瀬山紀子「公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(1)当事者による実態調査の試みから」

公務非正規女性全国ネットワーク副代表である瀬山紀子さんから、労働法学研究会報に掲載された下記の原稿をお送りいただきました。どうぞお読みください。

 

公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(1)当事者による実態調査の試みから

瀬山 紀子 労働法学研究会報 73 (5), 4-7, 2022-03-01

 

はじめに

今回から、3回にわたり、「公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題」と題して、公務領域における非正規労働問題の実態や課題について書いていきたい。

書き手である私は、「就職氷河期世代」のど真ん中を生きる一人で、2020年3月まで、約20年間、公立の男女共同参画センターで非常勤の事業コーディネーターとして働いてきた、元非正規公務員の一人だ。現在は、複数の大学で非常勤講師をしており、現在も、立場は異なるが非正規として働いている。また、2021年3月に、仲間とともに、公務非正規女性全国ネットワーク(通称・はむねっと)を立上げ、活動を進めてきた[1]

本連載では、まず、非正規公務員の置かれた現状を概観すると共に、はむねっとで実施した緊急アンケートを紹介したい。また、2回目には、2020年度から施行となった地方公務員の制度改正の実情や課題を、はむねっとが行ったインタビュー調査などをもとに明らかにしたい。そして3回目で、国と、人事委員会・公平委員会に対するはむねっとの取組みなどを紹介しながら、状況改善に向けた方策を探っていくことにしたい。

コロナ禍が長期化する中で、地域の保健医療、また、日常生活を支える必須労働としての公共サービスに人々の関心が集まり、さらには、不安定化する生活のなかで、就労や暮らし、DVなどに関わる相談窓口等の利用者も増えている。そして、人々の生活を支えるはずの公共サービスの支え手が、自らも非正規で、不安定な状況にあることも知られてきた。

本連載が、こうした実態をさらに具体的に提示することで、読者の皆様に、この先の公共サービスや、その支え手のあり方について考える機会を提供できることを願っている。

 

非正規公務員について

日本では、公務労働は、原則、「任期の定めのない常勤職員」(=正規公務員)によって担われるべきものと位置付けられており、公務員のなかに非正規の人がいること自体に疑問を感じる人も少なくないと思う。一般にも、公務員は、経済情勢に左右されない職で、解雇や雇止めがなく、安定しているというイメージが一定程度広がっていると思われる。

しかし、実態としては、地方自治体でも、中央省庁を含む国の機関でも、数多くの非正規労働者が働いている。職種は、行政事務から、学校の教職員、社会教育施設の職員、児童相談所、婦人相談センター、ハローワークの相談員など幅広く、特に相談員、図書館司書などの専門職は非正規化が進んできたと言われる。非正規の特徴は、単年度といった有期雇用(任用)であるという点が大きい他、正規公務員との間に、給与、休暇制度含む待遇面の大きな格差があることが特徴だ。ただ、地方自治体によっては、すでに、全職員の4割が非正規になっている自治体もあるというのが実態だ[2]

また、図書館をはじめ、公共施設等の民間委託化も進んでおり、委託先の民間企業やNPOなどの団体に雇われている非正規、派遣会社などを通じて行政で働いている非正規など、さまざまな形態の非正規が、公の業務を担っている。

こうした現状は、特に、国が「行財政改革」の一環として、2005年から2010年にかけて策定・実施した「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(集中改革プラン)」のもとで広がっていったとされる[3]。地方自治体では、この頃から、正規職員の定数削減と非正規への置き換え、そして公務の民間化の流れが加速していった。

国が地方自治体の臨時・非常勤の実態調査を初めて行ったのは、2005年。その時点で、その総数は45万人とされた。その後、その数は増え続け、2020年4月の調査では69万人となった。また、2020年の調査[4]で、初めて、任用期間6か月未満などの短期任用の人の数が記され、その数をあわせると、112万人にもなることがわかった。国の非正規公務員の数は、短時間の人を除いて15万人だ[5]。さらには、地方自治体においても、国においても、非正規公務員の約8割は女性であることも明らかとなっており、それが、低い待遇と不安定な身分が温存されてきた背景にあるという点も指摘しておきたい。

しかし、公務労働は正規公務員によって担われるべきという原則の存在が、実際には多数の不安定な非正規をも抱え込んでいる公務職場の実態を見えにくくし、働き手を保護するはずの法制度も、非正規公務員を守るものにはなっていないという現状がある。

 

公務非正規労働従事者の実態とその声

実態として、公務現場を担う非正規公務員の人たちは、現在どのような状況に置かれ、また、どのような思いで働いているのか。コロナ禍が広がり、同時に、地方公務員の新たな制度がはじまった2020年度末、筆者は、こうした疑問を元に、これまでも公務非正規の問題に取り組んできた人たちと共に「官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル」というハイブリッド集会を開催した[6]。そして、この集会をきっかけに立ち上がった公務非正規女性全国ネットワークで、緊急のアンケート調査を行った。

[調査概要]

調査期間:4月30日(金)~6月4日(金)

対象者:性別を問わず、現在、国・地方自治体及びその関係機関で公務労働に従事している方、及び、既に退職された方で、2019年4月から 2021年4月の間に在職されていた方

方法:インターネット(グーグルフォーム)を使用した無記名アンケート

有効回答:1252件(回答数1305件)

今回の調査では、約9割(1,161人)が女性からの回答となった。年齢は、18歳以上から66歳以上までばらつきがあったが、40、50歳代が6割以上を占めた。勤務地は、大都市圏からの回答が多くを占めたが、全国47都道府県から回答があった。

職種は、一般事務が23%と最も多く、そのほか、図書館、博物館・美術館、公民館、女性関連施設など、広い意味で社会教育に関わる職、相談支援業務に関わる職、教員、保育士ほか、直接市民に関わる職が多く、また、さまざまな職域にわたっていた。

就業形態は地方自治体で公務非正規として働く「会計年度任用職員」がフルタイム、パートタイム合わせて76%を超え、4人に3人を占める結果となった。所定勤務時間をみると、30時間以上40時間未満が45.3%で、約半数近くは、短時間とはいえ、週4日ないしは、週5日、一日6時間以上の勤務と、一定の時間数を公務労働に費やす人たちが回答を寄せたことになる。

そして、大きな問題である雇用契約期間については、1年が9割弱を占め、1年以下を合わせると93.8%。恒常的に必要で、基幹的な職務と言える専門職などの立場にある人が、1年未満の有期で、不安定な身分で働いている現状がわかった。

また、これも大きな課題の一つである就労収入についての回答では、約半数の53%が、2020年の就労収入が200万円未満、4人に3人が、250万円未満となることがわかった。会計年度任用職員ではフルタイムでも200万円未満が約4割、250万円未満が約8割となった。一方で、回答者の3人に1人は、自らが主たる生計維持者と回答した。この報酬水準は、地方自治体の一般行政職の平均収入と比較すると、1/4〜1/3の水準になる。

そして、ここ 1 か月の体調についての設問では、3割を超える人が身体面での不調を、4割を超える人がメンタル面での不調を感じていると答えた。また、将来への不安については、9割以上(93.5%)が、将来の不安を感じると答えていた。

調査では、回答者の9割を超える、1148件の自由記述があった。これを内容別に分け、集計をしたところ、給与額が低いが42.4%、将来不安が34.6%、やりがい搾取が22.7%、長時間労働・時間外労働が11.4%、パワハラが10%などとなった。

自由記述には、例えば、「支援している側がいつ、される側になってもおかしくない。そんな、明日は我が身の不安定な状況で、いい支援をすることは非常に難しい。専門的な職種こそ、経験に応じて、正規職員の枠があってもいいと思う(北陸、30代、女性)」、「やり甲斐を持って働いているが、いつ解雇になるかわからず不安。このような給与や雇用形態では若い世代が育たない。今後人手不足になることは確実。自治体には、国家資格を持つ専門職を、正規採用してもらいたい(関東、40代、女性)」、「民間には5年勤務で無期雇用のルールがあるのに、公務員は、法律が違うという理由でその適用ルールから外れている。法改正の働きかけを行ってほしい(北海道・東北、30代、女性)」、「Covid-19感染対策がほぼなされていないなかでの勤務であること、給与の低さ、やりがい搾取があたりまえという環境だが転職も難しく将来は常に不安。(関東、40代、女性)」といった声があった。

コロナ禍が広がって以降、エッセンシャル・ワーク、必須労働という概念が聞かれるようになった。今回、調査で得られた非正規公務員の人たちは、まさに、コロナ禍の中でも、途切れることなく必要とされた対人支援の仕事や、社会的危機が起きたことで増大したニーズに対応する公共サービスの仕事に従事している人たちの声だ。そうした、社会の危機が起きた際に、人々の生活を支える砦の役割を果たすべき人たちが、自らも不安定で、近い将来への大きな不安を抱えながらかろうじて働いている。そのようないびつな現状が、社会全体に広がっている。そして働き手自身が、そうした働き方に未来がないこと、それでは職を次の世代につないでいくことができないこと、それは働き手の問題であると同時に、そうした働き手によって支えられている市民社会そのものの危機に直結していることを身を持って感じている。

調査の詳しい結果は団体のホームページにも掲載している。是非参照してほしい。まずはこうした現状が広く社会全体に広がっていることを多くの人と共有したい。

公務に広がる非正規労働の問題は単に働き手の問題という以上に、公共サービスの持続可能性や質にも直結する。連載では、引き続き、その実態や課題について記していきたい。

 

[1] 関連する文章に、瀬山紀子2020「非正規公務員の現場で起きていること : 働き手の視点から」『生活経済政策』 (283)、21-25頁、2021「公務非正規女性全国ネットワークの調査を実施して」『住民と自治』(704)、20-23頁がある。

[2] 会計年度任用職員制度導入後の自治体の非常勤職員の状況については、上林陽治2021「会計年度任用職員白書 2020」『自治総研』(514)、26-56頁に詳しい。

[3]国の行財政改革の結果と分析については、山谷清志・藤井誠一郎2021『地域を支えるエッセンシャル・ワーク ―保健所・病院・清掃・子育てなどの現場から―』(ぎょうせい)を参照した。

[4] 総務省による「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果」(令和2年4月1日現在)https://www.soumu.go.jp/main_content/000724456.pdf(2022年1月25日アクセス)参照。

[5]「雇用形態別、職名別非常勤職員数」https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/20210701_ippanshoku_toukei.pdf(2022年1月25日アクセス)参照。

[6] この集会は、竹信三恵子ほか2020『官製ワーキングプアの女性たち』岩波書店の著者及び関係者に呼びかけて開いたもの。

 

 

(参考)

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