川村雅則「年度末における会計年度任用職員の離職者数全体と、大量離職通知書調査で把握された離職者数との差──沖縄の事例より」

川村雅則「年度末における会計年度任用職員の離職者数全体と、大量離職通知書調査で把握された離職者数との差──沖縄の事例より」『NAVI』2024年8月7日配信

 

表を追記しました(2024年8月8日)

 

出所:沖縄県労連・沖縄県公務公共一般労働組合作成資料より。

 

 

(1)沖縄県労連沖縄県公務公共一般労働組合調査(以下、県労連等調査)で把握された会計年度任用職員の実際の(全ての)離職者数と、大量離職通知書調査で把握された離職者数との差を明らかにしました。

 

(2)筆者は、北海道及び道内市町村から提出された「大量離職通知書」(以下、通知書ともいう)を使って、会計年度任用職員の離職者数が年度末にどの位発生しているのかを明らかにし、記事にまとめて配信をしました(以下、配信記事)[1]

 

(3)もっとも、上記の作業で把握できた離職者数というのは、実際の離職者の全員分ではなく、あくまでも、大量離職通知書の提出要件に該当した自治体で(しかも、通知書を適切に提出した自治体で)記載された人数に過ぎません。そのことは、「本稿が把握できた離職者数は、実際の離職者数よりも少ない(はるかに少ない?)ことになります。」と「配信記事」で述べたとおりです。筆者が明らかにできたのは、次の図でいう離職者Cに過ぎません。

 

図 会計年度任用職員の実際の離職者数と本調査が対象にしている(本稿で扱う)離職者数

注:サイズは、実際の人数規模を示すものではありません。
出所:「配信記事」より。

 

(4)では、離職者Cと離職者Aの差はどの位なのだろうか。しかし、これを明らかにするためには、当然のことながら、離職者Aの人数を明らかにしなければなりません。ですから、この点は未解明のままでした。

 

(5)両者の差は果たしてどの位なのだろうか──このことを、今回、沖縄のケースで明らかにできました。

 

(6)順を追って説明すると、筆者は、上の図でいう離職者Aを明らかにした県労連等による調査を非常に貴重なものだと思い、「配信記事」で紹介していました。

すなわち、「沖縄県労連が県内自治体(県と41市町村)を対象に実施したアンケート調査によれば、2024年3月末に離職した会計年度任用職員の人数は、県内全体で3036人で、会計年度任用職員全体の約2割に及んだといいます。」と[2]

 

(7)ところが、別の団体[3]が最近明らかにした、大量離職通知書に記載された離職者(沖縄県・県内市町村から提出された通知書に記載された離職者C)の人数は、その1割程度であるわずか321人に過ぎませんでした。

 

(8)この差は一体どういう理由によるのでしょうか。

まず、大量離職通知書の自治体でのずさんな扱いは「配信記事」など[4]で述べてきたとおりで、沖縄でも同様のこと(通知書の未提出)が起きているのでしょう。先の『沖縄タイムス』の記事でもそのことに言及がされていました。しかし、その分を計算に入れてもなお差は残ります。通知書の提出要件に該当していない自治体でも少なからぬ離職者が発生しているということなのでしょうか。

ともあれ、「県労連等調査」の結果と調査の内容──どのような内容・設問で各自治体に調査をされたのか──を知る必要があると思いました。

そこで、今回(2024年8月6日)、「県労連等調査」の実施主体の一つである沖縄県公務公共一般労働組合に照会をして、県労連等が行ったアンケート調査の調査票と、調査の結果(市町村別一覧)とをご提供いただいた次第です。

調査票は、4つの設問(大問)で構成され、離職者数の把握に関する設問は次のような内容でした。該当部分を転載し[5]、なおかつ、両調査(大量離職者調査、県労連等調査)で把握された人数を表に示します。

 

会計年度任用職員の2024年3月末の離職者数に関する全自治体アンケート

自治体名                      

1.2024年3月末で任用終了した離職者数(庁内・教育委員会を含む)及び2023年3月末の離職者数を教えてください。

①2024年3月末(        )人
②2023年3月末(        )人

2.上記の離職者(2024年3月末)の理由を教えてください。

・本人の自己都合による(     )人
・任期の満了による   (     )人
・その他の理由     (     )人   この合計数は、1の①の数と一致する

出所:県労連等調査より。

 

表 2023年度末の会計年度任用職員の離職者数

大量離職通知書調査 県労連等調査
321人(離職者数全体は、384人で、そのうち321人が「非常勤職員」の離職者数) ①3036人(但し、そのうち「沖縄県」から回答された1381人には、「任期満了後、再度の任用となった職員も含まれている」)
②1655人(上記の「沖縄県」の回答を考慮して再計算)

出所:(1)大量離職通知書調査は、安田真幸氏(連帯労組・杉並)らのグループが実施したもの。(2)県労連等調査は、沖縄県労連・沖縄県公務公共一般労働組合による調査。

 

(7)「県労連等調査」では、年度末の会計年度任用職員の離職者数が尋ねられています。

もっとも、正確に言えば、表中の数値①の欄にも記したとおり、「県労連等調査」で把握された3036人のうち、「沖縄県」から回答された1381人には、「任期満了後、再度の任用となった職員も含まれている」とのことでした。ですから、その分は除く必要があります。

但し、再度の任用がされた/されなかった職員数の特定はできません[6]

そこで、(あり得ない仮定ですが)「沖縄県」が回答した離職者1381人全員が幸いにして県に再度任用されたと仮定して(つまり「沖縄県」の離職者は0人だったと仮定して)計算すると、3036人マイナス1381人で、沖縄全県の離職者数は1655人となります。表中の数値②です。

それでも、321人(離職者C)と1655人(離職者A)ですから、その差は1334人と大きな数値です。

あり得ない仮定の下でも、両者(「大量離職通知書調査」の結果と、全ての離職者数の把握を試みた「県労連等調査」の結果)の差は非常に大きいです。このことが沖縄のケースで確認ができました[7]

 

(8)新たな非正規公務員制度として始まった会計年度任用職員制度の下で多くの離職者が発生しています。

現在私たちは、大量離職通知書が適切に作成・提出されるよう取り組みを進めていますが、通知書で把握できる離職者数と全体の離職者数とのあいだには、無視できない大きな差がある、とみたほうがよいでしょう(もちろん、自治体による通知書の提出状況が改善されれば、その分だけ差は埋まるでしょうけれども)。そのことが、「県労連等調査」と安田真幸氏グループの調査から示唆されました。

制度・政策を改善する上でも、現状の正確な把握が必要です(そうでなければ問題を過小に評価してしまうことになりかねません)。その役割は、会計年度任用職員制度の設計を行った総務省、そして、会計年度任用職員の任命権者である自治体の側に本来は求められるのではないでしょうか。

同時に、職業安定行政にも課題が提起されているように思われます。職業安定行政を機能させる上で、自治体からの大量離職通知書の提出がこのような状況で果たして問題はないのでしょうか。あるいは、仮に自治体からの通知書の提出状況が改善されたとしても、「1つの事業所で1か月に30人以上」に達しなかった自治体の離職者数は、あいかわらず把握されないままです[8]。その人数は少なくないと思われます。このような状況の放置は、職業安定行政の存在意義にも関わるのではないでしょうか。

 

 

(謝辞)

県労連等調査は、調査票を全ての自治体から回収することなどに非常に労力を要したと思われます。貴重な資料をご提供くださった沖縄県労連・沖縄県公務公共一般労働組合に御礼を申し上げます。

 

資料

県労連等からご提供いただいたデータと総務省による調査(総務省「令和5年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」2023年4月1日基準)で下記の表を作成しました。

(1)県労連等でも離職者割合は算出されていましたが、母数で使われていた会計年度任用職員は琉球新報による調査結果(2023年2月1日時点)でしたので、総務省調査データで計算をしてみました。
(2)県労連等調査に回答された「沖縄県」の離職者数については、本文に記載のとおりです。本表でも、沖縄県の数値を含めた計算と除いた計算とを行っています。
(3)特別職非常勤職員、臨時的任用職員、臨時・非常勤職員は参考データとして掲載しました。県・市町村の並び順は県労連等調査にあわせました。
(4)なお、総務省調査データで、「北中城村」のデータと「北大東村」のデータに重複がみられたことも述べておきます。

 

表 沖縄県・県内市町村における会計年度任用職員の離職者数及び離職者割合等

会計年度任用職員の2024年3月末の離職者数(県労連等調査)A 会計年度任用職員 特別職非常勤職員 臨時的任用職員 臨時・非常勤職員 合計 (参考)会計年度任用職員全体に占める離職者割合(A/B)
計 B フルタイム パートタイム
沖縄県 1381(※) 3,876 1,142 2,734 661 2,884 7,421 35.6(※)
那覇市 225 1,623 92 1,531 1 0 1,624 13.9
浦添市 84 641 59 582 0 0 641 13.1
宜野湾市 114 673 0 673 0 0 673 16.9
豊見城市 67 292 0 292 0 2 294 22.9
糸満市 77 446 48 398 2 0 448 17.3
南城市 26 161 0 161 0 1 162 16.1
沖縄市 180 1,023 12 1,011 0 0 1,023 17.6
うるま市 37 886 0 886 83 0 969 4.2
名護市 76 625 46 579 1 0 626 12.2
石垣市 82 440 11 429 0 0 440 18.6
宮古島市 93 567 0 567 2 0 569 16.4
本部町 21 162 8 154 0 0 162 13.0
金武町 34 194 0 194 0 0 194 17.5
嘉手納町 33 216 42 174 0 0 216 15.3
北谷町 44 340 30 310 0 0 340 12.9
西原町 52 238 10 228 0 0 238 21.8
与那原町 32 176 15 161 0 0 176 18.2
南風原町 45 334 45 289 292 0 626 13.5
久米島町 18 157 1 156 0 6 163 11.5
八重瀬町 40 214 15 199 5 0 219 18.7
竹富町 13 161 38 123 0 4 165 8.1
与那国町 8 54 14 40 0 0 54 14.8
国頭村 9 109 7 102 0 1 110 8.3
大宜味村 8 73 0 73 0 1 74 11.0
東村 14 87 0 87 0 0 87 16.1
今帰仁村 13 155 15 140 9 0 164 8.4
恩納村 43 181 0 181 0 0 181 23.8
宜野座村 23 162 0 162 0 0 162 14.2
伊江村 8 113 68 45 0 6 119 7.1
読谷村 43 297 44 253 0 16 313 14.5
北中城村 20 182 26 156 0 0 182 11.0
中城村 20 175 10 165 0 0 175 11.4
渡嘉敷村 10 37 15 22 13 0 50 27.0
伊平屋村 5 46 14 32 0 4 50 10.9
渡名喜村 4 6 0 6 0 0 6 66.7
北大東村 2 29 20 9 0 0 29 6.9
南大東村 1 35 10 25 0 0 35 2.9
伊是名村 7 15 6 9 0 0 15 46.7
多良間村 9 48 0 48 0 0 48 18.8
座間味村 5 40 6 34 0 3 43 12.5
栗国村 10 77 0 77 0 0 77 13.0
合計 3036 15,366 1,869 13,497 1,069 2,928 19,363 19.8
合計(※を除く) 1655 10.8

出所:会計年度任用職員の2024年3月末の離職者数は、県労連等調査より。臨時・非常勤職員(会計年度任用職員、特別職非常勤職、員臨時的任用職員)の人数は、総務省による調査(総務省「令和5年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」2023年4月1日基準)による。

 

 

[1]川村雅則「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)──北海道及び道内市町村から2024年に提出された大量離職通知書の調査結果に基づき」『NAVI』2024年7月29日配信

[2] 『沖縄タイムス』の記事(「13市町村、離職通知怠る/3月県内 非正規30人以上で」『沖縄タイムス』朝刊2024年5月9日付)によります。

[3] NAVIにも記事を投稿してくださっている安田真幸氏(連帯労組・杉並)らのグループが実施したもの。なお、調査結果の詳細はNAVIで近日中に発表予定です。

[4] 川村雅則「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信も参照。

[5] 残りの設問では、3.大量離職通知書の提出を行ったか、離職者に対する自治体独自の救済措置は行っているか、4.非正規職員の年度末の雇用不安をなくすために自治体で講じている措置や国への制度改善の要望などが尋ねられています。

[6] 「大量離職通知書調査」によれば、沖縄県(沖縄県、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの合計)からの回答は、離職者数148人(うち常勤職員57人、うち非常勤職員91人)とのことでした。この数値を使ってもよかったのですが、一方で、この数値が正確なのであれば、「県労連等調査」に対して離職者数は1381人(再度の任用を含む)であると沖縄県が回答したのはなぜなのか疑問が残ります。これは沖縄県に聞かなければ分かりませんから断念しました。

[7] 言うまでもなく、各県(都道府県)の市町村数や、大量離職通知書の浸透度・通知書に対する自治体音姿勢などにも左右されると思われます。沖縄のケースはあくまでも参考です。

[8] 正確に言えば、大量離職通知書のパンフレットには、「30人未満の離職者が生じる場合については、「大量離職通知書」の提出義務はありませんが、一定程度の規模の離職が予定されており、再就職先が確保されていない場合には、円滑に再就職支援を行う必要があるため、ハローワークに「大量離職通知書」の提出等についてご相談ください。」と書かれていますが、相談されることの期待はできないでしょう。

 

 

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