くましろちかこ「石狩市非正規職員待遇改善に関する取り組み」

なくそう!官製ワーキングプア北海道集会(2016年2月20日開催)の「記録」に収録された、石狩市議会議員(当時は市民ネットワーク北海道所属)の神代知花子(くましろちかこ)さんによる報告です。新たな非正規公務員制度である「会計年度任用職員制度」が導入された今こそ、当事者へのアプローチを含めた、自治体議員による調査活動が大変重要です。お読みいただき、問題意識や内容などを共有の上、各地で取り組みを始めていきましょう。

PDF版のダウンロードはこちらから(pp.31-35)。

 

いしかり市議会だより第183号(2015年8月1日発行)より。

 

 

1.問題意識:「なぜ臨時・非常勤問題に取り組んだか」

 

石狩市議として当選し初めての議会質問となる2015年6月第2回定例議会にて「石狩市の臨時・非常勤職員の任用について」質問をした。

始まりは、当選後に北海学園大学経済学部川村雅則教授から「市民ネットワーク北海道は食べること、暮らすことには力を入れているのに、ほとんどの人が生活の中心としている『労働』の問題にはなぜ取り組まないの?」と言われたことだった。その言葉を機に議員としての初仕事として「官製ワーキングプア問題」に取り組むことを決意した。

私には非常勤職員として石狩市役所に3年間の職務歴(家庭児童相談員)がある。当時を思い起こすと、やはり様々な感情がこみ上げてくる。組合を持たない(正規職員で構成される労働組合への相談ルートはほぼない)自治体非正規職員は、自分の待遇が改善されることは端から期待していない。自治体が出した求人に応募した時点で、任用について了解したものとされているからだ。もし任用に不満があるのなら、再任用に応じなければよい。それと同条件で働きたい人は他にもいる。任用期限が定められているということは、そういうことだ。

しかし、石狩市で特に市民と密に接することの多い、福祉や教育の分野の専門資格要件で任用される、22の技術職は、全て非常勤職員である。その労働者もまた代わりのきく人材なのであろうか。

非正規職員の待遇に市や正規職員が全く無頓着のように私には思える。彼らもまた「任用」という採用を「そういうもの」と思い込んでおり、その「格差」は自らが責任を持たされる正規職員たる所以として正当と考えているのだろうか。正規職員には労働組合への加入が盛んに促されるが、自らの暮らしすら立てられない非正規職員の労働問題は置き去りにされているように感じる。その大半が女性で、家計の補完が前提の非正規職員の報酬水準(任用内容)は、雇用差別に加え男女差別でもあるのではないか。

同一労働内に格差階層を生むこの労働形態は、実際に互いにとってマイナスに働き、結果チームのパフォーマンスを下げ、公共サービスの質の低下に直結している。

地方自治法と労働組合にしっかり守られている正規職員と、任用者が大きく権限を持つ非正規職員との格差問題は、行政需要が増大する一方で逼迫する自治体財政にとって、正規職員の3分の1の人件費(財政上は事業費や物件費だが…)で雇うことができる非正規職員が増員される中、もはや見過ごすことはできない全国的な問題である。

また、市民の暮らしを支えるはずの自治体が内部にワーキングプアを生み出していることは、非常勤職員賃金をベースとして、さらに安く外部発注される指定管理者等の労働者の待遇格差問題と一続きである。全国で、あるいは、道内では札幌や旭川で、制定運動が展開されている「公契約条例」の実現に、自身も議員として今後全力で取り組んでいく所存である。

 

 

2.質問作成過程の困難:「質問作成時にどんな苦労があったか」

まずは一度当事者性を捨て、問題の総体を客観的に捉える必要があった。

①前準備

川村教授のレクチャーと過去の調査論文から学んだ。初めに躓いたのは、労働法の専門用語、そして、根拠法。自治体非正規職員には、臨時職員と非常勤職員がおり、非常勤職員の中でも、一般事務職、技術職、技能労務者と分かれていること。着目すべき点も、報酬、労働時間、福利厚生、任用期限など多岐に渡ることから、何が問題か発見し、どう整理するかという作業は、研究者からの助言は不可欠であった。

また、現状を知るため現役の非常勤職員数名から聞き取りをさせてもらったが、不満はありつつも勤め続けたいという葛藤があった。そのため、この問題を扱うことにより、当事者の労働環境に何らかの影響を与えるかもしれないという事の重大さに悩んだ。しかし、担当課の問題意識の希薄さを知るほどに、これはしっかり可視化させる必要があると確信した。このようなプロセスを経てはじめて、質問作りに取り組むことができた。

 

②質問構成

質問の構成をどう組み立てるか。非常勤の待遇問題は今に始まった問題ではなく、現在の待遇はかつて改善されてきた結果ともいえる。その中で、どう現状の問題点をあぶりだせるのか。

総務省が一昨年「臨時・非常勤及び任期付職員の任用について」という自治体への通知を出しており、それをインターネット検索で見つけた。(担当課は自ら敢えて知らせてくれない)

これは国が臨時・非常勤職員の勤務内容に応じた任用・勤務条件が確保できるよう、取り扱いの再度検証を自治体に促すもので、その通知内容と、石狩市の臨時・非常勤職員の任用の現状を比較する質問構成ができた。

 

 

3.質問内容:「どんな意図でどんな内容の質問をしたか」

①正職員業務の「補助」ではなく「代替」

自治体事務は臨時・非常勤職員の安い人件費と、外部団体への業務委託に大きく依拠している。そのことで、個々の正職員に「管理的な役割」の負担が増し、本来、正職員業務を「補助的」に行う臨時・非常勤職員が、これまでの正職員業務を「代替的」に行なわざる得ないことが、同時進行しているのでは。

②恒常的にある「仕事」に対し、「人」には勤続上限を設けている

総務省通知では空白期間の設定や勤続上限をもうける必要性はないとしている。石狩市では臨時・非常勤の「仕事」は恒常的に存在しているにもかかわらず、臨時には空白期間をもうけ、非常勤には5年の勤続規定をもうけている。

③非常勤の経験は考慮されない

総務省通知には再度任用に際して、「職務内容や責任の度合い等が変更される場合には、異なる職への任用であることから、報酬額を変更することはあり得るものである」と、事実上、経験を評価することも可能であるともうたっている。

実際のところ、専門職採用の非常勤職員で24名ほど、臨時職員で18名ほどが勤続上限を超えて再任用されている。公共サービスの質を下げないために経験が求められる職種が存在しているにも関わらず、その待遇は勤続や経験が一切反映されていない。

④突然の雇止めという不安

「任用」という取り決めは、使う側に圧倒的な裁量がある。臨時・非常勤は長期間で働くことが地方公務員法で前提とされていないなど法制度の面でも不備があるほか、実際の任用現場でも、自治体側の裁量が「過度に」容認されている。正職員の分限免職については詳細な規制があるが、非正規はいくら長期で勤めていたとしても、突然の雇い止めを覆す法的根拠がなく、常に失業の不安がつきまとう。

⑤臨時・非常勤職員の約9割が年収200万円以下

ダブルワークが基本認められない非正規自治体職員の収入が、正職員の平均収入の3分の1であることが適正と言えるのか。年齢に応じ支出が増えていく個人の生活を保障しうる賃金水準を確保していくべきではないか。

⑥臨時・非常勤職員の声を聞くべき

任用されてから非正規職員には、自分を任用する者にしか、任用条件について意見を述べる機会はない。労働者の権利を保障する意味で、まずは市をあげて早急に実態調査アンケートの実施と、処遇改善に取り組むべき。

 

 

4.成果:「今回の質問によって得られたもの」

①職場の長による臨時・非常勤職員への聞き取り調査を実施。部長職以上会議にて問題共有

②8月20日、総務部行政管理課による周辺他自治体への「臨時職員賃金及び非常勤職員報酬の状況調査」を実施

③8月27日、「非常勤職員実態調査アンケート」を実施

【アンケート対象者】

一般職の非常勤職員(平成27年4月1日から1年間任用されている者)

【アンケート項目】

・ 無記名、属性(性別、年代、勤務場所[本庁か出先機関か])、職種(一般事務職、技術職、技能労務職)、勤続年数

・現在の労働全般の総合満足度[問6]

・来年度も再任用を希望するか[問7]

・理由の自由記述[問7―1]

・ 職務内容、勤務時間、休暇の取りやすさ、報酬・手当、通勤、職場の雰囲気、福利厚生(健診、売店など)、その他の項目に対する、満足度[問8]

・「不満、やや不満」の理由(自由記述)[問8―1]

・同じ職場の正職員との職務比較[問9]

・報酬は職務内容、責任に応じたものか[問10]

・ 報酬は他の官民事業所における類似業務の報酬と比べてどうか[問11]

・ 再度任用されたことのある非常勤のみの質問。これまで再度任用に際し、上司との面談、説明の機会はあったか[問12]

・ 周囲の正職員の仕事ぶり(自由記述)[問13]

・ その他職務内容、職場環境の意見[問14]

・行政管理課との個別面談希望[問15]

【アンケートの回答(提出)方法】

市の簡易入力フォームにアクセスし、パソコンやスマートフォンから回答する方法か直接、行政管理課に持参する方法。

④ 9月14日にアンケート締め切り。対象者130名中、117名が提出。回答率87.7%。面談を希望した数名には、総務部行政管理課で面談し、所管に改善を指導。

⑤ 10月部内予算審議、11月財政部に予算を上げる

⑥ 12月24日 非常勤職員アンケート結果を、紙面にて非常勤職員に報告

⑦ アンケート結果について、担当課より聞き取り

【総評】

全体として、アンケート実施前に想定していたように、大多数の非常勤職員は任用内容と処遇に対して、「満足」または「そこそこ満足」しているという結果が得られたと受け止めている。

 

問6 あなたは、今の職場環境や職務、待遇などを総合してどう感じていますか

 

〇 しかし、個別の回答や自由記述には「不満」も少なくなかった。複数人が回答したものとしては「通勤」(駐車場の確保)、「健診」があげられる。

〇 特に不満が多かった福利厚生「健診」について。現状では35歳以上の非常勤職員は協会けんぽの健診を自費で有給をつかい受診することを推奨していたが、2年目以降の非常勤職員について、年齢に関係なく、34歳以下と同等に市で行う簡易健診を業務時間内に受けられるよう次年度から予算付けした。

〇 報酬の問題。次年度予算で、他自治体と比べて報酬が低かった臨時職「栄養士」「保育士」、非常勤職「栄養士」について報酬を上げた。また、求人を出してもなかなか決まらない非常勤職「保健師」について報酬を上げた。

 

問9 職務内容について伺います。あなたの職務の内容と責任を、同じ所属の正職員のそれと比べてどう思いますか?

 

〇 正職員に比べて仕事が重いと思っている職種は「税の徴収員」と「図書館司書」に多く見られた。しかし、これは単に報酬の問題だけではないと捉え、それぞれの部署に改善を促している。また、「わからない、比べられない、答えない」が29%と多いことについては、「正規職員の仕事とは比べられない」「正規職員の仕事はよくわからない」というところからきていると考えている。

 

問10 報酬について伺います。あなたの報酬は、あなたの職務の内容と責任に応じたものになっていると思いますか?

 

〇 任用期間が長いほど、報酬に関して強く不満を持っているという傾向が見られた。職種関係なく長期間勤めている非常勤職員(5年を超える再任用非常勤職員)に関して、経験給をつけるということを、各部署に考えをきいたが、思ったよりもよい反応はない。

〇 経験給、資格給などは次年度へ課題を持ち越す。

 

 

5.課題

市がアンケート調査を実施したこと、一部ではあるが臨時・非常勤職員の待遇改善に関し、平成28年度の予算に反映させたこと、今後引き続きの懸案事項として諸々の課題を把握したということは、大いに評価されるところである。

しかし、今回報酬改定したのは「他市町村と比較し報酬が低い職種」と「求人が少ない職種」で、アンケート調査結果を受けて不満が高かった職種に対し、改定したわけではない。また、経験給や資格給などに関しては先送りにしたこと、任用期限についての設問がなかったことなど、この問題の根底に切り込んだとは言えない。

また、アンケートが臨時職員には対象とされていないこと、アンケート実施主体が任用者であることで、非常勤職員に答えにくさがあることを考えると、これで非常勤職員の実情を全て把握できたとはとても言えない。

以上の課題を念頭におきながら、あらためて、臨時・非常勤職員のより正確な実態把握を研究者の協力のもとで行うほか、既存労組とも連携しながら非正規職員による労働組合の結成を支援したり、担当課への積極的な働きかけなどを進めていきたいと考えている。

 

 

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