原田仁希「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」

原田仁希(2024)「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」『学習の友』第853号(2024年9月号)pp.42-45

 

学習の友社が発行する『学習の友』第853号(2024年9月号)に掲載された原田仁希さん(東京公務公共一般労働組合 書記次長)による論文の転載です。どうぞお読みください。

 

 

2020年4月、地方公務員法の改正により「会計年度任用職員」という新たな身分が設置され、多くの非正規公務員が「会計年度任用職員」の身分に移行し、働くことになりました。しかし、この制度は当初から非正規公務員の不安定さを促進し、雇い止めが横行することが心配されていました。そんな中で、会計年度任用職員の東京都スクールカウンセラー(以下、「東京都SC」という)の5人に1人に当たる250人が2024年度末で大量に雇い止めされるという事態が発生しました。

東京公務公共一般労働組合の心理職ユニオンでは、雇い止めへの対応として、労働相談やメディアへの問題の告発、都議会議員との懇談、東京都教育委員会との団体交渉など、活動を展開してきました。

雇い止めの背景

東京都のスクールカウンセラーは会計年度任用職員制度がはじまると同時に任用更新の限度がつけられることになりました。4回更新の5年限度というものです。会計年度任用職員前の任用形態であった特別職非常勤時代から、1年任用の繰り返しということで不安定ではあったのですが、経験や実績を積んだ東京都SCは10年や20年と更新を経て継続的に働くことができていました。

しかし、制度移行に伴い、更新回数の限度がついたことで、東京都SCの定員1500人のうち1000人以上の東京都SCが2024年3月末をもって限度を迎えることとなり、ベテランのスクールカウンセラーの多くが、新規応募者と同様の扱いとなりました。新規応募書と同様に面接試験を受けたところ、これまで長期間働いてきた東京都SCの5人に1人が雇い止めとなってしまったのです。

今回の雇い止めがもたらしたのは公共(教育)の破壊でした。本稿では雇い止めの内実について書いていきたいと思います。

ベテランの雇い止め

心理職ユニオンでは、2024年2月に「2024年度東京都公立学校スクールカウンセラー採用状況調査」と称して、採用結果についてのアンケートを実施しました。その結果、728通の回答を得ることができましたが、この調査結果によって現れたのは、ベテランのスクールカウンセラーほど雇い止めの被害に遭っているという事実でした。

アンケート調査の結果からは勤続年数が長ければ長いほど不合格の割合が高くなっていること、また、年齢が高いほど不合格者の割合が高いことがわかりました。このように、これまで長年尽くしてきたベテランSCが多数雇い止めの被害に遭っているのです。継続的に任用されていたということは、それだけ評価され信頼されていたはずで、現場にとっても必要不可欠な存在であったにも関わらず、切られてしまったわけです。

専門性を軽視する面接のあり方

また、今回の雇い止めで問題になっているのは、面接試験です。任用更新回数の限度を迎えた東京都SCは新規応募扱いとなり、面接による採用となるわけですが、この面接内容が全く専門性を顧みないものとなっていました。

まず、面接官は心理の専門家ではなく東京都教育委員会や各市区町村の教育委員会の職員によって行われました。加えて、面接における質問事項は、スクールカウンセラーの専門性を問うものではなく、「管理職と意見が対立したら、どうするか」「教師との関係づくりはどうするか」など、学校での立ち回り方を聞くようなものが多かったとのことです。スクールカウンセラーは学校組織の外部の人間であることで、適切なアセスメントや対応が可能になり、専門性が発揮できます。しかし、これらの質問は学校組織の人間として立ち回れるかどうかの確認であり、むしろスクールカウンセラーの外部性についての理解がないものでした。

採用基準がブラックボックス

なぜ、ベテランの東京都SCをこんなにも大量に首切りしたのか。その基準はなんだったのか。都教委はその回答として、採用については「面接で決めている」とし「これまでの東京都SCとしての経験や勤務評価は考慮していない」としました。通常、人を採用する際には、その職場での経験や実績を当然考慮した上で採用しますが、そのような当たり前のことを都教委はやっていなかったのです。たった20分程度の面接で採用を決めたというのです。

 

 一方で、雇い止めとなった多くの都SCから聞かれたのは、学校の管理者から「高い評価をつけたはずなのになぜ雇い止めになったのか」と困惑や怒りが噴出しているという話でした。頼りにし、評価していたSCが突然いなくなってしまうことへの不満が起きていたのです。「採用状況調査アンケート調査」でも、不採用者に「不採用の結果についてどのように感じるか」と問うたところ(表)、採用とならなかった理由がわからず納得できないという回答を選択している者が約8割、また、「管理職や教員が困惑している」と回答している者が約65%となっています。現場での評価が良かったにも関わらず、不採用となっており、なぜ採用とならなかったのかわからないのです。

会計年度任用制度が公共を破壊した

会計年度任用職員制度がはじまり、東京都SCの任用の更新回数に限度が設けられた理由として東京都が主張するのは、「採用機会の公平性」の担保という論理です。会計年度任用職員のポストは多くの人に平等に開かれたものであるべきで、同一の者が長期にわたってポストを占領してはいけないというのです。要するに、東京都SCの250人もの大量雇い止めは会計年度任用職員制度に従い、「採用機会の公平性」のために再度任用4回上限が忠実に実行されたことによって起きた事態です。

つまり、会計年度任用職員制度における「採用機会の公平性」のために、ベテランの多くが首切りに遭い、専門性は蔑ろにされ、教育現場のニーズは無視されてしまったのです。実際に、次年度以降はカウンセリングできないことを伝えると、継続的な支援を受けていた保護者や生徒から、泣かれてしまったという話を多く聞きます。また、ベテランのスクールカウンセラーが切られて、新規のスクールカウンセラーがそのハードな仕事に対応できず、すぐに辞めてしまった事例も複数発生しており、現場は混乱しています。

本来、制度や政策は公共サービスの充実や住民の利益のためにあるべきものですが、会計年度任用職員制度のおかげで、スクールカウンセラーの身分は不安定化し、突如首切りに遭う状況の中で、教育を受ける子どもや、支援を受ける保護者や、教育を実践する先生らが混乱に陥るような事態になりました。会計年度任用職員制度によって公共が破壊されてしまったのです。

非正規公務員が3割から5割を占めるようになって久しいですが、公共を担う非正規公務員の労働組合への組織化は急務です。非正規公務員を組織化しなければ、公共を守ることはできないでしょう。

 

 

(関連報道)

「東京都教委が250人大量「雇い止め」 スクールカウンセラーを3月末 契約更新の選考基準も不透明」『東京新聞』2024年3月5日 15時54分

「「都合悪くなると使い捨て」大量雇い止め問題で東京都に賠償求め提訴へ 「非正規」スクールカウンセラー」『東京新聞』2024年9月24日 06時00分

藤田和恵(ジャーナリスト)「都の学校カウンセラー「250人雇い止め」の衝撃──学校や保護者から評価高く、経験豊富なSCが…」『東京経済ONLINE』2024/03/14 5:00

 

 

 

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