基に、文化審議会の国語部会でまとめられた資料[5]の一部から整理したものです。
日本の予算規模
では、日本の場合、どのぐらいのお金を使っているのかをみていきましょう。
今年度(2025年度)は、日本語教育関連予算でおよそ31億円が計上されています。もっとも、何に使っているかというと、(1)後ほどお話ししますが、日本語教師の国家資格化が、昨年(2024年)から始まっています。その試験や認定校の整備があげられます。(2)それから、北海道も該当すると思いますが、地域日本語教育体制の整備で、具体的には、地域コーディネーターを置くとか、教材開発をするなどのことです。(3)そして、子どもの日本語支援などです。ここでは、日本語指導教室が配置されたり、支援人材を配置することが想定されています。
ちょうど昨日に見たニュースでは、来年度(2026年度)、子どもの日本語支援に関しては文科省がもっとお金を出すことが決まったらしいです。もっともっと、支援や整備が早くに進んでいくことを強く願っています。
先ほどのドイツの例などと比べると、予算が学習者に直接行き届いていません。まだまだ条件整備の段階であると思います。
日本語教師になるためには
後半では、日本語教師のことを皆さんに知っていただきたいなと思います。
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先ほどからちらちらとお話しをしておりますが、どうやったら日本語教師になれるのでしょうか。新しくできた制度では、「登録日本語教員養成機関」というところで学んで、国家試験に合格するか、すでに日本語教師の人たちは、いくつかの条件があるのですが、「登録日本語教員」の国家試験に合格することが必要です。
これまでは、(1)日本語教師養成講座で420時間を終了するか、(2)大学で日本語教育を主専攻か副専攻するか、(3)日本語教育能力試験──これは国家試験ではないんですけれども──に合格するか、のいずれかを選択する必要がありました。
昨年(2024年)から5年間は移行期間に該当していて、私も、その間に試験を受けなければならない状態です。
以上のように、日本語教師になるには幾つかのルートがあって、そして、今新しい制度ができたのですが、ここで声を大にして言いたいのは、日本語教師のうちの8割が、非正規の日本教師とボランティアから成り立っているということです。日本語教師、日本語教師と言われますが、そのほとんどは非正規で働いているか、ボランティアの人たちなんです。
日本語教師の働き方はどうなっているか
では次に、非正規の日本語教師がどのように働いているのかを紹介します。いろいろな疑問があって、私と、そちらに座っている札幌大学の久野弓枝さんとで調査を行ったその結果です。
まず、先ほどお伝えしたとおり、昨年(2024年)から国家資格が始まったのですが、待遇改善はどうなるんだろう、と思いました。国家資格を取るにはそれなりにお金も労力も時間もかかるわけですが、これまでの経験は一切考慮などされないんですね。とりあえず試験に合格してください、と言われるわけですが、試験に合格して資格を取得したら待遇が改善されるのかと言えば、それは誰にも分かりません。これが一つ目の疑問でした。
それから、雇われて働く日本語教師は多くが非正規雇用なのですが、その実態が不明でした。日本語教師の研究などをみると、教師はとにかく勉強してください、研修してください、自己研鑽してください、といった内容のものがすごく多いんですけれども、非正規で生活も大変な中でそんなに勉強、勉強と言われても、という疑問がありました。非正規の人たちは一体どのように働いているんだろうという就労の実態を知りたいと思いました。
三つ目は、北海道でも慢性的な日本語教師不足という問題です。地域日本語教室の支援者はもちろんそうなのですが、札幌市内の日本語学校でも常に求人が出ていて、日本語教師が全く足りていないということをよく耳にします。では、その日本語教師不足を一体どうしたらいいんでしょう。
以上のような疑問から、久野さんと、2024年の春に、道内の非正規の日本語教師を対象にして、実態調査を始めました。まず、3人の非正規日本語教師からインタビュー調査を行いました。そこからみえてきたことに基づいて、日本語教師を対象にウェブアンケート調査を実施しました。
ちなみに、このアンケート調査を実施するときに、私たちのイメージとしては、非常勤で働く日本語の先生が多いと思っていました。しかし、有償ボランティアという働き方もあれば、謝金が一切ないまったくのボランティアもあります。そういう中で、皆さん、不満とか不安とか言いたいことがたくさんおありのようで、調査では、たくさんのことを書いてくださいました。
分析では色々苦労しているのですが、今年は、大学と日本語学校で働く非正規日本語教師の働き方を比較してみようということで、整理をしてみました。ここからは、アンケート調査結果の紹介になります。
女性/非正規・ボランティアが多数
アンケートでは、道内の非正規の日本語教師の方72名にご協力をいただきました。この中には無償ボランティアだけの方も2名おります。
まず性別をみると、72人中62人は女性です。残りは9名、その他が1名です。本日の学習会のテーマでもあるジェンダーの問題という観点で言えば、女性がほとんどである、というのがまず一つ目の特徴です。
二つ目は働き方です。
どこで働いているのかという所属についてみると、日本語学校や大学のほか、最近では、オンラインで日本語教師をしているという回答者もいました。それ以外では、小中高で日本語を指導している先生もいますし、有償ボランティアの方、専門学校、地方自治体、交流団体、それから技能実習生の監理団体──先ほど述べた、来日後の教育で日本語を指導──のほか、地域の日本語教室などがあげられました。
次に、どんな立場で仕事をしているのかを尋ねると、まずは非常勤の方、それから、有期で単年度雇用の方、それから、有償ボランティアの方があげられたほか、こういう方もいるんだと思ったのは、地域のまちおこし協力隊として日本語を教えている方もいました。
私たちも非常に驚いたのは、日本語教師の働き方がここまで多様化していることです。このことは、大きな発見の一つでした。
日本語教師の年齢・教師歴・時給単価(大学、日本語学校)
では、大学と日本語学校で働く日本語教師の比較をみていきます。
整理がまだあまりうまくできていなくて、例えば、大学と日本語学校の両方で兼任で働いている非正規の日本語教師の方も回答者の中にはいたのですが、そういう方は、今回の分析からは外しています。ここでは、大学で働いている人と日本語学校で働いている人の二つに分けて比較してみました。具体的な人数は、日本語学校のみの方が27名、大学のみの方が18名です。兼務の方7名は今回の分析では外しました。
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いろいろとみえてきた特徴の第一は、年齢の違いです。青いグラフは大学で働いている方で、オレンジが日本語学校で働いている方なんですけれども、大学の場合、50代が約4割と最多です。その次が60代で約3割です。70代の方もいらっしゃいます。以上を合計すると、50代以上が全体の8割を占めることになります。
それに対して日本語学校の場合は、若い方もいて、20代も約15%、30代も約4%いらっしゃいます。もっとも、全体をみると、40代以上の方が全体の8割を占めています。
第二に、日本語教師歴です。どのぐらいの年数、日本語教師として働いているかを尋ねました。私の場合は、「30年以上」という最上位に該当するのですが、ここでも、大学と日本語学校とで大きな差が出ています。
大学の場合、10年以上の教師歴のある人が全体の9割で、その中でも、30年以上の方も2割を超えています。それに対して日本語学校で働く方は、逆に、短い年数に集中している。1年未満という方が一番多く、3割近くになります。逆に、10年以上は、合計しても1割に満たない。
年齢や教師歴にみるこうした違いは、この後でみる、教師が抱える不安や不満にも大きく影響しています。
その前に教師の待遇について簡単にみておきます。大学の授業の場合、90分とか100分という単位で給与が支払われていたりするので、ここでは、時給単価で回答してもらいました。
結果は、回答者の中で一番多かったのは、大学の場合、だいたい、時給5000円から6000円未満です。それに対して日本語学校の場合は、時給1000円から2000円未満が最多です。ですから、日本語学校は大学の半分以下の賃金になります。日本語学校で働く人に若い人が多い背景には、こうした賃金の問題があるのかなと思います。日本語学校で働いている若い私の知り合いも、かつては塾講師と掛け持ちをしたり、コールセンターの仕事と掛け持ちをしたりして、日本語教師の仕事をなんとか続けている方もいらっしゃいました。
日本語教師の不満(大学、日本語学校)
話がだんだん重くなってきましたが、次に、日本語教師の不満についてみていきます。調査では、どんなことが不満ですかと尋ねました。
数の多いのはこの後のシートであらためて紹介をしますので、ここでは割愛します。逆に、回答は少ないながらもこの中でお伝えしたいのは、下から二番目の「仕事の状況が一般の人に理解されないこと」に不満を感じている方が大学で16.7%、日本語学校で11.1%みられたことです。
どういうことかというと、日本語を教えています、といったら、日本人だったら誰でもできるんでしょうとか、あるいは、じゃあ外国語がペラペラなんですねとか、世間の誤解を少なからず受けることがあります。大変な仕事であることが理解されてない部分があるかなと思っています。
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では話を戻して、数が多い回答の上位3つを取り上げますと、大学の場合、まず「経験を積んでも昇給がないこと」が50%です。先ほど教師歴をみていただいたように、20年以上とか30年以上の経験を持つ方が多いのですが、昇給は一回も経験したことがない、という方もいます。学会で去年報告をした際に、「日本語教師も失われた30年なんですね」と笑われたんですけれども、本当にその通りだなと思いました。何年働いても全然何も評価されない状況にあります。今物価高騰でいろんな業界で賃上げ、賃上げと言われていますが、私たちには無縁の世界です。
二つ目は、「社会保険に加入できない」ことです。健康保険や厚生年金だけでなく、雇用保険にも加入できません。今どんどん制度は変わってきて、雇用保険の場合、週に20時間を働いたら加入ができるのですが、日本語教師が1箇所の学校で20時間以上を働くのは、不可能に近い。私たちには遠い世界です。
大学で次に多かったのは、「期限付き雇用という不安定な身分」であることです。そして、「時間外の仕事の多さ」です。
三つ目に多かったのが、「理由なくコマ数が減らされる」ことです。私たちは、今ちょうど、来年度も授業を担当させてもらえるんだろうか、という不安な時期にあたります。何曜日に来られますか? と聞かれ、大丈夫です、週に何時間は働けます、と書類を出しても、それが通るとは限りません。今年受け持っていた授業が、来年度は急に無くなることもあります。授業自体が無くなることもあれば、他の人に担当が変わっていたり、なんだかよく分からないけれどもコマ数が減らされることもあります。理由もちゃんと説明されません。そういったことを皆さんが経験しているんだと思います。
それからもう一つは、「自分自身や家族が病気や体調不良でも休めない」ことです。本当にこれは深刻な問題で、子どもが病気であるとか、年齢の高さを先ほどみていただいたとおり、親の介護の問題なども出てくる年齢に日本語教師はなっていますが、そういうときにも休めない。
私自身は、夫が介護休暇をちゃんともらえる職場で働いているので、親が介護を必要になったら夫に行ってもらいます。子どもが小さい頃には、子どもが熱を出して保育園から電話がかかってきても、私は休めないので、夫に行ってもらっていました。我が家ではそれができたんですけれども、本当にこれは切実な問題です。最近はさすがにみかけないですけれども、数年前までは、お子さんが熱で学校や幼稚園・保育園に行けないという際に、非常勤講師室に熱のあるお子さんを連れてきてソファで寝かせて、その間にお母さんが一コマの授業をしてくる、ということもありました。本当に私たちにとって、授業を休む、授業に穴を開けるということは、すごい怖いことです。これからの若い人たちにはこんな経験はして欲しくないです。
以上がまず、大学で働く先生たちの不満でしたが、次に、日本語学校で働く人たちはどうか。
一番は、先ほどもみたような、「賃金の安さ」です。大学と日本語学校で働く先生の何が違うのか考えたところ、大学の場合、例えば修士は持っていることや教育機関での経験が1年以上あるとか、そういった条件が課されていることかなと思います。
次がやはり「社会保険に加入できない」ということ。それから「時間外の仕事の多さ」です。
三番目が、「経験を積んでも昇給がない」こと。そして「研修や勉強会、学会への参加が保障されない」ことです。
両者に共通する不満
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両者の共通点をみると、まず一番大きな問題は「社会保険に加入できない」ということです。病気やケガで働けなくなったとき、それから失業したとき、何も保障がありません。それから、国民年金だけでは老後が不安です。人生の節目、節目というか、何かあったときに、安心材料が何もありません。
それから時間外の仕事の多さも共通します。これは、業務内容が不透明であることによります。日本語学校で働いている方の回答ですが、授業準備とか採点とか学生指導とかたくさんの業務があって、これらをしなければいけないんですけれども、そこに従事した時間を換算すると、最低賃金下回る状況です。時給で100円とか200円ぐらいにしかならないです、というようなコメントもありました。
関連して、働く人たちにとっての大きな問題は、保育園に預けるときです。保育園に預けるときには、労働時間を申請しないとならないのです。何時間以上働いていたら何時間預けられますという仕組みになっています。その申請が今どんどん厳しくなっていて、証明書を出すんですけれども、基本的には授業の時間数しか労働時間にカウントされませんから、家で採点をしていましたとか、試験問題を作っていましたという時間は反映されません。ですから、保育園に預けるのがすごく大変というようなことはよく耳にします。
私自身も、子どもが三人いて、今はもう全員が大きくなりましたけれども、子どもが保育園に行くときには、目一杯勤務先を確保して授業を入れて、それでなんとか週に20時間の勤務時間を確保して保育園に申請する、といったことを毎年行っていました。
日本語教師の不安(大学、日本語学校)
次に、日本語教師が抱える不安をまとめました。
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大学の先生で一番多いのは、「病気になったときの収入減」です。それから「コマ数を減らされる」こと、それらを背景にした「生活の維持」という負のループです。
それに対して、日本語学校の先生の場合には、「日本語教師としての技能、知識、専門性」です。生活とはちょっとかけ離れた、仕事の専門性に関わる不安が大きいことがわかりました。
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これらも多い回答をまとめました。大学の場合には、先ほど述べたとおり、一番多いのは、「病気になったときの収入減」です。病気になったら授業ができません。自動的に収入がゼロになります。それからもう一つは「コマ数を減らされること」です。先ほどお話ししたように、理由も示されず一方的にコマ数を減らされることもあります。コマの増減は、1コマ、2コマであっても、収入面には大きな影響があります。ちなみに、コロナのときは留学生が来日できなかったので、日本語学校では自宅待機を余儀なくされたり、大学では、急遽全てをオンライン授業にしてくださいと対応を迫られたりしていました。
それに対して日本語学校で一番多かったのは、先ほどお話したように、「日本語教師としての技能、知識、専門性」でした。これは、私も久野さんもとても予想外でした。生活もままならないのに、専門性のなさが不安であるというのはどういうことだろう、と。
考えられるのは、とにかく、授業の準備が忙しい。そうすると勉強したいと思っても勉強する時間がないということや、それから先ほどの不満の回答でみたとおり、研修会や勉強会に参加する機会が保障されていないことも背景にあげられるのかなと思いました。
考えられるもう一つは、昨年(2024年)から始まったこの国家資格化によって、日本語学校の認定校では、移行期間の後には、国家資格を持っている人しか日本語を教えることができなくなります。そのため、絶対に国家資格を取らなければならないという不安が大きいことが考えられます。
今は、日本語教師が本当に不足していますので、日本語学校によっては、その国家資格の取得を、金銭的にも勉強面でもサポートしますというところも、ごくわずかですが出てきました。
不安の三番目は、「将来や老後の不安」があげられました。
労働リテラシーとウェルビーイングの確保を
調査結果を駆け足でみてきました。まとめます。
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非正規の日本語教師の立場は、コロコロと都合よく見方が変えられると最近すごく感じています。参考文献にもあげた勝部美奈子さんという方は、こう書いています。あるときはプロとしての専門性を求められる。プロなんでしょう、日本語教師なんだからこのぐらいやってください、と言われる。その反面で、ボランティアとしての献身さもすごく求められる。学生のためにこのぐらいはやってくれるでしょうと。これはおそらく、日本語教師に限らず、学校の教員に少なからず共通することかと思いますが。
実際にはいろんな立場でいろんな働き方をしている人が、多くの不満や不安を抱えています。それが日本語教師の現状かなと感じています。
教師の不安とか不満が色々みえてきたんですけれども、私たちの次の課題は、ではこれらをどうしたらいいのか、問題をどう解決したらよいのか、ということです。この点は、本日皆さんにもお知恵をたくさんいただきたいところです。
今考えている一つ目は、やはり労働リテラシーについて、私たちは不勉強で、もっと知らなければダメだということです。何も考えずに言われたままに引き受けているのが現状ですが、本当にそれでよいのか。ちゃんと声を上げられるようになることが、自分自身を守ることにつながると思います。
もう一つは、教師のウェルビーイングです。久野さんと書いた論文で、日本語教師って何でも「やりがい搾取」だよねと話したことがあります。やりがい搾取に終わるのではなく、働きがいと働きやすさとその両方が必要だと考えています。
これらを実現するための次のステップに進みたいと考えています。
以上で報告を終わらせていただきます。ご静聴をありがとうございました。
[1] すでに隣人である外国人労働者の就労等の実態は、「お隣は外国人」編集委員会編(2022)『お隣は外国人──北海道で働く、暮らす』北海道新聞社を参照。

[2] 参考文献の中の久野・藤原(2024)のほか、川村雅則編著(2025)『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』北海道新聞社に収録された藤原安佐さん執筆によるコラム「日本語教師の8割が非正規とボランティア」を参照。

[5] 「OECD諸国における成人移民に対する言語教育について(第115回 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会)」令和4(2022)年10月28日
(参考文献・資料)
勝部三奈子(2023)『日本語学校の非常勤たちの「労働世界」──公的議論およびインタビューにおける成員カテゴリー化の実践』大阪大学博士論文
久野弓枝・藤原安佐(2024)「日本語非常勤講師の労働の周辺状況に関する一考察」『札幌大学研究紀要』第6号、pp.239-260
北海道(2024)『北海道における地域日本語教育の推進に関する基本的な方針』










