川村雅則「公務非正規問題に取り組む~北海道における連続学習会の実践から~」『建設政策』第226号(2026年3月号)pp.42-45

 

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『建設政策』今号の特集は、「第31回全国建設研究・交流集会~いのちと安全をまもる地域建設産業の持続可能な発展に向けて~」です。

 

1.はじめに

筆者は、非正規公務員問題や公共民間の分野で働く労働者の問題など、地方自治体における公務非正規問題に議員たちと一緒に取り組んでいる。具体的には、公務非正規問題自治体議員ネット(以下、議員ネット。代表世話人は、神代知花子・石狩市議会議員)という団体を2024年8月に発足させ、継続的に学習会などを積み重ねている[1]。2025年度には、3回の連続学習会を開催した。テーマやメインの報告は、順に、以下のとおりである。

 

[第1回]2025年9月1日「国は制度をどう変えようとしているのか~総務省担当者に聴く、マニュアル変更の意図」

・会計年度任用職員制度について/総務省自治行政局公務員部公務員課理事官 淺見仁氏

[第2回]2025年11月18日「それぞれの自治体はどう変わったか~会計年度任用職員制度の今を検証しよう」

・会計年度任用職員問題について──新潟からの報告と提起/新潟市議会議員 中山均氏

[第3回]2026年2月6日「公共サービス委託・民営化の現状と再構築を考える」

・自治体「民営化」から公共の再生へ──吹田市の事例もふまえて/吹田自治都市研究所 岩根良氏

 

それぞれの学習会では、参加した各地の議員も、自らのまちの状況や自らの議会活動実践などを報告している[2]。「公共の再生」「公共を取り戻す」取り組みが提起される中でいま必要なのは、公共をめぐる問題の総論を学びつつ、自らの住むまちの問題を具体的に把握して改善を求めていくことだろう。公共サービスや工事の質(品質)の問題からでもよいが、労働組合であればやはり、担い手の置かれた状況からのアプローチが求められる。

本稿では、学習会の一部を紹介しながら、そのことを提起したい。紙幅の都合で、詳細は注釈にあげた配信記事や参考文献などを参照されたい。

 

2.会計年度任用職員制度はどうなるのか[3]

図 全国の地方自治体における正職員及び非正規職員の推移

注1:各年4月1日現在。注2:非正規職員は臨時・非常勤職員。
出所:総務省による調査(正職員は「地方公共団体定員管理調査」、非正規職員は不定期に行われる臨時・非常勤数の調査)より作成。

 

2020年度から始まった会計年度任用職員制度も、はや6年が経過する。(1)1会計年度ごとの任用の厳格化という「有期雇用の濫用」の制度化、(2)フルタイム勤務より1分でも短い勤務であれば諸手当や退職金の支給は不要になるという、均等待遇からの逆行、そして、(3)労使対等の雇用関係ではなく公法上の任用関係であることや労働基本権の制約──この(3)は正職員も同様だが、法や労働組合に守られている正職員とは異なる──など、民間の非正規雇用制度と比べても著しく不利な制度設計に対して、労働組合や当事者団体などが粘り強く抗議の声を上げ続けてきた。日本労働弁護団から2024年11月に出された『非正規公務員制度立法提言』は、当事者・関係者を大いに勇気づけた。政府の側も、深刻な人手不足によって公務職場で欠員状態が続くような状況下で、理不尽な制度を強行的に続けていくことは難しくなっていった。自治体向けにまとめられた、会計年度任用職員の円滑な運用を支援する手引き(いわゆる総務省マニュアル)にも、労働組合等の主張が反映されたような変化がみられつつあった。全国で100万人を超えるに至った会計年度任用職員を国はどうしようとしているのか──第1回学習会はそのような中で開催された。

結論から言えば、会計年度任用職員制度の廃止は予定されていない。会計年度ごとの任用という解釈の変更も予定されていない。確かに、骨太方針などの政府決定文書に「処遇改善」や「常勤化」の記載はみられたものの、それは会計年度任用職員全体をそうすることを予定したものではない。そのことに留意しながら、一方で、運動が国の姿勢や制度を変えてきたことに確信を持ち、自らの足下で、地方を変え、地方から国を変える取り組みをより一層進める必要がある──以上のことを確認する機会となった[4]

 

3.地方でできることはまだまだある──新潟市人事委員会・新潟市議会議員の取り組み

中山均さん(新潟市議会議員)のご報告は、端的に言えば、目からうろこの内容であった。会計年度任用職員の置かれた状況を改善していく上で労働組合や議会の力が必要であることは筆者も常に意識していたが、人事委員会や公平委員会の存在は視野に入っていなかった。しかし、教科書的に言えば、人事委員会や公平委員会は、首長(任命権者)から独立した人事機関で、地方公務員の人事行政に対する専門的、中立的な機関であって、任命権者の人事権の行使をチェックするなどして、人事行政の適正化はもちろんのこと、地方自治の本旨が実現するよう働く機関とされている。法律上も様々な機能、役割がうたわれている。とりわけ人事委員会には、職員の給与、勤務時間等の勤務条件について、議会と首長に勧告(いわゆる人事委員会勧告)を行う権限がある。また、人事委員会も公平委員会も、いわゆる措置要求・審査請求・苦情処理制度を有している。そうした機能が果たされていないのであれば、果たされるようにしていくのが本筋なのだ。それもまた、公共の再生の一角をなすものといえよう。中山報告は、そのような思いにさせられるものであった。

詳細は、中山報告を取りまとめた拙稿[5]をご覧いただきたいのだが、中山氏ら議員の取り組みを背景に、新潟市人事委員会は、自ら実施した調査の結果に基づき「会計年度任用職員実態調査報告書」を作成し、「令和7年職員の給与等に関する報告及び勧告」に添付した(2025年10月9日)。同報告書では、専門性が高い職種を中心に会計年度任用職員の仕事が適切に評価されていないのではないか、といった総括がまとめられていた。

どの自治体でも会計年度任用職員は賃金が低く設定されているが、それを正当化する理由として、彼らが従事している仕事は専門性に欠けるから、といった不当な評価をあげているのではないだろうか。それに対して新潟市では、上記のような調査報告書を人事委員会が示したのだ。背景には中山氏らの粘り強い取り組みがあった。氏らのこうした経験は、全国においても人事委員会や公平委員会をまっとうに機能させることの必要性やそれが可能であることを示す。

私たちは、優れた実践をされるこうした議員を発見し、つながることが果たしてできているだろうか。

 

4.新たな段階に入った民間化

公務員の非正規化と並行して進められてきた民間化は新たな段階に入っている。従来の民間化がサービスや施設の部分的な市場化、営利化であったとすれば、今日の民間化は、意思決定過程まで民間資本が包摂・掌握し、自治体は丸ごと利潤追求の手段にされようとしている──岡田知弘氏(京都大学名誉教授)の以上のような見立てをこの間紹介してきた。となれば、我々の公契約運動にもアップデートが求められている。そのような問題意識をもって第3回学習会に臨んだ。

岩根氏の報告では、今日の民間化の全体像とあわせて、中核市である吹田市の事例が報告された。詳細は別の機会にまとめたいが、印象に残ったのは、民間企業が適正な利益を得られるよう積極的な改革努力が自治体側に強く求められ、そして、実際に様々なかたち・領域で改革が進められていることである。

例えば、①民営化の推進にあたって、「案件形成」、「広域化」などのキーワードが使われるようになっている。より大きな利益が得られるよう一つの案件の規模を大きくした上で民間への委託を推進する、といった内容である。自治体DX(基幹業務システムの統一・標準化)による行財政の効率化も、これに該当する。

②住民との接点である「自治体フロントヤード改革」[6]が求められ、吹田市でも窓口業務の委託が進められている(2023年10月には国民年金課、24年9月には国民健康保険課・後期高齢者、25年12月には市民課)。「10年後の窓口像」を掲げた市の改革基本方針も取りまとめられている。もっとも、改革、効率化という言葉のもつイメージとは裏腹に、実際には、行政は部署を越えた連携ができなくなったり利用者は手続きを終えるのに数時間待たされるといった事態が起きているようであるが。

出所:総務省「自治体フロントヤード改革」ページより。

③公共施設指定管理者の営利企業化や、包括管理業務委託の拡大が進められている。後者について吹田市では、学校保育施設等に包括管理業務委託が適用され、「公立小・中学校、公立保育園など複数の施設の修繕や点検など様々な業務を、受付から現地の確認、業務の実施まで、まとめて民間事業者が行い、効率的な施設の維持管理を推進」(市のウェブサイトより)とある。84施設もの修繕が、大手事業者による一括管理で行われている。ただこれも、効率的な施設の維持管理とあるが、実際には、従来は市内業者が受託して迅速な対応がなされていたものが、窓口の一般化による現場対応の遅れが生じているという。

なお、以上のことは市民サービスの質低下という問題にとどまらない。地元経済への投資や地域内経済循環の痩せ細りという、公契約運動の観点からも看過できない問題をはらむ。

④事業構想段階からの企業参入の例として、吹田市における「サウンディング市場調査の活用」や企画・立案の「民営化」が紹介された。前者は、例えば、公園等の魅力向上や小学校跡地等の利活用事業においてみられ、同調査に参加した民間企業からは、当然のことながら自らの利益になる事業内容や行政規制の緩和などが積極的に提起されることになる。そして、民間企業からのそうした要求が方針や計画にあらかた盛り込まれた後に住民説明会が開催されるという本末転倒の事態が生じているのだという[7]

岩根報告を聞きながら、新たな段階に入っている民間化の状況を公契約運動に取り組む我々は把握できているだろうかと自省した。なお、民間化が進めば、議会を通じた当該事業の民主的な統治はもちろんのこと、そこで働く労働者の状況の把握も困難になる、という点に留意しなければなるまい。

 

5.まとめに代えて

上記のとおり、議員ネット主催の学習会の概要、要点などを紹介してきた。最後に、公共の再生運動を進めるにあたり2点を補足する。第一に、自治体に加えられている国からの改革圧力の大きさを考えるならば、我々もまたウイングを意識的に広げるべきではないか。建設工事(公共工事)はもちろんのこと、自治体の仕事、言い換えれば、公務・公共の仕事に携わるより多くの人たちとともに運動に取り組むべきではないだろうか。第二に、当学習会がそうであったように、自治体議員と積極的につながることや「議会の再生」を意識した取り組みにもっと力を入れるべきではないか。全国には3万人を超える自治体議員がいる。一人でも多くの議員に働きかけ、公務非正規問題に関心を持つ議員を増やすべきではないか。

2027年統一地方選は目前である。公共の再生運動を各地で盛り上げていく絶好の時期だと思うがどうだろうか。

(かわむら まさのり 北海学園大学教授)

 

 

[参考文献]

川村雅則(2025a)「2025年の公契約運動を進めるにあたり」『建設政策』第219号(2025年1月号)pp.38-39

川村雅則編著(2025b)『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』北海道新聞出版社

川村雅則(2025c)「非正規公務員問題に関する編著を出版して 『お隣の非正規公務員──地域を変える、北海道から変える』」『建設政策』第223号(2025年9月号)pp.38-42

川村雅則(2026)「現場・地域から考える 非正規公務員の実態と解決方向 動き出す会計年度職員制度の改善、さらに/北海学園大学教授 川村雅則(かわむら・まさのり)さんに聞く」『経済』第365号(2026年2月号)pp.99-111

横山勲(2025)『過疎ビジネス』集英社

 

 

[1] 詳細は、北海道労働情報NAVIで配信している議員ネットの活動を参照されたい。

https://roudou-navi.org/author/giinnet/

[2] 筆者も、連続学習会に先立つ2025年8月の議員ネットの総会で「会計年度任用職員制度をめぐる問題といま取り組むべき課題」と題して報告している。

川村雅則「会計年度任用職員制度をめぐる問題といま取り組むべき課題」

[3] この点については川村(2026)を参照。

[4] 議員ネット代表世話人である神代氏が後日に作成し改良を重ねている「わがまちの会計年度任用職員制度チェックリスト」などは非常に有用であり活用されたい。注釈1のサイトを参照。

[5] 川村雅則「新潟市議会議員・中山均さんの実践報告を聞いて」『NAVI』2025年11月23日配信

川村雅則「新潟市議会議員・中山均さんの実践報告を聞いて(議員ネット学習会の記録)」

 

川村雅則「人事委員会等の本来機能を発揮させる──新潟市、奈良県での取り組みを題材に」『官製ワーキングプア研究会レポート』第52号(2026年1月号)

川村雅則「人事委員会等の本来機能を発揮させる──新潟市、奈良県での取り組みを題材に」

[6] 総務省「自治体フロントヤード改革」のページによれば、「マイナンバーカードを活用した自治体と住民との接点の多様化・充実化、窓⼝業務の改善などを通じて、住民の利便性向上と職員の業務効率化を図ります」とのこと。

https://www.soumu.go.jp/frontyard_portal/

[7] 後者、すなわち吹田市においてもコンサルタントが多用されている状況が報告されたが、割愛する。『週刊東洋経済』(2024年5月11日号、2025年6月21日号)の特集「喰われる自治体」のほか、横山(2025)を参照。

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