川村雅則「学習会「ひとり親家庭の支援の現場から」に参加して」『NAVI』2025年4月18日配信
2025年4月10日、平井照枝さん(NPO法人ひとり親とこどもふぉーらむ北海道(略称はSMF北海道)[1]代表理事)を講師に、ひとり親家庭の現状や支援の現状を学ぶ学習会を、公務非正規問題でお付き合いのある自治体議員有志の皆さんと一緒に開催した。
ひとり親家庭の困窮は周知のとおりで、対策が急がれるテーマである。そのなかで、今回のようなテーマで学習会を開催した理由は、当事者に最も近いところで支援にあたられている方から話を聞くことで、現場で何が求められているのかトータルに学ぶことができると考えたことがあげられる[2]。加えて、自治体議員有志と一緒に開催したのは、このテーマには、国が行うべきことがあるのはもちろんであるが、自治体にもできること、しなければならないことがある──知己の議員から話を聞くなかで、漠然とではあるがそう考え、それを議員と共有したかったことによる[3]。
本稿は、とくに議員の皆さんに議員活動で何か役立てていただければと思い、筆者が授業で使っている資料に、学習会当日の平井さんのお話や提供資料を加えて整理をしたものである。文責は筆者にある(写真提供はSMF北海道より)。
■全国ひとり親世帯等調査にみる母子世帯の雇用、生活等の状況
まずは、筆者が授業で使っている、厚生労働省による調査(「2021年度全国ひとり親世帯等調査結果」)[4]から「母子世帯」の雇用、生活等にみられる特徴を箇条書きしておく。調査結果は推計値である。
- 母子世帯数は5万世帯。
- ひとり親世帯になった理由で最も多いのは「離別」で、全体の5%を占める。
- 母子世帯における母親と末子の平均年齢は、前者が9歳で、後者が11.2歳である。
- 母親の就業状況で特徴的なのは、3%が「就業している」ことである(残りは、「不就業」9.2%、「不詳」4.5%)。多くは働いているのである。
- しかしながら、その従業上の地位・雇用形態は(「就業している」を100とすると)、「正規の職員・従業員」が8%で、「パート・アルバイト等」が38.8%である。
- そのようなこともあって、母親自身の平均年間収入[5]は272万円で、そのうち就労収入は236万円にとどまる(これでも前回調査よりは上がった結果である)。「正規の職員・従業員」に限ると344万円で、「パート・アルバイト等」では150万円である。
- 社会保険の加入状況については、雇用保険に「加入していない」のが2%、健康保険に「加入していない」のが3.8%、公的年金に「加入していない」のが10.8%である。
- 世帯の平均年間収入(同居親族を含む世帯全員の収入)は373万円である。
■会員登録の急増
ひとり親世帯の困窮度がコロナ禍で深刻化したことについては、反貧困ネット北海道主催の学習会で以前に平井さんにお話しいただいたことがある[6]が、その後も平井さんたちのもとへの問い合わせや会員登録は増え続け、2019年12月の登録会員が142名だったところ、2025年3月末現在では、制度の紹介や物資の配布の募集をお知らせる無料メルマガ登録会員は1404名で、登録の申請が毎日ある、とのことであった。
■児童扶養手当と役所の窓口対応の問題
生活が苦しいひとり親世帯にとって「命綱」(平井さん)とも言えるのが児童扶養手当である。現在(2025年4月以降)は、全部支給の場合、月額で4万6690円が支給されている[7]。同手当は、「父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もつて児童の福祉の増進を図ることを目的とする」(児童扶養手当法第1条)。子ども2人目以降1人につき11030円(全部支給)の加算額が支給される。所得制限限度額は、全部支給(2人世帯)の場合で年間190万円である。
ただ、平井さんによれば、この児童扶養手当を、受給要件を満たすにも関わらず申請できていない人も一定数いると思われる、とのことであった。ご自身が受けた相談事例や、シングルマザー調査プロジェクトチームによる「【課題別レポート】「傷つく窓口―児童扶養手当の現況届の実態と改善要望」」[8]を示しながら、その理由の一つにあげられたのが、児童扶養手当を受け取る際の役所の手続きをめぐる問題である。受給資格を満たしているかの確認に年に1回現況届けの提出が必要になるのだが、その際に、元夫のことや異性との交際状況などを尋ねられることがあるのだという。
上記レポートにも記載されているとおり、「子どものもう一人の親から受け取る養育費の額を示す必要性や、子どもを監護しているひとり親が事実婚状態や内縁関係にある場合は手当の対象外となるということから、上記のような質問をしていると推測」されるが、しかし、元夫がDV加害者であれば、聞き方によっては、当事者に深刻なダメージを与えかねない。加えて、そうしたプライベートな質問が周囲にも聞かれるような場所で手続きが行われている、という状況も自治体によってはあるようで、まさに「傷つく窓口」になってしまっていると言える。是正が必要である。
一方で、こうした書類手続きの機会を積極的に活用して、当事者(母親)の困っていることやニーズを聞き出したり、あるいは、他の制度の説明もワンストップでできるようにしている自治体もあるのだという。学習会では明石市の名前がときどきにあげられていた。
こうした相談体制の整備は、自治体ができることではないかと思った[9]。その際、行政(窓口)対応での困りごとなどを含めて、当事者を対象とした実態・ニーズ調査などが行われてもよいのではないか。調査の結果は自治体の取り組みに活かしていけると思う。
■養育費の確保に関する自治体の取り組み
ひとり親世帯の困窮の背景には、離婚した相手から養育費を受け取ることができないという問題がある。前掲「ひとり親世帯等調査」によれば、「養育費の取り決めをしている」のは母子世帯で46.7%である。同じく、「現在も養育費を受けている」のは全体の28.1%にとどまる。養育費を現在も受けている又は受けたことがある母子世帯の養育費(1世帯平均)は5万0485円である。
なお、養育費の取り決めをしていない理由(複数回答可)であげられているうち多いのは、「相手と関わりたくないから」(50.8%)のほか、「相手に支払う意思がないと思った」(40.5%)、「相手に支払う能力がないと思った」(33.8%)などがあげられている。
さて、学習会で平井さんが紹介されたのは、養育費の取り立てに関わる自治体の取り組みである[10]。明石市では、市が「保証会社」に業務を委託し、養育費が滞った場合、「保証会社」が不払いの養育費(月額の上限5万円)をひとり親世帯に支払い、その同額を「債権」として相手方から回収する、というモデル事業が行われた(2018年11月)という。自治体がそういうかたちで関与できるのか、と感心した。
その後の明石市の状況については、新聞等で少し調べてみたが、明石市こどもの養育費に関する条例の制定などに発展しているようである。明石市ウェブサイトの「離婚等のこども養育支援 ~明石市の取組~」を参照されたい[11][12]。
■自治体が取り組む医療支援制度
医療支援についても平井さんから話題の提供、問題提起があった。
まず前提として、母子世帯の母親の健康状態や医療機関への受診状況がよくないという問題がある。平井さんが学習会で示した資料を2点紹介する。
例えば、JILPTの調査[13]では、母子世帯のなかでもとくに無業の母親の健康状態が悪いことが示されている。すなわち、同調査によれば(p.52の表を参照)、主観的健康状態で「あまり良くない・良くない」と回答したのは、母子世帯×無業の母親では39.7%(二人親世帯の無業の母親では10.1%)、同じく母子世帯×有業の母親では18.1%(同6.0%)であった。また、うつ病の心理検査手法を用いた精神的健康度では、抑うつ傾向ありの割合が、母子世帯×無業の母親ではじつに49.2%(二人親世帯の無業の母親では17.4%)、同じく母子世帯×有業の母親では31.6%(同16.1%)である。
あるいは、ひとり親家庭への北海道による委託調査[14]によれば、過去1年間に病院や歯医者に行きたいのに行けなかったことが回答者本人にあったのは、母子世帯では46.6%である。理由で最も多いのは「仕事で時間がなかった」68.0%で、次が「お金がなかった」40.4%である。
さて、以上のような状況を踏まえて平井さんが紹介されたのが「ひとり親医療費助成」制度である。実施主体は市町村であるが、実施に要する費用の2分の1を北海道が補助している。
北海道のウェブサイトに掲載された情報[15]によれば、同制度は「ひとり親家庭などの児童が病気になったときや母又は父が入院したときは、医療保険及び受給者が負担した残りの額(入院時食事療養費は除く。)を市町村が助成」するものである。市町村によっては対象者、自己負担、所得制限を独自に拡大(緩和)している場合がある。
対象者は、「ひとり親家庭の母又は父(入院)、20歳未満の児童(通院、入院)」で、「3歳未満児と住民税非課税世帯を除き1割の自己負担」がある。自己負担上限額は、通院が月18,000円/年間144,000円(※1)で、入院が月57,600円(※2)/多数回該当の場合は月44,400円(※3)である(※1~※3の説明は省略)。
この制度のなかで、親の通院に対して助成を行っている自治体は、北海道内で8市、30町村である。8市は、札幌市、小樽市、帯広市、網走市、苫小牧市、稚内市、恵庭市、北斗市である。各自治体の事業内容は、上記のページ内の「『ひとり親家庭等医療給付事業』の市町村における拡大実施状況」にまとめられている。
なるほど、自治体が取り組めることにはいろいろあるものだと思った。
■最後に
ひとり親世帯の母親は、DVによる被害やそのことによる精神的な不調、自分自身の病気や子どもの病気・障がい、不安定かつ低賃金の雇用、親の介護問題など、複合的な生活上の困難を抱えがちであると聞く。具体的な事実を示されることで学習会参加者のあいだでそのことが共有された。仕事とケアを一人で両立させる、ということが日本では本当に困難である。
ところで、学習会で紹介された、ひとり親世帯の困窮を示す情報のなかに、SMF北海道からの支援に申し込みをした際の、当事者アンケート調査の結果(自由記述)がある。
お米が高くて買えないこと、食べ盛りなのに食事を減らしてもらっていること、自分自身も病気で栄養を取らなければならないが、子どもの食事を優先していること、どうにか子どもにだけは食事を取らせたいこと、子どもにお腹いっぱい食べさせてあげたいことなどが書かれている。
どんな思いで日々を過ごしておられるのか、と胸が詰まる。
月並みな言い方しかできないが、食べるものにも事欠くようなこうした状況をみんなで変えていきたいと思う。
※SMF北海道への支援はこちらから
[1] 前身は、しんぐるまざあず・ふぉーらむ北海道。2024年12月に名称変更。
[2] 個人的なことで言えば、雇用と福祉の問題・対策をトータルに学ぶ必要があるところ、筆者は福祉の分野が弱いという自覚があった。男性性で生きてきたことからジェンダーの観点も十分ではないと自覚している。
[3] 不勉強ゆえ、国がやるべきことと自治体がやるべきことの明確な区別が筆者のなかでできているわけではない。
[4] 過去の分を含め、こども家庭庁のウェブサイトに「全国ひとり親世帯等調査」結果へのリンクが貼られている。「こども家庭庁」→「ひとり親家庭等関係」へ。
[5] 就労収入だけでなく、生活保護法に基づく給付、児童扶養手当等の社会保障給付金、別れた配偶者からの養育費、親からの仕送り、家賃・地代などを加えた全ての収入。
[6] 平井照枝「新型コロナウイルス感染症の影響による収入とくらしについて(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」『NAVI』2021年4月3日配信。
平井照枝「新型コロナウイルス感染症の影響による収入とくらしについて(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」
[7] 児童扶養手当については、子ども家庭庁「児童扶養手当について」を参照。
[8] シングルマザー調査プロジェクトチームによる「【課題別レポート】「傷つく窓口―児童扶養手当の現況届の実態と改善要望」」。
[9] 本稿の直接のテーマではないが、相談員の雇用の安定など、議員には、いわゆる非正規公務員問題にもあわせて取り組んでいただきたい。竹信三恵子、戒能民江、瀬山紀子ら(2020)『官製ワーキングプアの女性たち――あなたを支える人たちのリアル』岩波書店など参照。
[10] 筆者は全くの門外漢であるが、国がそれを行っているケースとして学習会で紹介されたのはドイツであった。後日に調べたドイツの扶養料立替制度について、ウェブ上で読めるものとして以下を紹介しておく。生駒俊英(2019)「ドイツにおける扶養料立替制度」『社会保障研究』第4巻第1号(2019年)pp.119-127
[11] 明石市「離婚等のこども養育支援 ~明石市の取組~」。
[12] 「養育費の履行確保等に関する取組事例集(2025年4月)」が子ども家庭庁のウェブサイトで紹介されていることを後日に平井さんに教えていただいた。
[13] JILPT「調査シリーズNo.192子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)」JILPT、2019年10月17日
[14] 北海道「2022年 北海道ひとり親家庭生活実態調査 報告(北海道大学大学院教育学研究院への委託)」2023年3月。ほかにも、北海道が行っている各種の調査結果について、北海道のウェブサイト「道内の子どもの貧困の現状 子どもの生活実態」ページを参照。
[15] 北海道「各種制度|子どもの各種制度・ひとり親へのサポート」ページ内の「病気になったひとり親家庭などの母又は父及び児童の医療費の助成」を参照。
(参考文献)
中囿桐代(2021)『シングルマザーの貧困はなぜ解消されないのか──「働いても貧困」の現実と支援の課題』勁草書房
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