小松康則「参加したくなる! 元気の出る楽しい労働組合活動を進めよう(第4回)私たちにはパワーがある 現場の声から始まるキャンペーン」『学習の友』第850号(2024年6月号)pp.70-73
プロローグ
4月19日から3日間、米・シカゴで開催されたレイバーノーツ大会2024に参加しました。とても刺激的な3日間でした。この大会を通じて、これまで進めてきたコミュニティ・オーガナイジングをいかした会議の進め方やキャンペーンの実践をもっと進めたいという思いがさらに強くなりました。
大会は1日2時間程度の全体会と数多くのワークショップで構成され、昼休みや前日には各種ミーティング(会議)も開催されます。私も8つのワークショップと3つのミーティングに参加しました。全体会やワークショップ、ミーティングに共通しているのは、何よりも当事者である現場の労働者にフォーカスし、勝利のストーリーやチャレンジのプロセスを参加者みんなで共有し、祝福するということでした。また、何かを「教える」「知識を与える」のではなく、労働の現場で起きていることを出し合い、共有し、問題解決に向けて話し合うということを中心にしているということでした。
すべては当事者の声から始まる、自分たちにはパワーがある、そう自覚することから始まって運動が大きく広がっていくということを実感しました。
このレイバーノーツ大会で学んだことや感じたことを踏まえて、コロナ禍に取り組んだ「大阪府の保健師、保健所職員増やしてキャンペーン(以下、「保健所キャンペーン」)について振り返ります。
保健師、保健所職員増やして
コロナ禍に大きな困難に直面した保健師や保健所職員と取り組んだ「保健所キャンペーン」も現場の声から始まりました。コロナ感染拡大が日を追うごとに大きくなり、これまで当たり前のように取り組んでいた年間スケジュールは軒並み中止せざるを得なくなり、保健所からは悲鳴のような声が届くようになりました。
当時、大阪府職労の委員長に就任したばかりの私は「何とかしなければ」「どうすればいいんだろう」そんな気持ちでいっぱいでした。キャンペーンを始めるにあたって私が大事にしたのは、コミュニティ・オーガナイジングで学んだ、①当事者は誰か、②当事者はどんな困難に直面し何が起きているのか、③当事者の持っている資源は何か、④当事者がその資源をどのように使えばパワーが生まれ変化を起こすことができるか、ということでした。
そこでまずは、何人かの保健師や保健所職員に声をかけ、何が起きているかを知ることから始めました。いつも元気なAさんは「小松さん、私、もう丸坊主にしたい」と言いました。「なぜ?」と聞くと、毎日夜中に家に帰って、お風呂に入って髪の毛を洗うのも、乾かすのもしんどくて。その時間があるのなら眠りたい」と話しました。シングルマザーのMさんは「休日出勤することが多くなり、小学生の子どもが学校に行かなくなってしまった。もう働き続けることはできないかもしれない」と話しました。
また別の保健師からは「私たちは保健師や職員を増やしてほしいと訴え続けてきた。それなのに毎年のように減らしておいて、コロナになったからといって、今さら頼らないでほしい」という声も出され、絶望感に溢れていました。
仮説を立て戦略をつくる
私はいっしょにキャンペーンを立ち上げたい保健師に声をかけ、お互いの大切にしている思いを共有し、コアチームを立ち上げ、戦略を練りました。吉村知事は毎日のようにテレビ出演していたので、多くの府民は吉村知事ばかりが頑張っているように感じていて、保健所で頑張っている保健師や職員の姿が報道されることやその必要性が知らされることはありませんでした。
そこで、私たちは府民の支持を何よりも気にしている吉村知事やその顔色を気にしている大阪府庁の幹部たちを動かすにはどうすればよいかを考え、仮説を立てました。私たちが多くの保健師や職員を組織し、現場のリアルな声を広く発信し、オンライン署名で10万人の賛同者を集めれば、吉村知事や大阪府の幹部はその声を無視することはできなくなり、保健師や職員を増員するだろうというものでした。
思いを共有し、立ち上がる
そして、私たちはこの仮説にもとづいて戦術を考え、タイムラインを作りました。まず初めに行ったのは大阪府が管轄する9つの保健所をオンラインでつないだ昼休みのわずか20分間のミーティングでした。そこでは2人の保健師が、保健師として働く思いを語り、このキャンペーンのタイムラインを説明しました。
そして、オンライン署名を立ち上げ、保健師や職員たちとのLINEグループをつくり、そこに寄せられる声をXで発信しました。その声は見る見るうちに拡散され、100万以上のインプレッションがつくこともありました。大阪府職労のXアカウントのフォロワーは当時800人ぐらいでしたが、このキャンペーンを通じて1万人以上に増えました。
毎日深夜に届く保健師たちの声をSNSで発信し、そこに寄せられる共感や感謝、応援の声を保健師たちに返しました。すると、現場の保健師や職員たちは「私たちの声を労働組合が代弁してくれている」「私たちの辛い状況はちゃんと伝わっている」と感じるようになり、孤独や絶望感が少しずつ希望や勇気へと変わり始めました。
広がる共感の声がパワーに
私たちの思いに共感し、一緒になって声をあげてくれる府民の方も増えました。普段から保健所と関わりのある難病患者団体やアルコール依存症を克服するための自主組織「断酒会」のみなさんや地域の社会福祉施設のみなさんも声をあげてくれました。こうして次第に声は大きくなり、私たちの取り組んだオンライン署名は3か月で6万人を超える賛同を集めることができました。
そして、2021年1月に署名を提出し、記者会見を行いました。初めての経験で恐怖や不安がありましたが、当事者である保健師も記者会見に参加し、思いを語りました。難病患者団体や断酒会の方々にも参加してもらえました。その結果、3月には各保健所に保健師を1人ずつ増員することができ、大阪府全体で103人の増員を実現しました。
この結果を見て、多くの保健師や職員は「声をあげれば変えられる」と感じ、「もっと声をあげよう」という思いが強くなっていました。その後も大阪労働局へ要請に行ったり、国会議員に会いにいったり、厚生労働省や総務省への要請も行いました。その結果、翌年2022年3月には、さらに各保健所に2人ずつの保健師と行政職員1人ずつの増員を勝ち取りました。このときも大阪府全体で133人の増員となりました。数十年ぶりの成果でした。
私たちの声には力がある
このキャンペーンを通じて、多くの仲間が「私たちの声には力がある」と感じることができました。コロナ禍に採用された若い保健師は「(キャンペーンに参加したことで)私は使い捨てなんだと思いながら働いていた気持ちが少しずつ消え、一人の人間として大切にされていると感じました。今も大阪府で保健師を続けられているのは、労働組合のおかげと心から感謝しています。今までは守られる側でしたが、私と同じように孤独やつらさを抱えている職員の力になりたい、私も守る側になりたいと思います」と話しています。
私自身もキャンペーンを通じて、たくさんのことを学びました。これからも多くの仲間に勇気や希望を届ける活動を進めたいと思います。
小松康則「連載①元気の出る組合活動:みんなが参加しようと思える会議や活動がしたい」
小松康則「連載②元気の出る組合活動:対話から生まれる関係づくり」
小松康則「連載③元気の出る組合活動:「参加したくなる」「話したくなる」会議へ」
小松康則「連載④元気の出る組合活動:私たちにはパワーがある 現場の声から始まるキャンペーン」
小松康則「(番外編)元気の出る組合活動:レイバーノーツ大会2024に参加して感じたこと」