小坂直人「泊原発3号機の再稼働は必要か」『NAVI』2025年12月5日配信(2025年4月27日作成)

 

 

原発再稼働で電気料金が安くなるか?

この問いは、言い換えると、「電気料金を引き下げるためには再稼働が必要か?」という問いになりそうですが、実は意味は違います。前者は再稼働が前提ですが、後者は再稼働しないという選択の余地を残しているからです。2025年4月30日にも原子力規制委員会の安全審査にゴーサインが出そうだという段階ですので、現状の日本の政治状況では、再稼働は「既定」路線と思われますから、このような問いが出てくる背景もうなずけます。しかし、電気料金は原発稼働によってだけ決まるものではなく、当然ですが、全ての生産要素の組み合わせ如何によって決まるものです。将来的には、再稼働しないという選択肢を残しておくのも有りというのが、私の基本的スタンスということを最初に申し上げたいわけです。その上で、いくつかコメントします。

まず、電気料金は、一般の商品サービスと同様に、それを生み出すために投入される原材料などの要素の価値・価格によって規定されます。早い話が、発電のために投入される石炭・石油・天然ガスなどの燃料価格が上がれば、電気料金も上がります(政策的に抑えることは別として)。近年のウクライナ戦争を契機とするエネルギー価格の上昇が電気料金に跳ね返っていることは、みなさん経験済みです。原発もこの原則から免れることはできません。したがって、防潮堤の作り直しを含め、再稼働に向けて膨大な安全対策費をかけてきた(かける)原発由来の原子力単価が上昇するのは当然です。にもかかわらず、原子力単価が他電源と較べて、そん色がないとか、安いという説明には無理があります。近年、イギリス・フランス・フィンランド・アメリカなどで建設が進んでいる原発は単基当たり1.7兆円から4.6兆円とされています。経産省は2018年当時、1基当たり4400億円(120万kW)くらいとしていましたが、原子炉メーカーや商社は1兆円を超えると推定していました。いずれにしても、原発建設コストが上昇しているのは世界共通であり、日本の場合は地震対策という安全対策に、よりコストがかかりますから、世界水準より安くなるというのは考えにくいところです。

原発コストが安いとはいえないことについては、竜谷大の大島堅一氏が以前から検討・指摘していましたが、再稼働に向けた安全対策費の膨張は大島氏の指摘の正しさを、さらに補強することになりそうです。

泊原発の安全対策費について、次のように報じられています(2024年11月7日北電会社説明会参照)。

 

2013.7~2027.3の累計で5150億円の安全対策費がかかる。

この中には、1.2号機に係る安全対策、テロ対策のための特定重大事故等対処施設(特重)、燃料等輸送船の構外停泊(核燃料等の荷揚げ専用港)に係る工事費は含まれていない。

 

ちなみに、女川原発の特重施設には1400億円かかっています。また、泊原発構外に建設予定の専用港建設には500億円がかかると見込まれています。専用港建設に伴って、専用道路の建設あるいは既存道路の改修などにも、相当の費用を見込まなければならないので、500億円が上振れする可能性は否定できません。

いずれにしても、再稼働に向けた安全対策費だけでも膨大な額であり、しかも上積みされることはあっても、削減される可能性が低いものです。そして、これらは電気料金原価に算入されて回収されるのですから、料金引き上げに直結します。

それにもかかわらず、北電は「再稼働できれば、料金値下げをする」という発言を繰り返しています。北電が値下げ根拠とするのは、原発再稼働によって火力発電燃料費と市場購入分を削減できる点です。原子力資料情報室の松久保肇氏の試算によると、その削減額は年間379億円とされています。他方、安全対策費や修繕費など、再稼働コストは269億円と見込まれています。結果、差し引き110億円の値引き原資が得られることになり、これを、想定販売電力量230億kWhで割った値、0.47円/kWhが、値下げ額となります。230kWh/月使用の家庭では、0.47×230=108円が月額の値引き額ということになります。

本州各社の原発再稼働後の値引き額もほぼ同様の金額となっており、おおむね妥当な数字といえるでしょう。いずれにしても、私たち消費者が期待するレベルとはいえないようです。そもそも、この計算の前提となっている数値は、再稼働費に占める安全対策費が過少評価されており、実際には、さらに膨れ上がる可能性が高く、そうなると燃料費などの節減分を超過する恐れがあります。さらに、燃料価格が低下傾向にあることから、節減分自体が小さくなることが想定されます。再稼働によって、値下げどころか、値上げという事態さえ想定されます。料金引き下げを再稼働実現の最大のうたい文句にしてきた電力会社や政府にとって、この事態は何としても避けたいところですから、「政策的判断」によって引き下げを達成することも予想されます。

2024.10.29に再稼働を果たした東北電力女川原発2号機は出力82.5万kWであり、泊3号機(91.2万kW)より若干小さいですが、ほぼ同規模といえます。東北電力が女川2号機の再稼働によって実施した料金値引き措置が注目されます。泊3号機のケースと同様に、再稼働によって生まれる燃料費等の節減効果から安全対策費等の再稼働コストを引いた差額を値引き原資として、2025.1~2の2か月間だけ低圧家庭用電気料金を2円/月 値引きしました。東北電力は、これを「感謝割引」と銘打って、再稼働成果としてアピールしています。値引き額も小さいですが、その対象が低圧家庭用料金契約の顧客(170万口)とされており、最多の規制料金顧客(353万口)については、2ポイント付与という対応であり、しかもネット会員(36万口)のみということです。重要なのは、この措置は値引きサービスであり、ポイント付与であって、料金引き下げではないということです。東北電力が、このような対応に終わった理由は、先行き安全対策費がどこまで膨らむか分からず、また燃料価格の動向も読み切れないという不確実な情勢故といえますが、北電も基本的には同じ環境下にありますので、他人事ではありません。

 

 道内の電力需給の変化と原発の位置づけ

道内の電力需要量は2012年度311億kWhから2023年度276億kWhとなっており、約11%の減少で、全国的な趨勢と一致しています。ところが、今後の需要については、全国の電力会社の需給計画を取りまとめている電力広域的運営推進機関OCCTOが、2024年度8027億kWhに対し、2032年度8350億kWhと想定しています。同期間に北海道は277億kWhから302億kWhと想定され、約9%の増加です。これは全国の増加率4%に比べて倍以上です。この増加を支えると想定されているのが、産業用電力であり、その内訳がデータセンターDCや半導体関係の工場となっています。北海道についていえば、石狩周辺で展開されるDCや千歳で建設が進むラピダス、ソフトバンクが苫小牧で計画しているDCなどが電力需要をけん引するとみられているわけです。全国的な需要想定では、家庭用電力が減少、業務用電力が横ばいするなかで、唯一産業用だけが増加するとされ、北海道も同様です。

北海道において、この需要に応ずる供給力は、まずは既存の電源であり、北電の自社火力427万kWと他社火力77万kWの合計504万kW、北電86万kW、他社48万kWの合計134万kWの水力発電、太陽光・風力・バイオなど合計245万kWの再エネ発電などです。泊発電所3号機91.2万kWと1.2号機各57.9万kW、合計207万kWが加われば、当面の供給力としては盤石となりそうです。さらに、石狩新港LNG火力2号機56.9万kWも、稼働時期を4年早めて2030年に稼働するとしています。この状況で、 今のまま再エネ電源が増え続けると、むしろ供給過剰となる時間帯が増えることになりそうです。既に、再稼働を果たした九電地区や四国電力地区は太陽光発電によって生じた余剰電力を中国電力や関西電力に連系線を通じて送電することによって余剰電力の解消を行なっていますが、それでも消化しきれない分については、太陽光発電事業者に対して出力制御を要請するケースが増大しています。九電、四国電力、中国電力、関電は互いに連系線による相互融通を行なってきており、その連系線容量も北電・東北電力間のそれよりも大きく、再エネ余剰問題にも、より効果的に対応できて来たとはいえますが、出力制御がさらに拡大することになれば、連系線の拡充が求められることになりそうです。その前に、発電事業者が経営困難に陥ることも想定されますが。

北電も、再エネ普及によって生じる余剰問題に対処する必要に迫られることになりますが、当面、津軽海峡トンネル利用の連系線を拡充して、J.パワーによる北本連系と合わせて120万kWの容量を確保することにしています。しかし、現在、進行している陸上・洋上風力計画と太陽光発電が本格化する30年代には十分とはいえず、後志海岸から日本海側を秋田経由で新潟までつなぐ直流海底送電線を計画しています。しかし、その工事費は1.5~1.8兆円とみつもられており、費用負担のあり方等、詰めるべき課題は多いようです。もともと、道内の再エネ電力は、主として東北・関東方面に送電する計画で開発が進められてきた経緯がありますが、ラピダスなど道内での有力需要家が生まれたのは、ここ数年のことです。したがって、連系線や日本海海底送電線を含め、北海道のネットワークについても、道内需要への供給体制を含め、再検討すべきでしょう。

ここで、もう一つ注意喚起しておきたいことがあります。2018年9月6日の胆振東部地震によって発生した全道一斉停電、いわゆる「ブラックアウト」問題です。OCCTO等によって、その原因解明が行われ、苫東厚真火力発電所の三基の発電機がダウンするとともに、道央と道東を結ぶ送電線が複数ダウンしたことが基本的原因とされています。ブラックアウトに至る経緯は複雑で、完全に解明されたとはいえないようですが、地震多発地帯である胆振地区に苫東厚真石炭火力三基合計165万kWが集中立地していたこと、その近傍に南早来変電所が立地し、道東からこの地区に向かう送電線が集中していたことが、もっとも基本的な原因背景にあったのではないかと思います。

その点からみて、泊発電所に三基合計207万kWが立地し、今後さらに、石狩新港LNG火力三基合計170万kWが立地する状態は、胆振東部地震級の地震がこれらの集中立地地点を襲った場合、三基の発電機が同時脱落する危険があるということです。今回のブラックアウトの経験から、さまざまな対策が提示されてきました。北本連系の増強や京極揚水発電所の強化などが中心的な対策になっていますが、肝心の発電地点の分散化対策とは逆に、集中立地が進んでいるのが実態といえます。大規模発電所の集中立地が進むのは経済的理由からですが、「安全性」を第一に掲げるエネルギー基本計画と矛盾するとは考えないのでしょうか。

 

 今後のプロセスで求められる議論について

まず、地元同意の決定主体についてですが、一般には立地自治体(市町村と都道府県)

の首長とされています。したがって、当該自治体の市町村長や知事がどう判断するかで決まる仕組みになっています。彼らは選挙で選ばれていますので、その判断が重いのは当然ですが、地元民の意見対立が厳しい、原発のような重要課題では、議会や住民の意見を十分に聞く必要があります。場合によっては、住民投票など、直接、住民の判断を求める手続きも必要になります。首長のイニシアは重要ですが、住民の意思を聞く姿勢はもっと重要です。

地元の範囲をどう決めるかということが、次の問題です。原発が万一事故を起こした場合の影響範囲はかなり広範囲にわたり、サイトが立地する場所だけを地元というわけにはいかないからです。国も、そのことは認識しており、放射能影響の度合いに基づいて、予防防護措置区域PAZ、緊急防護措置区域UPZという区域割をして、対応基準を策定しています。しかし、実態としての地元はPAZになっているといえそうです。

泊原発PAZ(原発からおおむね5km圏内、約3千人)は、全面緊急事態で即時避難を実施。30km圏外に避難先を確保。ただし、防風時においては、天候が回復するまで屋内退避を優先。

UPZ(発電所からおおむね5~30km圏内、約7万6千人)は、全面緊急事態で屋内退避を実施。緊急時モニタリングの結果、一定の放射線量以上の区域は一週間程度内に一時移転等を実施。7万6千人に対応できる避難先を確保。

これが、緊急時対応のポイントですが、これを含め、疑問点をあげたいと思います。

PAZ、UPZについて、特にUPZが30km圏内とされていますが、この範囲は狭すぎではないかと思います。もちろん、事故レベルにもよりますが、福島原発事故レベルを想定するならば、影響範囲は100kmか、それ以上に及ぶと考える必要があるでしょう。

国は、PAZ、UPZを同心円で描くのはあくまでも目安であるとしています。その時の気象条件、特に風向きや風力によって影響範囲が特定の方向に扇状に拡大していくのは、当然予測されます。ですから、同心円で描くことが間違いということではなく、原発からどの方向に影響が広がるかは、あらかじめ決められないというのが正解といえます。結局、

周辺地域はすべて影響を受ける可能性があるとして、対策を立てる必要があるわけです。

その上で、泊村や共和町で作成されている広域避難計画には、実効性に疑問のある点がいくつもあります。たとえば、泊村PAZ住民の避難先がアパホテル&リゾート(札幌市)、共和町PAZ住民の避難先がルスツリゾートとされています。あらかじめ、ここまで決めていると感心はしますが、風向きによっては、その方向場所が危険ということがあり得ます。

具体的な避難行動も詳細に決められていますが、自家用車の他、多くはバスに分乗して避難することになっています。出されている計画で使用するバスが累計1775台になります。事故時に、これだけのバスを泊・共和に集められるのか、昨今の運転手不足によって路線バスが次々と廃止されている事情を考えると、実効性を疑いたくなります。国は、北海道バス協会に、後志地域のバス事業者と調整し、不足の場合、隣接地域のバス事業者、さらには全道のバス事業者と調整をはかるよう促していますが、人任せ感が禁じ得ません。

以上、指摘したことは、泊原発が再稼働する場合、万一に備えて地元自治体が準備しなければならない事柄に関わっています。このために、限られた自治体の人的および財政的資源をどれだけ投入しなければならないのでしょうか。原発がなければする必要もない、膨大な作業に従事する職員のむなしさを想像すると、悲しい気持ちにさせられます。

既に、①の冒頭部分で述べたように、今後のプロセスで求められる議論の核心は、再稼働に向けて地元同意をどう取り付けるかという点になりますが、恐らく、国・北電は、「核ゴミ処分場」について寿都町で実施してきた「住民説明会」を参考に臨んでくるものと思われます。再稼働についての「住民説明会」が、実質的にNUMOによる説明会として実施された寿都町のケースとは異なり、住民の健康と安全を担保するために必要な措置について国・電力会社と地元自治体・住民とが本音で話し合う場、機会となるかが重要です。そして、地元住民が納得できない場合、再稼働自体を中止するという選択が可能となる枠組みが構築されることが必要だと思います。そうでなければ、地元同意を得るプロセスは、結論ありきのセレモニーとして進行するだけになります。地元同意は建て前として必要なのではなく、心底本音として必要なのです。「ノン」「嫌」といえないのは日本人にありがちな行動パターンかもしれませんが、国の施策とはいえ、地元住民が異議申し立てするのは基本的人権の問題なのですから、その意思表示は尊重されるべきです(2025年4月27日作成)。

 

 

 

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