小松康則「参加したくなる! 元気の出る楽しい労働組合活動を進めよう(第1回)みんなが参加しようと思える会議や活動がしたい」『学習の友』第847号(2024年3月号)pp.66-69
「はぁ、聞いてるだけで疲れるわ」
組合員が主体的に参加し、元気の出る楽しい労働組合活動を進めたい—これは多くの労働組合役員が願っていることだと思います。しかし、それができずに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。実は私もそうでした。労働組合の大切さやさまざまな取り組みの意義を熱く語れば語るほど、みんなが疲れていく。そんな経験もしました。どうすればみんなが主体的に参加することができ、楽しいと感じ、元気の出る活動ができるのか、それが大きな悩みでした。
私は2011年に大阪府職労の書記長になりました。当時の私はプレッシャーを感じつつも、やる気にあふれていました。「みんなついてこい!」そんな気持ちだったかもしれません。「みんなを元気づけ、やる気になってもらわなければ!」そんな思いで会議に臨み、情勢を報告し、当面の取り組みについて力強く提案していました。「熱意が伝わってくる」「力強くてわかりやすい」という私の耳に届く一部の人のフィードバックのみを聞いて、ますます力が入っていったように思います。
ある会議でいつものように、たっぷりと時間をかけて報告し終えると、ベテラン看護師の役員が「はぁ、聞いてるだけで疲れるわ」と、ため息混じりに呟きました。その言葉が耳に入ってきた瞬間、「せっかく一生懸命に報告しているのになんという態度だ! 許せない!」と、とても腹が立ちました。しかし、その場にいる他の参加者の表情を見れば、口には出さないけど、きっとみんなその役員と同じ気持ちなんだということがわかりました。自分ではわかりやすく力強く伝えているつもりでしたが、その結果、みんなを疲れさせていたことに気づき、力や勢いだけでやる気を引き出すことはできないと感じた瞬間でした。
「とても発言できる雰囲気じゃない」
こんなこともありました。私が書記長になって数年経った頃からは、役員の若返りをはかる努力を続け、経験の少ない人や若い人が少しずつ役員を引き受けてくれるようになりました。いつも会議では「何でも聞いてね。わからないことは言ってね。何でも自由に発言してね」と繰り返し伝えました。
しかし、数か月が経ったあるとき、新しく役員になった同年代の保健師に「小松さん、あの会議はとても発言できる雰囲気じゃないですよ。話についていけない自分が勉強不足なのかと思うし、発言するのにすごく勇気がいる」と言われました。「自由に発言して」「機会は保障しているよ」とアナウンスするだけではダメなんだと気づかされました。それと同時に、今までの組織運営が「わかっている人」を前提に、こちら側の方針を押し付けているだけで、職場の仲間の思いを十分に反映したものにはなっていなかったのだと考える機会にもなりました。
コミュニティ・オーガナイジングとの出会い
そんなときに出会ったのがコミュニティ・オーガナイジングでした。先に学んでいた仲間に誘われて、2017年12月にコミュニティ・オーガナイジング・ジャパンが主催するワークショップに参加しました。参加費は約5万円と安くはなく、当時は東京で2日間のリアル開催でしたので、参加費、交通費、宿泊費等のハードルもありました。それにワークショップというものが何かすらわかっていなかった私は「何か怪しいなぁ」と懐疑的で、すぐには参加を決められずにいました。しかし、「絶対に受けたほうがいいよ」「参加費以上の値打ちがあるよ」との誘いかけもあり、府職労の仲間からも「ぜひ学んだことを組織に持ち帰ってほしい」という期待の声も寄せられ、「現状を変えたい、チャレンジしたい」という気持ちで参加を決めました。
朝9時から夜7時前までの2日間のワークショップは、「長いなぁ」と感じていましたが、始まるとあっという間でした。理解できたことは少なかったかもしれませんが、みんなが主体的に参加する活動を進めるためのヒントが溢れていると感じ、わくわくしたのを覚えています。
みんなの思いがあふれる場づくりを
ワークショップでは、年齢や性別、属性や肩書きなどがいっさい影響しないフラットな関係の場が意識的に作られ、お互いの大事にしている思い(価値観)を共有し、人と人の関係づくりやチームづくり、戦略のつくり方を学ぶトレーニングの場でした。「真似したい」「府職労にも取り入れたい」と思うことがあふれていました。実践にいかすために、その後もトレーニングの機会に参加することになりましたが、いま振り返ると、こういうフラットな場を作りたいという思いが自分の中で大きくなっていったのではないかと思います。
コミュニティ・オーガナイジングが求めるリーダーは「ともに学び、適応し、実践する」リーダーであって「博識があって、地位があって管理する」リーダーではないということを学びます。まさにその実践を通じて作られた場がそこにありました。自分の組織もそうありたい、自分自身が労働組合役員として、地位にしがみつく管理者ではなく、常に実践者でいたいという思いが強くなったのだろうと思います。
その後は会議のやり方を工夫したり、ワークショップ型の学習会や定期大会に変えたりすることで(どのように変えたのかは後の連載で詳しく書きます)、次第にみんなの率直な思いが集まるようになりました。みんなの意見が集まると、相乗効果のように思いがあふれるようになり、女性や若者の参加も増え、職場や組合員がぐっと身近に感じられるようになりました。会議や取り組みの最後に必ず行っている「振り返り」では、「自由に意見が言えるので参加したくなる」「いろんな人の意見が聞けて楽しい」「自分の意見が取り入れられていると感じる」という声が次第に多く出されるようになりました。
職場の困難に近づく活動へ
会議などを進めるうえで大切にしてきたのは、①こちら側が求める(期待する)意見と違っても否定するのではなく、しっかり受け止め、丁寧に質問し、話し合う。その過程を通じて職場で起きてる問題や悩みに気づくことができます。②出された意見のうち反映できるものはどんどん反映し、そのことを伝え、感謝する。③情報は参加者全員(欠席者も含む)に共有し、いつでもアクセスできるようにする。④発言しやすい場をつくり、全員が話せる時間も保障する。⑤参加者の多様性(女性や若者、職種、雇用形態)を追及するということです。
これらを実践することで、職場の組合員に近づくことができるし、参加しようと思える活動への転換につながりました。女性や若者の参加が増えたのも「みんなが参加しやすい」を追求した結果です。今年度からは非正規職員の方も参加してもらえるようになりました。子育てや介護をしながら働く女性や職場で声をあげづらい若者や非正規職員は多くの困難に直面しています。その人たちが参加しやすくなることは、職場の困難を解決する労働組合活動に欠かせません。役員目線の活動から職場目線、組合員目線の活動への転換が必要です。
みんなが安心して参加できて「話を聞いて勉強になりました」だけではなく、「楽しかった」「元気が出た」と言ってもらえるような組織づくりにチャレンジしていきたいと思います。
小松康則「連載①元気の出る組合活動:みんなが参加しようと思える会議や活動がしたい」
小松康則「連載②元気の出る組合活動:対話から生まれる関係づくり」
小松康則「連載③元気の出る組合活動:「参加したくなる」「話したくなる」会議へ」