『建設政策』編集部「(本の紹介)『「非正規4割」時代の不安定就業──格差・貧困問題の根底にあるもの』」『建設政策』第220号(2025年3月号)p.18
NPO法人建設政策研究所が発行する『建設政策』第220号(2025年3月号)にて、川村雅則編著『「非正規4割」時代の不安定就業』学習の友社、2024年8月31日発行 が紹介されました。

昨秋の自民党総裁選では選出が有力視されていた小泉進次郎議員が、解雇規制緩和を打ち出して失速した。これは自民党支持層も含め、これ以上の雇用破壊を望まない世論が大勢となったことの表れであろう。しかし不安定就業で働く人々は現在約4割に達し、それが引き起こしている格差・貧困問題は引き続き深刻なままだ。その問題に向き合い、非正規雇用問題の解消と「ディーセントワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に資することを目的としているのが本書である。
構成は、編者・川村雅則(北海学園大学教授、建設政策研究所副理事長)による第Ⅰ部〈総論〉と第Ⅱ部〈現場からの報告〉からなる。第Ⅰ部では非正規雇用について、その特徴・問題点とそれが増加した背景、そして問題を解決する方法の3つを議論の大きな柱として、その全体像が捉えられる内容が述べられている。ここで読者は問題に関する要点を押さえる、あるいは情報をアップデートすることができよう。
そして、編者自身が「本書のメインは、非正規雇用者がじつに様ざまな産業、領域に存在することと、そこでどのような問題が生じているか、そして、労働組合はどんな取り組みを展開しているか、が取りまとめられた第Ⅱ部です」(8㌻)と述べるように、様々な産業・領域における非正規労働の実態を12人の書き手が告発している第Ⅱ部が興味深い。その具体例は、国の機関の非常勤職員、地方自治体の非正規公務員、ソニー子会社工場の非正規社員、民放番組制作の不安定雇用スタッフ、ディズニーランドのアルバイト、研究機関・大学の任期付き研究者、外国人労働者、高齢労働者、釜ヶ崎の日雇労働者、西陣織の下請労働者、エステ・化粧品販売の名ばかり個人事業主、シフト制労働者であるが、とりわけ評者には、花形職場とされるなかで表沙汰となりにくい、在京キー局の番組制作やディズニーランドでの労働実態の詳述が印象的であった。
もちろん様々な産業・領域における不安定就業者の置かれた状況は、本書で描かれているように千差万別だ。しかし、それらに対してはいずれも使用者とその業界が脱法的に労働者を保護する労働法制を歪め、掻い潜ってきたことが招いた結果であること、そして問題の解決には「労働組合による規制と労働法による規制、いわば、労働分野の規制の強化が必要」(44㌻)であることを、労働者を組織化し待遇改善を求めて交渉と運動を展開している一連の事例は示唆している。
建設業における不安定就業の問題は、長らく建設労働組合が一定の改善を勝ち取りつつも、克服の困難さを抱え続けてきたものでもある。改めて産業・領域横断的な観点で、これら「非正規4割」時代の取り組みから学ぶところは、本誌読者層にとっても小さくないと思われる。
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川村雅則『「非正規4割」時代の不安定就業』第Ⅰ部<総論>第1節の内容に関連する表
筒井晴彦「(書評) 川村雅則編著『「非正規4割」時代の不安定就業──格差・貧困問題の根底にあるもの』」『経済』第352号(2025年1月号)pp.106-107