川村雅則「図書館雇用・図書館問題に関する教材庫(2025年3月12日)」

(雇用問題を中心に)図書館が抱える問題や、図書館のあり方に関心をもっています。

2011年に書いた拙稿を掲載しただけでしたが、このページは、以降、関連する情報を整理するのに使っていきます。

2025年3月12日(最終更新■年■月■日)

 

 

拙稿「図書館職場の雇用にみる不条理」北海学園大学『図書館だより』第33巻第3号(2011年10月27日号)

勤務校である北海学園大学の『図書館だより』第33巻第3号(2011年10月27日号)に掲載した原稿です。

なお、(1)図(「雇用形態別にみた大学図書館職員数の推移等」)は、冒頭に配置しました。(2)図のデータは、日本図書館協会のウェブサイトからダウンロードして、2022年の値まで追加しました。(3)「職員」の定義を調査の「記入要領」から転載するなど、図の注は更新しました。どうぞお読みください。

 

PDF版のダウンロードはこちらから。

 

図 雇用形態別にみた大学図書館職員数の推移等

注1:職員数は、当年5 月1 日現在。
注2:職員の種類は以下のとおり。
(1)専任:雇用形態において、正規の職員として雇用されている者をいう。
A専従職員:職務において、図書館業務に専従しているもので、現員数を記入する。
B兼務職員:専任職員で図書館以外の職務を兼ねている者をいう。
(2)非専任:図書館の正規の職員以外のものをいい、短期間雇用も含める。年間実働時間の合計を 1500 時間で除したものを1人と換算。実人数ではない。小数点第2位を四捨五入。
C非常勤職員:健康保険、失業保険、厚生年金等の措置があり、雇用契約は1年毎でも、経常的に雇用されているもの。嘱託はここに含める。
D臨時職員:主として、パート・アルバイトを指す。経常的な雇用関係にあるものも含む。
(3)派遣職員等:委託契約、派遣契約に基づいて図書館に配置され業務を行う職員数を、(2)非専任と同様に算出して記入する(清掃、設備管理、警備が主である者は除く)。上記「(1)専任」「(2)非専任」と重複しない。
注3:2006年から「派遣職員等」のデータが公表されている(カウントは2003年から開始されている)。
注4:専任職員割合は、全体に占める専任職員(専従職員、兼務職員)の割合。非正規職員割合は、全体に占める非正規職員(非常勤職員、臨時職員、派遣職員等)の割合。注2にも記載のとおり、非正規職員は実人数ではないことに注意。

出所:日本図書館協会『日本の図書館』各年版より作成。

 

 

ここ数年、非正規雇用をめぐる問題の調査研究活動に力を入れている。

非正規労働者からよく聞かれる不満や怨嗟の声を整理すると、(1)仕事は恒常的に存在するにもかかわらず、期間を定められて雇用され、更新時期が近づくといつも不安など、雇用に関する問題群、(2)かつては正規雇用が行っていた業務を担うなど仕事内容の高度化の一方で、ワーキングプアという言葉が象徴するような賃金水準の低さで、しかも長期の勤続にもかかわらず、昇給や退職金等はないなど、処遇に関する問題群、(3)労働契約・労使関係がまるでないかのごとく労働条件を一方的に変更されたり、正規雇用で組織される職場の労働組合もそのことを「我関せず」と見てみぬふりをする、関係性に関する問題群、となるだろうか。

順に、仕事の恒常性と有期雇用の矛盾(ある研究者はそれを「偽装有期労働(雇用)」と表現するが言い得て妙である)/均衡・均等待遇をめぐる問題、処遇の不公正/労使・職場関係からの排除とまとめておこう。

場違いに思われるかもしれないこんな話題をここに書いているのは、図書館職場もまた、数多くの非正規労働者に支えられているからだ。利用者にはそのことはわからないだろう。他の職場と同様に、非正規雇用の基幹労働力化が進む中で、彼らもまた、補助的・臨時的な業務に従事しているわけではないからだ(図書館司書の資格をもって働くものが多数である)。

自治体職場でひろがる非正規雇用の実態を調べた労働組合[1]によれば、図書館職場では62.7%が臨時・非常勤職員だという。拡大しているとはいえ約3割である自治体職場全体の非正規割合と比べても、その値は突出している。いや、図書館に限らず、公民館、保育園など出先機関で非正規化は顕著である。それらの職場の特徴は女性が多いことだ。図書館職場の非正規も、91.9%が女性だという。わが国の女性の社会的な位置づけをこの数値は物語る。

では彼らの処遇はどうか。2009年に労働組合と共同で実施した非正規労働者調査[2]の結果から、図書館職員の結果を抽出すると、例えば年収(税込み)は、200万円未満が58.9%、250万円まで範囲を広げると全体の88.4%がそこにおさまる。

「自分だけの収入では生活できない」、「仕事は専門的で、業務量も多く、正職員と同じだけの時間を働く日もあるのに残業代は出ない」、「非正規で諸手当もないのに業務面では正職員と同じ1人と数えられ理不尽」、「とにかく身分が不安定」「非正規で図書館を運営している割に賃金が安い」等々、寄せられた声をあげればきりがない。

ところで、図書館職場のこうした非正規化は、大学図書館も同様である。日本図書館協会[3]によれば、非常勤・臨時職員に派遣職員等を足し合わせた人数は、専従職員の人数を上回る(図)。

「教育、文化、情報の活力であり、男女の心の中に平和と精神的な幸福を育成するための必須の機関である」(ユネスコ公共図書館宣言1994年)という公共図書館の位置づけと、そこで働く人々のおかれた状況との乖離は、あまりに著しい。

 

[1] 全日本自治団体労働組合『臨時・非常勤等職員の実態調査報告(完全版)』2009年

[2] 『北海道非正規労働者白書2009』日本労働組合総連合会北海道連合会、2009年。

[3] 同協会で発行されている雑誌『現代の図書館』の「特集:図書館ワーキングプア(vol.49 No.1)」がこの問題を取り上げているので参照されたい。

 

 

図書館の雇用に関するデータ

公益社団法人日本図書館協会 による「日本の図書館統計」より作成。

 

大学図書館計(2000~2023年)

短期大学、高等専門学校は除いています。
分類項目によって表を3つに分けています。

語意は以下のとおりです。※2018年度版

(1)専任 雇用形態において、正規の職員として雇用されている者をいう。
A専従職員 職務において、図書館業務に専従しているもので、現員数を記入する。
B兼務職員 専任職員で図書館以外の職務を兼ねている者をいう。
(2) 非専任 図書館の正規の職員以外のものをいい、短期間雇用も含める。2018年5 月1 日時点での2018年度予定数で年間実働時間の合計を 1500 時間で除したものを1人と換算して、「総計」と「うち司書・司書補」の数をそれぞれ記入する。実人数ではない。小数点第2位を四捨五入。
C非常勤職員 健康保険、失業保険、厚生年金等の措置があり、雇用契約は1年毎でも、経常的に雇用されているもの。嘱託はここに含める。
D臨時職員 主として、パート・アルバイトを指す。経常的な雇用関係にあるものも含む。
(3)派遣職員等 委託契約、派遣契約に基づいて図書館に配置され業務を行う職員数を、(2)非専任と同様に算出して記入する。(清掃、設備管理、警備が主である者は除く)
上記「(1)専任」「(2)非専任」と重複しない。

(1)2000~2005年:専従職員、兼務職員、非常勤職員、臨時職員

単位:人

2000 2001 2002 2003 2004 2005
専従職員 7575 7316 7171 6895 6599 6379
兼務職員 1043 1100 1111 1039 1096 1179
非常勤職員 1981 2093 2105 2032 2089 2157
臨時職員 2516 2606 2683 2401 2351 2244

(2)2006~2021年:専従職員、兼務職員、非常勤職員、臨時職員、派遣職員等

単位:人

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
専従職員 5950 5802 5509 5388 5223 5007 4919 4764 4719 4539 4442 4311 4188 4120 4047 4020
兼務職員 1169 1213 1220 1206 1236 1209 1261 1313 1303 1303 1287 1304 1363 1383 1355 1407
非常勤職員 2282 2282 2328 2428 2604 2673 2694 2638 2689 2687 2662 2749 2645 2619 2521 2568
臨時職員 2216 2187 1987 1976 1896 1806 1838 1809 1799 1631 1522 1434 1420 1413 1231 1159
派遣職員等 2093 2395 2688 2786 2778 2792 3046 3287 3434 3674 3749 3913 4155 4353 4221 4185

(3)2022~2023年:専従職員、兼務職員、非常勤職員、臨時職員、委託・派遣職員等

単位:人

2022 2023
専従職員 3928 3924
兼務職員 1474 1461
非常勤職員 2589 2594
臨時職員 1155 1128
委託・派遣職員等 4354 4501

 

公共図書館(2005~2023年)

語意は以下のとおりです。

(1) 専任職員 地方公務員法第17 条の一般職。給与が支給される者。いわゆる正職員。
(2) 兼任職員 上記一般職で、図書館以外の職務が本務である者。
(3) 非常勤職員 地方公務員法第3条3項3号の職員など報酬が支給される者。嘱託職員を含む。
(4) 臨時職員 地方公務員法第22 条2項、5項の職員など賃金が支給される者。いわゆるパート、アルバイトはここに含む。
(5) 委託・派遣職員 委託契約や派遣契約に基づいて図書館に配置され業務を行う者。その業務内容が清掃、設備管理、警備などが主である者は除く。指定管理者の職員はここに含む。

単位:人

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
専任職員数 14302 14070 13573 13103 12699 12114 11,759 11652 11172 10933
兼任職員数 1339 1408 1335 1345 1341 1306 1,311 1278 1221 1203
非常勤職員 6622.9 6981.7 7265.0 7367.7 7810.1 8033.9 8249.3 8500.0 8752.5 9056.6
臨時職員 6656.6 6979.8 6994.6 6984.6 7464.8 7261.7 7455.9 7322.7 7201.4 7184.5
委託・派遣 2360.4 3141.6 4247.5 5231.4 5835.3 7196.7 7983.8 8671.1 9731.6 9743.1
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
専任職員数 10539 10443 10251 10046 9858 9627 9459 9377 9366
兼任職員数 1304 1161 1088 1140 1101 1097 1100 1180 1188
非常勤職員 9416.5 9512.9 9841.0 9913.0 10061.4 11982.8 13629.1 14231.8 14722.8
臨時職員 7205.6 7199.9 7320.1 7172.6 6972.4 5361.3 4068.6 3221.2 3013.3
委託・派遣 10693.2 11747.4 12522.8 13057.6 13546.8 14149.1 14516.5 15075.0 15424.0

 

 

関連教材

集会の記録

■これでいいのか 図書館~会計年度任用職員の継続雇用を求める院内集会~
日時:2025年2月19日(水)14:00~17:00
会場:衆議院第一議員会館 大会議室
主催:「これでいいのか図書館 会計年度任用職員の継続雇用を求める院内集会」実行委員会

 

■これでいいのか図書館 担い手にまっとうな待遇を求める院内集会
日時:2024年6月6日(木)15:30~18:30
会場:衆議院第2議員会館多目的会議室
主催:「これでいいのか図書館 担い手にまっとうな待遇を求める院内集会」実行委員会

 

 

参考文献

猪谷千香『つながる図書館──コミュニティの核をめざす試み』筑摩書房、2014年

小川俊彦、田村俊作『公共図書館の論点整理(図書館の現場7)』勁草書房、2008年

片山善博(2007)「図書館のミッションを考える(<特集>図書館への提言)」『情報の科学と技術』第57巻第4号(2007年)pp.168-173

片山善博(2022)「コロナ禍における地方自治と図書館」『図書館界』第73巻第6号(2022年3月号)pp.497-504

片山善博、糸賀雅児『地方自治と図書館──「知の地域づくり」を地域再生の切り札に』勁草書房、2016年

 

木下通子『知りたい気持ちに火をつけろ!──探究学習は学校図書館におまかせ(岩波ジュニア新書 970)』岩波書店、2023年

後藤敏行『図書館員をめざす人へ(ライブラリーぶっくす)増補改訂版』勉誠社、2024年

塩見昇『図書館員への招待 四訂版』教育史料出版会、2012年

塩見昇、木下みゆき『新編 図書館員への招待 補訂版』教育史料出版会、2022年

戸田恭子『書店・図書館で働く人たち──しごとの現場としくみがわかる!(しごと場見学!)』ぺりかん社、2016年

山本順一『新しい時代の図書館情報学 第3版(有斐閣アルマ)』有斐閣 、2024年

 

 

 

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