小松康則「参加したくなる! 元気の出る楽しい労働組合活動を進めよう 番外編 レイバーノーツ大会2024に参加して感じたこと」『学習の友』第851号(2024年7月号)pp.66-69

 

 

プロローグ

4月20日から3日間、米・シカゴで開催されたレイバーノーツ大会2024に参加しました。この連載のテーマでもある「元気の出る楽しい労働組合活動」のためのヒントをたくさん得ることができました。

今回はそこで学んだことや感じたことを報告し、「元気の出る楽しい労働組合活動」について考えたいと思います。

 

レイバーノーツとは?

レイバーノーツ(Labor Notes)は、1979年から「労働運動に運動を取り戻す」をスローガンに、全米の労働組合活動家が学び、交流し、職場と地域から労働者と組合員が主人公の運動の再構築をめざすNGO組織で、労働組合活動についての出版、労働組合学校(トラブルメーカーズスクール*1)、大会などを行っています。

アメリカの労働運動は一部を除いて、トップダウン、労使協調、保守的で白人男性幹部中心の労働運動が続いていました。レイバーノーツは職場から組合員が立ち上がり保守的な執行部の下でも職場から労働運動を構築することをめざして、それぞれの組合の中で有志が活動を広げてきました。

近年では、2012年のシカゴ教員組合のストライキが保護者と生徒、地域を味方に地域の学校を守るたたかいとして成功し、2018年にはアメリカ南部の保守的な地域で教員が相次いでストライキに立ち上がり、労働条件改善を勝ち取っています。

2021年から22年にかけて、スターバックスやアマゾンでの新しい労働組合の誕生や、運輸物流を組織するチームスターズ、全米自動車労組で執行部にレイバーノーツで活動してきた改革派の役員が選出される変化も起こっています。

他にもハリウッドの脚本家、俳優組合のストライキを背景に大きな前進を勝ち取り、昨年9月から進んでいる三大自動車会社での全米自動車労組(UAW)のストライキ、アメリカの医療労働運動最大の7万5千人以上が参加するストライキなど、この間の米国の労働運動の前進にはレイバーノーツで学び、ネットワークを作った活動家の存在があります。

 

*1 トラブルメーカーズ・スクール・・・レイバーノーツは、自らを「トラブルメーカー(やっかいもの)」と名乗っている。被抑圧者を組織して不正義を正そうとした人を支配者が「やっかいもの」と忌み嫌ったことにちなんでいる。現状を変革したいという意思が表れている。

 

スタートラインは私たちと同じ

参加しての率直な感想は、とにかく刺激的で、こんな運動を日本でも進めたい!もっともっと組合員の主体性を引き出す運動をしよう!ということでした。

先述したように、アメリカの労働組合運動が高揚し、数々の成果を勝ち取っていますが、こうした動きを日本から見ていると「アメリカだからできることでは?」とか「アメリカの文化が背景にあるからでは?」と考えてしまいがちですが、決してそうではないということを強く感じました。

どんなケースであっても、労働者の生活が苦しくなったり、職場で理不尽なことが起きたりしたときに、労働者が自ら置かれている状況に疑問を持ち、立ち上がることからスタートしています。

その後は一人ずつ対話して職場の仲間をオーガナイズ*2し、そのためのトレーニングも積み重ね、仲間を増やしながら、地域住民との信頼関係もつくり、一つ一つの戦術を積み重ね、ストライキなどの大きな戦術を展開しています。当然、これらのことは容易にできることではありませんし、いつも順調に進むものではないということもわかりました。

職場の労働者に働きかけても、みんなあきらめていたり、賛同は得られたとしても、恐怖心などから立ち上がってもらえなかったり、さまざまな妨害があったり、初めはたくさんの困難に直面しているという点は私たちも同じだと感じました。

そんな中で、どのように立ち上がる仲間を増やしながら勝利したかというストーリーがたくさん語られた大会でした。そして、いずれの場合も職場内だけのたたかいに終わっていないことも大きな特徴でした。

もちろん、職場の労働者が立ち上がり、つながるところから始まるのですが、多くの組合員が立ち上がり、その立ち上がった組合員が住民や地域のコミュニティともつながり、ともにたたかいを進めているのです。

そのためにはトレーニングが必要になります。対話スキルを向上させるトレーニングにも時間を費やし、関係づくりを深め、職場の仲間や地域住民も一緒になって戦略をつくり、戦略にもとづくアクションを重ねることでゴールを達成しています。ストーリーを語る、対話する、関係をつくる、アクションする、トレーニングするということが一体となって取り組まれていると感じました。

 

*2 オーガナイズ・・・組織し主体性を引き出す。

 

知識つめ込み型」ではなく、主体性を引き出す学習・トレーニングが必要

日本で「学習・教育」と聞くと、「講義を聞く」ということを想像する人も少なくないと思いますが、レイバーノーツでは、組合員のパワーを引き出し、組合員が「私たちには力がある」と自覚できるようにすることが真の労働者教育であると位置づけていると感じました。そのために、まず現場の声から出発することが重要であることが強調されていました。

「職場で何が起きているのか」「なぜそれを解決したいのか」「どうやって解決したいのか」などについて、当事者が中心となって話し合い(アウトプット)、その解決方法を自ら学び考えることこそが教育だとしています。

そして、リーダー(労働組合幹部)には、そのための会議の場の設定や進め方を工夫すること、ファシリテーションのスキル(会議などを進行する技術、手法)を向上させることなどが求められます。そのためにリーダー自らがトレーニングを積む必要もあります。パワポやテキスト、知識や経験談が重要なのではなく、現場の労働者が何を感じているのかを聞く力、聞く場が何よりも重要になるのです。まさに現場の労働者とともに、学びを深める姿勢こそが求められていることを実感しました。

このような機会を増やすことで、立ち上がった労働者が次は「職場の仲間を誘う人」となり、組織を広げていくことができます。どんなに知識や経験が豊富なリーダーがいても、それだけでは組織を広げていくことはできません。

写真:レイバーノーツ大会中に行われたワークショップの様子。所属団体を超えて小グループに分かれ、参加者が自由に話し合い、発言・報告する形式で進められる体験型の講座。

そして、一人のリーダーが何でもやる状態を脱し、多くの組合員が「労働組合は自分たちのもの」と感じることができ、「誰かがやってくれる」ではなく「自分たちがやる」と変化していくことができるのではないでしょうか。そのためには、労働組合の意思決定プロセスが広く組合員に開放され、それぞれの要求や関心にもとづいて自由に議論できる場と意思決定に参加する機会・権利を保障することも必要になります。そうした取り組みを通じて、組合員の主体性やチームワークも育まれていきます。こうしてたたかいが大きく広がり、勝利を掴み取ることができるということを学ぶことができました。

レイバーノーツ大会では、このような先進的な経験や勝利へのプロセス(結果だけでなくプロセスこそが重要)を学ぶこと、トレーニングを積み重ねることに最大限の力を集中していると感じました。全体会や多数開催されるワークショップに参加することで、ファシリテーションスキルも大いに学ぶことができました。さっそく実践し、自分たちの職場を変えるために立ち上がる仲間を増やしていきたいと思います。

 

 

 

小松康則「連載①元気の出る組合活動:みんなが参加しようと思える会議や活動がしたい」

小松康則「連載②元気の出る組合活動:対話から生まれる関係づくり」

小松康則「連載③元気の出る組合活動:「参加したくなる」「話したくなる」会議へ」

小松康則「連載④元気の出る組合活動:私たちにはパワーがある 現場の声から始まるキャンペーン」

小松康則「(番外編)元気の出る組合活動:レイバーノーツ大会2024に参加して感じたこと」

 

小松康則さんの投稿はこちらより

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