鴨池徹「『「非正規4割」時代の不安定就業―格差・貧困問題の根底にあるもの―』を読んで」『勤労協ニュース』2025年1月1日号
大阪市学校園教職員組合臨時教職員部 部長である鴨池徹氏から、編著『「非正規4割」時代の不安定就業―格差・貧困問題の根底にあるもの―』への書評をいただきました。
関西勤労者教育協会が発行する「勤労協ニュース」2025年1月1日号からの転載です。
教育の世界に飛び込んで、今もずっと教員採用試験も受け続けている私にとって「正規になれない」のは、「自分が悪い」「自分に力がない」と思い込んでいた。「失われた30年」(P.6)に書かれているように、「非正規」とは、きわめて政治的でかつ社会が生み出した責任であり、構造的な問題として捉えなければならない。しかし、今も「非正規」であることが「自己責任」と感じ苦しむ当事者がいる。この書籍に出てくる当事者たちも「自己責任」で苦しむ仲間がいる。第2部〈現場からの報告〉(P.55~)から印象に残った報告を紹介したい。
一度は「声優」という仕事に憧れて声優養成所の経験をしたこともあり、『放送業界における不安定な働き方』(P.83~)は非常に興味深い内容であった。民放労連の相談内容は、「残業代不払い」や「長時間労働」「休日の取得ができない」など、基本的な労働法制に違反しているものが多いという。例えば、制作会社所属のディレクターでは、「連続20日勤務」や「1か月休みなしの勤務」など、アニメ関係の会社では、「雇用契約書」がないや「給与明細」がないなど、プロダクションから放送局に派遣されている方は、「機材などの管理業務」や「月200時間以上を超える時間外労働」など、劣悪な労働環境であることが伺える。
『夢と感動をあたえるテーマパークを支える不安定な働き方』(P.92~)では、オリエンタルランドで働く従業員約2万人のうち8割がアルバイトであるという。「天候で変わる賃金」では、雨でショーが中止になり、来場者が減ると「今日はこれで帰っていいよ」と言われ、時給で働く従業員はその日の賃金が出ず、毎月の賃金が変わり不安定になるなど、厳しい条件で働いていることがわかる。
いかに大変な状況であったとしても、どの報告も共通するのは、「声」をすくい上げて労働組合として闘ってきているという点である。表面で見えている現実がすべてではなく、背景を知ることで闘う活力にもつながっていくと考える。「非正規」という弱い立場で苦しむ多くの仲間を「ひとりぼっち」にすることなく、つながりをつくり続けるためにもこれからも学び続けていきたい。
(関連記事)
鴨池徹、近藤真理子(2024)「小学校における非正規教員の雇用・労働条件の課題」『日本の科学者』第59巻第10号(2024年10月号)pp.42-48 ※会員はダウンロード可
筒井晴彦「(書評) 川村雅則編著『「非正規4割」時代の不安定就業──格差・貧困問題の根底にあるもの』」『経済』第352号(2025年1月号)pp.106-107
青山亮介「『「非正規4割」時代の不安定就業―格差・貧困問題の根底にあるもの─』を読んで」『NAVI』2024年10月22日配信
川村雅則「『「非正規4割」時代の不安定就業』第Ⅰ部<総論>第1節の内容に関連する表」『NAVI』2024年10月8日配信
川村雅則「非正規雇用をめぐる問題 ──まっとうな雇用の実現のために」『NAVI』2024年10月14日配信