川村雅則「人事委員会等の本来機能を発揮させる──新潟市、奈良県での取り組みを題材に」

川村雅則(2026)「人事委員会等の本来機能を発揮させる──新潟市、奈良県での取り組みを題材に」『官製ワーキングプア研究会レポート』第52号(2026年1月号)

 

NPO法人官製ワーキングプア研究会が発行する『レポート』第52号(2026年1月号)への投稿原稿です。先行して配信します。どうぞお読みください。校正作業を行うことになるかと思いますが、骨子には変更ありません。

なお、本文中で言及している札幌市会計年度任用職員制度の「同一部3年ルール」について札幌市に照会をしたところ、「国・他団体の動向、労働市場における人材確保の困難性の高まり等を踏まえ、任用限度の見直し」を図る──具体的には、「現行のいわゆる「同一部3年ルール」を原則としつつ、これまでより広く例外を認めること」とし、2026年4月の任用から運用を開始するために具体的な手続きを進めているところである、との情報を札幌市からご提供いただきました(2025年12月22日)。札幌市会計年度任用職員制度の最新情報については、機会をあらためて、札幌市からお話をお伺いしたいと考えています。

(参考)川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO官製ワーキングプア研究会レポート』第37号(2022年2月号)

 

 

1.はじめに

筆者らが管理・運営する情報プラットフォーム『北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)』では、2025年11~12月に、人事委員会に関する以下の二つのレポートを配信しました。

 

 

本稿では、前者を新潟レポート、後者を奈良レポートと呼ぶことにします。この二つのレポートの内容を紹介しながら、読者(主に労働組合や自治体議員を想定)と共有したい問題意識は、次の3つです。

 

  1. 会計年度任用職員の任用条件の改善や権利救済を実現する上で、人事委員会、公平委員会(以下、人事委員会等)がその本来の機能を果たすことが必要である
  2. 上記①にも関わって、会計年度任用職員の仕事や処遇の評価について、任命権者の観点とは独立した第三者的・客観的な調査が必要である
  3. 以上を踏まえ、①②の実現に向けた取り組みの強化が関係者には求められている

 

では、始めていきましょう。なお、詳細はレポートをご覧ください。また本稿は、二つのレポートと内容は重複していることをお断りしておきます。

 

 

2.人事委員会等の機能

教科書的に言えば、人事委員会等は、首長(任命権者)から独立した人事機関で、地方公務員の人事行政に対する専門的、中立的な機関です。任命権者の人事権の行使をチェックするなどして、人事行政の適正化はもちろんのこと、地方自治の本旨が実現するよう働く機関とされています。

とりわけ人事委員会には、職員の給与、勤務時間等の勤務条件について、議会と首長に勧告(いわゆる人事委員会勧告)を行う権限があります。あるいは、人事委員会も公平委員会も、いわゆる措置要求・審査請求・苦情処理制度を有しています。これらの制度内容は、自治労(2023)の平易な説明によれば、表1のとおりです。

 

表1 措置要求・審査請求・苦情処理

措置要求 職員の給与や勤務時間等の勤務条件について、当局が維持改善等の適切な措置を執るよう、人事委員会・公平委員会に要求できる制度
審査請求 職員がその意に反して懲戒処分や分限処分などの不利益な処分を受けた場合に、人事委員会・公平委員会にその処分が適切な内容であるかなどについて審査を請求できる制度
苦情処理 職員の勤務条件や服務等に関する苦情について、相談を受け付け、迅速に対応することを目的とした制度

出所:自治労(2023)pp.110-115より。

 

また、人事委員会の注目すべきもう一つの機能が、労働基準法や労働安全衛生法などに関する労働基準監督機能です。同機能は、地方公務員法第58条第5項にうたわれています。

 

 

3.みずからのマチの人事委員会等の確認をしてみる

以上のことについて、みずからのマチについても確認をしてみましょう。筆者は、政令市である札幌市に在住していますから、札幌市の人事委員会のウェブサイトを確認してみました。

札幌市「人事委員会の役割とは」というページでは、①人事委員会とは、②委員の紹介、③委員会開催・活動情報、④人事委員会事務局、⑤労働基準監督関係業務が紹介されています。このうち①に飛ぶと、地方公務員法第8条第1項に基づく「人事委員会の権限」が下記のとおり整理されています。

 

表2 札幌市人事委員会「人事委員会の権限」

■行政権限

1)人事行政に関する事項について調査すること

2)給与、勤務条件等について調査・研究を行い、その成果を市議会又は市長に提出すること

3)職員に関する条例の制定、改廃について、市議会及び市長に意見を申し出ること

4)人事行政の運営に関して任命権者へ勧告すること

5)職員の競争試験及び選考を実施すること

6)給料表に関して市議会及び市長に報告及び勧告すること

7)職員の苦情相談を処理すること

8)職員団体の登録、登録の取消

■準立法的権限

1)人事委員会規則を制定すること

■準司法的権限

1)勤務条件に関する措置要求を審査すること

2)不利益処分に係る審査請求に対して裁決又は決定すること

出所:札幌市ウェブサイトの「人事委員会とは」ページより。付番は引用者。

 

人事委員会には多くの権限が与えられています*。とくに筆者は、行政権限に分類されたうちの1)、2)(地方公務員法第8条第1項の第1号、第2号)にも注目をします。人事行政に関する事項についての調査を行ったり、会計年度任用職員を含む公務員の制度や勤務条件について、(法律の条文どおり)絶えず研究が行われ、関係者に提出がなされれば、状況はずいぶんと変わってくるのではないでしょうか。後述する新潟レポートはその可能性を感じさせるものです。

 

*例えば、地方公務員昇任試験問題研究会(2021)pp.30-43を参照。詳細は、地方公務員法第8条(人事委員会又は公平委員会の権限)をご参照ください。

 

さて、札幌市人事委員会の活動実績を知りたいと思い、ウェブ上に掲載された『人事委員会年報』も閲覧してみました。措置要求・審査請求・苦情処理の統計数値が記載されています。それぞれ1件、1件、6件(うち4件はセクハラ・いじめ)です。労働基準監督関係業務についてはごくわずかな情報提供にとどまります。

『人事委員会年報』の掲載内容は、人事委員会によって異なるようで、関係者から教えていただいた「特別区人事委員会」のそれは参考になります(ウェブ上からダウンロードできます)。例えば、「第3章 労働基準監督機関としての事務」には「定期監督」*の実績と結果の概要が記載されています。特別区人事委員会のと比べると、札幌市人事委員会の『年報』の掲載内容は、全体的に簡略的な印象を受けます。また「労働基準関係法令及び諸手続を正しく理解し、事務の適正・円滑な執行に供していただくため」に特別区人事委員会で作成された「労働基準・労働安全衛生関係事務の手引」も大変参考になります(札幌市人事委員会で同様の資料が作成されているかは確認していません)。

札幌市『年報』について補足すれば、「Ⅳ 給与、勤務時間その他の勤務条件」「1 職員の給与に関する報告及び勧告」の「(4)むすび」の「(おわりに)」(pp.21-22)では、社会経済情勢の変化や市民ニーズの複雑・多様化のなかにあって、「今一度、行政の意義と魅力を捉え直し、すべての職員の組織貢献度が高く保たれ、持てる能力を最大限に発揮してもらえる組織づくりを進めていくことが急務であ」り、そのためには「時代に応じた人事給与制度へ見直しを図り」うんぬんと記載されているのですが(下線は引用者)、こうした考えと、3年公募制・同一部3年ルールが札幌市会計年度任用職員制度でなお維持されていることは、どう整合するのかも筆者には疑問でした。

 

*「毎年度当初に決定する基本方針と実施計画に基づき、職員の勤務条件(勤務時間、休憩、休日等)及び執務環境等が、労基法及び安衛法その他関係法令に適合しているかどうかを、事業場において調査・監督している。」とあります。

 

 

4.雇い止め問題に人事委員会は機能しているのか──奈良県任用拒否問題を題材に

さて、以上のような機能を有する人事委員会が果たして実際に機能しているかどうかが次の問題です。全国的に、「民間ではあり得ない」雇い止め問題が頻発している中で、人事委員会はこれらの問題にどう対峙しているのでしょうか*。おそらくは軽視されているのではないか。奈良レポートにまとめられているのは、まさにそうした経験の一例ではないかと思います。

 

*この問題について、例えば、ジャーナリストである竹信三恵子氏の連載「ルポ無法労働」(雑誌『地平』2025年7月号~12月号所収)など参考。

 

同レポートは、会計年度任用職員として奈良県の保健所で働いてきたAさんの任用拒否をめぐる経験がまとめられたものです。概略を紹介します。

Aさんは、2021年2月の時点で、面談により、次年度も再度任用されることが決定されました。それにも関わらず、再度の面談で、Aさんの次年度の再度任用は撤回されることとなりました。その理由は、「(Aさんが)世帯主でないこと」というまったく不条理な理由によります。

Aさんは、(1)次年度の任用が面談で決定されたにもかかわらずその決定が撤回されたこと、(2)また、その理由が、「世帯主でないこと」であったことに納得ができなかったことから、上司に何度も説明を求めたものの、納得いく理由は示されることなく、「会計年度任職員は世帯主でないといけない」、「世帯主でないから退職してもらう」との説明がなされました。

奈良県のこのような制度に絶望したAさんは、奈良県庁への復職は求めないものの、自らに対する任用拒否の理由を明らかにしたいと思います。しかし、こうした場合にはどう対応したらよいか(奈良県人事委員会に申し立てる)などは知らされてもおりません。退職後に、当事者団体経由で、奈良レポートの執筆者である川西玲子さん(なくそう!官製ワーキングプア大阪実行委員会、NPO法人働き方ASU-NET)とつながり、川西さんの全面的な協力を得て、奈良県人事委員会に対して4点の要請──「「世帯主でない」ことを理由として、納得のいく説明もないまま「再任用拒否」され期待権を裏切られた。明確な理由と人選の正当性の立証を求める。」など──を行うことができたのは、Aさんが退職をさせられてから、じつに4か月も経過した後のことでした。

退職金の支払いを含め、奈良県の側も、自らの側に落ち度があると認識していたのか、また、川西さんからの繰り返しの面談要望を受けてか、奈良県は面談に応じたものの、雇い止めに関する納得のいく回答は得られませんでした。むしろ、Aさんの人事評価が低かったことが雇い止めの理由として面談時に突如持ち出され、しかも、その人事評価は開示されない、という始末でした。

こうして第1回面談はAさんがとうてい納得などできぬままに終了し、次回に持ち越されたものの、2021年10月19日付で、奈良県人事委員会事務局長名で「苦情相談について終了する」という書留文書が送りつけられてきました。そこに記載されていた終了理由──人事委員会の立場はあくまでも仲介者で苦情を解決する強制的な権限は与えられていない/当事者(県庁人事課)の理解と協力を得て行うもの/証人喚問や書類の提出は適用されないものと解される/本件については苦情相談の域を超えているので対応を終了する──は、奈良県の「職員からの苦情相談に関する規則」に従えば、まったく不当であるというのが川西さんの評価です。「調査権限」と「あっせん権限」があるにもかかわらず、人事委員会は、それらをきちんと行使しなかったのですから。しかし、奈良県・人事委員会が第2回面談に応じることはありませんでした。

奈良県で起きた任用拒否問題は以上のとおりです。とうてい納得できるものではありませんが、おそらくは、珍しくない経験ではないでしょうか(そもそも、Aさんのように抗議するまで至らず、泣き寝入りが多いのではないかと推測されます)。

会計年度任用職員は、自らの任用・勤務条件で困ったときにどこに相談をすればよいかなどまったく知らされていません。せめて、当事者に対してそうしたことの周知を図るべきではないか、という川西さんの追求が実って、奈良県人事委員会による「奈良県人事委員会苦情相談制度に関するパンフレット(画像)」が作成されたのは、唯一の救いでした。各自治体でこうしたパンフレットが作成され周知が図られれば、有益ではないでしょうか。

 

奈良県人事委員会「奈良県人事委員会苦情相談制度に関するパンフレット(表面、裏面)」

 

それにしても、人事委員会や公平委員会の人選は適切に行われているのかという疑問を感じさせます。というのも、委員は、地方公務員法や地方自治法に加え、今後は、会計年度任用職員制度という複雑な制度にも精通する必要があるのですから。皆さんのマチではどうでしょうか。

 

 

5.新潟市人事委員会・新潟市市議会議員の取り組みに学ぶ

新潟レポートに話を移します。このレポートを書くきっかけは、新潟市人事委員会から出された「令和7(2025)年職員の給与等に関する報告及び勧告」2025年10月9日に添付された「別冊_会計年度任用職員実態調査報告書(以下、報告書)」でした。筆者は、会計年度任用職員問題の改善について人事委員会等にとくに関心を寄せていなかったということもあって、「報告書」は驚きの内容でした(ぜひ、ダウンロードしてお読みください)。

 

新潟市人事委員会「会計年度任用職員実態調査報告書」

 

全国各地の自治体においては、会計年度任用職員に対しては、補助的な労働であることなどが強調されることで、その賃金・処遇の低さが正当化されるのが一般的ではないでしょうか。職種によって金額に差はつけられていても、総じて低い金額で、しかも、すぐに頭打ちになるような設計であるのが一般的ではないでしょうか。新潟市人事委員会がまとめた実態調査報告書は、会計年度任用職員のこうした現状に対する、異議申し立てと言える内容でした。

まずこの調査の目的は、「人事行政に関する中立的・専門的機関としての立場から、本市の会計年度任用職員について、会計年度任用職員制度の趣旨に則り、職務状況や処遇が適切であるかを確認するため、会計年度任用職員へのヒアリング調査を実施し、検証を行」う、というものでした(下線は引用者)。

簡易なアンケート調査とは異なり、厚生労働省の「職務分析実施マニュアル」を参考に作成したヒアリング調書を用いて、9職種(後述)・47名の会計年度任用職員からヒアリングが行われ、併せて、当該職員の係長級職員からもヒアリングが行われているのが特徴です。

そして、報告書では、図書館司書、保健師、保育士、保育補助、発達心理相談員、児童福祉専門相談員、女性相談員、生活支援相談員、事務といった職種ごとに調査結果が記述され、最後に、「第5 総括」がまとめられています(pp.98-100)。

そこでは、「会計年度任用職員は一部の専門的な業務を除き、常勤職員の指示か判断に基づき、日々の業務を行っていることが認められた」という基本認識が述べられた上で、ですが、「業務配分や人員配置」や「処遇(給料・報酬)」においては、常勤職員と会計年度任用職員とで業務に大きな違いはみられないこと、むしろ中心的な業務を担っているケースもみられること、処遇への低さに対する不満の意見がみられたことが記されたり、専門性が非常に高い職種に対する一律の加算上限にも疑義が示されたりしています。しかも処遇に関しては、2025年6月25日に総務省から発出された、いわゆる総務省マニュアル──このときのマニュアルでは、会計年度任用職員の給料・報酬に関する改正内容が掲載──にも言及がなされ、委員会の見解が補強されていました。

新潟市人事委員会が調べた、新潟市の会計年度任用職員の業務や処遇のこうした特徴は、言うまでもなく、新潟市に限ったものではないでしょう。つまり、とかく、補助的な仕事だから、とか、専門性は高くないから、といった評価で会計年度任用職員の賃金を低く抑えがちな任命権者の観点とは独立した第三者的・客観的な調査の必要性が、新潟市人事委員会のこうした実践からは明らかになったと言えるでしょう。そしてそれは、人事委員会が設置された自治体だけの課題ではありません。人事委員会がない自治体でも、何らかの方法で実態把握に取り組まなければならない、と言えるでしょう。

そして、詳細は新潟レポートをご覧いただきたいのですが、新潟市で人事委員会がこうして機能するように至った背景には、中山均さんを中心とする市議会議員の取り組み──人事委員会との交渉や人事委員会の役割を人事委員会委員長に質した議会質問などがありました(レポートにリンクを貼っていますが、中山さんによる力強い議会質問の動画は、ぜひ視聴していただきたいと思います)。

 

 

6.新潟市人事委員会・新潟市市議会議員の取り組みに学ぶ

会計年度任用職員問題に対して人事委員会や公平委員会が果たしている役割の現状を踏まえると、人事委員会等に過度に期待するのは適当ではないでしょう。しかしながら、人事委員会等が、導入から6年が経とうとしている会計年度任用職員制度について機能不全に陥っているのであれば、その実態を明らかにして、機能するようにしていくこと──必要に応じて制度改正を求めていくこと──は、この間、言われている「公共の再生」の一環とは言えないでしょうか。新潟の実践はそのことを我々に教えてくれているような気がしました。

 

 

参考文献

  • 自治労総合組織局(2023)『会計年度任用職員の手引き』(株)自治労サービス自治労出版センター
  • 地方公務員昇任試験問題研究会(2021)『完全整理 図表でわかる地方公務員法(第3次改訂版)』学陽書房
  • 橋本勇(2023)『新版 逐条地方公務員法<第6次改訂版>』学陽書房

 

 

 

 

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