川村雅則「鳥取方式短時間勤務制度に関する調査報告(第一次報告)」

川村雅則「鳥取方式短時間勤務制度に関する調査報告(第一次報告)」『NAVI』2025年9月22日配信

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鳥取方式短時間勤務制度に関する調査報告(第一次報告)

 

川村雅則(北海学園大学)

 

本稿は、鳥取方式短時間勤務制度に関心をもつ関係者向けの発表用に必要最低限のことを取りまとめた第一次の調査報告である。十分に明らかになっていないこともあり、この後、さらに調査を深めていきたいと思う。よって中間報告的な性格の文章としてお読みいただきたい。なお、本稿の作成にあたっては、鳥取県からご協力をいただいているが、本稿に残りうる一切の誤りは筆者の責任によるものであることをはじめにお断りしておく。(2025年9月22日記)

 

鳥取県で新設された常勤職員(本稿では、常勤職員は正職員の意味合いで使う/使われている)の短時間勤務制度(以下、鳥取方式短時間勤務制度あるいは短時間勤務制度と略す)が全国的に注目を集めている。

年明け2025年1月30日の知事記者会見を受けて、非正規公務員問題に取り組む関係者が関心を寄せてきた。

ただ一方で、知事の記者会見や報道を受けて、この鳥取方式短時間勤務制度が会計年度任用職員制度に置き換わるものと理解され、やや過剰な期待をもって受け止められている節もあるのではないかと感じている。鳥取県で始まった短時間勤務制度は、それ自体として正しく理解・評価される必要があると思う(鳥取方式短時間勤務制度と会計年度任用職員制度との関係については、本稿でも要所要所で言及する)。

今回、鳥取県を訪問し、担当者から話を聞いた。本稿は、同制度に関する現地調査の結果を取りまとめた中間報告である。

 

 

 

Ⅰ.調査の概要

2025年8月26日10時~12時、県庁内にて、鳥取県総務部行政体制整備局人事企画課(人材活用担当、組織担当、給与室)4名及び同局行財政改革推進課1名、計5名の職員から話を伺った。

県に尋ねたいことを取りまとめて、事前に調査票をお送りしておいた。

調査票の内容は、大きく分けると4点で、メインは(3)である。(1)短時間勤務制度導入の背景、検討組織の概略など、(2)鳥取県の会計年度任用職員制度について、(3)鳥取方式短時間勤務制度について、(4)今後の公務・公共サービスの担い手に対する考え方。

調査には、筆者のほか、この間、非正規公務員問題等に関わってきた関係者が参加した[1]

鳥取県は、日本で最も人口が少ない県である。県のウェブサイト[2]によれば、人口は52万5255人(2025年8月1日現在)である。総務省の調査(令和6年地方公共団体定員管理調査)によれば、県の職員数は1万1823人である。

調査当日は、(1)短時間勤務制度導入に至る背景や制度の内容、そして反響や実績などの概略を県から説明いただいた上で、(2)調査票に基づき、順番に話を伺っていった。途中で簡単な質問も挟んだ。(3)そして、最後にあらためて質疑応答の時間を設けていただいた。

現地での調査を終えた後には、提供いただいた資料や聞き取りの結果に加えて、県のウェブサイトなどで公開されている情報も使って第一次草稿をまとめて、内容の確認を県にお願いした。その際に、追加の質問を送らせていただいた。その後、県からの指摘や追加質問への回答を反映させるなどして、本稿をまとめた。但し、冒頭に記載のとおり、本稿に残りうる一切の誤りは筆者の責任によるものである。

本稿では、以上の順番や内容を再構成した上で整理する。短時間勤務制度に関心がある方は、Ⅱの3に進んでいただきたい。

 

 

 

Ⅱ.調査の結果

冒頭で述べたとおり、鳥取方式短時間勤務制度の創設への反響は大きく、非正規公務員問題に取り組む者の間でも大きな期待が寄せられた。それは3で述べるとおり、記者会見での知事の発言内容や報道の表現内容も影響していると思われる。ただ、そのような期待(過剰な期待を含む)は、現時点の鳥取方式短時間勤務制度を正しく理解するのに邪魔になるおそれもある。そこで、本稿を読む際に念頭においておくとよいと思われることを、以下にあらかじめ述べておく。

 

  • 鳥取方式短時間勤務制度は、現在の硬直的な公務員制度の制約のなかで、関係者の苦労で作られた制度である。同制度は、2025年4月1日から始まったばかりの制度であって、定着に注力している段階である。
  • この短時間勤務制度は、国の動き[3]を視野に入れつつ、鳥取県が先鞭を付ける、全国の着火点となる、という姿勢で設計・導入された制度である。今後、国の動きなども踏まえて、改善がなされる可能性はある[4]
  • 本制度で採用される短時間勤務職員は、あくまでも常勤職員に分類されるものであること。よって、原則として、フルタイムの常勤職員(いわゆる正職員。以下、フルタイム常勤職員)と同じ任用制度、賃金・労働条件が採用されている。
  • 但し、短時間勤務制度は、本調査で把握した範囲や現時点の理解では、会計年度任用職員制度に代わる制度とは言えず、常勤職員の多様な働き方を実現する制度として始まった側面が強いと思われる[5]。会計年度任用職員制度は、鳥取県でも継続される(そもそも、採用の人数規模は、両者の間で大きく異なる)。よって、会計年度任用職員制度をめぐる問題は引き続き注視していく必要があることを強調したい。
  • 鳥取方式短時間勤務制度から逆に透けて見えてくるのは、公務員制度の硬直性[6]である。この点はもっと注目をされる必要がある。

 

 

 

1.鳥取方式短時間勤務制度導入の背景、検討組織の概略など

まず1では、鳥取方式短時間勤務制度導入の背景などを尋ねた。あわせて、同制度の実現に深く関わっていると思われた「とっとり未来創造タスクフォース(以下、タスクフォース)」[7]や「若手職員による県庁働き方改革緊急対策チーム(以下、緊急対策チーム)」[8]などについても話を伺った。また周知のとおり、鳥取県は女性職員の管理職登用が進んだ県である[9]。当日の配布資料によれば、鳥取県庁の管理職(課長級以上)に占める女性の割合は25.3%であって9年連続全国で1位とある。今回の短時間勤務制度創設の背景にも、こうした、職員のジェンダー平等政策等が何か関連しているのではないか、と考え、適宜話を伺った。県からの聞き取りの結果をまとめると、概略以下のとおりである。

 

第一に、鳥取方式短時間勤務制度の創設のきっかけは、「日本創生に向けた人口戦略フォーラムinとっとり」(2024年11月30日開催)[10]であった。

参加者で採択された「日本創生に向けた「とっとり宣言」~若者・女性にも選ばれる地域を実現し、 人口減少問題に挑戦~」[11]では、鳥取県からこの日本を変えることを誓い、日本創生に向けた人口減少問題を克服するための国民的運動をスタートさせること、また若者・女性の働き方をめぐる「将来不安」の解決に向けた正規化の推進などへ取り組むことが宣言された(もちろん、同宣言は官民を問わずに追求されるべきものとして位置付けられている)。

上記のフォーラムも踏まえ、庁内に「緊急対策チーム」が設置された(2025年1月14日)。同チームは、タスクフォースが中心となって組織された。子育て経験者や採用1~2年目等の若手職員の計10人をコアメンバーとして議論が行われ、庁内から広く声を集めて、「若者・女性にとって魅力的な地方での職場環境作りに向けた提案[12]がまとめられ、知事に提出をされている(2025年2月14日)。

同「提案」では、①「地方で楽しく、自分らしく働ける制度整備」、②「豊かな生活基盤の構築につながる勤務条件改善」(図1)、③「新しい働き方・社会情勢変化に適応した庁内環境整備」、という三つの柱に整理された提案がなされている。

短時間勤務制度は、②に盛り込まれている。すなわち、「若者・女性にとって魅力的な雇用形態を鳥取発で実現してはどうか」「会計年度任用職員の処遇改善に取り組むべき」という「現状・課題」に対して、「【会計年度任用職員の鳥取方式の正規化】○会計年度任用職員のうち、特に人材確保が課題となっている専門的な職種について、短時間勤務が可能な正職員として採用」という「提案」がなされている。

 

図1 豊かな生活基盤の構築につながる勤務条件改善に関する提案

出所:緊急対策チーム「「若者・女性にとって魅力的な地方での職場環境づくり」に向けた提案(最終報告書)」より。赤色の囲み線は引用者。

 

「フォーラム」以降のこうした状況と並行して、年明けから、人事企画課で短時間勤務制度の設計に関する検討作業が開始された。

質疑応答での結果も交えながら整理すると、第一に、人事企画課において、総務省との調整を含め、年明けから1か月ぐらいの期間で制度は設計された。2025年の2月議会に上程することを念頭に作業を進めたという[13]

そうして出来上がった制度の概要は、3に示した表3のとおりである。表中にあるとおり、特定の職の人材確保のための鳥取方式短時間勤務を導入する緊急措置に関する条例(以下、短時間勤務条例と略す)[14]が根拠条例である。

制度が報道されてから反響が大きく、国が設置したプロジェクトチーム[15]で報告する機会を得たり、他の自治体からの照会を受けたりしているとのことであった。

非常に短期間で制度設計がされていることから、職員の離職・欠員など、以前から職場で何か問題が生じていたのかと思い、その点を尋ねたが、県からの回答は、離職はたしかに、民間を含む世間並みにみられたものの、そのような理由で取り組んだというよりは、人口戦略フォーラムが大きな一つのきっかけになっている。官民問わず、短時間正職員というのは、育児や介護など、フルタイムで働くのに支障をもつ方にとって有効な働き方である、という問題提起がフォーラムのなかでなされたことが、検討の大きなきっかけの一つになったとのことである。

また、伏線には県で進めてきた働き方改革もあった。平成30(2018)年頃から、働き方改革が県でも進められてきた。職員の提案を受けながら、仕事を減らす、無駄な仕事は無くす、など業務の効率化を図るほか、時間外を減らすことを各部署で意識的に進めてきたという。

 

第二に、タスクフォースの特徴は、管理職を置かずに若手だけで構成された常設専任の組織であること。また、若手職員が人口減少対策や子育て支援など県政の諸課題について所属の分掌を超えて、政策の検討を行い、知事や副知事に直接的に政策提案を行うことであるという。

あわせて、今回設置された「緊急対策チーム」のように、その時々の課題に対してプロジェクトチームを設置して対応するのは県では珍しいことではない。課題に応じて部局横断で職員を集めてチームを編成するという手法はこれまでにも採用されていたという。

 

第三に、非正規公務員問題に取り組む関係者の期待にも関わることであるが、「提案」の「会計年度任用職員の鳥取方式の正規化」という文言に関して、会計年度任用職員の働き方に関して問題意識を持つ職員がチームや現場にいたのか、という我々の問いに対しては、それよりは、女性や若者が働きやすい働き方を実現するために何が必要か、という観点で今回の制度設計は行われている、とのことであった。この点(差異)については、後であらためて言及する。

なお、会計年度任用職員の任用に関して何か支障は生じていないか、また、制度の継続を予定しているかを追加質問で尋ねたところ、前者については、特段支障は生じていないと県では認識していること、また後者については、会計年度任用職員制度は、地方公務員制度上、継続されるものと認識しており、県でも制度は継続を予定していることの回答を得た。

 

 

2.鳥取県の会計年度任用職員制度について

2では、関連制度として、鳥取県の会計年度任用職員制度について簡単に確認をしておく。

2で示すデータは、2024総務省調査(総務省「令和6〔2024〕年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」結果を筆者が整理したものである(2024年4月1日現在のデータであることに留意されたい)。

調査当日は、短時間勤務制度との関連で質問を行ったが、会計年度任用職員制度の掘り下げた質問は行っていない。

 

1)鳥取県の会計年度任用職員の人数等

鳥取県の会計年度任用職員[16]は、(1)合計が2523人で、(2)男女の内訳は、男性が993人、女性が1530人である。(3)部門別にみると、一般行政部門924人、教育1112人、警察90人、公営企業397人である。(4)フルタイム/パートタイム別にみると、フルタイムが335人、パートタイムが2188人で、後者の内訳は、任用期間が6か月以上かつ1週間当たり19時間25分以上が1589人、任用期間が6か月未満又は1週間当たり19時間25分未満が599人である。

(5)職種別の会計年度任用職員の人数を以下の表2にまとめた。一般行政部門と教育部門と全部門(合計)を示した。

 

表2 職種×部門別にみた会計年度任用職員の人数

注:警察、消防、公営企業部門の人数の表示は割愛(合計には含まれる)。
出所:2024総務省調査より。

 

全部門(合計)でみると、多いのは、教員・講師629人、一般事務職員656人(うち事務補助職員75人)、その他409人、技能労務職員380人などである。

短時間勤務職員の対象となった専門資格職としては、看護師の人数が多い(うち看護師93人)。保育士等は6人である。

 

2)会計年度任用職員の勤務時間数、賃金

第一に、パートタイム会計年度任用職員の勤務時間(対象は15時間30分以上)で最も多いのは「23時間15分以上31時間00分未満」で、1636人中1308人が該当する。

なお、1週間当たりの勤務時間が37時間30分(週5日勤務、1日7時間30分相当)以上の職もみられる。

第二に、会計年度任用職員の職種別の給料(報酬)額等=地域手当込みの1時間当たりの平均給料額[17]は、事務補助職員が1034円、短時間勤務職員の対象職種である看護師が1715円、教員・講師(義務教育・義務教育以外のいずれも)が1740円、図書館職員が1438円である。上限は設けられているが、経験年数に応じて昇給給(経験加算給)がある、とのことである。

第三に、総務省調査によれば、鳥取県では、期末手当も勤勉手当も、常勤職員の年間支給月数より「③低い」月数が設定されている。記載された理由は、「令和2〔2020〕年度の制度移行の際、移行前の非常勤職員の報酬水準が国の示した基準よりも高かったことを踏まえ、労使交渉により、報酬水準を維持する一方、年収ベースで国基準に見合うよう支給月数を設定したもの。」とのことである。

聞き取りによれば、ここでいう「国の示した基準〔よりも高かったことを踏まえ〕」とは、総務省マニュアルに示された給与決定の考え方、すなわち、初号給(1級1号給)を基礎とする考え方(同マニュアル問13-5)より高い、という意味である。

 

3)公募制(再度任用時における公募)

鳥取県の会計年度任用職員制度では公募制が採用されている。5年公募である。

但し聞き取りによれば、公募について現在は、柔軟な運用が行われている。2024年の人事院・総務省通知も踏まえ、短時間勤務制度の開始とあわせて、同制度の対象となる職種(すなわち保育士、看護師、臨床心理士、歯科衛生士等)については、上限が撤廃されている、とのことであった。

上で示した総務省調査の人数データによれば、保育士等は6人とわずかだが、看護師は93人であるから、一定の職員数について再度任用時における公募が廃止になったと思われる。

なお、聞き取りによれば、公募全体を廃止するという判断にまでは至っていない。平等取り扱いの原則及び会計年度任用職員制度の趣旨を踏まえ、国や他の自治体の動向などもみていく必要があるとのことである。

 

 

 

3.鳥取方式短時間勤務制度について

3では、鳥取方式短時間勤務制度についてみていく。

その前に、知事の記者会見の記録から二点のことを確認しておく。

第一は、現行の公務員制度上は、短時間勤務制度をシンプルなかたちで作ることが困難であった(がゆえに、無給の働き方支援休暇を包括承認する、という手法を採用せざるを得なかった)ということである。

第二は、記者会見の記録にみる、鳥取方式短時間勤務制度の位置付けである。記者会見の記録を読む限り、鳥取方式短時間勤務制度は、会計年度任用職員に代わるものとして想定されていたように読める箇所もある。しかし、後述のとおり、聞き取り調査では、同制度は、そのような位置付けとしては説明されなかった。

前者については、何が壁になっているか(総務省の見解)を整理するのは今後の研究課題である。後者については、短時間勤務制度の形成過程で何か変更などが生じたのかを追加質問で尋ね、県からの回答を得たので、それを紹介する。

 

1)短時間勤務制度導入の困難と、同制度の位置付け──知事の記者会見の記録より

第一に、現行の公務員制度の枠内で短時間勤務制度を作ることには非常に苦労があったと思われる。例えば、2025年4月3日の記者会見で知事は、記者の質問に対して次のように説明をしている(回答を転載。下線は引用者)[18]

 

  • 我々として、実は国とも大分折衝とか協議を重ねましたけれども、なかなか地方公務員法の壁っていうのは厚いものがありまして、今回、我々として緊急避難的にも、こういう人材の限られた職種において、子育てだとか、あるいは地域活動など、そうした背景のある人が正職員として公務労働の世界でも働けるように短時間勤務も保障しようということに踏み切らさせていただいたものでありました。〔略〕
  • 今回、国ともいろいろ協議する中で、限定的な領域ではありますけども、スタートをすることについて了としてもらったところがあります。したがいまして、今やっていることを我々としても、まずは成功させていく、これが当面のテーマだと思っています。〔略〕
  • 国に対しては、我々もいろいろ議論しました。例えば地方公務員法24条っていう均衡の原則と言われるものが、どれほど射程があるべきものなのかとか、それで、我々の考え方と必ずしも国の考え方が一致したわけではないんですけれども、ただ、今、政府のほうも、まずは国家公務員でこういう働き方についての議論が始まっていまして、それで、それを今度、地方公務員のほうにもどのように広げていくのか、恐らく遠からずそういう検討があるんではないかと想定されます。それで、我々としてもその動きを見守りながら、我々の事実上も含めて、例えば夏の制度改正要望だとか、そうしたところで実績も踏まえたそうした要請活動も検討してみたいと思っています。

 

民間では法的な支障はとくに無く導入されている「短時間正社員制度」[19]は、公務員制度においては導入にあたってどのような壁があるのだろうか。総務省による見解を本調査で十分には把握できなかったため、この点は今後の研究課題として残された。

 

第二に、鳥取方式短時間勤務制度にはどのような役割が想定されていたのだろうか。2025年1月30日の知事の記者会見の記録から幾つかを転載する[20]

 

  • それで、今後これによる採用試験も新年度には[2月議会で]条例が成立すればやっていくことになると思いますし、従来、会計年度任用職員として勤務している職員も、こちらのほうに、例えば選考試験で能力の実証はかねてありますので、選考試験でこちらのほうへ身分替えしていくと、スライドしていくということはできるようにいたしたいと思っております。
  • まずは我々のほうでこうしたカテゴリーを新設していくことになりますが、会計年度任用職員自体をやめるということは法的にもできませんし、それがやっぱり原則だという国の立場もありますので、まずは、特に今、人材逼迫の可能性がある資格職の職員について、これ会計年度任用職員で従来雇用されていた人が正職員の短時間勤務になれる道を開くという突破口を我々の条例でつくってみたいということであります。
  • それで一番早いのは、現在、会計年度任用職員で働いておられる、こういう資格職の皆さんでありまして、こういう方々が移行を希望されることになれば、そこで選考試験のような形、能力の実証というのをいつも我々公務員求めるんですが、勤務実態がありますので、一定程度、能力の実証はあると。ですから、ペーパー試験ではなくて、選考試験で採用するということが可能だと思われます。

 

「会計年度任用職員自体をやめるということは法的にもでき」ないことに言及されているものの、「会計年度任用職員で従来雇用されていた人が正職員の短時間勤務になれる道を開くという突破口」を作るとも述べられており、会計年度任用職員制度の改善につなげることを想定していたように思える。

加えて、報道でも、1月30日の記者会見の翌日の各紙の報道のほか、例えば、『読売新聞(大阪版)』朝刊2025年3月4日では、「〔短時間の〕正職員制度は、任期1年の非正規公務員「会計年度任用職員」の勤務条件や処遇改善の狙いがある〔略〕」、『朝日新聞』朝刊2025年6月5日付「首相の出身地の鳥取県では、今年度から新たに短時間勤務の正職員制度を設け、会計年度任用職員の常勤化を進めている。〔略〕」などの記載がある。こうしたことから、鳥取方式短時間勤務制度には、短時間勤務が可能な常勤職員制度という評価だけでなく、会計年度任用職員制度に代わる制度としての期待も高まっていったのではないかと思われる。

ただ、県で働く会計年度任用職員の人数と鳥取方式短時間勤務制度で採用される職員の人数には大きな差があるし、しかも短時間勤務制度職員の採用は、最初の年こそ限定公募で会計年度任用職員からの採用が行われていたが、2026年4月採用予定者は一般公募で募集がされている。また、聞き取り調査で得られた内容も、知事の発言との差があるように、筆者には感じられた。そのようなことから、鳥取方式短時間勤務制度と会計年度任用職員制度との関係について、あらためて県に追加質問で伺ったところ、概略、次のような回答を得た。

すなわち、人材確保を目的とした短時間勤務制度の導入によって、従前であれば、いわゆる不本意で非正規雇用を選択していた者(正職員としての勤務を希望するものの短時間勤務でしか働けないために会計年度任用職員を選択せざるを得ないような者)を含めて、正職員としての勤務を選択することが可能になる。その点で、会計年度任用職員の正職員化に伴う処遇改善の効果も期待されるものであって、当初より、県の考えには変更はない、とのことであった[21]

では、条例全体に関する質問と回答をみた上で、個々の条件・制度をみていく。

 

2)短時間勤務制度の概要と制度全体に関わること

鳥取県が作成した短時間勤務制度の概略は表3のとおりである。

 

 

表3 鳥取方式短時間勤務制度の概略


注:表の右上欄の「現行法上の短時間勤務正職員」のうち「正職員」という箇所に違和感をもったが、「正職員」をつけずに「短時間勤務職員」と表記してしまうと、会計年度任用職員など臨時・非常勤職員も含まれることになるため、こう表記しているとの説明を得た。本文でもこの表記を用いる。
出所:鳥取県作成資料より。

 

図3 鳥取方式短時間勤務制度で採用された職員(短時間勤務職員)の位置付け

出所:聞き取りに基づき筆者作成。

 

第一に、鳥取方式短時間勤務制度で採用された職員はあくまでも常勤職員に分類される(図3)。無給の「働き支援休暇」が包括承認されることで短時間勤務が認められるものの、ベースは常勤職員である。

よって、任期は常勤職員と同じく定年制が採用される。支給される給料や手当も、短時間勤務職員用の特別な措置が図られるのではなく、給料は勤務時間数に応じて給料表(名称は「給料月額表」)が個別に規定されていること、退職手当を含む各種手当は常勤職員と同様に支給されることとなる。

表3で取り上げられた「現行法上の短時間勤務正職員」が、勤務時間こそ短時間であるものの、いずれの制度にも、任期があること、支給手当に制限があるのとは異なる。

第二に、こうした制度にもかかわらず、条例に「緊急措置」とうたわれた点、すなわち「この条例は、人材の確保が喫緊の課題となっている職等への職員〔略〕の採用に係る緊急の措置として、鳥取方式短時間勤務を導入することについて必要な事項を定め、もって当該職等に必要な人材の確保を図ることを目的とする。」(条例第1条)が我々の疑問の一つであった。当該職員は、定年まで働くことが想定されているのに条例名に「緊急」というのはなじまない印象を受けていた。この「緊急」の意味を尋ねたところ、県からは、概略、次のように回答された。

すなわち、鳥取県が先鞭を付ける、この制度をつくることで全国の着火点となれば、という意味でつけたものであって、制度が確定していない、という意味ではない。あわせて、公務員の短時間勤務制度の検討などが国のほうでも行われているようなので、それが出されればそれにあわせて改良していくことはあり得る、とのことであった(上記の記者会見での知事の発言も参照)。この点は4でもふれる。

 

3)採用・選考、受験資格

第一に、鳥取方式短時間勤務制度の職員の採用実績は、まず、令和7(2025)年4月1日に4人の職員が採用されている[22]。条例の制定から採用試験の実施までのスケジュールの都合上、まずは試行的に、限定公募で、会計年度任用職員から採用が行われた。今後の募集は、一般公募となる[23]

次に、現在は、令和8(2026)年4月1日採用に向けて募集が行われているところである。採用予定人数は、資格専門職が3人(保育士・看護師・臨床心理士が各1人)、障害者枠(知的障害・身体障害・精神障害が各1人)が3人の計6人である。

 

第二に、応募・採用の要件については、まず、特定の資格専門職については、条例に記載された下記の資格を有する、59歳以下の者である。

 

(1) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第18条の18第1項の保育士の登録を受けた者

(2) 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第7条第3項の看護師の免許又は同法第8条の准看護師の免許を受けた者

(3) 歯科衛生士法(昭和23年法律第204号)第3条の歯科衛生士の免許を受けた者

(4) 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会による臨床心理士の認定を受けた者

 

次に、障害者の応募・採用要件については、年齢要件が18歳から35歳までで、各障害の認定を受けた者である。

 

第三に、選考にあたっては、試験による能力実証が行われている。試験の内容は、各職種の能力実証が可能な内容で、それぞれの職種ごとに設定されている。勤務経験によって試験の内容が変わる(例えば、専門試験が課される代わりに経歴評価が行われるなど)。

なお、鳥取県での会計年度任用職員としての勤務経験そのものが特別に評価・加点されることはない。公務/民間を問わず、共通の基準で職歴そのものが評価される。

 

最後に、短時間勤務条例第2条の「育児、介護その他の常時勤務に服することが困難な事情を有する者」の確認は何らかの方法で行うのかという質問に対しては、とくにそのようなことは行っていない、とのことである。

 

4)任期、昇任

すでに述べたとおり、同制度での任期は、フルタイムの常勤職員と同じ定年制である。職員は最大65歳まで任用される。この点が、先にみた表3右欄の「現行法上の短時間勤務正職員」とも、非正規職員である会計年度任用職員とも、異なる。

昇任についても、フルタイムの常勤職員と同じ扱いであるが、現状では、係長級までと想定されている。当該職員が育児や介護で現在の働き方を選択しているという点に配慮した上で、本人の意向(希望)を前提に、フルタイム職員と同じように昇任させる、とのことである。

 

5)勤務時間、働き方、休暇制度

第一に、同制度での勤務時間数は、週30時間を基本に設計されている。

常勤職員は、本来は週38時間45分を基本に設計されるところ、鳥取方式短時間勤務制度で採用される職員は、無給の働き方支援休暇を包括的に承認されることで、週30時間「程度」の勤務となる。この点が、一般的にイメージをされる、シンプルな短時間勤務制度と異なる点であり、現行の公務員制度の枠内での県(自治体側)の苦労、創意工夫のあらわれであろう。

ところで、上記で「程度」と書いたが、具体的な時間数は、本人の意向や職場の意向を踏まえて決められる。2025年4月1日から採用されている短時間勤務職員4人は、全員が週31時間勤務を選択しており、計算上は、5日間のうち4日間を勤務に従事し、1日を休暇に充てていることになっている(7.75時間×4日間=31時間)。週30時間であれば、1日の勤務時間数が6時間で、5日間勤務というのが1つのパターンとして想定される。

 

第二に、休暇制度についても、フルタイム常勤職員と同じであって、短時間勤務職員だからということでの制限はとくにない。

 

6)賃金制度

新しい任用形態(雇用形態)を作るにあたっては、とりわけ賃金制度について、均等・均衡を確保することが重要である。本調査では、均衡をとることに留意したというニュアンスの発言が県から繰り返し聞かれた。その内容をみていこう。

 

鳥取方式短時間勤務制度の賃金制度の特徴は、第一に、賃金表に基づき賃金が支給されている点はフルタイム常勤職員と同様であるが、短時間勤務職員に使われている表は、フルタイム常勤職員とは異なる点である。短時間勤務職員のために設けられた「給料月額表」が使われている。名称も、フルタイム常勤職員の「給料表」と明確に区分されている。

この点は、地公法上は、職務・職責がフルタイム常勤職員と同じであれば同じ給料表(金額)を使うべきである、と総務省から指摘を受けたことによる。

給料月額表に記載された金額の算出の方法は、まず、フルタイム常勤職員の給料表から1時間当たりの賃金を算出して、その上で、勤務時間数である週30時間相当を積み上げている。なお、単価(1時間当たりの賃金)の算出は、「職員の給与に関する条例」に規定する方法によって計算が行われている[24]

 

第二に、初任給で支給される号給の設定や前歴換算に関する考えについては、フルタイム職員と同じである。昇給も、フルタイム常勤職員と同じ1年に4号給である。短時間勤務であるが、昇給上の不利益などはない。その点は、部分休業を取得している常勤職員と同様である。

但し、短時間勤務職員の「給料月額表」の上限は、係長職に相当する3級までで設計されている。どこまでの級を設けるべきかは、制度がまだ始まったばかりである、という事情もあって、暫定的に3級とされた。

 

第三に、手当の支給についても、フルタイム職員と同様である。

 

第四に、唯一、勤勉手当には特別の規定が設けられている[25]。端的に言えば、勤務時間数が短いことで、期間率に影響が及ぶ場合があり、その場合には、支給額が低くなる、という設計である(期末手当制度では、短時間勤務であることに伴う除算はない)。以下に整理する。

まず制度の説明をする。勤勉手当の計算には、期間率が関わる。勤勉手当が支給される基準日(6月1日または12月1日)から遡って、その評価期間(6か月)における在職期間によって決まる。短時間勤務を恒常的に取得することで(日々の時間短縮分が積み上げられ)、期間率が100%に満たない場合には、例えば90%、80%など当該割合で計算をされることになる[26]

但し、期末・勤勉手当の計算の際に用いられる、基礎となる給料は、「給料月額表」ではなく、フルタイム常勤職員に適用されている「給料表」に記載された金額である。「給料月額表」を使って計算をすると、フルタイム常勤職員より低い金額の手当支給を前提にした計算式となってしまい、部分休業を取得するフルタイム常勤職員との均衡がとれなくなる。つまり、短時間勤務職員の期末・勤勉手当の計算は、部分休業を取得するフルタイム常勤職員の期末・勤勉手当の計算にならったものである。結果として、勤勉手当が期間率で下がる場合がある。

 

7)教育訓練、研修機会

教育訓練、研修機会についても、鳥取県で定めた「鳥取県職員の人材育成、能力開発に向けた基本方針」[27]に従い、常勤職員と同じ扱いを受ける。

 

 

 

4.制度をめぐる質疑応答

質疑を交えながら制度の説明をあらかた受けた後に、参加者全員で、あらためて、様々な質問をした。ここでは筆者の関心事に限定して整理をする。

 

1)鳥取方式短時間勤務制度の将来像

まず、先に述べた「緊急」という語意にも関わって、制度の将来像について我々が尋ねた内容と県の回答を整理する。我々は次のようなことを尋ねた(集約・整理などしている)。

 

(1)鳥取方式短時間勤務制度の対象は、4つの資格専門職や障害者枠に限定されており、人数も1年に数名程度であるが、今後、拡大をしていく予定はあるか。事務職員でも短時間勤務を希望する者はいるだろうし、そもそも、フルタイム常勤職員のなかにも短時間勤務を求めるニーズは少なくないのではないか。

(2)鳥取方式短時間勤務制度は、無給の働き方支援休暇を取得するという手法ではなく、シンプルに、民間と同じような短時間正社員制度はできなかったのか。関連して、地公法第17条に基づく、一般職の短時間勤務制度(旧臨時・非常勤職員時代に各自治体でみられたような非常勤職員制度とは異なる、勤務時間数が短いだけの正職員制度)を作ることはできなかったのか。

(3)上記の質問に関わることでもあるが、知事が会見で述べていたとおり、現行法上の制約とは具体的にどのようなものなのか。総務省との折衝のなかでは、どのような点が問題として指摘をされたのか。

(4)鳥取方式短時間勤務制度は、採用実績人数こそ少ないものの、会計年度任用職員制度に置き換わる(置き換える)ものとして想定されているのか。会計年度任用職員制度は今後どうしていくのか。

(5)鳥取方式短時間勤務制度で採用された職員は、フルタイム常勤職員になることも可能なのか。短時間勤務条例第3条第4項[28]を読むと、フルタイムに切り替わることもできる、と読めるがどうか。関連して、逆に、フルタイム常勤職員が短時間勤務職員に移行するなど、ヨーロッパのような、フルタイムとパートタイムの往来を可能にするような制度まで視野に入れているか。

(6)常勤職員が取得する育児短時間勤務制度と、鳥取方式短時間勤務制度の関係はどう考えたらよいのか。育児短時間勤務制度を取得するフルタイム常勤職員と、育児を理由に鳥取方式短時間勤務制度に応募して働く職員との違いは何か。

 

以上のような質問は、振り返って考えると、やや筋違いであったり前のめり過ぎの感を受けたりする。鳥取県は、現行の公務員制度の制約のなかで今回の短時間勤務制度を設けたのであり、我々の質問の幾つかは、総務省に対して、あるいは、硬直的な公務員制度に対して向けられるべきものである。また、冒頭に述べたとおり、鳥取県における短時間勤務制度はまだ始まったばかりで、県は制度の定着に注力している段階にある。とはいえ、同様のことを県に尋ねたいと思う関係者は少なくないと思われたので、本稿にあえて掲載をした次第である。

さて、鳥取県の回答を整理すると、概略、次のようになる。

 

第一に、緊急という名称がつけられているのは、すでに述べたとおり、制度はひとまずは完了しているものの、国の動向をみながら制度変更の可能性はあることなどによる。条例の条文上は、職種拡大の可能性は否定されないが、まずは、制度を定着させることを考えているとのことである。

なお、特定の資格専門職4職種に対象を限定していることや対象職種の選定については、総務省からの指示によるものではなく、鳥取県の判断による。

 

第二に、総務省との折衝に関しては、まず、現行の公務員制度上は、短時間勤務制度の設置自体に一つのハードルがあった。その上で、無給の休暇制度(働き方支援休暇制度)を設ける、という手法でこのハードルをクリアした。

当初は県も、無給の休暇制度を取得させるという手法ではなく、シンプルに、短時間勤務の常勤職員制度を設置するという案ももっていた。しかしそれは、現行制度上は実現できないことが総務省から回答されたことで、無給の働き方支援休暇を取得させるという建て付けに変更した。

 

第三に、鳥取方式短時間勤務制度は、会計年度任用職員に置き換わるもの、というよりは、働き方の選択肢を増やすことに意義がある。現状では、短時間勤務を希望する場合には、任期付きの任用形態にならざるを得なかったところ、常勤職員としての短時間勤務制度を選択できるようになったことに意義があると考えている、とのことであった。

 

第四に、フルタイムとパートタイムの往来という考えは、確かに理念としては理解できるが、公務員の場合、地公法上の制約があるなかで、県など自治体側がそのようなことを自由に設計できる段階にはまったくない。現行法上でできる範囲内で県が設計したのが今回の短時間勤務制度である。

なお、フルタイム常勤職員で短時間勤務制度への移行を希望する声はとくに聞かれない。

 

第五に、短時間勤務職員がフルタイム職員に切り替わることも現時点では想定されていない。常勤職員として任用されていること、勤務時間こそ違えどもベースはフルタイム職員と一緒であることはすでに述べたとおりだが、「入口」が異なる。当該職員は、短時間勤務を選択することで入職をしているので、フルタイムに切り替えることは、現時点では想定されていない。但し、事情の変更があればフルタイムへの切り替えは可能であるという。

また逆に、育児短時間勤務は、あくまでもフルタイム勤務が前提で設計されたものであって、必要な期間に限定して短時間勤務になることが想定されている。それに対して、短時間勤務制度はパートタイム勤務がベースになっている。

いずれにせよ、それぞれの勤務制度にメリット、デメリットがあると思う、とのことであった[29]

 

2)制度設計に関するその他のこと

県の短時間勤務制度を各自治体が導入していく上でどのような点に留意が必要か、という問題意識で、さらに質問をし、重要と思われた回答が以下のとおりである。

 

第一に、鳥取方式短時間勤務制度で採用された職員は、常勤の職員であること、なおかつ、当該職員と既存のフルタイム常勤職員とのあいだで処遇面での均衡を意識した制度設計を図ることである。

県によれば、現行の公務員制度の枠内で短時間勤務制度を作ることに対して、既存の任用制度や労働条件をどこまで/どう適用すればよいのか、と当初は少し手探りのところもあったという。

短時間勤務制度の検討作業の過程でとくに何かが大きな議論になったわけではないが、育児短時間勤務制度を例にとると、同制度について短時間勤務職員にも取得させるのか、それとも制約を何か設けるべきなのか、などといったことである。この点は、フルタイム常勤職員が、1日2時間の部分休業を取得できるわけであるから、短時間勤務職員も、一日の時短部分(働き方支援休暇)が2時間に満たない場合には、フルタイム常勤職員と同じく2時間までは取得ができるというのが合理的である、といった具合に一つ一つを考えていったという。

他の自治体からの照会でも、例えば昇給や手当支給のことなど賃金制度について聞かれるが、原則として常勤職員と同じ扱いにする、ということを理解してもらっているとのことである。

 

第二は、鳥取方式の短時間勤務職員は「過員」の枠を使って配置されていることである。鳥取県では、定数条例上の職員定数の範囲内で、予備定数として代替職員配置等に係る予算定数を運用しており、これを「過員」と呼んでいる[30]。この定数上の扱いは、短時間勤務制度を導入・拡大していく上でネックになっていくと筆者には思われた。県にもそのことは認識されている。以下に説明する。

まず、現行の定数管理上[31]では、職員数[32]を労働時間ベースでカウントする仕組みになっていないため、短時間勤務職員も1人としてカウントされることになる(4分の3の勤務時間数の職員であっても、4分の3の人数でカウントされるわけではない)。そのため、県では、「過員」の枠を使って短時間勤務職員が採用されている。

県によれば、この点で現時点で何か課題が出ているわけではなく、これはあくまでも仮定の話であるが、とのことわり付で以下のことが説明された。すなわち、こうした多様な働き方が拡大していくことで、定数との関係で支障が出る可能性がある。つまり、定数上はあくまでも、職員1人は38時間45分をベースにカウントされているため、38時間45分に満たない勤務の職員が増えていったときに定数と実際の職員の人数との解離が生じることになる、とのことである。

なお、この点(現行の定数制度において定数がフルタイム職員を前提にカウントされている点)については、国のほうでも問題意識がもたれている。すなわち、人事行政諮問会議「最終提言」の短時間勤務の拡大について書かれた箇所で、「その際には、多様な勤務形態の職員が担っている業務量がフルタイムの職員の業務量の何人分に相当するかを勤務時間ベースで把握し、それに基づいて実員を管理するFTE(Full-Time Equivalent)の考え方を我が国でも研究すべきと考える」と書かれている。

 

第三は、鳥取方式の短時間勤務制度では、職員に対する勤務地への配慮がなされている。

すなわち、同制度では、職員の育児や介護等の負担への配慮が制度の趣旨であるため、短時間勤務のほか、勤務エリアへの配慮がなされている。県の常勤職員の勤務地は鳥取全県にわたるため、通勤時間が1時間、2時間を要するケースもある。短時間勤務職員にはその点で配慮をし、ワークライフバランスのライフに重点をおいた働き方が可能になるようにしている。

勤務場所には限りがあるため、定年までのあいだの配慮が確約されるものではないが、可能な限り配慮はされる、とのことであった。

なお、会計年度任用職員の場合には「職場採用」であったところ、短時間勤務職員については「全県採用」となる。この点も、会計年度任用職員から短時間勤務職員になるにはハードルになるかもしれない、と思われた。

 

3)当事者からの評価や採用に関すること

鳥取方式短時間勤務制度はまだ始まったばかりである。採用された人数もまだ4人である。そのような状況であるから、制度を導入して以降、制度に対して何か問題点や課題などが現場から指摘されるような状況にはないという。その上で、県によれば、当事者や関係者からの評価は次のとおりである。

まず、当事者(採用された者)からの評価として、育児や親の介護であきらめざるを得なかった正職員の働き方を選択できることになったと制度を評価する声が聞かれるとのことである。

次に議会はどうか。議会質問でも、県の取り組みを後押しするようなものが大半で、とくにネガティブな意見などは出されていないという。議会議事録にはあたっていないが、県によって作成された当日配付資料によれば、ある議員の一般質問には次のような表現がみられる。「非正規雇用の地位の安定や処遇を改善することが、今後の鳥取県、日本にとって新たな活力を生む重要な原動力になる。〔略〕会計年度任用職員個人の生活の安定と幸せにとって、県の人材確保の面からも大変意欲的な挑戦だと評価している。」(下線は引用者による)。

そして、労働組合からもとくに反対の意見は出されていないという。ただ労働組合の側からは、今回導入された短時間勤務制度のように、職を限定して、ではなく、誰もが短時間で働くことが可能になる制度を労働組合は求めている、よって、この点は今後の継続課題になる、と主張をされているとのことであった。

なお、当事者からの評価に関わって、一つ質問をした。2025年4月1日の採用実績に関わることであるが、記者会見での知事の説明によれば、10人に声をかけたものの、応募をしたのは最終的に4人であった、とのことであった。この点(6人が辞退をした理由)について尋ねたところ、県で把握している限りでは、所得の面で支障が生じる(例えば、所得水準が上がることで、子どもの奨学金支給が停止されてしまう、など)ことや自らのキャリアプランが理由にあげられた、とのことであった。初回の募集は、募集期間が短かったことも理由にあげられるかもしれない。

ただ一方で、県のウェブサイトによれば、2026年4月1日採用を予定している職員応募・合否の発表はすでに終わっているとのことだったので、応募状況がどうであったかを追加質問で尋ねたところ、既に結果の出された資格専門職の採用試験においては、応募者が計2名であったという。

 

 

 

5.考察(略)

 

 

 

 

 

謝辞

本稿の執筆にあたり、鳥取県の職員の皆さまには、ご多忙のなかで、現地での聞き取り調査に加え、現地調査の後には、非常に短い期間で内容のご確認や追加質問へのご対応をいただきました。深く感謝申し上げます。但し、繰り返しになりますが、本稿に残りうる誤りは全て筆者の責任によるものです。

 

本研究は、令和7(2025)年度 科学研究費 基盤研究(C)25K05477「ジェンダー化を伴う公務の非正規化の課題の実証的研究と解決に向けた日韓調査研究(代表:瀬山紀子・埼玉大学准教授)」に基づく研究成果の一部である。

 

 

 

 

 

[1] 参加したのは筆者のほか、弁護士、ジャーナリスト、労働組合等の5名である(計6名)。なお、鳥取の短時間勤務制度に対する評価などは参加者の間で統一はされていない。本稿に掲載した内容は、あくまでも筆者の見解である。

[2] 鳥取県 https://www.pref.tottori.lg.jp/

[3] (1)国の動きを示すものとして本稿では、2025年3月に人事行政諮問会議によって出された「最終提言」に言及する。人事行政諮問会議は、下記のウェブサイトによれば、「デジタル化が進展し、人材戦略の重要性が増大する新たな時代を見据え、優秀な人材を公務に誘致する上で不可欠である人材マネジメントのグランドデザイン構築が急務となって」いることを踏まえ、「公務員人事管理の在り方について聖域を設けることなく骨太かつ課題横断的な議論を行うため、各界有識者によ」り構成された組織である。第1回の会議は2023年9月に開催されている。

人事院「人事行政諮問会議」

https://www.jinji.go.jp/civilservicehrmadvisoryboard/index.html

(2)ところで、鳥取県は石破茂首相のお膝元である。鳥取県で非常に短期間で今回の制度が設計されたことには、中央政府と「連繋」する動きがあるのかもしれない。筆者をはじめ本調査に参加した一同が非常に驚いたのは、鳥取方式短時間勤務制度が非常に短期間で設計されたことである。ただ、この点は本調査の直接の対象ではないし、鳥取方式短時間勤務制度を理解することとは切り離して考えることができると思われる。また、本文に記載のとおり、伏線には、県で進めてきた働き方改革があったことも念頭におかれたい(追加質問への回答によれば、フォーラムの内容は「提案」に影響を与えているが、若手主導による働き方改革自体は、フォーラム開催以前からの既定路線であったとのことである)。

[4] さらに言えば、考察でも述べているが、そもそも職場の制度は、自然発生的なものでも硬直的なものでもなく、とくに労使双方の考えが反映されるものであるという理解が必要である。公務員制度の場合には、国の決定が大きく影響をすることは意識する必要はあるが。

[5] 鳥取方式短時間勤務制度が会計年度任用職員制度に置き換わるものとして理解された一因には、初年度の短時間勤務職員の採用(2025年4月1日採用)が、会計年度任用職員から行われたこともあると思われる。鳥取方式短時間勤務制度は、まずはそれ自体として評価されるべきものである。

[6] この点について二点を補足する。(1)かつて箕面市でも、短時間勤務制度の導入が目指されたことがあったが、制度導入は立ち消えになってしまっている。制度の構想案は、2019年10月の官製ワーキングプア大阪集会で当時の市長によって報告がされ、資料(箕面市「任期の定めのない短時間勤務職員制度」)も集会参加者に配布されている。(2)短時間勤務制度は、労働組合の側もかつて要求を継続していたことがあるが、やはり立ち消えになってしまったと組合関係者から聞いた。この点は、参考文献の地方公務員任用制度研究会(1994)のpp.220-223(「自治労運動方針の抜すい」、自治労法対部「一般職非常勤職員の法的地位と勤務条件の改善のために」)など参照。

[7] とっとり未来創造タスクフォースは、従来の組織と異なり、若手職員の意欲と想像力を発揮することを目的として設置された(2023年7月28日発足)。既成の概念にとらわれないアイデアにより、結婚・出産・子育てや移住定住施策などを企画・立案していく組織である。以上は、鳥取県ウェブサイト「とっとり未来創造タスクフォース」より。https://www.pref.tottori.lg.jp/mirai-taskforce/

[8] 若手職員による県庁働き方改革緊急対策チーム会議は、地方創生2.0基本構想の柱である「安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生」を実現すべく、先ずはそのモデルとなり得る“若者・女性が働きやすい職場づくり”を鳥取県庁から議論・実践することを目的として、令和7年1月14日に発足。以上は、鳥取県ウェブサイトの「若手職員による県庁働き方改革緊急対策チーム会議」による。

https://www.pref.tottori.lg.jp/321681.htm

[9] 共同通信社会部ジェンダー取材班(2024)も参照。

[10] 実行委員会主催。次第は、基調講演、シンポジウム①「人口一極集中の是正と地方における人口減少対策」、若者・女性セッション、シンポジウム②「働きやすい環境づくりと企業の生産性向上~若者・女性・子育て世代に選ばれる職場を目指して~」、シンポジウム③「安心して住み続けられる持続可能な地域づくり」、石破茂内閣総理大臣スピーチ。当日の状況が鳥取県の下記のウェブサイトから視聴できる。

日本創生に向けた人口戦略フォーラムinとっとり実行委員会

https://jinkousenryaku-tottori.jp/

[11] 「とっとり宣言」は下記からダウンロードできる。

https://jinkousenryaku-tottori.jp/tottori-declaration.pdf

[12] 同提案は下記よりダウンロードできる。なお、提案(最終報告)に先立ち、条例改正等を要する項目については1月29日に中間報告されている。

https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1383107/saisyuhoukoku.pdf

[13] 総務省との折衝では、鳥取県側からは、総務部長、行政体制整備局長、総務部参事監兼人事企画課長、給与室長が参加した(総務省側は、公務員課長、理事官等が対応)。

[14] 特定の職の人材確保のための鳥取方式短時間勤務を導入する緊急措置に関する条例

https://www1.g-reiki.net/tottori/reiki_honbun/k500RG00002084.html

[15] 参考資料にもあげているが、厚生労働省「第10回女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」2025年3月3日で知事が鳥取方式短時間勤務制度について報告をしている。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39997.html

[16] 会計年度任用職員のほかには、特別職非常勤職員が105人、臨時的任用職員が606人いる。

[17] 鳥取市会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例も参照。

https://www.city.tottori.lg.jp/reiki/reiki_honbun/m002RG00001241.html

[18] 鳥取県知事定例記者会見(2025年4月3日)を参照。https://www.pref.tottori.lg.jp/322459.htm

[19] 厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」の「短時間正社員制度について」を参照。

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/tayou/tanjikan/outline/

[20] 鳥取県知事定例記者会見(2025年1月30日)を参照。

https://www.pref.tottori.lg.jp/321186.htm

[21] この点については会計年度任用職員制度からの置き換えが意図されていなくとも、鳥取方式短時間勤務制度の意義が棄損されるわけではないし、労働組合など関係者の取り組みによって、会計年度任用職員から短時間勤務職員への移行を進めていくことは可能であると思われる。

[22] 今後の応募も含め、短時間勤務職員制度への応募は、(家庭責任の大きな)女性に偏ることになるのではないかと思って、職員の属性(男女別の採用人数)を尋ねた。個人情報という観点から詳細情報は得られなかったが、女性だけでなく男性も採用がされている、とのことである。

[23] 一般公募での募集という考えは理解できるものの、会計年度任用職員からの限定公募の実施についても検討して欲しい、という考えが調査参加者から示された。言わば身分替えである。1960年前後の臨時職員の待遇改善の取り組みではそのようなことが行われたという。

[24] 県の「職員の給与に関する条例」の第16条(勤務1時間当たりの給与額の算出)を参照。

https://www1.g-reiki.net/tottori/reiki_honbun/k500RG00000122.html

[25] 鳥取県の勤勉手当については、「期末手当及び勤勉手当の支給に関する規則」も参照。

https://www1.g-reiki.net/tottori/reiki_honbun/k500RG00000142.html

[26] 参考までに、全日本自治団体労働組合(2023)p.51、p.54から、期末手当と勤勉手当の計算式をあげておく。

{①期末手当基礎額(=棒給(給料)+地域手当等)+②職務別段階加算額}×③期別支給割合×④在職期間別割合=期末手当支給額

{①勤勉手当基礎額(=棒給(給料)+地域手当等)+②職務別段階加算額}×③期間率×④成績率=勤勉手当額

[27] 「鳥取県職員の人材育成、能力開発に向けた基本方針」は下記のリンク先を参照。同ページには、「人事評価制度」についても掲載されている。

https://www.pref.tottori.lg.jp/item/428872.htm

[28] 短時間勤務条例第3条4「前項の規定にかかわらず、鳥取方式短時間勤務職員からの申出があった場合には、当該申出に基づき、前項によるものとした場合に付与する働き方支援休暇の時間を減じ、その勤務することを要する時間が1週間当たり30時間を超えるよう付与することができるものとする。」下線は引用者。

[29] 短期間で終わるものではないものの、育児も介護もいずれは終わる。その際に、鳥取方式で雇われた短時間勤務職員がフルタイムを望んだ場合にはどうなるか、という疑問が残った。

[30] 鳥取県における「過員」は本文に記載のとおりであるが、自治体によっては、各職場の「定数」を超えて配置する常勤職員の定数上の取り扱いのことを過員と呼ぶ。その場合、定数内の職員に比べると、地公法上は、分限免職への規制(解雇規制)が弱いようである。参考までに述べておくと、地公法第28条第1項では、「職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。」と定められ、その、4号では、「職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」とうたわれている。また、扱いは自治体によると思われるが、条例上では厳しい制約を設けているケースもある。例えば、愛知県の定数条例では、附則に次のように定められている。「2 職員は〔略〕定められた定数に対し過員を生じたときは、その日から一箇月以内に逐次整理されるものとし、それまでの間はその定数をこえる員数の職員は定数外とする。」「3 前項の規定による整理を実施する場合においては、任命権者は過員となつた職員を免職することができるものとする。」以上の問題は、本調査に参加した安田真幸氏(労働組合「連帯・杉並」)からの情報提供による。なお、本文に記載のとおり、鳥取県における「過員」は予備定数であって、地公法上の過員とは異なり、地公法第28条等の適用対象ではないことをあらためて述べておく。

[31] 鳥取県職員定数条例については下記を参照。

https://www1.g-reiki.net/tottori/reiki_honbun/k500RG00000112.html

[32] 調査当日には、「人役(にんやく)」という言葉を使っての説明が行われた。人役の考え方などについては、鳥取県の「人役算定方法」を参照。

https://www.pref.tottori.lg.jp/32124.htm

 

 

 

 

参考資料

  1. 共同通信社会部ジェンダー取材班(2024)『データから読む都道府県別ジェンダー・ギャップ──あなたのまちの男女平等度は?』岩波書店
  2. 厚生労働省「第10回女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」2025年3月3日(「資料1 平井鳥取県知事提出資料」、「議事録」)
  3. 地域からジェンダー平等研究会「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」
  4. 地方公務員任用制度研究会編著(1994)『地方公共団体の臨時・非常勤職員等の身分取扱 第2次改訂版』学陽書房
  5. 鳥取県知事定例記者会見(2025年1月30日、4月3日)
  6. 鳥取県「鳥取県 性にかかわりなく誰もが共同参画できる社会づくり計画」
  7. とっとり未来創造タスクフォース「説明資料」
  8. 若手職員による県庁働き方改革緊急対策チーム「「若者・女性にとって魅力的な地方での職場環境づくり」に向けた提案 最終報告書」(2025年2月14日)、「同中間報告・緊急提案」(2025年1月29日)、「同キックオフ資料」(2025年1月14日)
  9. 新聞記事
  • 「「短時間正職員」拡大なるか/鳥取県が初導入、人手不足背景に」『都政新報』2025年6月6日付
  • 「非正規公務員、待遇改善へ 常勤化や給与見直し 会計年度任用職員」『朝日新聞』朝刊2025年6月5日付
  • 「責任感持ち、歩み新た 自治体の辞令交付式 /鳥取県」『朝日新聞』朝刊2025年4月2日付
  • 「鳥取県が「時短正職員」打ち出す 公務員制度の再設計を-日経グローカル 地方自治を考える」『日経速報ニュースアーカイブ』2025年3月30日付
  • 「時短勤務正職員 県が導入 新年度から改革 全国発信へ若手意見反映=鳥取」『読売新聞』2025年3月4日付
  • 「県職員、週休3日選択可能に 働き方改革へ条例改正案 /鳥取県」『朝日新聞』朝刊2025年1月31日付

 

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