川村雅則「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(4)」

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(4)──2024年調査に基づき」『建設政策』第218号(2024年11月号)pp.40-45

※指定管理に関する表9-1~表9-3の2023年度の結果は、データが到着次第、加筆します(2024年11月1日記)。
※上記データのうち表9-2、表9-3の分をご提供いただきました(2024年11月7日記)。

 

本稿は、下記の続きです。

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(1)──2024年調査に基づき」『建設政策』第215号(2024年5月号)pp.8-12

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(2)──2024年調査に基づき」『建設政策』第216号(2024年7月号)pp.36-43

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(3)──2024年調査に基づき【完全版】」『建設政策』第217号(2024年9月号)pp.38-49

 

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『建設政策』今号の特集は、「大阪/関西万博と夢洲開発をめぐる諸問題」です。

 

 

 

 

札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(4)──2024年調査に基づき

 

川村雅則(北海学園大学)

 

1.はじめに──調査の概要
2.自治体発注の仕事をめぐる問題──調査にあたっての問題意識
3.総合評価落札方式の概略
4.札幌市の問題意識と対策の概略──建設工事を中心に
5.社会保険未加入対策とCCUSの活用(試行)
6.資料にみる札幌市における公共調達と労働者の賃金
7.札幌市における総合評価落札方式
8.その他

(以上の目次は、本誌第215号~第217号の拙稿・連載より)

 

9.(補論)関連データの紹介

連載を続けてきました。今回の調査の主な目的は次の二つでした。一つは、札幌市発注の仕事の全体像や市の仕事で働く労働者の現状を市の資料や市の調査結果に基づき整理すること。もう一つは、札幌市の公共調達における入札・契約に関する取り組みを把握することです。

連載の最後として本稿では、研究上の課題を「まとめに代えて」で述べます。その前に、補論として、公共調達、入札・契約に関する三種類のデータを紹介します。そのうちの一つは、次号で詳しい分析を試みます。1)のデータです。本稿では経緯だけ簡単に記しておきます。よって、「まとめに代えて」はその分だけ割り引いてお読みください。

 

1)札幌市「入札参加者アンケート」

本連載(3)(具体的には、7.4)札幌市の総合評価落札方式の拡大の予定)において、札幌市では、総合評価落札方式による入札件数を大きく増やすことは予定されていないことを示しました。理由にあげられたのが、入札参加事業者を対象に札幌市が行ったアンケート調査の結果です。具体的には、同調査において、総合評価落札方式の拡大に否定的な意見(正確には、現状維持志向と縮小志向)が多かったこと(「工事」事業者では、合計で全体の3分の2以上を占めたこと)があげられました。

本稿ではこの調査結果を取り上げる予定でした。市からは、「札幌市総合評価落札方式に係る入札参加者アンケートの実施結果(速報値)」。以下、入札参加者アンケート結果)をご提供いただいていました。

しかし、この資料に掲載されていたのは単純集計結果にとどまったため、事業者側の意向を把握する上では、より掘り下げた分析結果が必要でした。そこで、「速報値」以外にも集計・分析結果があるのではと期待して資料照会したものの、内部資料で公表していないことから提供が難しいと回答されたため、では、自分自身で集計を行おうと調査データの開示請求を行ったところ、ご提供いただいたのが、「令和4〔2022〕年度 総合評価落札方式の総括〔作成日の記載はなし〕」という資料です。筆者が期待していたクロス集計データも一部掲載されていました。

ただ、なお不明な点が残ったことなどから、調査データの開示請求は取り下げずにそのまま実施したところ、最終的に、情報提供のかたちで調査データをいただくことができました。これを集計・分析の上、次号で報告します。

 

2)札幌市の指定管理事業、指定管理者施設の雇用や賃金情報

札幌市指定管理事業の状況及び札幌市指定管理者施設における雇用や賃金の情報を紹介します。

以前、「札幌市の公共調達等に関するデータ」というタイトルで、本誌第202号(2022年3月号)~第205号(同年9月号)で4回に分けて連載をし、その中で上記の情報を紹介しました。以下の表9-1~表9-3はその続きです。札幌市総務局行政部改革推進室からご提供をいただきました(2023年度のデータは間に合いませんでした。本稿をウェブサイト(「北海道労働情報NAVI」)に転載する際に追記します)。

まず指定管理の事業規模は、自主事業収入を含め280~290億円台に及びます。連載(2)にまとめた建設工事や委託業務などとあわせて、これだけ大規模な公共工事・サービスに、事業者や労働者が担い手として参加していることを認識した取り組みが必要です。

一方で、働く者の状況は以前とあまり変化はありません。4月1日時点で4千人超の職員のうち、正規職員は全体の3分の1にとどまります。また、「全体」でみた時間当たり平均賃金(表9-3の注4に記載のとおり、賞与や諸手当を除くいわゆる基本給を基礎に算出)は、正規職員で1,500円弱、非正規職員は1千数十円にとどまります。前者(正規職員)では、平均で1,800円台の施設種もありますが、逆に、「文教施設」や「社会福祉施設」では、1,400円前後にとどまります。

 

表9-1 札幌市の指定管理事業の状況/単位:億円

収入(決算、消費税込)
合計 指定管理業務収入 自主事業収入
小計 指定管理費 利用料金 扶助費・措置費・給付費・運営費 その他
2021年度 283.01 260.74 184.62 46.95 17.14 12.03 22.27
2022年度 295.46 264.77 185.02 47.14 18.25 14.36 30.69
2023年度

出所:札幌市総務局行政部改革推進室より提供。

 

表9-2 札幌市の指定管理者施設における雇用形態別職員数/単位:人、%

実数 割合
合計 正規職員 非正規職員 合計 正規職員 非正規職員
2021年度 4,112 1,469 2,643 100.0 35.7 64.3
2022年度 4,022 1,428 2,594 100.0 35.5 64.5
2023年度 4,009 1,423

2,586

100.0 35.5 64.5

注:各年度4月1日現在の数値。
出所:表9-1に同じ。

 

表9-3 同、指定管理者の施設内容の区分ごとの正規職員及び非正規職員の時間当たり平均賃金

施設内容区分 代表例 2021年度 2022年度 2023年度
全体 雇用形態 全体 雇用形態 全体 雇用形態
正規職員 非正規職員 正規職員 非正規職員 正規職員 非正規職員
1 レクリエーション・スポーツ施設 農業体験交流施設、区体育館、温水プール、ジャンプ競技場等 862人 200人 662人 824人 194人 630人 832人 195人 637人
1,163円 1,854円 954円 1,186円 1,840円 984円 1,300円 1,883円 1,114円
2 産業振興施設 産業振興センター、コンベンションセンター等 92人 49人 43人 93人 50人 43人 100人 49人 51人
1,435円 1,820円 996円 1,490円 1,834円 1,091円 1,497円 1,880円 1,114円
3 基盤施設 都市公園、駐車場、市営住宅等 407人 95人 312人 415人 94人 321人 417人 95人 322人
1,170円 1,551円 1,054円 1,175円 1,568円 1,060円 1,218円 1,658円 1,083円
4 文教施設 区民センター、地区センター、芸術の森、コンサートホール、青少年科学館、生涯学習センター等 889人 329人 560人 912人 343人 569人 912人 343人 569人
1,158円 1,386円 1,024円 1,179円 1,399円 1,047円 1,201円 1,436円 1,055円
5 社会福祉施設 老人福祉センター、養護老人ホーム、健康づくりセンター、児童会館、保育所等 1,832人 794人 1,038人 1,765人 751人 1,014人 1,748人 741人 1,007人
1,183円 1,371円 1,039円 1,234円 1,424円 1,094円 1,330円 1,618円 1,113円
全体 4,082人 1,467人 2,615人 4,009人 1,432人 2,577人 4,009人 1,423人 2,586人
1,177円 1,464円 1,016円 1,212円 1,496円 1,052円 1,287円 1,629円 1,078円

注1:各年度4月1日において指定管理者の職員であった者の各年度中の賃金について作成したものである。
注2:施設内容区分は、総務省が2018年10月に実施した「公の施設の指定管理者制度の導入状況等に関する調査」の施設区分による。
注3:次の者については、時間当たり平均賃金を算出するに当たり賃金が捕捉できない等の理由により対象から除外している。派遣労働者、勤務時間の定めのない職員。
注4:それぞれの時間当たり平均賃金は、賞与や諸手当を除くいわゆる基本給を基礎に算出したものである。
出所:表9-1に同じ。

 

3)業務委託契約における賃金算出根拠情報など

指定管理に関する情報に続いて、業務委託契約における次の三つの情報を整理します。①主な職種、②賃金の算出根拠、③具体的な賃金額(月額/日額/時間額)です。建設工事の場合には「公共工事設計労務単価」が賃金算出根拠になっているのに対して、委託の場合には、それは各担当課にゆだねられていますから、情報の収集・整理の必要があります。

この作業については、以前、「自治体発注業務における賃金算出根拠を調べる」というタイトルで、本誌第176号(2017年11月号)~第183号(2019年1月号)で8回に分けて連載をしたことがあります。そこで同様の作業を行っていますので、そちらもご参照ください。

なお、過去の調査では、指定管理についても同様の作業を行いましたが、今回は間に合いませんでした(別の機会に報告します)。

各地で同様の作業に取り組んでいただきたいと思いますので、情報収集の方法について簡単に紹介しておきます。上記三つの情報はどこかで集約されているわけではありませんから、事業の担当課への照会が必要になります。

入札契約案件から、情報提供をお願いしたい事業を抽出します。どの事業を抽出するかは調査者の任意です。主な職種・賃金算出根拠・賃金額の把握が目的ですから、なるべく性格の異なる事業を抽出するのがよいと思います。

今回は20件を抽出し(表9-4のとおり、①~⑳と番号をつけました)、2024年9月11日付で、情報公開の窓口(総務局行政部行政情報課)を通じて、各担当課に情報の提供を依頼し、各担当課から直接筆者に情報のご提供をいただきました。札幌市の場合にはこのようにご対応いただいていますが、自治体によって対応は異なる(担当課と直接のやり取りをする、公開請求の手続きを必要とする)かもしれません。

20件のうち、事業①~⑰は、「市長部局(交通局、水道局及び病院局を除く各部局)における物品購入等及び役務契約」[1]から選択したもので(但し、教育委員会が担当課となったものも2件含まれています。理由は不明)、⑱~⑳は、「教育委員会各部における入札・契約情報」[2]から抽出したものです。実施時期が極力新しいものを抽出しました。⑳を除き、履行開始時期は2023年ないし2024年です。

 

表9-4 各事業(契約)における職種・賃金算出根拠・適用単価情報など

契約の名称 契約金額(円) 履行期間 職種 算出根拠 適用単価 その他の提供情報
麻生総合センター清掃業務 23,951,400 2024/10/1 2027/3/31 清掃員A 2024年度市有施設維持管理業務に係る労務単価表 16,000 日額
清掃員B 2024年度市有施設維持管理業務に係る労務単価表 12,700 日額
清掃員C 2024年度市有施設維持管理業務に係る労務単価表 11,600 日額
高齢者施策の在り方に係るコールセンター運営業務 3,372,688 2023/8/8 2023/10/31 MG(マネージャー) 参考見積を基に設定。 180,000 月額
SV(スーパーバイザー) 参考見積を基に設定。 2,440 時間額
OP(オペレーター) 参考見積を基に設定。 2,250 時間額
白石区複合庁舎警備業務 124,688,520 2024/9/30 2027/9/30 警備員 2024年度市有施設維持管理業務に係る労務単価表:警備員B 14,000 日額
2023年度雪対策室ホームページ更新・運用業務 2,420,000 2023/9/11 2024/3/31 主任技師 公共工事設計労務単価 62,200 日額
技師(A) 公共工事設計労務単価 55,200 日額
技師(B) 公共工事設計労務単価 45,300 日額
技師(C) 公共工事設計労務単価 35,600 日額
平岡公園樹木剪定及び伐採業務 4,620,000 2024/3/1 2024/3/29 伐採作業員(造園工) 公共工事設計労務単価(冬期補正あり) 21,420 日額
剪定作業員(普通作業員) 公共工事設計労務単価(冬期補正あり) 19,482 日額
2023年度住民税データ入力業務 給与支払報告書A 5,635,661 2023/12/5 2024/3/29 オペレータ 2022年度データエントリ料金資料等を基に当課にて積算。右記は、2022年度データエントリ料金資料。 参考178,000 月額 左記データエントリ料金資料を根拠に本市独自の単価を設定。当該単価は入札時の予定価格に直結してしまうため回答は差し控える。
スーパーバイザ 参考335,000 月額
デリバリ 参考212,200 月額
SE 参考379,600 月額
基幹系情報システム端末(国保・福祉) 61,195,200 2024/10/1 2028/9/30 本件は委託業務ではなくリース業務 3社から参考見積を参考に設定。 リース契約のため賃金については考慮していない。
開成中等養育学校グラウンド芝生維持管理業務 3,366,000 2023/6/19 2023/10/31 業務実施責任者 一般競争入札で契約金額の総額を決定しており、賃金・人件費などの内訳は不明。
本町小学校物品搬送業務 2,908,400 2022/9/6 2023/3/31 一般貨物自動車運送事業者 一般競争入札で契約金額の総額を決定しており、賃金・人件費などの内訳は不明。
2024年度札幌市社会的養護自立支援事業 生活相談・就労相談支援業務 6,875,000 2024/4/1 2025/3/31 生活相談支援及び就労相談支援担当者 2024年度札幌市会計年度任用職員専門職給料月額(5号俸) 261,700 月額 参考見積及び上記単価を参考にしてはいるが、積算は契約額の総額で実施しているため、賃金・人件費部分の金額は不明。
生活相談支援及び就労相談支援担当者 2024年度札幌市会計年度任用職員専門職給料月額(1号俸) 238,100 月額 参考見積及び上記単価を参考にしてはいるが、積算は契約額の総額で実施しているため、賃金・人件費部分の金額は不明。
札幌市立保育園給食調理業務 70,950,000 2024/4/1 2025/3/31 調理員 会計年度任用職員給料表(フルタイム、現業職1号俸) 3,650,000 年額
調理員 会計年度任用職員給料表(パートタイム29h/週、現業職1号俸) 2,723,000 年額
調理員 会計年度任用職員給料表(パートタイム24h/週、現業職1号俸) 2,291,000 年額
中央卸売市場検定水道メーター更新 24,750,000 2024/2/2 2024/3/26 3社から参考見積を徴取して積算しているため、個別の賃金・人件費単価等は不明。
白石清掃事務所機械警備業務 8,289,600 2023/10/1 2028/9/30 警備員C 2023年度 市有施設維持管理業務に係る労務単価 11,400 日額 https://www.city.sapporo.jp/zaisei/keiyaku-kanri/oshirase/oshirase_b.html
駒岡破砕工場設備等運転業務 205,772,490 2024/4/1 2025/3/31 保全技師Ⅰ(総括責任者) 札幌市:市有施設維持管理業務に係る労務単価 23,100 日額
保全技師Ⅱ(主任) 札幌市:市有施設維持管理業務に係る労務単価 21,800 日額
保全技師補(班長) 札幌市:市有施設維持管理業務に係る労務単価 19,400 日額
保全技術員 札幌市:市有施設維持管理業務に係る労務単価 18,600 日額
保全技術員補 札幌市:市有施設維持管理業務に係る労務単価 16,100 日額
運転手(特殊) 国土交通省:公共工事設計労務単価 24,900 日額
運転手(一般) 国土交通省:公共工事設計労務単価 20,700 日額
枝・葉・草残さ運搬業務 43,450,000 2024/6/21 2025/1/31 特殊運転手 2024年度 公共工事設計労務単価表(特殊運転手) 24,900 日額
一般運転手 2024年度 公共工事設計労務単価表(一般運転手) 20,700 日額
普通作業員 2024年度 公共工事設計労務単価表(普通作業員) 20,000 日額
土木一般世話役 2024年度 公共工事設計労務単価表(土木一般世話役) 26,900 日額
交通誘導警備員B 2024年度 公共工事設計労務単価表(交通誘導警備員B) 14,000 日額
発寒清掃工場焼却灰等運搬業務 25,531,000 2024/4/1 2025/3/31 運転手(一般) 積算資料2024年1月号P930掲載額 19,200 日額
第20回統一地方選挙補助業務に係る労働者派遣 8,401,005 2023/2/22 2023/4/8 期日前投票所従事者(受付・案内・投票用紙交付等の各係) 1,435 時間額 入札により派遣による時間単価を決定しているため、賃金・人件費などの詳細は不明。
指導者用デジタル教科書(Web配信版) 28,172,100 契約締結日 2024/5/31 ライセンス契約のため、賃金、人件費等の項目はない。
2023・24年度札幌市立小学校外国語指導助手派遣業務 288,000,000×1.1 2023/4/1 2025/3/31 外国語指導助手 時間講師の単価2,884円(地域手当含む。)をもとに積算。外国語指導助手は教員免許を保持しておらず且つ単独で授業を行うこともできないため、時間講師と同等に計算するわけではなく、時間講師の時給の9/10を乗じた2,596円で計算する整理とした。 2,596 時間額
札幌市中央図書館大通カウンター運営業務 月額1,072,500 2022/4/1 2025/3/31 事務員 2022年度会計年度任用職員(パートタイム・事務補助職1号)を基準額とする。 114,100 月額

出所:公開情報と各担当課から提供された情報に基づき筆者作成。

 

(1)元々公開されている情報(契約の名称、契約金額、履行期間)と今回提供された情報で表9-4を作成しました。但し、①~⑰と⑱~⑳とでは、公開情報の様式が異なり、後者の元々公開情報は、「入札告示」や「仕様書」から転記しました。⑲の「契約金額」情報の「×1.1」は、「入札(見積)における落札価格(契約金額)は、入札(見積)金額に10%相当額を加算した金額」を意味しています。(2)和暦は西暦に修正し、「です・ます調」は「である調」に統一しました。(3)表には掲載していませんが、契約方法は、⑲の「公募型企画競争」を除き、いずれも「一般競争入札」です。(4)⑭の適用単価は、「当初契約(2023年単価)」と「スライド契約(2024年単価)」の2点が回答されたので、後者を掲載しました。

さて、結果は、2017年調査と同じく四つに分類ができそうです。すなわち、(1)国が定めた労務単価が使われているケースです。具体的には、公共工事設計労務単価や建築保全業務労務単価です。性格上、「札幌市労務単価」もここに含めます。(2)市の臨時・非常勤職員(会計年度任用職員)の賃金が使われているケースです。なお、この分類(2)に関わっては、非正規公務員と公共民間労働者の賃金は一蓮托生であることを今回も強調しておきます。(3)その他の算出根拠が使われているケースで、具体的には、「参考見積を基に設定」、「積算資料」などです(2017年調査では、その他に、市人事委員会「民間給与実態調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などがあげられていました)。(4)賃金算出根拠ひいては賃金・人件費の内訳などが不明の業務です。

当該業務の仕事、働き方などを明らかにする作業と並行して、(1)最低生計費や仕事の性質という観点からこの金額は妥当かどうか、(2)この金額は実際に支払われているかどうか、(3)支払われていないとすればそれはどのような理由によるものか(入札制度を背景とする場合もあれば事業者側の考えなどを背景とする場合もあるでしょう)、などをさらに調べていくことが課題になります。

なお、一点気になったのは、⑥で回答は差し控えるとされたことです。「2022年度データエントリ料金資料等を基に」とはなっていますが、実際の支払い賃金の妥当性を測る情報(根拠、金額)が示されないことは果たして妥当か、入札時においては、他の費目と同様に、労働者への支払い賃金も、競争手段(入札価格引き下げの手段)の一つとなるということを意味するのか、というのが、筆者が感じた疑問点です。この点は機会をみつけて担当課に照会してみたいと思います。

 

10.まとめに代えて──研究上の課題を中心に

冒頭に述べた、本調査における二つの目的(情報の整理)は、連載のなかである程度達成されたと思います。但し、なお未解明のことなど研究上の課題が残りました。

建設工事を念頭において述べますと、まず第一には、札幌市では、総合評価落札方式の拡大に慎重であることです。その理由として、同方式の拡大に入札参加事業者側が否定的であることがあげられていました。国の政策動向などを踏まえても、市の慎重な姿勢は予想外でした[3]

もちろん、拡大に慎重な点はともかくとしても、札幌市がダンピング対策の強化や工事の品質確保のための施策、型式の拡充など総合評価落札方式の改善を行い、2024年度の早期発注工事等の分から、総合評価落札方式を「本格実施(本格導入)」へと移行したことなどは今回の調査で確認されたとおりです。

ただ一方で、施行導入から本格導入への移行に約17年間を要していることや、移行の理由については、本調査では十分に把握されず、筆者ら調査参加者にとって疑問の残るものとなりました。また、この点(拡大がなぜできないのか)は、議会でも繰り返し質問が出されていました。

以上のような事実も踏まえて、(1)まず、そもそも、札幌市の総合評価落札方式では何が目指され、それが制度上果たされているかどうかの検証、(2)札幌市による調査を通じて把握された事業者の回答をどう読み解くか、あるいは、そもそも、把握・分析上の課題はないかどうかの検証、(3)市の総合評価落札方式に対する事業者側の評価が低いとすれば、それはなぜなのかの把握、(4)加えて、事業者側からの評価以外で、総合評価落札方式の拡大を市側にためらわせる要因の把握[4]──このようなことが研究上の課題として浮かびあがりました。(2)や(3)は、次号で可能な限り検討を深めてみたいと思います。

第二には、(1)とも少し重なりますが、総合評価落札方式など入札・契約制度の改善を通じて、建設事業者の経営や労働者の賃金・労働条件の改善にどのような効果が出ているか、とくに、深刻化する担い手確保に関わってどのような効果が出ているかの把握と、それで十分かの検証です。

もちろん、連載(1)にも書いたとおり、建設業に関する札幌市の取り組みは入札・契約に限るものではありませんから、それらも含めて総合的に評価する必要があります。

一方で、このテーマに関しては、「札幌市公契約条例の制定を求める会」では、公契約条例の制定が必要であるという考えです。より正確に言えば、公契約条例が制定された自治体でみられる、入札制度と公契約条例を一体的に組み合わせた総合的な対応[5]が札幌市でも必要である、と考えています。

しかし、札幌市では、公契約条例は明確な課題として認識されておらず(連載(1))、また、賃金関連のことを総合評価落札方式(工事)の評価項目にすることは検討されていませんでした(連載(3))。加えて、このテーマに関する基礎的な作業として、建設工事労働者の賃金調査(分析方法を含む)の改善が必要であると筆者は考えていますが(連載(2))、市とはその点でも意見が異なりました。重層下請構造のなかで賃金の行き渡りが実現しているかどうかの検証が今後必要となることを踏まえても、この基礎的作業はより一層重要になると筆者は考えます。

なお、建設工事以外をみると、委託では、最低賃金こそ上回っているとはいえ、最賃近傍で働く労働者が少なくありませんでした(連載(2))。指定管理では、先ほどみたとおり、3分の2が非正規職員で、なおかつ、正規職員であっても、時給額は1,500円程度にとどまりました。

以上のことに、予定価格の積算などを含め、入札・契約制度のあり方が影響してはいないでしょうか。事業者や労働者を対象にした、事業経営や労働条件の把握作業を並行しながら、これらのことを検証していきたいと思います。

 

(謝辞)

札幌市契約管理課をはじめ、札幌市職員の皆さんには、ご多忙のところ、調査へのご対応、情報の提供など大変にお世話になりました。あらためて御礼を申し上げます。但し、本連載に残りうる一切の誤りは筆者の責任です。

 

参考文献

川村雅則(2021)「公務非正規運動の前進のための労働者調査活動」『住民と自治』第704号(2021年12月号)pp.12-16

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(1)──2024年調査に基づき」『建設政策』第215号(2024年5月号)pp.8-12

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(2)──2024年調査に基づき」『建設政策』第216号(2024年7月号)pp.36-43

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(3)──2024年調査に基づき【完全版】」『建設政策』第217号(2024年9月号)pp.38-49

正木浩司(2022)「札幌市の公共調達における総合評価落札方式の実践の現況──2021年度調査に基づき(非正規公務労働問題研究会レポート)」『北海道自治研究』第642号(2022年7月号)pp.23-36

 

[1] ホーム>観光・産業・ビジネス>入札・契約>入札契約案件情報>入札等結果一覧

https://www.city.sapporo.jp/zaisei/keiyaku-kanri/anken/kekka.html

[2] ホーム>市政情報>市の概要>組織案内>教育委員会>入札・契約情報(教育委員会)

https://www.city.sapporo.jp/kyoiku/top/keiyakukoukai/keiyaku-top.html

[3] 正木(2022)でも、「札幌市では、総合評価落札方式の拡大だけにとどまらず、入札・契約制度の改革・改善をめざす施策の実践を現在も積極的に積み重ねており、今後の取り組みの進展が注目される」、「札幌市を含む総合評価落札方式の導入自治体での取り組みの影響が、未導入の自治体に広く波及していくことが今後も引き続き期待される」と評価されていました。

[4] 市の議会答弁からは、総合評価落札方式は一部事業者(事務体制や技術力を有する事業者)に偏った発注となってしまうことが懸念されていること、市内の中小事業者に受注機会の確保を図る必要があることなどが読み取れるでしょうか。

[5] 直近では、8月に世田谷区の入札制度・公契約条例について調査を行いました。機会をあらためて報告します。

 

 

 

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