非正規職員の無期転換・大量雇止め問題について、多くの大学が無期転換に道を開いている中、東北大学当局は全く方針を変えず、2018年春に300名を超える大量雇止めを強行しました。未だに東北大学は、無期転換逃れに固執しており、全国的にも際立っていいます。本稿では、何故このような状況に至ったのか、問題の構造を記すとともに、東北大学職員組合の運動を紹介します。
東北大学の時間雇用職員、准職員
東北大学は、国公立・私立を問わず東北地区で最も大きな規模の大学であり、在籍する院生学生数は約18000人です。教職員数も現在では10000人を超えており、主なキャンパスがある仙台市においては、一大事業所です。東北大学の職員数は、2004年の法人化後年々増加していますが、教員、職員に占める非正規雇用職員の割合は約45%であり、非常勤の教職員に対する依存度が高い状態であることがわかります。
東北大学の准職員及び時間雇用職員の制度としては、当初は「時間雇用職員の通算雇用期間は3年以内」「職務の特殊性等により、総長が特に必要があると認めるときは、3 年を超えて雇用契約の更新を行うことができる」(2007年)となっており、2014年の段階で、実際に70%の方が3年を超えて雇用されていました。一応「3年ルール」は意識されていて、事務職員は3年毎に部署を移動したりしていましたが、研究室の研究補助、秘書業務の方は10年を超えて勤めていました。非常勤職員が東北大学の教育、研究、医療を支えていたともいえます。
大量雇止め
2013年の労働契約法改正に伴い、東北大学は2014年1月に「改正労働契約法を踏まえた対応方針」を決め、非正規職員の労働契約期間の上限は原則として5年以内で、通算年限の起算は2013年4月1日から行うこと,通算契約期間が5年を超える場合無期契約への転換の申込みが可能になることを提案していました。この「対応方針」では、部局が財源を確保すれば非正規職員の無期転換が可能であることを含んでいたのです。しかしその後、翌2017年1月に新方針を決定し、限定正職員という制度を導入するとともに「例外なく五年限度」とし、限定正職員に合格しなけれなければ雇止めとしたのです。「無期転換逃れ」が明らかになった瞬間でした。そして実際に2018年3月末に300名以上が雇止めされました。その後も毎年数十名が無期転換権を得られる直前に雇止めされています。
問題の構造
東北大学は、当事者や組合の訴えに耳を貸さず、社会的にも大きな批判を浴びたにも関わらず、無期転換逃れに固執している問題の構造は以下のとおりです。
前述の新方針が出される数ヶ月前に、東北大学は在京の石嵜・山中法律事務所に労働コンサルタントの委託契約を行いました。この法律事務所は、その後の労働争議の代理人を全て担っています。新方針は、無期転換逃れのために、限定正職員制度を導入する替わりに例外なく5年上限としたものですが、これはこの法律事務所の入れ知恵でした。東北大学は、このスキームを石嵜・山中法律事務所という業者から「購入」し、その後の「保守管理」もこの業者に任せているのです。労働争議の労働審判では、再三裁判所から調停の案が示されましたが、学内議論もせずに拒否しました。宮城県労働委員会の不当労働行為認定後も、直ぐに中労委に申し立てしました。これらは全てこの法律事務所の指示・指導です。これが、東北大学が主体的に判断できない構造です。石嵜・山中法律事務所に依存している限りは、スキームを変えられません。「保守管理」の必要がなくなってしまうので、この法律事務所はあえて問題解決させないのです。東北大学は、おいしいお客なのでしょう。
東北大学職員組合の取り組み
大量雇止めの可能性が強くなり、当局の固執ぶり明らかになってきた2017年11月、宮城県労働組合総連合、自由法曹団、東北大学職員組合を中心に「ストップ雇止め、ネットワークみやぎ」を結成しました。改正労働契約法の趣旨を逸脱する雇い止め方針は脱法行為であることを企業・関係団体等に訴え、無期雇用転換権の労働者を支援し、社会的世論を作ることを目的としたものです。弁護士事務所での会議や打ち合わせを頻繁に行い、また街頭宣伝やデモなども実施しています。労働争議の組み立て検討や書面作成、審理の対応は、大学の組合だけでは不可能です。資金面でのバックアップも含め、その有形無形の支援の大きさは、計り知れません。
私達は労働審判、仮処分、労働委員会に申立を行いました。労働委員会では、宮城県労委では歴史的勝利、中労委では勝利的和解を勝ち取りました。現在、労働審判の24条終了にともない、訴訟に移行したのは男性1名の組合員が、2018年4月4日に仙台地方裁判所に対して地位確認請求を起こした。3年を経過し、いよいよ最終弁論が9月末に予定されています。佳境に入った感があります。
日本の非正規雇用問題
労働契約法の改正にともない、多くの大学では非正規雇用の職員に無期転換の道を開きました。しかしながらその措置は、5年以上の更新を繰り返し、雇用継続の期待権を有する職員のみです。大学も独立行政法人等でも、2014年以降に採用された非正規雇用職員は、5年未満の雇用期間内の雇用としている機関が多い状態です。不安定な雇用を安定化させるための改正労働契約法が、逆に作用している状態です。川村雅則氏が指摘しているように、「仕事に期限はないのに有期で人を雇い続けることが法制度上容認されてきた。有期雇用の乱用。」「無期雇用に転換する権利を得るのに5年は長すぎる」のだと考えます。労働者を非正規(有期雇用・低賃金)に押し止める社会から、安定雇用・生活できる賃金を保障する社会に移行させるためには、無期雇用転換が第一歩です。東北大学で希望者全員の無期転換を勝ち取り、それを地域や社会に広げていく必要があると考えます。
終わりに-本を出版しました!
東北大学職員組合では、有期労働契約の職員の無期転換に向けて、団体交渉や労働委員会及び訴訟の場において積極的な取り組みを継続しています。この度、この間の取り組みをまとめ、あらためて有期労働契約における問題を広くアピールすることを目的として、下記のような書籍を2021年5月に出版しました。安価なブックレットです。是非ご購入いただきますよう、宜しくお願い致します。
「非正規職員は消耗品ですか? ―東北大学における大量雇止めとのたたかい」学習の友社、770円(税込)
(東北大学職員組合編、執筆者:片山知史(東北大学職員組合・執行委員長)・小野寺智雄(東北大学職員組合・書記))
<目次>
1 増加し続ける非正規雇用労働者
2 労基法改正、そして2018年問題へ
3 東北大学における非正規雇用職員の大量雇止め問題
4 闘いと勝利
5 情報公開問題
6 今後の国立大学および日本における労働問題
関連記事 山口県内の会計年度任用職員の現状と課題