古川晶子「はむねっと調査2025&首都圏106自治体情報公開請求 会計年度任用制度の不合理を解消するために」

古川晶子「はむねっと調査2025&首都圏106自治体情報公開請求 会計年度任用制度の不合理を解消するために」『ふぇみん』第3435号(2025年11月15日発行)

 

本稿は、『ふぇみん』第3435号(2025年11月15日発行)に掲載された記事です。『ふぇみん』編集部の了解を得て転載します。どうぞお読みください。

 

 

はむねっと調査2025&首都圏106自治体情報公開請求

会計年度任用制度の不合理を解消するために

 

 

9月23日「第17回なくそう!官製ワーキングプア集会 反貧困集会2025」が都内で開催された。今回のテーマは 「会計年度任用職員制度 進む!首都圏の任用上限撤廃」。官製ワーキングプアの大多数を占める会計年度任用職員について、実態調査と、雇用者である自治体への情報公開請求の結果をもとに、 最新状況と今後目指すべき方向が共有された。

 

渡辺百合子さん(左)、瀬山紀子さん(中)

 

「毎年、 毎年が不安。なぜ民間は無期転換ができて公務ではできないのか。(40代 一般事務職員)」 「独身の若手はすぐに離職してしまう。後継者が育たない。経験や知識が必要な職なのに5年で公募。これでは先がない。(30代学校司書)」

公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)共同代表の瀬山紀子さんは、当事者の声を紹介した。はむねっとは2021年に立ち上がった、公務非正規の現職と経験者のグループ。 毎年、当事者へのアンケートで実態調査を行い、公務非正規という社会問題の最新状況を発信している。

調査は、5月19日から約1カ月間、インターネットを使って行われた。対象は、国や自治体の非正規職員、そのほか地方自治体の派遣スタッフや業務委託、指定管理など多様化する公的サービスの職場で働く(働いていた)人も含む。全国各地から寄せられた有効回答は480件。9割が女性で、なかでも回答が多い年代は50代。最終学歴は大卒が半数以上で、約3割がパートナーはいないと回答しており、いずれも2020年時点の国の調査結果より高い割合である。

<雇用不安定が主因>

 

(図 1)雇用形態について:パートタイム会計年度任用職員70%

 

そして回答者の7割がパートタイム会計年度任用職員 (図1) 。1年契約で更新回数に上限があり、給与は年250万円未満が6割という低待遇である。 「問題だと感じること」 の1位は「雇用不安定」 で、実際に退職者の回答では 「仕事を続けたかったが、雇い止めになった」47%が最も多い。

職種は一般事務職のほか、図書館司書や博物館職員、 保育士・保育補助、看護師・保健師など医療関係、 女性関連施設職員、婦人相談支援員、消費生活相談員など幅広く、専門性や経験がものをいう仕事が目立つ。

また現場で担う仕事についての設問(複数回答) では 「正規職員に仕事を教えている」26%、「決裁書の起案をする」25%、「人材育成」20%。そのほか 「クラス担任をしている」 「勤務シフト表を作成している」 などの回答があり、正規職員と同等の仕事をしていることが見てとれる。

「条件付き採用期間に新人研修講師をしている」10%という回答は、 契約更新直後の、民間でいうところの試用期間に当たる時期に、新人に仕事を教えるという、矛盾した状況を示している。

瀬山さんは 「働く人に雇用不安がつきまとい、実際に雇い止めがある。公務領域で働く非正規職員が安心して相談し、解決につなげていける相談窓口の設置が必要」 と語った。

また、 教員・学校司書・外国語指導助手・スクールカウンセラー・特別支援学級支援など、学校関係の職種も非常に多いことから、 「学期ごと雇用の解消も重要な点と考えている」 と付け加えた。

<情報公開請求で>

集会では、実行委員会による 「首都圏106自治体情報公開請求」 の結果も報告された。働く人の状況は、雇用者が把握して当然だが、公務非正規の場合、採用は各課任せで、人事部署が人数・性別・職種を把握していないという杜撰(ずさん)な実態がある。

情報公開請求は、自治体に 「大量離職通知書」 提出状況などを明らかにするよう求めている。30人以上の離職者が発生する場合、雇用者は1カ月以上前に、労働局またはハローワークに通知する義務を負うと法律で定められている。単年度更新の契約で、更新回数の上限を定める会計年度任用制度のもとでは 「大量離職通知書」提出の必要が生じるはずである。

昨年初めて行った情報公開請求では、提出自治体は50だったが、今年は76に増えた。しかし、離職の1カ月以上前という提出期限を守らない自治体が35あり、そのうち10は離職後の提出だった。提出期限はハローワーク等の離職者対応にかかわるが、守らない自治体は法の趣旨を理解していないことになる。

一方で、離職者の再就職支援のための措置は、正規職員のためのものばかりで非正規職員を対象とするものはほぼない。実行委員会の渡辺百合子さんは 「会計年度任用職員の人数すら把握せず、何の痛みも感じず使い捨てにしている自治体に対し、雇用者としての責任を自覚してもらう」 とその狙いを語った。

2024年6月に総務省から更新回数の上限撤廃についての通知が出た後の検討状況については、 「撤廃」 という回答が45自治体。「もともとない」20とあわせて65(61%) と、上限を設けない自治体が多数派になった。制度の改善に向け一歩前進といえる。

 

<本来の責任は国に>

(図 2)再度の任用の上限回数規定や公募選考に変更があったか

はむねっと調査と自治体情報公開請求の結果には、会計年度任用制度の不合理性と、自治体の無責任さが浮き彫りになっている。106自治体で多数派となった更新回数上限の撤廃も、全国を対象とするはむねっと調査の回答では33%(図2)なので、まだまだ取り組む必要がある。

人々の暮らしの安心を支える公務という仕事を充実させるために、官製ワーキングプアをなくすことは急務だろう。地域や家族が多様化・複雑化するなかで、相談支援や教育に携わる人の待遇を疎(おろそ)かにして、安心・安全な社会が作れるわけがない。はむねっとと実行委員会は今後、総務省や厚労省などに結果を提供し、制度の改善を提言していくという。

国はぜひ真摯(しんし)に耳を傾け、速やかに対応してほしい。本来は国が主体となって行うべきものなのだから。

●古川晶子

 

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