川村雅則「非正規公務員問題に関する編著を出版して『お隣の非正規公務員』」

川村雅則「非正規公務員問題に関する編著を出版して 『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』」『建設政策』第223号(2025年9月号)pp.38-42

 

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『建設政策』今号の特集は、「働き方改革から1年~建設現場の変化と課題は(下)」です。

 

 

 

1.はじめに

『お隣の非正規公務員』という、北海道の非正規公務員問題に関する書籍(以下、本書)を総勢14名で執筆し、北海道新聞社から6月に出版した。執筆者は、労働組合(自治体労組、教職員組合)、自治体議員、弁護士、新聞記者に研究者など多彩な顔ぶれで、いずれも、この問題に関心をもってそれぞれの立場で問題解決に取り組む、全員が北海道で活動する方々である。

本稿をこう書き出したものの、本誌読者には、非正規公務員問題など自分たちとは関係がない、ともしかしたら思われるかもしれない。

しかしながら、周知のとおり、日本は、人口当たりの公務員の人数が少ない国であった。それにも関わらず、新自由主義政治(自治体構造改革、地方行政改革)の本格的な展開によって、公務員数はさらに減らされてきた。最近でこそ若干の増加がみられたとはいえ、2024年の時点で、1994年のピーク時からおよそ47万人も公務員は少ない状況にある。代わりに、適当な身分保障も労働条件の保障もされることなく、なし崩しに増やされてきたのが非正規公務員であった。短期間・短時間勤務者を含む人数が調べられ始めた2020年度には、その人数は合計で100万人を超えていることが明らかになった。公共工事の削減を含むこうした構造改革政治のなかで、地方は疲弊させられてきた。そのことを考えるならば、地域の建設産業の疲弊も非正規公務員をめぐる問題も「根」は一緒であり、本書のサブタイトルにもその思いを込めたとおり、問題の根本的な解決のためには、地域(地方政府)を変えていくのはもちろんのこと、地域から国を変えていく、という取り組みが不可欠ではないか。筆者はそのことを、公契約運動に取り組むなかでも強く感じている。

本稿では、本誌読者の関心事である公契約条例・公契約運動を意識しながら、本書の内容を紹介する。まず本書の構成などは以下のとおりである。

 

序 非正規公務員問題への実践的・多角的なアプローチ / 川村雅則

第1章[実像]非正規公務員の姿

1 会計年度任用職員制度とは / 川村雅則
2 北海道の非正規公務員のあらまし / 川村雅則
3 私のみた非正規公務員問題 / 市村信子
コラム① 差別の構造と向き合う / 伊藤誠一

第2章[背景]公務の非正規化はどのように進められてきたか / 川村雅則

コラム② 民間化の何が問題か / 川村雅則

第3章[法律]憲法・労働法・行政法からみた問題点 / 山本完自

1 非正規雇用者の権利保障の現状
2 民間にも劣る会計年度任用職員制度
3 労働基本権の制約という問題

第4章[議員]自治体議員にできること

1 非正規職員の身分差別解消へ / 神代知花子
2 自分らしく働くために / 江川あや
3 労働の価値を決めるのは誰か / 柏野大介
コラム③ 図書館員の質が保てない / 斎藤仁史

第5章[組合]労働組合にできること

1 自治労北海道本部の取り組み / 吉田雅人
2 北海道自治労連の取り組み / 東原 勉
コラム④ 教育の先が見えない / 佐野和孝
コラム⑤ 本当の先生じゃない? / 道端剛樹
コラム⑥ 「イヤイヤ学童保育」でいいの? / 林亜紀子

第6章[提言]ディーセントワーク実現のために / 川村雅則

コラム⑦ 日本語教師の8割が非正規とボランティア / 藤原安佐

 

 

2.本書の内容・読みどころ

以下、編者である筆者の独断によるが、本書の読みどころを示す[1]

 

(1)北海道における非正規公務員の人数

図 全国の地方自治体における正職員及び非正規職員の推移

注1:各年4月1日現在。
注2:非正規職員は臨時・非常勤職員。任用期間が6か月以上、かつ1週間当たりの勤務時間が19時間25分(常勤職員の半分)以上の職員が色の濃い棒。2020年調査以降の色の薄い棒は、それ以外の短期間・短時間勤務者を指す。
出所:総務省による調査(正職員は「地方公共団体定員管理調査」、非正規職員は不定期に行われる臨時・非常勤数の調査)より作成。

 

表 団体区分×正規/非正規(任用形態)別にみた、北海道内の自治体における職員数、非正規職員割合

単位:人、%

正職員 非正規職員計 非正規職員割合
会計年度任用職員 特別職非常勤職員 臨時的任用職員
北海道 61,623 8,083 4,427 2,334 1,322 11.6
札幌市 23,069 4,820 4,118 155 547 17.3
市群 29,678 18,157 17,094 1,063 0 38.0
町村群 20,412 16,730 15,202 1,397 131 45.0
一部事務組合 408 404 2 2
合計(全道) 134,782 48,198 41,245 4,951 2,002 26.3

出所:総務省による2024年調査より作成。

 

先にも述べたとおり、地方の非正規公務員の人数は全国で100万人を超えている(図)。

表のとおり、北海道全体(全道)では、その人数は約5万人(48198人)で、職員全体に占める割合を示すと、政令市である札幌市を除く「市群」では38.0%、「町村群」では45.0%に及ぶ。彼らの大半を占めるのは、実態は恒常的な仕事に従事しているにもかかわらず、制度上は、一会計年度ごとの任用であって「毎年改めて(新規に)任用される」と厳格に解釈されている「会計年度任用職員」である。

第1章では、北海道の非正規公務員に関する統計数値なども交えながら「非正規公務員の姿」をまとめた。かつて法の狭間におかれた存在であった非正規公務員は、新制度の下では、明確な任用根拠が与えられるに至ったものの、その任用制度や賃金・労働条件は、「適正化」にはほど遠い。そして、彼らの多くが女性である。人数の多い職種(大分類)で女性割合をみると、一般事務職員(10,461人)では82.1%が、保育士等(4,168人)では96.1%が、看護師等(2,796人)では98.0%が、女性である。男女雇用機会均等法が制定されてから40年になる今、あらためて、このジェンダーをめぐる問題を意識した取り組みが、ディーセントワーク実現のためには不可欠である。自治体の男女共同参画政策・計画はその点からも検証される必要があるだろう。

 

(2)当事者から声があがってこない理由

ところで、非正規公務員問題は深刻だ、と言われる割には、当事者からのその声は必ずしも聞こえてこない。問題は本当に深刻なのか、と思う向きもあるかもしれない。

しかし考えていただきたいのは、「身バレ」すれば仕事を失うそのリスクである。しかも、民間労働者と違って、実効性ある雇い止め規制が存在しないなど、権利保障・救済制度が未整備な状況におかれた彼ら非正規公務員が「発言」することのリスクは極めて高い。腹をくくれば/出るところに出れば、なんとかなる、という世界ではないのだ。

第1章第3節は、取材対象を見つけるのも一苦労のそうしたなかで新聞記者により執筆された。取材からみえてきた彼ら(未組織の非正規公務員)の率直な思いや、その一方での、労働組合のある職場で働く当事者の声や労働条件がまとめられているほか、非正規公務員への差別的な労働条件問題を、任命権者である自治体・行政側はどう考えているのかといった、貴重な取材記録が収録されている。

 

(3)公務非正規化の背景

公務職場でどうしてこんなにも非正規が拡大してきたのか。第2章では、そのことを、岡田知弘氏(地域経済学、京都大学名誉教授)の研究に依拠しながら、時代を遡って考察した。グローバル国家の実現を目指す財界の意向を背景に、聖域無き構造改革、とりわけ本書との関連では自治体構造改革、地方行政改革──もう少し具体的に言えば、(財政の)三位一体改革や平成の大合併、そして、「定員の適正化」などが進められてきた。そのなかで正規の職員が削減され非正規職員が拡大してきた。しかも、改革のこうした動きは終わったわけではなく、近年では、「公共サービスの産業化」の流れが強まり、民間化に拍車がかかっている。担い手の問題を含め、公共サービス・工事のあり方を適正化・強化していくことは、公共の削減を進めてきた国の方針と対峙し、新自由主義改革の尖兵(渡辺(2020))としての役割を担わされている自治体を変える、という一面を有する取り組みである。

以上は、公契約運動に携わる本誌読者と共有したい問題意識である。いま私たちは、「公務リストラ」をなお進める政治に目をつぶるのか、それとも「公共の再生」に取り組んでいくかの岐路にある[2]

 

(4)入り組んだ法制度の問題

新制度「以前」の非正規公務員(旧臨時・非常勤職員)の制度設計は非常に分かりづらいものであった。任用の「空白期間」が設定されたり、勤続年数に上限が設定されたりするなど、任命権者・自治体側の過度な裁量が容認されてもいた。その上に、非常勤職員に支払われるのは給与ではなく仕事に対する「報酬及び費用弁償」なのだからと諸手当の支給はできないと強弁されるような状況にあった。ゆえに通勤手当も当初は支給されぬ状況が続いた。

では、任用の適正化を掲げて2020年度から導入された新制度下で状況はどうなったかと言えば、なるほど、先にも述べたとおり、任用根拠こそ明確にはなった。一時金の支給が認められるなど、収入面の改善もあった。

しかしながら、制度内容や労働条件の「適正化」が、彼らの就業・仕事の実態を反映したものであったかどうかは別問題である。民間非正規雇用の世界にも劣る公務非正規の世界について、憲法・労働法・行政法の観点から問題点を解説する第3章は、この問題に取り組む方々に必読の章であると思う。

 

(5)二元代表制の一翼を担う議員・議会

第4章と続く第5章は、この問題の解決主体によって執筆された。まず第4章を担当したのは自治体議員である。教科書的に言えば、二元代表制の下で首長と議会は緊張感をもって政治にあたり、議会には、首長に対する監視機能や政策立案機能が期待されている。

ただ、総じて言えば、多くの議会の実際はそのような姿とはほど遠い。そのことは、残念ながら、ときどきに報道される議員の不祥事や議員の役割を放棄するかのような所業[3]などにも示されている。もっとも、一挙手一投足に注目が集まりやすい首長と異なり、議員の日々の活動は取り上げられる機会も少なく、我々市民にはなかなか見えぬのも事実である。そもそも二元代表制などと言われるものの、強大な政治力をもつ首長に議員が対峙するのは容易なことではない。例えば、膨大な行政情報は議員にも本来は適切に共有されてしかるべきであるが、そうはなっていない。

そのような状況でも、現場に足を運び、当事者から話を聞き、他の自治体の先行情報を集め、質問を練って組み立てて、そして、首長に対峙して政策に修正・変更を迫る。献身的な議員らのそのような繰り返しで各自治体の非正規公務員制度はじわじわと改善されてきた。第4章を担当したのは、そのような議員──2024年8月に発足した「公務非正規問題自治体議員ネット」に集う3人の議員である。

総務省の調べ(「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等」)によれば、2024年12月31日時点で全国には、2614人の都道府県議会議員と28940人の市区町村議会議員が存在する(北海道におけるそれは、99人、2194人)。彼らのなかから、いわば「推し」の議員を見つけ出し、共同を進めていくのも、運動に携わるものの重要な仕事ではないか。

 

(6)労働組合・労働運動の力

職場の問題、労働問題の最大の解決主体は労働組合である。労働問題を政治の力で変えようとすることは、とりわけ政治の責任が大きい非正規公務員問題では、言うまでもなく重要であるけれども、働く労働者自身によっても問題が解決できることは、当事者に広く知られて欲しい事実である。

とはいえ、公務/民間のいずれにおいても拡大する非正規雇用問題に労働組合はしっかり向き合ってきたか。今、労働組合は非正規4割時代にふさわしい取り組みはできているか、そのことが問われているのも事実である(そのような取り組みが欠けているからこそ非正規4割時代なのだとも言える)。本書第5章でも、この非正規公務員問題に労働組合が総力をあげての取り組みを展開できない苦悩が率直に語られている。

もっとも、悲観的になる必要はない。すでに当事者を組織してともに問題解決に取り組む労働組合はそこかしこに存在する。本章を読めば、労働組合・当事者たちがどんな取り組みをしてどんな成果をあげているのかをリアルに知ることができる。あなたの苦しさはあなたのせいではない、そして、あなたとともにあなたの職場を変える労働組合が存在する──非正規で扱われることにさいなまれる当事者に本章が読まれ、労働組合という問題解決の選択肢が知られることを願わずにはいられない。

 

(7)試論的な問題解決の提起──ジョブ型雇用という選択肢

最後に、「ディーセントワーク実現のために」提言を試みたのが第6章である。具体的には、ジョブ型雇用のルールを非正規公務員に適用していくことを提起した。

ジョブ型雇用は、民間企業でいいかげんな形で推進されていることもあって労働界では激しい批判がある。ジョブ型雇用の提唱者である濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)自身も、繰り返し苦言を呈されていることは周知のとおりである。

そのような事実を踏まえた上で、しかしながら、非正規公務員・非正規雇用者がおかれた現状、ジョブ型雇用の本来の基本的な考え方、そして、ジョブ型雇用の対であるメンバーシップ型雇用の問題点などを踏まえると、本章で試みた提言は一定の説得力をもつのではないかと考えている。忌憚のないご意見をお聞かせいただきたい。

なお、このジョブ型雇用の導入やジョブ型雇用のあり方を決める上で、労働組合による規制力が不可欠であることは本書でも強調している。

 

3.まとめに代えて

以上のとおり、公契約運動を意識しながら、本書を紹介してきた。より多くの関係者で運動に取り組む必要性、行政だけでなく議会を変える(活性化させる)必要性、あるいは、地域を変え地域から国を変えるという目標の設定など、非正規公務員問題に取り組んでいると、公契約運動で感じる諸課題に直面する。中長期の視点をもって、なおかつ、ウイングを広げた地域運動を組み立てていく必要性を感じる。

本書は「地方自治の担い手は私たち」という内容で締めた。ぜひとも本書を手に取ってご活用いただきたい。

 

北海道新聞社、2025年6月発行、1400円+税

(まとめてのご注文の場合、ご一報をいただければ、著者割引で販売可)

 

 

(かわむらまさのり 北海学園大学教授)

 

[1] 本書の刊行記念トークイベント(7月20日)でまとめた資料をベースにしている。

[2] 公共の再生については、久保木匡介氏(長野大学)の論文等を参照。自治体の具体的な取り組み・実践については、例えば、杉並区長の岸本聡子氏の著作を参照。

[3] 北海道では最近、自治体職員に質問を作成させている実態が広く見られることが明らかになった。「議会「やらせ質問」まん延*9市と道、自治体職員が作成*アンケートでは存在認めず」「<自治のかたち>「やらせ質問」まん延*なれあい議会 住民不在*職員「都合よく答えられ楽」/議員 答弁引き出し「手柄に」」。いずれも『北海道新聞』朝刊2025年4月15日付。

 

【参考文献】

岡田知弘(2019)『公共サービスの産業化と地方自治──「Society5.0」戦略下の自治体・地域経済』自治体研究社

岸本聡子(2024)『杉並は止まらない』地平社

久保木匡介(2025)「地域から公共を再生させるために」『月刊全労連』第337号(2025年3月号)pp.18-27

濱口桂一郎(2021)『ジョブ型雇用社会とは何か──正社員体制の矛盾と転機』岩波書店

渡辺治(2020)『安倍政権の終焉と新自由主義政治、改憲のゆくえ 「安政治」に代わる選択肢を探る』旬報社

 

 

 

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